16 / 32
第Ⅱ章 sideマリアナ
16
始まった、王妃教育。
正直、かなりきつかった。毎日何十時間もぶっ続け。当然、王妃様にも王妃様としての仕事があるのでそういう時は課題を与えられたり、ミリー様が代わりを務めてくださったり、後は他の令嬢を交えた実践をしたりした。
一日の王妃教育が終わると大量の本を渡されて、明日までに読むように言われる。
頭にいろいろ詰め込み過ぎてパンク寸前だ。
「あら、あなた。ちゃんと本を読んで来なかったの?」
今日は、昨日読むように言われた本の内容を覚えているか、ペーパーテストをさせられた。結果は半分できた。
「読みました」
「でも、この点数なのね」
「困ったわね」と言って王妃様は首を横に傾げる。
「しっかりと読んでいたらできるはずよ」
「ですが、一晩で五冊も。こんな分厚い本の内容を全て覚えるのは無理です」
「あら、王妃になるんだもの。国の成り立ちから王族の歴史。全て頭に叩き込むのは当然のことよ。エマは覚えられたわよ」
また、お姉様だ。王妃様は何かにつけてお姉様のことを持ち出してくる。よっぽど、お姉様のことを気に入っていたんだろう。
「私はお姉様とは違います。お姉様は優秀な方ですが、私は」
「優秀じゃない」と言おうとしたら、その先は言わせないとばかりに無言の圧力をかけてくる。
「あらあらあら。何を言っているのかしら?その優秀なお姉様からうちのバカ息子を奪ったんだから、それぐらいできてもらわないと困るのよ」
「奪っただなんて!?」
酷い言い方だ。お姉様とカール様の間には愛がなかった。それは本人たちからしっかりと聞いている。だから、決して奪ったわけじゃない。もちろん、二人が恋人同士だったのなら私だって涙を呑んで自分の気持ちに蓋をした。
「二人の間に愛情がなくて結構。毛嫌いしていても構わないわ」
王妃様はまるで私の考えが分かっているようだ。言葉にしなくても、私が言おうとしたことを先回りして封じていく。
「政略結婚とはそういうもの。貴族にとって大事なのは血を繋ぐこと。国の為、民の為、より優秀な血を残すこと」
「そんなの空しいだけです。誰も幸せに何てなりません」
王妃様は一体何を言っているのだろう。愛のない結婚なんてあり得ない。
「平民の考えではそうかもしれませんね。でも、貴族は違います」
「平民も貴族にもみな、平等です。考え方に違い何てありません」
ひゅっ。
「っ」
風を切る音がした。それに気づくよりも早く王妃様のドレスと同じ赤い派手な色をした扇子の先が私の喉元をついていた。まるで、いつでもその首を取れるのだと言っているみたいに。
「多くの貴族と王族が国の為、民の為に自分の人生を捧げてきました。時には不幸になると分かっていても貴族の義務を果たしたものもいます。過去にも現在にも。そういった犠牲を払う必要のない平民と我らを同じにするでない」
低い声でそう王妃は言った。
そこには、さっきまでにこやかにしていた王妃の面影などまるでない。声を荒げているわけでもないのに、むしろそれが余計に怖かった。
「王族も貴族も国と民の奴隷。故に、特権が与えられる。故に、貴ばれる。忘れるでない。お前は確かに元は平民だった。平民として暮らしていた。お前の血には確かに半分は母の、平民の血が流れている。だが、お前は。お前たち母娘は公爵の手を取った。貴族になることを選んだ。ならば、いつまでも平民気分でいられては困る。忘れるでない。我ら王族にとって必要なのは国と民を守ることのできる優秀な王妃と王、その跡継ぎだ。その条件が満たされるのならバカ息子の相手など、お前でも姉でもどっちもでいい」
どっちでもいい。そんな残酷なことってあるだろうか。そんなひどい言葉があるだろうか。私に対しても、お姉様に対しても失礼である。幾ら王族だからってここまで軽んじられないといけないの。
私はただ、カール様が好きで、カール様も私を好きで、だから一緒に居たいと思っただけなのに。
「今日はここまでにしましょう。今やったところで身が入らないでしょうし、時間の無駄」
いつの間にかいつもの優しい王妃様に戻っていた。その変わり身の早さについていけない。
戸惑う私に王妃様は立ち上がり、近づく。座ったままの私に目線を合わせるために腰を下ろし、ぷっくりと赤い口紅で彩られた口を耳元に持ってきて、囁く。
「いいのよ、逃げても」
まるで悪魔の囁きのようだ。
全身を巡り、蝕む毒のようにその言葉が私の体に停滞していた。
正直、かなりきつかった。毎日何十時間もぶっ続け。当然、王妃様にも王妃様としての仕事があるのでそういう時は課題を与えられたり、ミリー様が代わりを務めてくださったり、後は他の令嬢を交えた実践をしたりした。
一日の王妃教育が終わると大量の本を渡されて、明日までに読むように言われる。
頭にいろいろ詰め込み過ぎてパンク寸前だ。
「あら、あなた。ちゃんと本を読んで来なかったの?」
今日は、昨日読むように言われた本の内容を覚えているか、ペーパーテストをさせられた。結果は半分できた。
「読みました」
「でも、この点数なのね」
「困ったわね」と言って王妃様は首を横に傾げる。
「しっかりと読んでいたらできるはずよ」
「ですが、一晩で五冊も。こんな分厚い本の内容を全て覚えるのは無理です」
「あら、王妃になるんだもの。国の成り立ちから王族の歴史。全て頭に叩き込むのは当然のことよ。エマは覚えられたわよ」
また、お姉様だ。王妃様は何かにつけてお姉様のことを持ち出してくる。よっぽど、お姉様のことを気に入っていたんだろう。
「私はお姉様とは違います。お姉様は優秀な方ですが、私は」
「優秀じゃない」と言おうとしたら、その先は言わせないとばかりに無言の圧力をかけてくる。
「あらあらあら。何を言っているのかしら?その優秀なお姉様からうちのバカ息子を奪ったんだから、それぐらいできてもらわないと困るのよ」
「奪っただなんて!?」
酷い言い方だ。お姉様とカール様の間には愛がなかった。それは本人たちからしっかりと聞いている。だから、決して奪ったわけじゃない。もちろん、二人が恋人同士だったのなら私だって涙を呑んで自分の気持ちに蓋をした。
「二人の間に愛情がなくて結構。毛嫌いしていても構わないわ」
王妃様はまるで私の考えが分かっているようだ。言葉にしなくても、私が言おうとしたことを先回りして封じていく。
「政略結婚とはそういうもの。貴族にとって大事なのは血を繋ぐこと。国の為、民の為、より優秀な血を残すこと」
「そんなの空しいだけです。誰も幸せに何てなりません」
王妃様は一体何を言っているのだろう。愛のない結婚なんてあり得ない。
「平民の考えではそうかもしれませんね。でも、貴族は違います」
「平民も貴族にもみな、平等です。考え方に違い何てありません」
ひゅっ。
「っ」
風を切る音がした。それに気づくよりも早く王妃様のドレスと同じ赤い派手な色をした扇子の先が私の喉元をついていた。まるで、いつでもその首を取れるのだと言っているみたいに。
「多くの貴族と王族が国の為、民の為に自分の人生を捧げてきました。時には不幸になると分かっていても貴族の義務を果たしたものもいます。過去にも現在にも。そういった犠牲を払う必要のない平民と我らを同じにするでない」
低い声でそう王妃は言った。
そこには、さっきまでにこやかにしていた王妃の面影などまるでない。声を荒げているわけでもないのに、むしろそれが余計に怖かった。
「王族も貴族も国と民の奴隷。故に、特権が与えられる。故に、貴ばれる。忘れるでない。お前は確かに元は平民だった。平民として暮らしていた。お前の血には確かに半分は母の、平民の血が流れている。だが、お前は。お前たち母娘は公爵の手を取った。貴族になることを選んだ。ならば、いつまでも平民気分でいられては困る。忘れるでない。我ら王族にとって必要なのは国と民を守ることのできる優秀な王妃と王、その跡継ぎだ。その条件が満たされるのならバカ息子の相手など、お前でも姉でもどっちもでいい」
どっちでもいい。そんな残酷なことってあるだろうか。そんなひどい言葉があるだろうか。私に対しても、お姉様に対しても失礼である。幾ら王族だからってここまで軽んじられないといけないの。
私はただ、カール様が好きで、カール様も私を好きで、だから一緒に居たいと思っただけなのに。
「今日はここまでにしましょう。今やったところで身が入らないでしょうし、時間の無駄」
いつの間にかいつもの優しい王妃様に戻っていた。その変わり身の早さについていけない。
戸惑う私に王妃様は立ち上がり、近づく。座ったままの私に目線を合わせるために腰を下ろし、ぷっくりと赤い口紅で彩られた口を耳元に持ってきて、囁く。
「いいのよ、逃げても」
まるで悪魔の囁きのようだ。
全身を巡り、蝕む毒のようにその言葉が私の体に停滞していた。
あなたにおすすめの小説
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。
潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
【完結】王都に咲く黒薔薇、断罪は静かに舞う
なみゆき
ファンタジー
名門薬草家の伯爵令嬢エリスは、姉の陰謀により冤罪で断罪され、地獄の収容所へ送られる。 火灼の刑に耐えながらも薬草の知識で生き延び、誇りを失わず再誕を果たす。
3年後、整形と記録抹消を経て“外交商人ロゼ”として王都に舞い戻り、裏では「黒薔薇商会」を設立。
かつて自分を陥れた者たち
――元婚約者、姉、王族、貴族――に、静かに、美しく、冷酷な裁きを下していく。
これは、冤罪や迫害により追い詰められた弱者を守り、誇り高く王都を裂く断罪の物語。
【本編は完結していますが、番外編を投稿していきます(>ω<)】
*お読みくださりありがとうございます。
ブクマや評価くださった方、大変励みになります。ありがとうございますm(_ _)m