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1.最期だと覚悟を決めた選択
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燃えている。
大好きだったあの場所が、帰るべきはずの故郷が、愛していた人たちが、たくさんの思い出が燃えて灰となっていく。
◇◇◇
私の名前はアイリス・ルーエンブルク。ルーエンブルク伯爵家の長女。私には六歳年下の妹がいた。
「アイリス、本気なの?やめて頂戴」
私たちが生まれた国パイデスはエルダ国と戦争している。エルダは魔鉱石の鉱山が幾つもある。魔鉱石とは街灯や車、銃火器などの資源となる物だ。
パイデスは魔鉱石がとれる鉱山が欲しいが為にエルダに戦争を仕掛けた。小国だから簡単に制圧できると思ったのだろう。ところが魔鉱石に余力があるエルダにはたくさんの武器が備わっており、逆に魔鉱石を輸入しなければならないパイデスは不利に陥った。それでも大国。資産は幾らでもあった。
様々な場所から武器や魔鉱石を買って対抗。
ところが今度は人手不足になった。当然だ。死んだ人間は生き返らないし、すぐに生まれて大人になるわけじゃない。生まれて、育てて一〇年以上かかるのに、死ぬのはほんの一瞬。人が追いつくはずがないのだ。
そこで国は徴兵制度を設けた。
各貴族家から年齢に問わず最低でも一人は兵士として戦争に参加するようにと。
ところがこれには抜け穴があった。徴兵させない代わりに莫大な支援金を支払うかもしくはそれように雇用した人間を戦場に送れば国は目を瞑ってくれるのだ。多くの貴族がそうした。
けれどルーエンブルクはそうはいかない。
エルダの国境付近にある領地だし、長きに渡る戦争で資産もない。人を雇用する余裕はもちろん国が提示したが莫大な支援金を払うことすらもできない。
当主である父は戦争により片足と両腕を既に失くしている。妹のアリスはまだ六歳で、体も弱い。ならば戦場に行くのは長女である私だけだ。
戦場に行くことを決めた私を母は泣いて止めた。
「あなたはまだ十二歳の子供なのよ」
「年齢は問わない。そうお触れが出ているわ」
「なら私が代わりに」
「ダメよ、お母様。もしもの時はお母様がアリスやお父様を守らなければ。それは子供の私にはできないことだから」
母は泣き崩れ、それでも行かせまいと私のドレスの裾を握りしめた。
私が戦場に行けばもう二度と会うことはないと思っているからだろう。私もそう思う。剣も、銃も持ったことがない。訓練をしたことのない私が戦場に行って、生き残れるはずがない。
最期に見るのが家族の泣く姿というのは嫌なものだ。でも、それは、それだけ私の命を惜しんでくれているということでもある。愛情の証であると思えば、彼らを残して逝くのは罪悪感で一杯である。
それでも国の決定には逆らえない。
私は貴族の娘として生まれたから。
「お願いよ、アイリス。行かないでおくれ。お願いよ。私はあなたを死なせるために生んだわけじゃない。武器を持って人を殺させるために育てたわけじゃない」
分かってるよ、お母様。
私は震える母の手をとり、そっとドレスの裾から放させた。
「私を、生んでくれて、ありがとうございます。私を、育ててくれて、ありがとうございます」
「・・・・・・アイリス」
「たくさんの愛情を注いでいただき、とても幸福な人生でした。あなたたちの娘に生まれて来たことは私にとって何にも代えがたい幸福でした。愛しています、お母様。あなたたちの幸福を心から願っています。どうか、健やかにお過ごしください」
もう二度と会うことはないだろう。
これからも続く彼らの人生に私が現れることはない。
私は泣き叫び、何度も私の名前を呼ぶ母に背を向けた。
「・・・・お姉様」
まだ幼く、状況を理解していない妹がとても不安そうに私を見上げるので私は「お母様とお父様をお願いね」と言って彼女を抱きしめたい。
アイリス・ルーエンブルク、十二歳
愛する者たちと決別し、初陣を果たす。
大好きだったあの場所が、帰るべきはずの故郷が、愛していた人たちが、たくさんの思い出が燃えて灰となっていく。
◇◇◇
私の名前はアイリス・ルーエンブルク。ルーエンブルク伯爵家の長女。私には六歳年下の妹がいた。
「アイリス、本気なの?やめて頂戴」
私たちが生まれた国パイデスはエルダ国と戦争している。エルダは魔鉱石の鉱山が幾つもある。魔鉱石とは街灯や車、銃火器などの資源となる物だ。
パイデスは魔鉱石がとれる鉱山が欲しいが為にエルダに戦争を仕掛けた。小国だから簡単に制圧できると思ったのだろう。ところが魔鉱石に余力があるエルダにはたくさんの武器が備わっており、逆に魔鉱石を輸入しなければならないパイデスは不利に陥った。それでも大国。資産は幾らでもあった。
様々な場所から武器や魔鉱石を買って対抗。
ところが今度は人手不足になった。当然だ。死んだ人間は生き返らないし、すぐに生まれて大人になるわけじゃない。生まれて、育てて一〇年以上かかるのに、死ぬのはほんの一瞬。人が追いつくはずがないのだ。
そこで国は徴兵制度を設けた。
各貴族家から年齢に問わず最低でも一人は兵士として戦争に参加するようにと。
ところがこれには抜け穴があった。徴兵させない代わりに莫大な支援金を支払うかもしくはそれように雇用した人間を戦場に送れば国は目を瞑ってくれるのだ。多くの貴族がそうした。
けれどルーエンブルクはそうはいかない。
エルダの国境付近にある領地だし、長きに渡る戦争で資産もない。人を雇用する余裕はもちろん国が提示したが莫大な支援金を払うことすらもできない。
当主である父は戦争により片足と両腕を既に失くしている。妹のアリスはまだ六歳で、体も弱い。ならば戦場に行くのは長女である私だけだ。
戦場に行くことを決めた私を母は泣いて止めた。
「あなたはまだ十二歳の子供なのよ」
「年齢は問わない。そうお触れが出ているわ」
「なら私が代わりに」
「ダメよ、お母様。もしもの時はお母様がアリスやお父様を守らなければ。それは子供の私にはできないことだから」
母は泣き崩れ、それでも行かせまいと私のドレスの裾を握りしめた。
私が戦場に行けばもう二度と会うことはないと思っているからだろう。私もそう思う。剣も、銃も持ったことがない。訓練をしたことのない私が戦場に行って、生き残れるはずがない。
最期に見るのが家族の泣く姿というのは嫌なものだ。でも、それは、それだけ私の命を惜しんでくれているということでもある。愛情の証であると思えば、彼らを残して逝くのは罪悪感で一杯である。
それでも国の決定には逆らえない。
私は貴族の娘として生まれたから。
「お願いよ、アイリス。行かないでおくれ。お願いよ。私はあなたを死なせるために生んだわけじゃない。武器を持って人を殺させるために育てたわけじゃない」
分かってるよ、お母様。
私は震える母の手をとり、そっとドレスの裾から放させた。
「私を、生んでくれて、ありがとうございます。私を、育ててくれて、ありがとうございます」
「・・・・・・アイリス」
「たくさんの愛情を注いでいただき、とても幸福な人生でした。あなたたちの娘に生まれて来たことは私にとって何にも代えがたい幸福でした。愛しています、お母様。あなたたちの幸福を心から願っています。どうか、健やかにお過ごしください」
もう二度と会うことはないだろう。
これからも続く彼らの人生に私が現れることはない。
私は泣き叫び、何度も私の名前を呼ぶ母に背を向けた。
「・・・・お姉様」
まだ幼く、状況を理解していない妹がとても不安そうに私を見上げるので私は「お母様とお父様をお願いね」と言って彼女を抱きしめたい。
アイリス・ルーエンブルク、十二歳
愛する者たちと決別し、初陣を果たす。
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