7 / 27
7
しおりを挟む
「アニス様、お体をお拭きしましょうか。気分もすっきりすると思いますよ」
侍女の申し出は有難かったけど私は人前で裸にはなれない。
私の体は服で見えないギリギリのラインで傷だらけなのだ。
欠陥品の私でも多少は使い物になるようにと厳しい訓練を受けてきたし、アニスからの嫌がらせもあったからだ。
アニスは私を嫌っていた。
同じ顔をした欠陥品の私を。そして、親が万が一に備えて予備用に私を取っていることに。アニスは恐れていたのだろう。いつか、私が自分に取って代わる日が来るんじゃないかと。
「自分でやります」
「けれど」
通常の令嬢ならあり得ない申し出に侍女は困惑していた。
断っても良かったけど体調が回復するまで厄介になるのなら避けては通れないことだろう。なら早めに解決しておいた方が良い。変に渋っても怪しまれるだけだ。
「私は邸でもそうしています。人に肌を見られたくないの。触れられるのも嫌だわ」
私が強きに言えば侍女は渋々だが引き下がった。
聖女である私の機嫌を損ねるのは良くないと思ったのだろう。
私は侍女からタオルを受け取り、彼女たちには下がるように命じた。
受け取ったタオルで体を拭くととてもすっきりした。だけど気分の悪さがなくなったわけではないので清拭を手早く済ませて休むことにした。
本当な侍女の人にしてもらった方が負担もなくて良かったんだけどこればかりは仕方がない。
「寝た?」
「寝たみたいね。見た目は儚げで深窓の令嬢って感じなのに聞きしに勝る傲慢さよね。せっかく体を拭いてあげようとしたのに」
「私たち下々の者には触れられたくないって言うんだからね」
「私たちだって貴族なのに」
「聖女様は貴族の令嬢と違って特別って思ってるんでしょうね。聖女じゃなくて悪女の間違いよねぇ」
「言えてるぅ」
「やっと出て行った」
目は閉じていたけど眠っていたわけではない。
そんなことにも気づかずに侍女たちは好き勝手言って部屋を出て行った。
傷だらけの肌を見られるわけにいかなくて強気で拒絶しただけだったけど、そんなふうにとられるとは思わなかった。これも普段の行いが物を言うのだろうか。だとしたら仕方がない。
私が悪いわけではないけど今は私がアニスなのだから。
時々、彼女を取り巻く環境を見て思う。アニスは本当に事故死だったのだろうかって。あれは自殺だったんじゃないかって。そんなタイプだったのかは分からない。
私たちは双子だけど正反対の立場だったから。私たちは誰よりも近い他人だった。それを寂しいとは、悲しいとは思わない。そういう関係を築いて来なかった。きっと時間が巻き戻ってもそれは同じだろう
「体調が回復したら覚悟しておこう」
きっと公爵夫妻にきついお仕置きを受けることになるだろう。そう思うと仕方がないと分かっていてもかなり憂鬱だった。
侍女の申し出は有難かったけど私は人前で裸にはなれない。
私の体は服で見えないギリギリのラインで傷だらけなのだ。
欠陥品の私でも多少は使い物になるようにと厳しい訓練を受けてきたし、アニスからの嫌がらせもあったからだ。
アニスは私を嫌っていた。
同じ顔をした欠陥品の私を。そして、親が万が一に備えて予備用に私を取っていることに。アニスは恐れていたのだろう。いつか、私が自分に取って代わる日が来るんじゃないかと。
「自分でやります」
「けれど」
通常の令嬢ならあり得ない申し出に侍女は困惑していた。
断っても良かったけど体調が回復するまで厄介になるのなら避けては通れないことだろう。なら早めに解決しておいた方が良い。変に渋っても怪しまれるだけだ。
「私は邸でもそうしています。人に肌を見られたくないの。触れられるのも嫌だわ」
私が強きに言えば侍女は渋々だが引き下がった。
聖女である私の機嫌を損ねるのは良くないと思ったのだろう。
私は侍女からタオルを受け取り、彼女たちには下がるように命じた。
受け取ったタオルで体を拭くととてもすっきりした。だけど気分の悪さがなくなったわけではないので清拭を手早く済ませて休むことにした。
本当な侍女の人にしてもらった方が負担もなくて良かったんだけどこればかりは仕方がない。
「寝た?」
「寝たみたいね。見た目は儚げで深窓の令嬢って感じなのに聞きしに勝る傲慢さよね。せっかく体を拭いてあげようとしたのに」
「私たち下々の者には触れられたくないって言うんだからね」
「私たちだって貴族なのに」
「聖女様は貴族の令嬢と違って特別って思ってるんでしょうね。聖女じゃなくて悪女の間違いよねぇ」
「言えてるぅ」
「やっと出て行った」
目は閉じていたけど眠っていたわけではない。
そんなことにも気づかずに侍女たちは好き勝手言って部屋を出て行った。
傷だらけの肌を見られるわけにいかなくて強気で拒絶しただけだったけど、そんなふうにとられるとは思わなかった。これも普段の行いが物を言うのだろうか。だとしたら仕方がない。
私が悪いわけではないけど今は私がアニスなのだから。
時々、彼女を取り巻く環境を見て思う。アニスは本当に事故死だったのだろうかって。あれは自殺だったんじゃないかって。そんなタイプだったのかは分からない。
私たちは双子だけど正反対の立場だったから。私たちは誰よりも近い他人だった。それを寂しいとは、悲しいとは思わない。そういう関係を築いて来なかった。きっと時間が巻き戻ってもそれは同じだろう
「体調が回復したら覚悟しておこう」
きっと公爵夫妻にきついお仕置きを受けることになるだろう。そう思うと仕方がないと分かっていてもかなり憂鬱だった。
44
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された聖女様たちは、それぞれ自由と幸せを掴む
青の雀
ファンタジー
捨て子だったキャサリンは、孤児院に育てられたが、5歳の頃洗礼を受けた際に聖女認定されてしまう。
12歳の時、公爵家に養女に出され、王太子殿下の婚約者に治まるが、平民で孤児であったため毛嫌いされ、王太子は禁忌の聖女召喚を行ってしまう。
邪魔になったキャサリンは、偽聖女の汚名を着せられ、処刑される寸前、転移魔法と浮遊魔法を使い、逃げ出してしまう。
、
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします
ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに
11年後、もう一人 聖女認定された。
王子は同じ聖女なら美人がいいと
元の聖女を偽物として追放した。
後に二人に天罰が降る。
これが この体に入る前の世界で読んだ
Web小説の本編。
だけど、読者からの激しいクレームに遭い
救済続編が書かれた。
その激しいクレームを入れた
読者の一人が私だった。
異世界の追放予定の聖女の中に
入り込んだ私は小説の知識を
活用して対策をした。
大人しく追放なんてさせない!
* 作り話です。
* 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。
* 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。
* 掲載は3日に一度。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
前世の記憶を持つ守護聖女は婚約破棄されました。
さざれ石みだれ
恋愛
「カテリーナ。お前との婚約を破棄する!」
王子殿下に婚約破棄を突きつけられたのは、伯爵家次女、薄幸のカテリーナ。
前世で伝説の聖女であった彼女は、王都に対する闇の軍団の攻撃を防いでいた。
侵入しようとする悪霊は、聖女の力によって浄化されているのだ。
王国にとってなくてはならない存在のカテリーナであったが、とある理由で正体を明かすことができない。
政略的に決められた結婚にも納得し、静かに守護の祈りを捧げる日々を送っていたのだ。
ところが、王子殿下は婚約破棄したその場で巷で聖女と噂される女性、シャイナを侍らせ婚約を宣言する。
カテリーナは婚約者にふさわしくなく、本物の聖女であるシャイナが正に王家の正室として適格だと口にしたのだ。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる