婚約破棄された王女はΩであることを隠したままΩ嫌いの王子に嫁ぐことになったので全て諦めて自由気ままに生きることにしたらなぜか溺愛されるように

音無砂月

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本章

5.粗悪品の王女

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私の名前はラティーシャ・アルトゥール。アルトゥール国の第一王女だって、乳母は言っていた。
国で一番偉いのは私のお父様で、次がお母様、そして私だって乳母は言う。でも、本当なのかな?

だって、乳母以外はみんな、私に冷たいよ。それにお母様は全然、会いに来てくれない。

乳母が時々お母様にお願いをしているみたいだけど、お母様はお茶会?とか夜会?に出るのに忙しくてそんな暇はないんだって。
お父様は、子供の教育は母親の役目で、自分は執務で忙しいから関与しないって言ったらしい。

「陛下は、生まれたばかりのあなたを抱き上げ、可愛いと言ってくださったのですよ」と乳母はよく口にする。
でも、私は信じない。きっと、私を慰めるための乳母の作り話。だって一度も会いに来てくれないもの。

私、お父様の顔もお母様の顔も知らない。
乳母があまりお部屋から出してはくれないから。お部屋の外は危険がいっぱいだって言ってた。

どうして危険なのかは分からない。でも、乳母は時々、怪我をしていることがあった。
「どうしたの?」って聞くと「転んだ」とか「鍋をひっくり返したって」言うの。
「お部屋にいる時の乳母はしっかりしているのに、お部屋に出るとドジっ子になるの?」って聞いたら「お部屋の外は危険がいっぱいだから仕方がない」って言うの。

「だから姫様はお部屋に居ましょうね」っていつもそう言ってこのお話はここで終わり。
そんなに危険なら乳母も部屋から出なければいいって言ったんだけど、乳母は笑うだけで「出ない」とは言ってくれなかった。

だからかな?
ある日、性検査って言うのをしたの。私がΩだって分かった日から乳母はいなくなった。
代わりにアリソンって女の人が来るようになった。お母様の側近なんだって。

「乳母は?」って私が聞くとアリソンは「姫様がΩだったせいで、罰を受けました。だからもう乳母はここへは来ません」と言われた。

「Ωって何?」
「穢らわしい人種のことですわ。関わった者、全てを不幸にする人種です」
「私のせいで乳母は不幸になったの?」
「そうです。だから、Ωだってバレないよにしないといけません」

私がお母様の住んでいる所ではなく、この離宮という離れた場所に行くことになったのも私がΩだからなんだって。

「大丈夫ですよ、姫様。私だけは姫様の味方ですから」

そう言ってアリソンは私を抱きしめた。
乳母とは違って、力が強くて、まるで拘束されているみたいだった。
でも、何となく拒んではいけないと思った。
だって、もう乳母はいないから。私にはアリソンしかいなくなってしまったから。

「姫様はこれからαと名乗るのですよ。いいですね」
「はい、アリソン」

嫌だと言える雰囲気ではなかった。

その日から私の生活は一変した。
一番は食事だった。三食必ず乳母が用意してくれた食事は一食に減らされた。
食事数だけじゃない。中身もだ。
まず、お肉がなくなった。入っていたとしてもほんの一欠片ほどだ。
それにふわふわのパンではなく、歯が折れるぐらいに硬いパン
スープも冷めているし、中に入っているのは野菜くずばかり。時々、腐っている物も入るようになった。

アリソンにそれを伝えたら、アリソンはにっこりと笑った。

「あなたがΩだからですよ、姫様」

そう言ってアリソンは淹れたてのお茶を私の頭から被せた。
すごく熱くて、お茶がかかった顔や腕がヒリヒリした。

「Ωはね、こういう扱いをされても仕方がないのですよ。だって、穢らわしい存在ですから。姫様、本来ならあなたのような粗悪品は生まれるはずではなかった」

アリソンは笑顔のまま続ける。

「全て、あなたのお母様のせいですよ」
「お母様の?」
「ええ。私と同じ子爵家の出のくせに、王妃なんて分不相応な立場についたから。ちゃんとした血筋の王妃を陛下が選んでいたら生まれてくるのは優秀な遺伝子を持った、誰にも尊敬される立派な王女が生まれていたでしょうね」

「うっ」

アリソンは私の髪を鷲掴みにして持ち上げた。何本かぶちぶちと髪が切れたけどアリソンは手加減をしてはくれなかった。

「あなたは粗悪品です。薄汚い女の血が流れている。それでも、あなたは唯一の第一王女です。あなたが粗悪品だと分かれば、陛下の恥になります。絶対に、バレてはいけません。よろしいですね、姫様」

「っ、は、い」

私が返事をして初めてアリソンは手を放してくれた。

「では、立派な王女になれるようにお勉強していきましょうね、姫様。大丈夫ですよ、姫様。ハリボテでも、ちゃあんと人に見られても問題のない立派な王女に仕立て上げて差し上げます」

本当の地獄はここから始まった。
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