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「おはようございます、アニス様」
黒い髪に青い目の勝気な女子が話しかけてきた。
右側に大きな赤いリボンがついているその女子生徒はアニスの友人。
ルルシア・クラメンス。クラメンス伯爵家のご息女。
「ええ、おはよう」
「どうかなさいましたの?何だか元気がないですわね」
首をこてんと傾けて聞いてくる。
言葉は心配そうだけど目は好奇心にまみえている。
私は家族のご機嫌をいつも気にして過ごしていたから人の顔色である程度感情を読み解くことができる。一種の私の特技だ。
「そうね、ちょっと体調が悪いみたい」
「まぁ!大変ですわ。国唯一の聖女様なのだからお体を大切にしなくてわ」
「そう、ね」
そんな大仰に言わなくても。これもアニスのご機嫌伺の一つなのかしら。アニスはいったい学校でどう過ごしていたの。まるで分からない。
でも私たちは見た目だけはそっくり。そして私の存在を誰も知らない。だから多少の齟齬があっても成り代わっているなんて誰も思わない。大丈夫よ。自分から積極的に人に関わらなければボロを出すこともない。
「アニス・アドリスっ!」
教室内に怒号が響き渡った。
紫の髪と目をした女子生徒が鬼のような形相で私に近づいて来た。
私を叩こうと手を振り上げてきたけど護衛としてついて来ていたリュウが彼女の手を掴んだ。
女子生徒はリュウを睨みつけてきたけど、敵わないのは分かりきっているし相手は王直属の近衛騎士だから逆らわない方がいいと思ったのか矛先を私に戻した。
彼女は確かエフラン・ティーユ。ティーユ子爵家のご息女。
貴族名鑑は全て頭に入っているから問題はないけどアニスの人間関係に彼女の情報はなかった。
「何?」
「何じゃないわよ!よくも人の婚約者を誑かしてくれたわね」
エフラン・ティーユの婚約者は確かヴィニー伯爵家の子息だ
「し、知らないわ」
そんな情報知らない。どういうこと。落ち着いて。対処しないと、アドリス公爵家に迷惑がかからないように。もし、失敗したら‥‥・。
『こういう時の為にわざわざ、あんたを生かしてやったのよ。その恩義を返しなさい。もし失敗したら命はないからね』
「っ」
落ち着いて、大丈夫。
「嘘つくんじゃないわよ。あんたの悪行を誰も知らないとでも思ってるの。男の媚を売って、まるで娼婦だわ」
「エフラン・ティーユ。誰に向かってそんな口を利いているの?」
アニスをイメージして。大丈夫。私は公爵家、彼女は子爵家。アニスがどんなに悪くても公衆の面前でとって良い態度ではないわ。
「っ。また、そうやって権力を使うのね」
彼女のおかげでアニスが学校でどういう振る舞いをしていたかは分かった。でも、どうしよう。そのまま振る舞うことはできない。そんなことをしたら、私は殺されてしまう。
「私はあなたの婚約者を誑かしてはいないわ。何か勘違いをしているのではなくって?」
「ふざけないでよ」
「ふざけているのはあなたの方だわ。今ならお遊びですませてあげる。でもこれ以上は許さない。私はあなたを今すぐ不敬罪にとうことができるわ」
落ち着いて。震えてはダメ。堂々と振る舞うのよ。私はアニス。私はアニス。何とか誰も罰せずにすむように穏便に‥‥・は、ムリだけど。何とかこの場をおさめなくては。
「それに良かったじゃない。何を勘違いしているのか知らないけど、もし仮にあなたの婚約者が私に気があるとでも言ったのだとしたら、婚約中に他人に懸想するろくでもない男と結婚せずにすんだのだから」
「‥‥・最低ね」
エフランはそれだけ言って教室を出て行った。彼女も馬鹿ではない。公爵家の令嬢相手にこれ以上の騒ぎはまずいと分かったのだろう。
「罰しますか?」
リュウが聞いてくる。私は必要ないと答えた。
何とかアニスのイメージを根底から変えて行かないと。多分、アドリス公爵家はアニスの学校ので事を知らない。他の人達もわざわざ公爵家の機嫌を損ねるようなことは言わないだろう。
だから、もし何かの間違いで耳に入ったら全部私のせいにされる。
黒い髪に青い目の勝気な女子が話しかけてきた。
右側に大きな赤いリボンがついているその女子生徒はアニスの友人。
ルルシア・クラメンス。クラメンス伯爵家のご息女。
「ええ、おはよう」
「どうかなさいましたの?何だか元気がないですわね」
首をこてんと傾けて聞いてくる。
言葉は心配そうだけど目は好奇心にまみえている。
私は家族のご機嫌をいつも気にして過ごしていたから人の顔色である程度感情を読み解くことができる。一種の私の特技だ。
「そうね、ちょっと体調が悪いみたい」
「まぁ!大変ですわ。国唯一の聖女様なのだからお体を大切にしなくてわ」
「そう、ね」
そんな大仰に言わなくても。これもアニスのご機嫌伺の一つなのかしら。アニスはいったい学校でどう過ごしていたの。まるで分からない。
でも私たちは見た目だけはそっくり。そして私の存在を誰も知らない。だから多少の齟齬があっても成り代わっているなんて誰も思わない。大丈夫よ。自分から積極的に人に関わらなければボロを出すこともない。
「アニス・アドリスっ!」
教室内に怒号が響き渡った。
紫の髪と目をした女子生徒が鬼のような形相で私に近づいて来た。
私を叩こうと手を振り上げてきたけど護衛としてついて来ていたリュウが彼女の手を掴んだ。
女子生徒はリュウを睨みつけてきたけど、敵わないのは分かりきっているし相手は王直属の近衛騎士だから逆らわない方がいいと思ったのか矛先を私に戻した。
彼女は確かエフラン・ティーユ。ティーユ子爵家のご息女。
貴族名鑑は全て頭に入っているから問題はないけどアニスの人間関係に彼女の情報はなかった。
「何?」
「何じゃないわよ!よくも人の婚約者を誑かしてくれたわね」
エフラン・ティーユの婚約者は確かヴィニー伯爵家の子息だ
「し、知らないわ」
そんな情報知らない。どういうこと。落ち着いて。対処しないと、アドリス公爵家に迷惑がかからないように。もし、失敗したら‥‥・。
『こういう時の為にわざわざ、あんたを生かしてやったのよ。その恩義を返しなさい。もし失敗したら命はないからね』
「っ」
落ち着いて、大丈夫。
「嘘つくんじゃないわよ。あんたの悪行を誰も知らないとでも思ってるの。男の媚を売って、まるで娼婦だわ」
「エフラン・ティーユ。誰に向かってそんな口を利いているの?」
アニスをイメージして。大丈夫。私は公爵家、彼女は子爵家。アニスがどんなに悪くても公衆の面前でとって良い態度ではないわ。
「っ。また、そうやって権力を使うのね」
彼女のおかげでアニスが学校でどういう振る舞いをしていたかは分かった。でも、どうしよう。そのまま振る舞うことはできない。そんなことをしたら、私は殺されてしまう。
「私はあなたの婚約者を誑かしてはいないわ。何か勘違いをしているのではなくって?」
「ふざけないでよ」
「ふざけているのはあなたの方だわ。今ならお遊びですませてあげる。でもこれ以上は許さない。私はあなたを今すぐ不敬罪にとうことができるわ」
落ち着いて。震えてはダメ。堂々と振る舞うのよ。私はアニス。私はアニス。何とか誰も罰せずにすむように穏便に‥‥・は、ムリだけど。何とかこの場をおさめなくては。
「それに良かったじゃない。何を勘違いしているのか知らないけど、もし仮にあなたの婚約者が私に気があるとでも言ったのだとしたら、婚約中に他人に懸想するろくでもない男と結婚せずにすんだのだから」
「‥‥・最低ね」
エフランはそれだけ言って教室を出て行った。彼女も馬鹿ではない。公爵家の令嬢相手にこれ以上の騒ぎはまずいと分かったのだろう。
「罰しますか?」
リュウが聞いてくる。私は必要ないと答えた。
何とかアニスのイメージを根底から変えて行かないと。多分、アドリス公爵家はアニスの学校ので事を知らない。他の人達もわざわざ公爵家の機嫌を損ねるようなことは言わないだろう。
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