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第Ⅲ章 狂愛
48.ノエルの苦悩の表情、その理由を私は知らない
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「お前がノエル・オーガスト、か」
「シャノワール・シクラメン、俺の婚約者に何の用?用なら俺を通してほしんだけど」
初めからノエルはシャノワールに喧嘩腰だ。彼のことが気に入らないと言葉で言われなくてもひしひしと伝わって来る。
シャノワールにも当然、伝わったようでノエルを見る目の鋭さが増した。
「俺はスカーレットの親戚なんだけど。二人きりで話すのは都合が悪いのか?」
この婚約に後ろめたいことでもあるのかとシャノワールは聞いている。
「当然でしょ。君たちは結婚できる間柄だ。そんな男と二人きりになんてさせられない」
シャノワールの意図はつかんでいるはずなのに敢えて無視した。答える価値がないと判断したのだろうか。
「特に君はスカーレットの元婚約者候補だらね。婚約者の俺が君とスカーレットが二人きりになるのをよく思わないのは自然なことだと思うけど。そこら辺、配慮してくれないかな?」
口調はとても柔らかいし、微笑みも浮かべている。けれど、漂う空気はとても威圧的でこの場で殺戮劇でも始まるのではないかと思わせてしまう程の緊張が漂っていた。
私を捉える彼の腕はまるで牢獄の様。
逃がさないとばかりに彼は私を強く抱きしめる。
どうしてここまで私に執着するのだろう。
どんなに聞いてもそれだけは教えてくれなかった。絶対に私は過去に彼に会っているのだと思う。恋人同士だったのか、想い合っていたのか分からない。
思い出そうとしても靄がかかって全然思い出せなかった。
「オルガの心臓がそこまで大事か?」
「はっ」
シャノワールの言葉に周囲の気温が倍に下がった気がした。殺気に鋭さが増し、グウェンベルン王国の王子であるノエルが他国の侯爵子息に危害を加えるはずがないと頭で分かっていても彼がシャノワールを消してしまうのではないかという不安は消えない。それどころか増すばかりだ。
咄嗟に私はオルガの心臓を発動させようとした。けれど、ノエルが私の心臓がある場所にそっと触れると、オルガの心臓は発動を止めた。
私の意思に反して。確かに無意識の行動だったけど、それでも他人が干渉できるものではない。
私はノエルを見る。
ノエルは一度だけ悲し気な目を私に向けた。その後で再び同じ人だとは思えないぐらい冷たい視線をシャノワールに向けていた。
「君たちってどうしてそうなんだろね。どいつもこいつも。何度やり直しても同じ。学ぶことを知らない愚かな生き物。オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓」
「ノエル?」
ノエルは狂ったように「オルガの心臓」を口にする。
心配になって彼を見上げると苦悩に満ちた顔をしていた。
「ノエル、どうしたの?」
彼の頬に触れるとノエルは私がそこにいることに気づいたように私に視線を向ける。
私の肩に顔を埋めて、私を抱きしめる彼の体は震えていた。一度、深呼吸して心を落ち着かせたのかノエルはシャノワールを見る。
何が起こったのか理解できないシャノワールは戸惑った様子でノエルを見る。
「そんなに大事か?神が気まぐれで与えた施しが」
悲しみと後悔を宿した彼の微笑みに胸が締め付けられるように苦しかった。どうして、そんな顔をするのだろう。
「時々、無性に抉り取ってしまいたくなる」
そう吐き捨てるノエルはシャノワールとの会話を拒否するように彼に背を向けて歩き出した。彼に腰を抱かれている私も自然とシャノワールに背を向けることになった。
私たちが彼から遠ざかっても彼が私たちを引き留めることはしなかった。
ノエルは一言も発さない。私も何を言ったらいいのか分からず、気まずい空気が流れる。
「シャノワール・シクラメン、俺の婚約者に何の用?用なら俺を通してほしんだけど」
初めからノエルはシャノワールに喧嘩腰だ。彼のことが気に入らないと言葉で言われなくてもひしひしと伝わって来る。
シャノワールにも当然、伝わったようでノエルを見る目の鋭さが増した。
「俺はスカーレットの親戚なんだけど。二人きりで話すのは都合が悪いのか?」
この婚約に後ろめたいことでもあるのかとシャノワールは聞いている。
「当然でしょ。君たちは結婚できる間柄だ。そんな男と二人きりになんてさせられない」
シャノワールの意図はつかんでいるはずなのに敢えて無視した。答える価値がないと判断したのだろうか。
「特に君はスカーレットの元婚約者候補だらね。婚約者の俺が君とスカーレットが二人きりになるのをよく思わないのは自然なことだと思うけど。そこら辺、配慮してくれないかな?」
口調はとても柔らかいし、微笑みも浮かべている。けれど、漂う空気はとても威圧的でこの場で殺戮劇でも始まるのではないかと思わせてしまう程の緊張が漂っていた。
私を捉える彼の腕はまるで牢獄の様。
逃がさないとばかりに彼は私を強く抱きしめる。
どうしてここまで私に執着するのだろう。
どんなに聞いてもそれだけは教えてくれなかった。絶対に私は過去に彼に会っているのだと思う。恋人同士だったのか、想い合っていたのか分からない。
思い出そうとしても靄がかかって全然思い出せなかった。
「オルガの心臓がそこまで大事か?」
「はっ」
シャノワールの言葉に周囲の気温が倍に下がった気がした。殺気に鋭さが増し、グウェンベルン王国の王子であるノエルが他国の侯爵子息に危害を加えるはずがないと頭で分かっていても彼がシャノワールを消してしまうのではないかという不安は消えない。それどころか増すばかりだ。
咄嗟に私はオルガの心臓を発動させようとした。けれど、ノエルが私の心臓がある場所にそっと触れると、オルガの心臓は発動を止めた。
私の意思に反して。確かに無意識の行動だったけど、それでも他人が干渉できるものではない。
私はノエルを見る。
ノエルは一度だけ悲し気な目を私に向けた。その後で再び同じ人だとは思えないぐらい冷たい視線をシャノワールに向けていた。
「君たちってどうしてそうなんだろね。どいつもこいつも。何度やり直しても同じ。学ぶことを知らない愚かな生き物。オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓、オルガの心臓」
「ノエル?」
ノエルは狂ったように「オルガの心臓」を口にする。
心配になって彼を見上げると苦悩に満ちた顔をしていた。
「ノエル、どうしたの?」
彼の頬に触れるとノエルは私がそこにいることに気づいたように私に視線を向ける。
私の肩に顔を埋めて、私を抱きしめる彼の体は震えていた。一度、深呼吸して心を落ち着かせたのかノエルはシャノワールを見る。
何が起こったのか理解できないシャノワールは戸惑った様子でノエルを見る。
「そんなに大事か?神が気まぐれで与えた施しが」
悲しみと後悔を宿した彼の微笑みに胸が締め付けられるように苦しかった。どうして、そんな顔をするのだろう。
「時々、無性に抉り取ってしまいたくなる」
そう吐き捨てるノエルはシャノワールとの会話を拒否するように彼に背を向けて歩き出した。彼に腰を抱かれている私も自然とシャノワールに背を向けることになった。
私たちが彼から遠ざかっても彼が私たちを引き留めることはしなかった。
ノエルは一言も発さない。私も何を言ったらいいのか分からず、気まずい空気が流れる。
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