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21.”可哀想”は傲慢からくる言葉
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孤児院を出た後の殿下はとても不機嫌だ。
他国の前でこんなふうに自国の王女の恥を晒す羽目になるなんて。それに、こんな世間知らず状態でいつか女王をとして立つの?冗談じゃない。
国が失敗をすればその皺寄せは民にいくのだ。
「殿下、孤児院に問題があるとして何が問題だと思いますか?」
私の質問に王女は腕を組みながら憤然と答える。
「そんなの考えるまでもないわ」
いや、考えてほしいね。間抜けな答えを出す前に。
「まず、一人一部屋の寝室がないこと。次にあのボロ切れのような布を服として着ていることよ」
本当、考えて発してほしい。
「孤児院に限らず、平民で一人一部屋はまずありません。そこまで大きな家は持っていません。服も他の親がいる子供たちが着ているものと同じものです。特に今は戦後処理、復興で国が税を重くしているので余計なものにお金をかけられないんです」
「どうしてよ?」
どうしてときたか。何が分からない?
「服は買っても食べられません。殿下、私や殿下が着ている服は平民の給金、三か月分です」
驚いているところを見るとまず自分が身につけているものを価値を知らない。
貴族の令嬢でもこれが平民の何か月分の給料で買えるものなのかぐらいは全員でなくとも知っている人はそう少なくはない。王女なら必ず知っておかなければならないことだ。
「家族で一人一部屋ある邸に住むのは平民の平均月収では無理です。彼らが一生働いても買えない邸に私たちは住んでいるんです」
「あのような、窮屈な部屋で。なんだか可哀想だわ」
私にはあなたの”可哀想”が傲慢に聞こえます。
「それにあんなボロ切れみたいな服」
そこまで酷くはないだろう。さっきからボロ切れって言うけど一般的な平民の服だし。確かに何度も着回しているから何ヵ所も修繕のあとはあるし、多少ほつれてはいるけど、普通の子供が着ている服もそんな感じだし。
「平民は滅多に服なんて買いません」
「私は一か月に何着も服を仕立てるわ」
「あなたは王女殿下です。平民とは違います。王女殿下があのような服を着ていたり、ドレスを着回していては他国に舐められます。パイデスの経済力が他国に比べてかなり劣っていると宣伝しているようなもの。その結果、他国に付け入る隙を与えます。場合によっては戦争にだってなります」
「そんな、大袈裟な」
「大袈裟ではありません!経済力がないということはそれだけ軍事力が低いということです。容易く滅ぼせるんだと相手に思わせるんです」
げんにパイデスとエルダの戦争中、戦後の今でさえもちょっかいをかけてきている国はある。エルダとの戦いで疲弊した今ならパイデスを落とせるのではないかと。
「じゃあ、平民の平均月給を上げればいいのね」
「・・・・・どうやって?」
「議会にかけて普通に上げればいいじゃない」
言葉も出ない。ミラン王太子なんて笑顔で固まっている。
ここまで馬鹿だったなんて。
「平民の月収は雇い主が決めます。基本的に国は不介入が鉄則です。月収をあげる場合は雇用主に労働者が依頼するか、それでも無理な場合は司法が介入します。それに不当に上げれば、今度は雇用主が路頭に迷うことになります」
「難しいのね」と王女は考えてから何かいい案が思いついたような顔をした。
「じゃあ、国から平民にとる税をなくせばいいのね」
「では、王女殿下はどのように暮らすおつもりですか?あなたが暮らすためにもお金は必要ですよ。そしてお金は空から降ってくるものではありません。王女殿下、あなたは民が納めた税で暮らしているんです。だからこそ、重い責任が常に付き纏う。一挙手一投足で戦争の引き金になるかもしれないほどの重い責任が。国が自分たちの生活を豊かにしてくれると約束しているから民は国に納税をするんです」
遅く生まれた、たった一人の愛娘。しかも王妃はすでにおらず、そのため王は愛情をたっぷり注いで育てたという。きっと、汚い部分には目を覆い、見せてこなかったのだろう。美しいものだけを見せ、嫌がる勉強は無理強いせず、欲しいものは何でも買い与えた。
愚王の出来上がりではないか。
「じゃあ、土地を増やして民たちにたくさん農作物を作らせれば自分たちの食べ物ぐらいは自給自足できるようになるんじゃない」
『土地を増やす』
その言葉に王太子は反応した。今まで無関心だったのに注意深く王女の観察を始め、私の体には緊張が走った。
「・・・・・戦争でも始めるつもりですか」
「えっ!?どうしてそうなるの」
「土地を増やすとういうのは他国から土地を奪わねば得られません。快く土地を売ってくれる国などないのですから。土地は国の財産の一つですから。それにそこまでして殿下が望むような生活を民たちが望んでいるわけではありません。毎日、普通に働いて、食うに困らない金が手に入って、時々贅沢できる程度でいいんです。無理やり、こちらの価値観を植え付けようとしても民たちは困惑するだけです。殿下、これ以上はご自身の家庭教師にご相談ください」
王太子の前で不用意な発言を控えさせるために私は勉強会を終えた。それにまだ視察の途中だし、これ以上王太子を放っておくわけにはいかない。
「視察を再開しましょう」
王女のせいで視察の予定が狂いまくりだ。
他国の前でこんなふうに自国の王女の恥を晒す羽目になるなんて。それに、こんな世間知らず状態でいつか女王をとして立つの?冗談じゃない。
国が失敗をすればその皺寄せは民にいくのだ。
「殿下、孤児院に問題があるとして何が問題だと思いますか?」
私の質問に王女は腕を組みながら憤然と答える。
「そんなの考えるまでもないわ」
いや、考えてほしいね。間抜けな答えを出す前に。
「まず、一人一部屋の寝室がないこと。次にあのボロ切れのような布を服として着ていることよ」
本当、考えて発してほしい。
「孤児院に限らず、平民で一人一部屋はまずありません。そこまで大きな家は持っていません。服も他の親がいる子供たちが着ているものと同じものです。特に今は戦後処理、復興で国が税を重くしているので余計なものにお金をかけられないんです」
「どうしてよ?」
どうしてときたか。何が分からない?
「服は買っても食べられません。殿下、私や殿下が着ている服は平民の給金、三か月分です」
驚いているところを見るとまず自分が身につけているものを価値を知らない。
貴族の令嬢でもこれが平民の何か月分の給料で買えるものなのかぐらいは全員でなくとも知っている人はそう少なくはない。王女なら必ず知っておかなければならないことだ。
「家族で一人一部屋ある邸に住むのは平民の平均月収では無理です。彼らが一生働いても買えない邸に私たちは住んでいるんです」
「あのような、窮屈な部屋で。なんだか可哀想だわ」
私にはあなたの”可哀想”が傲慢に聞こえます。
「それにあんなボロ切れみたいな服」
そこまで酷くはないだろう。さっきからボロ切れって言うけど一般的な平民の服だし。確かに何度も着回しているから何ヵ所も修繕のあとはあるし、多少ほつれてはいるけど、普通の子供が着ている服もそんな感じだし。
「平民は滅多に服なんて買いません」
「私は一か月に何着も服を仕立てるわ」
「あなたは王女殿下です。平民とは違います。王女殿下があのような服を着ていたり、ドレスを着回していては他国に舐められます。パイデスの経済力が他国に比べてかなり劣っていると宣伝しているようなもの。その結果、他国に付け入る隙を与えます。場合によっては戦争にだってなります」
「そんな、大袈裟な」
「大袈裟ではありません!経済力がないということはそれだけ軍事力が低いということです。容易く滅ぼせるんだと相手に思わせるんです」
げんにパイデスとエルダの戦争中、戦後の今でさえもちょっかいをかけてきている国はある。エルダとの戦いで疲弊した今ならパイデスを落とせるのではないかと。
「じゃあ、平民の平均月給を上げればいいのね」
「・・・・・どうやって?」
「議会にかけて普通に上げればいいじゃない」
言葉も出ない。ミラン王太子なんて笑顔で固まっている。
ここまで馬鹿だったなんて。
「平民の月収は雇い主が決めます。基本的に国は不介入が鉄則です。月収をあげる場合は雇用主に労働者が依頼するか、それでも無理な場合は司法が介入します。それに不当に上げれば、今度は雇用主が路頭に迷うことになります」
「難しいのね」と王女は考えてから何かいい案が思いついたような顔をした。
「じゃあ、国から平民にとる税をなくせばいいのね」
「では、王女殿下はどのように暮らすおつもりですか?あなたが暮らすためにもお金は必要ですよ。そしてお金は空から降ってくるものではありません。王女殿下、あなたは民が納めた税で暮らしているんです。だからこそ、重い責任が常に付き纏う。一挙手一投足で戦争の引き金になるかもしれないほどの重い責任が。国が自分たちの生活を豊かにしてくれると約束しているから民は国に納税をするんです」
遅く生まれた、たった一人の愛娘。しかも王妃はすでにおらず、そのため王は愛情をたっぷり注いで育てたという。きっと、汚い部分には目を覆い、見せてこなかったのだろう。美しいものだけを見せ、嫌がる勉強は無理強いせず、欲しいものは何でも買い与えた。
愚王の出来上がりではないか。
「じゃあ、土地を増やして民たちにたくさん農作物を作らせれば自分たちの食べ物ぐらいは自給自足できるようになるんじゃない」
『土地を増やす』
その言葉に王太子は反応した。今まで無関心だったのに注意深く王女の観察を始め、私の体には緊張が走った。
「・・・・・戦争でも始めるつもりですか」
「えっ!?どうしてそうなるの」
「土地を増やすとういうのは他国から土地を奪わねば得られません。快く土地を売ってくれる国などないのですから。土地は国の財産の一つですから。それにそこまでして殿下が望むような生活を民たちが望んでいるわけではありません。毎日、普通に働いて、食うに困らない金が手に入って、時々贅沢できる程度でいいんです。無理やり、こちらの価値観を植え付けようとしても民たちは困惑するだけです。殿下、これ以上はご自身の家庭教師にご相談ください」
王太子の前で不用意な発言を控えさせるために私は勉強会を終えた。それにまだ視察の途中だし、これ以上王太子を放っておくわけにはいかない。
「視察を再開しましょう」
王女のせいで視察の予定が狂いまくりだ。
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