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休憩後、講義を終えたヒナコをいつものように殿下が迎えに来た。ヒナコはまだ私といたがっていたけれど私は殿下にヒナコを押し付けてそうそうに退散した。
ヒナコが悪い子ではないのは分かる。ただずっと一緒にいるのはかなり疲れるのだ。
「ねぇ」
「何でしょう?」
私は護衛としてずっと私の後ろについてきているエイルに声をかけた。
「中庭に出てもいい?」
「問題ありません」
よくよく考えたら私はずっと王宮の中で過ごしているので今まで外に出たことがない。
「ヒナコ様はよく殿下と中庭を散策されております。良い気分転換になるのでしょう」
「そう」
それは知らなかった。
私は中庭に出た。久しぶりの外は王宮内の敷地内とは言え解放感があった。外に出て歩くだけでようやく息ができるようになった気がする。
王宮内では何かと神経を尖らせているせいだろう。
ヒナコにはああいったが実際、私たちが聖女でなかったらどうなるか分からない。一度は成功したのだ。聖女が来るまで何度も異世界召喚が行われたら?聖女じゃなかった子たちは王宮の外に放り出されることだってあるかもしれない。
考えれば不安要素はいくつでもある。考えても仕方のないことだと思ってもどうしても浮かんでくる。それを何度も自分で打ち消すという非常に不合理なことをこの一か月ずっとしていた。
「綺麗ね」
「王妃様のお気に入りで、庭師が特に念入りに手入れをしていますので」
「そう」
王宮の庭にはバラ園というのが定番だと思っていたけれどここにはバラではなくトルコキキョウが植えられていた。
さわさわと風が私の短い髪と薄紅色のトルコキキョウを揺らす。
「ミズキ様、もしよろしければ明日、王宮の外に出てみませんか?」
エイルのその提案に私は驚いた。だっててっきり外に出てはいけないものだと思っていたから。
「いいの?」
「はい。ミズキ様はお部屋で過ごされることが多く、講義がない日も自ら王宮の図書室へ赴き、いろいろと勉強されていますよね」
少しだけ心配そうに眉尻を下げてエイルが私を見る。
「今後の為にとお勉強される姿はとても立派だと思うのですが、たまには気分転換も必要かと」
「それもそうね」
この国には携帯もテレビもない。だから必然的に本を読むことが多くなる。幸いなことに私は活字を読むと眠くなるという変な病気は思っていないし、読書家というほどでもないけどそれになりに本は読んでいたので苦ではない。
「でも、私だけっていうのも何だか」
「ヒナコ様のことを気にかけていらっしゃるなら問題ありませんよ。彼女もよく殿下と街などに出かけているので」
「そうなんですか。それは知らなかったです」
異世界の街か。雑貨屋みたいなところとかもあるのかな。だったら何があるかちょっと気になるかも。
そんなことを考えているとだんだんと風が冷たくなってきた。するとさり気なくエイルが私に上着をかけてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「いいえ」
何だろう。ちょっとドキッとした。だった、無表情がデフォルトの彼が柔らかく微笑むから。それにこいいう気遣いができるのってやっぱりヨーロッパ系の男は気障だな。
「そろそろ戻りましょうか」
「はい」
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