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「アニス様、お体をお拭きしましょうか。気分もすっきりすると思いますよ」
侍女の申し出は有難かったけど私は人前で裸にはなれない。
私の体は服で見えないギリギリのラインで傷だらけなのだ。
欠陥品の私でも多少は使い物になるようにと厳しい訓練を受けてきたし、アニスからの嫌がらせもあったからだ。
アニスは私を嫌っていた。
同じ顔をした欠陥品の私を。そして、親が万が一に備えて予備用に私を取っていることに。アニスは恐れていたのだろう。いつか、私が自分に取って代わる日が来るんじゃないかと。
「自分でやります」
「けれど」
通常の令嬢ならあり得ない申し出に侍女は困惑していた。
断っても良かったけど体調が回復するまで厄介になるのなら避けては通れないことだろう。なら早めに解決しておいた方が良い。変に渋っても怪しまれるだけだ。
「私は邸でもそうしています。人に肌を見られたくないの。触れられるのも嫌だわ」
私が強きに言えば侍女は渋々だが引き下がった。
聖女である私の機嫌を損ねるのは良くないと思ったのだろう。
私は侍女からタオルを受け取り、彼女たちには下がるように命じた。
受け取ったタオルで体を拭くととてもすっきりした。だけど気分の悪さがなくなったわけではないので清拭を手早く済ませて休むことにした。
本当な侍女の人にしてもらった方が負担もなくて良かったんだけどこればかりは仕方がない。


「寝た?」
「寝たみたいね。見た目は儚げで深窓の令嬢って感じなのに聞きしに勝る傲慢さよね。せっかく体を拭いてあげようとしたのに」
「私たち下々の者には触れられたくないって言うんだからね」
「私たちだって貴族なのに」
「聖女様は貴族の令嬢と違って特別って思ってるんでしょうね。聖女じゃなくて悪女の間違いよねぇ」
「言えてるぅ」


「やっと出て行った」
目は閉じていたけど眠っていたわけではない。
そんなことにも気づかずに侍女たちは好き勝手言って部屋を出て行った。
傷だらけの肌を見られるわけにいかなくて強気で拒絶しただけだったけど、そんなふうにとられるとは思わなかった。これも普段の行いが物を言うのだろうか。だとしたら仕方がない。
私が悪いわけではないけど今は私がアニスなのだから。
時々、彼女を取り巻く環境を見て思う。アニスは本当に事故死だったのだろうかって。あれは自殺だったんじゃないかって。そんなタイプだったのかは分からない。
私たちは双子だけど正反対の立場だったから。私たちは誰よりも近い他人だった。それを寂しいとは、悲しいとは思わない。そういう関係を築いて来なかった。きっと時間が巻き戻ってもそれは同じだろう
「体調が回復したら覚悟しておこう」
きっと公爵夫妻にきついお仕置きを受けることになるだろう。そう思うと仕方がないと分かっていてもかなり憂鬱だった。
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