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第Ⅲ章 狂愛
40.エリザベート・バートリの死と新たな脅威
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エドウィン視点
「‥…殿下」
牢番に呼ばれて俺はエリザベート・バートリが捉えられている牢獄の前に居た。
俺の前にはどす黒い血を流して死んでいるエリザベート・バートリがいた。
彼女の腹部は大きく裂け、まるでそこから何かが飛び出したかのようにも見えた。
だったら、その飛び出したものはいったい何で、どこへ向かったのか。
牢屋の壁は大きく破壊され、外の景色が一望できるようになっていた。
「己の欲望の為に人の命を弄んだ女に相応しい末路かもしれねぇな。後味は最悪だが」
エリザベート・バートリの死に顔は誰が見ても苦しみながら死んでいったのが分かるぐらいに歪んでいた。
「兄上」
「ユージーンか、どうした?」
国の暗部を任されているせいか相変わらず背後から気配も足音すらも消してユージーンが近づいてくる。
思わず、懐に忍ばせていた護身用の銃を抜くところだった。
ユージーンはそれに気づきながらも頓着せずに用件だけを告げる。
「エリザベート・バートリが黒魔術を使っていたことが分かりました」
黒魔術。それは国が禁じている魔術だ。大きな力を得たり、願いを叶えるためにはもってこいの魔術だが、その分代償も高くつくし、成功させるためには生贄も必要となる。
それにリスクの割には成功率がかなり低い。一割にも満たないだろう。
「成功したと思うか?」
顎でエリザベート・バートリの死体を見ろと示す。
「分かりません。成功してもしなくても黒魔術というのは使用者に悲惨な死を齎します。彼女の死もそれによる代償でしょう。ただ、牢獄の壁にあんなに大きな穴を開けるのは彼女には不可能でしょう。ましてやここには大砲何て物はないのですから」
嫌な予感に背筋が凍り付く。
「エリザベート・バートリは何を世に放ったんだ」
俺の呟きに答えられるものはいなかった。
分かってはいたが、誰でも良い。明確な答えを与えて欲しかった。この国を守る一翼としては。それはユージーンも同じだろう。
「場合によってはオルガの心臓の持ち主もその義務を果たすことになるかもしれませんね」
ユージーンの言葉に俺はオルガの心臓の持ち主であるスカーレット・ブラッティーネの姿を思い浮かべる。
見た目はただの十六の少女だった。
けれどエリザベート・バートリの事件に巻き込まれた彼女を地上まで送ろうとした彼女の目には確かな拒絶があった。
何かをした覚えはないけど、そもそも彼女に何かをするほど会ってはいないけど憎まれているように感じだ。
彼女の生い立ちを考えれば憎まれていてもおかしくはないのかもしれない。
ああいう手合いは全てを憎んでいることがある。
理由なんてない。ただただ自分を含めた世界の全てが憎くて仕方がないのだ。
まだ学生だが王族として騎士団に所属している俺はそういう奴らをたくさん見てきた。
「オルガの心臓を持つ者の義務、ね」
それは身を挺してこの国を守ること。文字通り、この国に身を捧げるのだ。国の為に生き、死んでいくのがオルガの心臓を持った者の義務。
生まれたその日に誓約を結ばされる。
意志を持たぬ生まれたての赤子に血の誓約を結ばせるのだ。破れば誓約の鎖が発動し、彼女は死ぬことになる。
その誓約があるからこそ王族よりも強大な力を持つ人間が生まれるブラッティーネ公爵家は存続することを許されているのだ。
「淡々と言うんだな。お前の婚約者にという話が出ていると耳にしたが」
「それは僕だけではないでしょ。エドウィン兄やファーガスト兄上の婚約者候補としても父上は考えているようですよ。まぁ、ブラッティーネ公爵家は身内の誰かと婚約させる気のようですが」
「誓約で縛るだけではな不服ということだろうな。父上は」
気に入らない。
自分たちの力を誇示するために生まれたばかりの赤子に血の誓約を結ばせて力で抑えつけることも、それだけでは飽き足らず自らの血にもくみ込みこもうとする貪欲さも。
「この国はいつまで得体のしれない神の力に縋りながら生きるつもりなんだろうな」
自分たちの力ではなく人ならざる者の力を借りながら存続する国に未来があるようには思えなかった。
俺の考えにどれだけの人間が同意してくれるかは分からないが。
「‥…殿下」
牢番に呼ばれて俺はエリザベート・バートリが捉えられている牢獄の前に居た。
俺の前にはどす黒い血を流して死んでいるエリザベート・バートリがいた。
彼女の腹部は大きく裂け、まるでそこから何かが飛び出したかのようにも見えた。
だったら、その飛び出したものはいったい何で、どこへ向かったのか。
牢屋の壁は大きく破壊され、外の景色が一望できるようになっていた。
「己の欲望の為に人の命を弄んだ女に相応しい末路かもしれねぇな。後味は最悪だが」
エリザベート・バートリの死に顔は誰が見ても苦しみながら死んでいったのが分かるぐらいに歪んでいた。
「兄上」
「ユージーンか、どうした?」
国の暗部を任されているせいか相変わらず背後から気配も足音すらも消してユージーンが近づいてくる。
思わず、懐に忍ばせていた護身用の銃を抜くところだった。
ユージーンはそれに気づきながらも頓着せずに用件だけを告げる。
「エリザベート・バートリが黒魔術を使っていたことが分かりました」
黒魔術。それは国が禁じている魔術だ。大きな力を得たり、願いを叶えるためにはもってこいの魔術だが、その分代償も高くつくし、成功させるためには生贄も必要となる。
それにリスクの割には成功率がかなり低い。一割にも満たないだろう。
「成功したと思うか?」
顎でエリザベート・バートリの死体を見ろと示す。
「分かりません。成功してもしなくても黒魔術というのは使用者に悲惨な死を齎します。彼女の死もそれによる代償でしょう。ただ、牢獄の壁にあんなに大きな穴を開けるのは彼女には不可能でしょう。ましてやここには大砲何て物はないのですから」
嫌な予感に背筋が凍り付く。
「エリザベート・バートリは何を世に放ったんだ」
俺の呟きに答えられるものはいなかった。
分かってはいたが、誰でも良い。明確な答えを与えて欲しかった。この国を守る一翼としては。それはユージーンも同じだろう。
「場合によってはオルガの心臓の持ち主もその義務を果たすことになるかもしれませんね」
ユージーンの言葉に俺はオルガの心臓の持ち主であるスカーレット・ブラッティーネの姿を思い浮かべる。
見た目はただの十六の少女だった。
けれどエリザベート・バートリの事件に巻き込まれた彼女を地上まで送ろうとした彼女の目には確かな拒絶があった。
何かをした覚えはないけど、そもそも彼女に何かをするほど会ってはいないけど憎まれているように感じだ。
彼女の生い立ちを考えれば憎まれていてもおかしくはないのかもしれない。
ああいう手合いは全てを憎んでいることがある。
理由なんてない。ただただ自分を含めた世界の全てが憎くて仕方がないのだ。
まだ学生だが王族として騎士団に所属している俺はそういう奴らをたくさん見てきた。
「オルガの心臓を持つ者の義務、ね」
それは身を挺してこの国を守ること。文字通り、この国に身を捧げるのだ。国の為に生き、死んでいくのがオルガの心臓を持った者の義務。
生まれたその日に誓約を結ばされる。
意志を持たぬ生まれたての赤子に血の誓約を結ばせるのだ。破れば誓約の鎖が発動し、彼女は死ぬことになる。
その誓約があるからこそ王族よりも強大な力を持つ人間が生まれるブラッティーネ公爵家は存続することを許されているのだ。
「淡々と言うんだな。お前の婚約者にという話が出ていると耳にしたが」
「それは僕だけではないでしょ。エドウィン兄やファーガスト兄上の婚約者候補としても父上は考えているようですよ。まぁ、ブラッティーネ公爵家は身内の誰かと婚約させる気のようですが」
「誓約で縛るだけではな不服ということだろうな。父上は」
気に入らない。
自分たちの力を誇示するために生まれたばかりの赤子に血の誓約を結ばせて力で抑えつけることも、それだけでは飽き足らず自らの血にもくみ込みこもうとする貪欲さも。
「この国はいつまで得体のしれない神の力に縋りながら生きるつもりなんだろうな」
自分たちの力ではなく人ならざる者の力を借りながら存続する国に未来があるようには思えなかった。
俺の考えにどれだけの人間が同意してくれるかは分からないが。
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