私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月

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泣き続けるヒナコを何とか宥めて帰ってもらい、漸く就寝にたどり着けた。次に目が覚めたのは正午すぎだった。でも昨日の今日なので「よほど疲れていたのですね」で、すんだ。有難いことだ。
私には馴染みのないドレスをドーラの手を借りて着た私は応接室へ行く。そこには神官長と他二名が居た。私が来て暫くしてヒナコが来た。もちろん、殿下も。ヒナコの隣に座り、腰に手を回してべったりとくっついている。よほど気に入ったと見える。
「まずは紹介させてください。エイル・フリンツオ。彼にはミズキ様の護衛をさせていただきます」
褐色の肌に真っ白な髪、そして赤い瞳をしたいかつい体系の男が前に出て会釈をする。私も礼儀として彼に会釈をした。
「その隣がバートランド・アインシュタイン。ヒナコ様の護衛を務めさせていただきます」
金色の髪にエメラルドの瞳をした男がニコニコ顔で挨拶をした。
「よろしくお願いします、ヒナコ様」
「あ、はい」
声で男だと分かるが、女性に見えなくもない容姿をしている。
「あの、でも、護衛って」
「大丈夫だ、ヒナコ」
不安がるヒナコを落ち着かせるように殿下は声をかける。
「念のためだ。それにお前には俺がいる。何かあっても俺が必ず守ってやるから心配するな」
この国の優先順位は不明だが、聖女というのは王太子殿下の命よりも重いものだのだろうか。
もし、何かの原因で聖女が死んでもまた召喚すればいいんじゃないか?まぁ召喚された人間が必ずしも聖女とは限らないけれど。下手な鉄砲数打ち当たるって言うし。それとも異世界召喚なんてそんなぽいぽいできるものではないのだろうか?
気になるところではあるけれど下手に口を挟んで殿下のお小言をもらうのは御免なので聞き流そう。
「これからミズキ様とヒナコ様にはこの国の常識やマナーなどを学んでいただきます。一か月後には聖女としてのお披露目もあります」
これには驚いた。
「まだ聖女と決まったわけではありませんが」
「国民の不安は私たちが思っている以上に大きいもの。安心してもらうためにもあなた方の存在を披露する必要があるのです」
「万が一、聖女でなければ魔王は復活します。それによりどのような影響が出るかは分かりませんが、私たちが一番非難されるのは明確。その責も問いますか?」
背中に嫌な汗が浮かぶ。握り締めた手にも汗がたまり、湿っている。
心なしか、エイルとバートランドが興味深そうに私を見ている気がする。
「いいえ、そんなことはしません」
「では、万が一聖女でなかった場合はどうしますか?」
「それは」
ここで神官長は言葉に詰まった。
「お前はともかく。ヒナコが聖女でないわけがないだろう。いい加減にしろ。いくら何でも言葉が過ぎるぞ。不敬罪で処刑されたいのか」
不愉快だと言わんばかりに顔をしかめて殿下が私を非難する。
お花畑はちょっと黙っておこうか。
「あくまでも過程の話ですよ。私たちは自分の元いた世界には帰れません。この国で生きるしかないのです。それなのに偽聖女として顔を知られてしまったらそれすら叶わなくなります」
「俺はお前に発言の許可を与えてはいない。許可もなく口を開くな」
なるほど。王族を前に話すときはその王族の許可がいるのか。なんて面倒な。
「諸外国への牽制の為にも、民たちを安心させるためにもこれは必要なのことなのです。最低限、ミズキ様たちが不利にならないようにいたします」
具体案がまるでない。これではだめだ。でも何を言ってもダメなのだろう。
日本の政治家でもそうだ。言っていることはでたらめ。口八丁でもみ消すなんて朝飯前だろ。
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