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19.無知な王女
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side.シーラ
「院長、今日はよろしくお願いします」
孤児院の院長はお年を召した男性だった。
「はい、領主様。よろしくお願いします」
この優しそうな老人が幼気な子供を働かせているのね。人は見た目では分からないというけど本当だわ。
子供を働かせているなんて情報を事前に貰っていないと騙されるところだった。
「院長、こちらはエルダ国王太子、ミラン王太子殿下です」
「本日はよろしく頼む」
「はい。この場での視察が殿下にとって実りあるものになるように尽力させていただきます」
犯罪者の言うことは理解に苦しむわね。
相手は敵国の、自分達を苦しめた国の王子なのにどうして尽力する必要があるの?
子供たちだってきっと拒否反応を示すはず。そんなことも分からないのかしら?それともアイリスかミラン殿下のどっちかからお金を貰って了承したのかしら?
そうでなければ敵国の王子なんて受け入れるはずがない。
最低。どうして最低な人ばかりなの。子供を何だと思っているのかしら。
「そちてこちらが急遽、視察に同行することになったシーラ王女殿下です」
「シーラ王女殿下、何もないところですが心ゆくまで見ていってください」
「ええ、そうさせてもらいます」
当然よ。
あなたたちと違って私は子供のことをちゃんと考えているもの。この目でしっかり見て、ありのままをお父様に報告するわ。でないと、子供が可哀想だもの。
「では、すぐに案内してくださる」
院長はなぜか私がお願いしているのにアイリスにお伺いを立てるように視線を向けた。もしかして、私に見られて何かまずいものでもあるのかしら。
「院長、お願いします」
「どうぞ、子供たちはこちらです」
アイリスが許可を出したということは見られてまずいものは既に隠しているということかしら。アイリスがそんな人だなんて思わなかった。もっと素晴らしい人だと思ったから私はアイリスとお友達になったのに。
「子供を働かせていると聞きましたわ」
「ええ。十歳以上の子供は外に働きに出ています。それより下から六歳までの子供は下の子の面倒を見たり、孤児院の手伝いをしています」
悪びれもなく言うのね。罪の自覚がまるでないわ。
「孤児院の手伝いって、何かすることがあるの?」
「洗濯や掃除、食事の準備。それにスタッフと一緒に孤児院の帳簿付を手伝って計算などを学んだりしています」
何それ、子供がすることじゃないじゃない。
「どうして子供たちにさせるの?使用人にさせればいいじゃない」
「・・・・・使用人、ですか」
何よ、どうして困るの。もしかしてこの院長は使用人を使うってことを知らないの?
「スタッフなら三人ほどいますが、子供の数が多くてスタッフだけでは手が回らないのです」
「ならばもっと雇えばいいわ」
私がそう言うとなぜか院長は困ってしまった。院長は助けを求めるようにアイリスを見る。やっぱり何かあるのね。もしかしてアイリスが見張っているから本当のことが言えないのかしら。さっきからアイリスを見ているのは彼女の顔色を窺っているから?それとも私にアイリスに見張られていることを知らせるため?
この院長は見た目はとても優しそうな感じだ。本当に優しくて、でもアイリスの横暴に反抗するだけの力がなくて今まで唯々諾々と従っていたのかしら?
だったら情状酌量の余地はあるわね。お父様に減刑をお願いしてもいいけど、その前に、この院長が本当は善人であるかを確かめないと。
「殿下、孤児院に使用人はいません。人を多く雇って少ない支援金を減らすよりは食事に回したほうが建設的です」
「ちょっと、ここのスタッフは孤児院からお金をとっているの?」
何を考えているの。親を亡くした可哀想な子供たちからお金をとるなんて。国からの支援金は子供のために支払っているのであって業突く張りな人間のためじゃないわよ。
「殿下、スタッフは生きている人間です。人形でもなければアンデットでもありません。彼らにも生活があるんです。ボランティアで子供たちに尽くせるほど世の中は彼らに優しくはありません」
アイリスは立ち止まり私の目を真っ直ぐと見てきた。
「最初に言ったはずです。支援金だけでは孤児院運営は無理だと。殿下、非常時に国が真っ先に切り捨てるものが何かご存じですか?」
「国が、切り捨てる?国は、お父様は切り捨てたりしない。みんなを守る、みんなを救うのがお父様の役目よ。国民全員が幸せな国をお父様は作っているもの」
「・・・・・戦争が始まった時、国は真っ先に孤児院の子供たちを切り捨てました。支援金が支払われなくなったんです。私の父、前領主と孤児院の院長、スタッフが自腹を切ったり、工夫して凌いできましたが、それでも栄養失調や飢えで亡くなった子供達はいます。別の領地では国が切り捨てたと同時に孤児院を切り捨てた領主もいます。そこの孤児院の子供は全員が死んだそうです。戦争が終わった今でさえも支援金は支払われていません」
「・・・・・・して?」
「復興にお金がかかるからです。納税の義務がない人間は国民の数には含まれないんです。そして孤児院やスラムの人間に納税の義務はありません。あなたの父君、陛下が守る国民の対象には含まれないんです」
アイリスが何を言っているのか分からなかった。口から出まかせを言っているんじゃないかとさえ思ってしまう。だって、お父様はみんなが幸せな国を作っているのよ。なのに、そんな不幸が私の国に転がっているはずないじゃない。
「院長、今日はよろしくお願いします」
孤児院の院長はお年を召した男性だった。
「はい、領主様。よろしくお願いします」
この優しそうな老人が幼気な子供を働かせているのね。人は見た目では分からないというけど本当だわ。
子供を働かせているなんて情報を事前に貰っていないと騙されるところだった。
「院長、こちらはエルダ国王太子、ミラン王太子殿下です」
「本日はよろしく頼む」
「はい。この場での視察が殿下にとって実りあるものになるように尽力させていただきます」
犯罪者の言うことは理解に苦しむわね。
相手は敵国の、自分達を苦しめた国の王子なのにどうして尽力する必要があるの?
子供たちだってきっと拒否反応を示すはず。そんなことも分からないのかしら?それともアイリスかミラン殿下のどっちかからお金を貰って了承したのかしら?
そうでなければ敵国の王子なんて受け入れるはずがない。
最低。どうして最低な人ばかりなの。子供を何だと思っているのかしら。
「そちてこちらが急遽、視察に同行することになったシーラ王女殿下です」
「シーラ王女殿下、何もないところですが心ゆくまで見ていってください」
「ええ、そうさせてもらいます」
当然よ。
あなたたちと違って私は子供のことをちゃんと考えているもの。この目でしっかり見て、ありのままをお父様に報告するわ。でないと、子供が可哀想だもの。
「では、すぐに案内してくださる」
院長はなぜか私がお願いしているのにアイリスにお伺いを立てるように視線を向けた。もしかして、私に見られて何かまずいものでもあるのかしら。
「院長、お願いします」
「どうぞ、子供たちはこちらです」
アイリスが許可を出したということは見られてまずいものは既に隠しているということかしら。アイリスがそんな人だなんて思わなかった。もっと素晴らしい人だと思ったから私はアイリスとお友達になったのに。
「子供を働かせていると聞きましたわ」
「ええ。十歳以上の子供は外に働きに出ています。それより下から六歳までの子供は下の子の面倒を見たり、孤児院の手伝いをしています」
悪びれもなく言うのね。罪の自覚がまるでないわ。
「孤児院の手伝いって、何かすることがあるの?」
「洗濯や掃除、食事の準備。それにスタッフと一緒に孤児院の帳簿付を手伝って計算などを学んだりしています」
何それ、子供がすることじゃないじゃない。
「どうして子供たちにさせるの?使用人にさせればいいじゃない」
「・・・・・使用人、ですか」
何よ、どうして困るの。もしかしてこの院長は使用人を使うってことを知らないの?
「スタッフなら三人ほどいますが、子供の数が多くてスタッフだけでは手が回らないのです」
「ならばもっと雇えばいいわ」
私がそう言うとなぜか院長は困ってしまった。院長は助けを求めるようにアイリスを見る。やっぱり何かあるのね。もしかしてアイリスが見張っているから本当のことが言えないのかしら。さっきからアイリスを見ているのは彼女の顔色を窺っているから?それとも私にアイリスに見張られていることを知らせるため?
この院長は見た目はとても優しそうな感じだ。本当に優しくて、でもアイリスの横暴に反抗するだけの力がなくて今まで唯々諾々と従っていたのかしら?
だったら情状酌量の余地はあるわね。お父様に減刑をお願いしてもいいけど、その前に、この院長が本当は善人であるかを確かめないと。
「殿下、孤児院に使用人はいません。人を多く雇って少ない支援金を減らすよりは食事に回したほうが建設的です」
「ちょっと、ここのスタッフは孤児院からお金をとっているの?」
何を考えているの。親を亡くした可哀想な子供たちからお金をとるなんて。国からの支援金は子供のために支払っているのであって業突く張りな人間のためじゃないわよ。
「殿下、スタッフは生きている人間です。人形でもなければアンデットでもありません。彼らにも生活があるんです。ボランティアで子供たちに尽くせるほど世の中は彼らに優しくはありません」
アイリスは立ち止まり私の目を真っ直ぐと見てきた。
「最初に言ったはずです。支援金だけでは孤児院運営は無理だと。殿下、非常時に国が真っ先に切り捨てるものが何かご存じですか?」
「国が、切り捨てる?国は、お父様は切り捨てたりしない。みんなを守る、みんなを救うのがお父様の役目よ。国民全員が幸せな国をお父様は作っているもの」
「・・・・・戦争が始まった時、国は真っ先に孤児院の子供たちを切り捨てました。支援金が支払われなくなったんです。私の父、前領主と孤児院の院長、スタッフが自腹を切ったり、工夫して凌いできましたが、それでも栄養失調や飢えで亡くなった子供達はいます。別の領地では国が切り捨てたと同時に孤児院を切り捨てた領主もいます。そこの孤児院の子供は全員が死んだそうです。戦争が終わった今でさえも支援金は支払われていません」
「・・・・・・して?」
「復興にお金がかかるからです。納税の義務がない人間は国民の数には含まれないんです。そして孤児院やスラムの人間に納税の義務はありません。あなたの父君、陛下が守る国民の対象には含まれないんです」
アイリスが何を言っているのか分からなかった。口から出まかせを言っているんじゃないかとさえ思ってしまう。だって、お父様はみんなが幸せな国を作っているのよ。なのに、そんな不幸が私の国に転がっているはずないじゃない。
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