17 / 32
第Ⅱ章 sideマリアナ
17
「ねぇ、ガナッシュ様」
王妃様が部屋から出て行ったあと、私は王妃教育用の勉強部屋に留まっていた。王妃様のお言葉がショックで、すぐに動くだけの気力がなかったのだ。
私は傍で護衛してくれているガナッシュ様に声をかけた。侍女に声をかけなかったのは、二人とも何となく素っ気なくて、別館にいたアンナみたいで話しかけずらかったのだ。
「何でございますか、マリアナ様」
「王妃様は私のことが嫌いなのかしら?」
ガナッシュ様はいつも声をかけたら微笑んでくださるし、紳士的で話しやすい。
「好き嫌いの問題ではないと思いますよ。王妃様はそのお立場故、人をえり好みしたりはしませんから」
苦笑しながら言うガナッシュ様の言葉に私は納得がいかなかった。
「でも、いつもお姉様と比べてばかり。王妃様はお姉様の方が良かったのかしら」
「王妃様はどちらがいいとは言っていませんでしたよ。お疑いなら、直接確認してはどうですか?」
確かに王妃様はどっちでもいいと言っていた。
「別に疑ってはいないわ。お姉様はとても優秀だった?王妃様の期待に応えられていた?」
長身のガナッシュ様を見上げると、ガナッシュ様は困ったように笑みを浮かべる。
「申し訳ありません、私はエマ様とはお会いしたことがありませんでしたので。そもそも、エマ様には護衛騎士がついてはいませんでした」
「どうして?」
私にはついて、お姉様にはつかない理由が分からない。不思議に思っているとガナッシュ様はくすりと笑って「とても優秀な方がついておられましたから」と言った。お姉様についている騎士はジルだけだ。でも彼は元は奴隷と言っていた。王宮に入れるものなんだろうか?
私の疑問が顔に出ていたのか、ガナッシュ様が私が聞く前に答えてくれた。
「優秀な人材であれば、平民だろうが、元奴隷だろうが雇えますよ。下手すれば甘やかされて育った貴族よりも優秀ですし。それに公爵家で雇っているので身元もはっきりしていますし。エマ様は余裕を持って王妃教育に入られていたので、あなたのように王宮に泊り込みではなかったですし。それに、エマ様よりもあなたの方が身の安全は保障できないんです」
「どうしてですか?」
お姉様もカール様の婚約者として王妃教育を受けていた。私もカール様の婚約者として王妃教育を受けている。私もお姉様も公爵家。条件は同じなのに。私の方が危険なの?
「生粋の公爵令嬢が殿下の婚約者になるのはまだ許せても、元平民のあなたが婚約者に収まるのは許せない。自分たちの方が相応しいと思っている人はどこでもいます。そして、最悪なことにその方たちには力があります。あなた一人、消してしまう程度の力が」
「そんなのおかしいわ。相応しいとか、他人が決めることではないでしょう。それに、消すだなんて。大げさすぎます。話し合えば分かりますよ、きっと」
私の言葉になぜかガナッシュ様は何とも言えない笑みを浮かべていた。でも、それ以上は何も言ってこない。
お姉様も、アンナもそう。シーラ様やミリー様も。みんな何か言いたそうな顔をするのに、その先は言わない。言葉を飲み込んで、何度聞いても「何でもない」ばかり。どうしてだろう?私に何か言いたいことでもあるんだろうか。
やっぱり、私じゃあ不満なのかな。
それとも私の考えすぎ?本当に何でもないのかな。
「疲れたから休むわ」
今回は授業が中断したため、休む時間ができた。王妃様が途中で退席したので課題も出ていないし、久しぶりにゆっくり休めることになった。
きっと、疲れが溜まっているからおかしな方向に話が行くんだ。王妃教育を始めて二週間。カール様には全く会えないし、家族にも会っていないからその寂しさのせいだ。せめて、お姉様だけでも来てくれないかな。
「そうだ。今度、王妃様にお願いしてみよう」
部屋に戻ってドレスのままベッドに寝転ぶ私にミリー様が眉間に皴を寄せて見ていることに気づきもせず、私は久しぶりにお姉様に会えるかもしれないことに浮かれていた。
「お姉様なら王妃教育を受けて来たわけだし、私の苦労も理解して相談相手になってくれるだろうし。それに、王妃様からだけではなく、お姉様からも王妃教育のことを教われるし、一石二鳥ね。・・・・ってなると、善は急げね」
私はがばっと起き上がる。ドレスがしわになっていたけど、別に人に会うわけじゃないから気にしない。お母様と二人、城下に住んでいた時は皴の寄った服なんて当たり前に来ていた。貴族の人は身なりばかりに気にしすぎなんだと思う。
「お姉様に手紙を書きたいの」
「直ぐにご用意します」
シーラ様が一礼して部屋を出て行く。
私はシーラ様がレターセットを持ってきてくれるまで思いを馳せる。
お姉様はいつ会いに来てくれるかしら。私がいなくて寂しがってくださっているでしょうから、きっとすぐに会いに来てくださいますわよね。
「ああ。早く、会いたいな。お姉様に」
王妃様が部屋から出て行ったあと、私は王妃教育用の勉強部屋に留まっていた。王妃様のお言葉がショックで、すぐに動くだけの気力がなかったのだ。
私は傍で護衛してくれているガナッシュ様に声をかけた。侍女に声をかけなかったのは、二人とも何となく素っ気なくて、別館にいたアンナみたいで話しかけずらかったのだ。
「何でございますか、マリアナ様」
「王妃様は私のことが嫌いなのかしら?」
ガナッシュ様はいつも声をかけたら微笑んでくださるし、紳士的で話しやすい。
「好き嫌いの問題ではないと思いますよ。王妃様はそのお立場故、人をえり好みしたりはしませんから」
苦笑しながら言うガナッシュ様の言葉に私は納得がいかなかった。
「でも、いつもお姉様と比べてばかり。王妃様はお姉様の方が良かったのかしら」
「王妃様はどちらがいいとは言っていませんでしたよ。お疑いなら、直接確認してはどうですか?」
確かに王妃様はどっちでもいいと言っていた。
「別に疑ってはいないわ。お姉様はとても優秀だった?王妃様の期待に応えられていた?」
長身のガナッシュ様を見上げると、ガナッシュ様は困ったように笑みを浮かべる。
「申し訳ありません、私はエマ様とはお会いしたことがありませんでしたので。そもそも、エマ様には護衛騎士がついてはいませんでした」
「どうして?」
私にはついて、お姉様にはつかない理由が分からない。不思議に思っているとガナッシュ様はくすりと笑って「とても優秀な方がついておられましたから」と言った。お姉様についている騎士はジルだけだ。でも彼は元は奴隷と言っていた。王宮に入れるものなんだろうか?
私の疑問が顔に出ていたのか、ガナッシュ様が私が聞く前に答えてくれた。
「優秀な人材であれば、平民だろうが、元奴隷だろうが雇えますよ。下手すれば甘やかされて育った貴族よりも優秀ですし。それに公爵家で雇っているので身元もはっきりしていますし。エマ様は余裕を持って王妃教育に入られていたので、あなたのように王宮に泊り込みではなかったですし。それに、エマ様よりもあなたの方が身の安全は保障できないんです」
「どうしてですか?」
お姉様もカール様の婚約者として王妃教育を受けていた。私もカール様の婚約者として王妃教育を受けている。私もお姉様も公爵家。条件は同じなのに。私の方が危険なの?
「生粋の公爵令嬢が殿下の婚約者になるのはまだ許せても、元平民のあなたが婚約者に収まるのは許せない。自分たちの方が相応しいと思っている人はどこでもいます。そして、最悪なことにその方たちには力があります。あなた一人、消してしまう程度の力が」
「そんなのおかしいわ。相応しいとか、他人が決めることではないでしょう。それに、消すだなんて。大げさすぎます。話し合えば分かりますよ、きっと」
私の言葉になぜかガナッシュ様は何とも言えない笑みを浮かべていた。でも、それ以上は何も言ってこない。
お姉様も、アンナもそう。シーラ様やミリー様も。みんな何か言いたそうな顔をするのに、その先は言わない。言葉を飲み込んで、何度聞いても「何でもない」ばかり。どうしてだろう?私に何か言いたいことでもあるんだろうか。
やっぱり、私じゃあ不満なのかな。
それとも私の考えすぎ?本当に何でもないのかな。
「疲れたから休むわ」
今回は授業が中断したため、休む時間ができた。王妃様が途中で退席したので課題も出ていないし、久しぶりにゆっくり休めることになった。
きっと、疲れが溜まっているからおかしな方向に話が行くんだ。王妃教育を始めて二週間。カール様には全く会えないし、家族にも会っていないからその寂しさのせいだ。せめて、お姉様だけでも来てくれないかな。
「そうだ。今度、王妃様にお願いしてみよう」
部屋に戻ってドレスのままベッドに寝転ぶ私にミリー様が眉間に皴を寄せて見ていることに気づきもせず、私は久しぶりにお姉様に会えるかもしれないことに浮かれていた。
「お姉様なら王妃教育を受けて来たわけだし、私の苦労も理解して相談相手になってくれるだろうし。それに、王妃様からだけではなく、お姉様からも王妃教育のことを教われるし、一石二鳥ね。・・・・ってなると、善は急げね」
私はがばっと起き上がる。ドレスがしわになっていたけど、別に人に会うわけじゃないから気にしない。お母様と二人、城下に住んでいた時は皴の寄った服なんて当たり前に来ていた。貴族の人は身なりばかりに気にしすぎなんだと思う。
「お姉様に手紙を書きたいの」
「直ぐにご用意します」
シーラ様が一礼して部屋を出て行く。
私はシーラ様がレターセットを持ってきてくれるまで思いを馳せる。
お姉様はいつ会いに来てくれるかしら。私がいなくて寂しがってくださっているでしょうから、きっとすぐに会いに来てくださいますわよね。
「ああ。早く、会いたいな。お姉様に」
あなたにおすすめの小説
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。
潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
【完結】王都に咲く黒薔薇、断罪は静かに舞う
なみゆき
ファンタジー
名門薬草家の伯爵令嬢エリスは、姉の陰謀により冤罪で断罪され、地獄の収容所へ送られる。 火灼の刑に耐えながらも薬草の知識で生き延び、誇りを失わず再誕を果たす。
3年後、整形と記録抹消を経て“外交商人ロゼ”として王都に舞い戻り、裏では「黒薔薇商会」を設立。
かつて自分を陥れた者たち
――元婚約者、姉、王族、貴族――に、静かに、美しく、冷酷な裁きを下していく。
これは、冤罪や迫害により追い詰められた弱者を守り、誇り高く王都を裂く断罪の物語。
【本編は完結していますが、番外編を投稿していきます(>ω<)】
*お読みくださりありがとうございます。
ブクマや評価くださった方、大変励みになります。ありがとうございますm(_ _)m