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あいつは天敵
しおりを挟む今日も奴は空を飛んでいる。
空は自分のものだと言わんばかりに空を舞う、あの鳥だ。
奴は地上を睥睨する。
お前のような虫なんぞいつでも食えるんだぞ、
自分は捕食者なのだと言わんばかりに。
なんと偉そうなんだろう。
本当に鼻持ちならん鳥だ。
まさに天敵というやつだ。
謙虚さというものがまるでない。
鳥頭という言葉もあるくらいだ、
身につけてもすぐに忘れるのかもしれない。
それか卵のなかに置き忘れてきたかだ。
それに引き換え俺はどうだ。
慎み深さという美徳が備わっている。
鳥のように水面に無作法に突っ込んでいって、
魚たちを驚かすような無作法はしない。
奥ゆかしいライフスタイルだ。
あいつみたいにピーチクパーチク騒ぎもしない。
集団の和を重んじ役割をこなす。
地に足をつけ、草木と共に生きる。
これこそが自然界の模範的生き方だろう。
奴が動いた。
青い空を横切っては影を地面に落とした。
…まあ、俺は空が飛べないこと、奴が空を飛べることは認めよう。
奴の取り柄だ。
それを評価しないのはアンフェアだからな。
奴は空高くから急角度で地上へと滑空する。
そのまま地面に激突でもしやしないかといつも思う程だ。
その姿はまるで勇者の様ですらある。
そして風をきる翼は、力強さと優美さを兼ね備えている。
泉で水浴びをすると、飛沫が跳ねて光を反射した。
木の枝に止まって囀る姿は、生命の宿った彫刻のようだ。
太陽を背にして飛ぶ時は、神話めいた威厳すら感じる。
ふとした時に思う。
俺なんぞ奴に比べれば地を這う虫にすぎん。
何ひとつ勝るところなどありはしない。
何の存在価値もないのだ。
そう考えこんでしまう。
そういう時は自分で自分を叱咤激励する。
いいや、虫としての誇りを忘れるな!
虫としての自分に自信をもて!
それは虫としての義務だ。
…俺は何を考えているんだ。
目の前で仲間が食われたことすらあるのに。
騙されるんじゃない。
奴は残忍な狩人だ。
ちょっとばかし空を高く飛べたからって、どうしたというのだ。
…俺は空がとびたいのか?
しんみりした気分に浸っていると、妙な匂いがした。
苦しい…!
いまだかってない苦痛でのたうちまわる。
俺の周囲の仲間の虫たちも大勢息絶えていく…。
上を見上げた。
いた。
人間がいた。
毒の薬を俺たちにぶちまけていた。
こともなげに、至極当然のように。
まるでバケモノみたいだ。
人間こそが本当の天敵だったんだ。
息絶える間際、空を見た。
今日も奴は空を飛んでいる。
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