君死にたまふことなかれ~戦場を駆けた令嬢は断罪を希望する~

音無砂月

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46.守る価値がないから逆賊も汚名ではなく誇りとなる

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「ドクター、どう?」
ルーエンブルク公爵領専属と孤児院専属や領にいる医者、とりあえず片っ端から集めて領で受け持つスラムの人間の健診をさせた。
不衛生な場所にいた彼らは様々な菌を持っている。もしそれらが原因で領内に病気が流行しては大変だ。だから入れて問題がないかの検査をする。その検査結果が出るまでは一箇所にまとめてさせてもらった。勿論、時間は有限だ。そのため結果が出るまでの時間を無為に過ごさせはしない。
スラムにいる人間の事情は様々だ。そのため、就学履歴も様々。誰がどれだけできるのかを把握するために読み書きができる者や計算ができる者、何もできないものやそういったものはできないが手先は器用だったりなどの何かしらの特技がある者などに分けた。
それから彼らに事情も話た。
新たに女王として立ったシーラ陛下の政策によりスラムは閉鎖されること。それを言っただけでスラムの人間は戸惑い、泣き喚くもの、自分達のこれからを思い、絶望する者や諦めたように無反応な者、様々だ。
私は彼らが落ち着くのを見計らって、住む場所を王都ではなくルーエンブルクに変わること、そこで働いてもらうことなどを話した。
喜ぶ者や戸惑う者、よく分かっていない者もいた。彼らの住む場所はもうここしかないので無理にでも納得しtwもらうしかない。
「感染症、栄養失調、発育不全。不健康のオンパレードですな。これは当分、徹夜覚悟ですぞ。まぁ、スラム出身者で健康体の者がいるとすればそれはスラムに来て、まだ日の浅い者でしょうが、幸か不幸かそういう者は現段階では一人もいません」
「そう」
分かってはいたけど暫くは治療に専念ね。
「治療費もかなりかかりますぞ」
「三割は国が負担することで話がついているわ。それと今初めている事業の利益もそっちに回すわ。領の復興は前からやっている事業と私が貰った報奨金で賄えるわ。一応、全員の治療費の見積もりも出してくれる。国に提出するから」
「分かりました」
今いるスラム出身者はいい。私の領で受け入れ可能な人数だし、人手の足りない時期だったから。でもこれから出て来るかもしれない失業者、本来ならスラムに行くしかない者たちの受け皿がスラムを閉鎖することでなくなってしまった。
その件について女王が何か考えているとは思えない。
「アイリス」
ドクターが書いている治療内容を見つめていると切羽詰まったような顔をしたエリックが来た。
「どうかした?」
「さっき、ルーから連絡が来たんだけど女王陛下はイグナーツ卿を側近から解任するらしい」
やはり、そうなるか。
「うほほほほっ。まさに絵に描いたような転落じゃなぁ。こりゃあ、パイデスはいよいよやばいのではないか、領主様」
ドクターはどうする?と視線で問うてくる。
このドクターは私の父の代の頃からの付き合いだ。腕は確かだけど性格に難がある。
「ドクター、国の危機かもしれないのに面白がるなよ」
呆れたようにエリックが言うとドクターは「知ったことか」と言って長い髭を撫でる。
「国はいつか滅ぶものだ。永遠不変などありはしない。欲深い前王の治世が長く続いたとしてもこの運命は逃れられんかったじゃろ」
「運命は変えられないと?」
ドクターは目をわずかに開けて私を見る。
長く生きた者にしか見えない未来でも見ているかのような畏怖を抱く瞳だった。
「逃れられんから人はそれを運命と呼ぶんじゃよ」
「まだ滅んだわけじゃない」
「そうじゃな。せめてマシな滅び方をすれば良いが、あの小娘では無理だろうな」
「ドクター、仮にも女王だ。“小娘”はまずいだろ」
「エリック、あなたも女王に対して“仮”はまずいんじゃないかしら」
「あっ」
ドクターは「うほほほっ」と再び声を上げて笑った。何がそんなに面白いと言うのだろう。
「誰にも敬われない国主では、誰も従うことができない。共に滅ぶかえ?領主様」
ルーエンブルクも国と共に滅ぶだと?
「冗談」
「そうじゃろうな、そのためのこやつらじゃ」
ドクターは私たちの会話が理解できずに戸惑っている患者に目を向けた。
医者の知識や技術は国一と言っても過言ではないが政治方面に関する知識は皆無のドクターだが、それでも私の考えが見抜けるのは年の功というやつか。侮れないな。
「分かっているな、手を抜かずにしっかりと治療に専念してくれ」
「言われずとも」
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