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side.ディラン
俺の目の前に気絶するように眠るのはアニス・アドリス
公爵家の令嬢であり聖女でもある女。
ついこの前までは愛人の子である俺を見下し、馬鹿にしてきた女
現状を嘆くだけの手のかかる傲慢で我儘で哀れな娘だった。
けれどある時を境に一変した。
態度も言動も以前のアニスとは違っていた。
何よりも気になったのは全てに諦観した目だ。
リュウもこの女に違和感を覚えているようだった。俺も偽物ではと疑ったことはある。だが本当に有り得るのだろうか。
仮に偽物だとしてここまでそっくりな者を用意するなど不可能だ。
もし真実、偽物だとしてこの娘は最悪、死罪になることも有る。
バレた場合、公爵家は彼女を見捨てるだろう。自分たちも騙されたのだと言って。それが通用するかどうかは政治的問題に関与する。
陰謀渦巻く王宮で、体裁や権威などを考え例え嘘だと分かっていても無実だと分かっていても裁かなければならない時がある。
そうやって消された人間を何人も見てきた。
その度に思う。自分は決して消される側にはならないと。
愛人の子である自分はいつだって利用され、捨て駒にされる確率が高いから。
今仕えている陛下は実力さえあれば認めてくれるし、重宝してくれる。だけど必要とあらば簡単に切り捨てる冷酷さも持っている。
だからこそ仕える値する人物ではある。
「アニス・アドリス。お前は本当にアニス・アドリスなのか?」
当然だが答える声はない。
学校にドラゴンが出現したと報告があり真っ先に心配したのは護衛任務に当たっていたリュウ。
慌てて駆け付けてみれば青いドラゴンをリュウが、赤いドラゴンをアニスが相手にしていた。
戦闘など経験したこともなければ訓練を受けたことさえないアニスは恐怖のせいか体が震えていた。
制服は修復不可能なほどボロボロになり、体の至る所が傷ついていた。
顔を真っ青にして、今すぐにでも逃げ出したいだろうに。
それでも踏ん張り、戦っていた姿はまさに聖女そのものだった。
生徒たちも最初はパニックを起こしていたろうに。今では誰もが食い入るように彼女を見ていた。
内臓が傷ついたのか何か別の要因があるのか分からないがアニスが吐血をした。迫りくるドラゴンを彼女は呆然と見つめる。もう避ける気力さえ残ってないのだと一目で分かった。
さっと血の気が引いた。
今までなら護衛対象だから、死なれたら困るからという義務感で彼女を守りに行っただろう。
死なせてはいけないと焦ったのはこれが初めてだった。
気が付いたら体が動いていた。自分でも気づかない間にドラゴンとアニスの間に入り、ドラゴンの攻撃を剣で受け止めていた。
かなりの衝撃が走ったが、それでもその衝撃がアニスを襲わなくて良かったと心から安堵した。
ドラゴンをいなした後俺はアニスを抱きかかえて後方に下がった。
再び、攻撃をしようとやって来るドラゴンは一緒に来た騎士団の仲間が止めてくれた。
アニスは俺の腕の中でぐったりとしている。青白い顔。全体重を預けてくるアニスは死体の様だった。
彼女の温かさと忙しなく上下する胸だけが唯一、彼女が生きているのだと教えてくれる。
息苦しそうだったので俺は制服のボタンを見苦しくない程度に開けた。
「傷?」
ちらりと傷のようなものが見えたがその場で確認することはできなかった。
だから俺は深夜、公爵家に忍び込んだ。
「顔色はだいぶマシになったな」
気づかれないように彼女の服をはだけさせる。
「っ」
体の至る所に傷があった。ドラゴンとの戦いで生じたものではない。かなり古いものがある。
「これはいよいよ現実味を帯びてきたか」
眠るアニスの頬にそっと触れる。
「お前は誰だ?」
俺の目の前に気絶するように眠るのはアニス・アドリス
公爵家の令嬢であり聖女でもある女。
ついこの前までは愛人の子である俺を見下し、馬鹿にしてきた女
現状を嘆くだけの手のかかる傲慢で我儘で哀れな娘だった。
けれどある時を境に一変した。
態度も言動も以前のアニスとは違っていた。
何よりも気になったのは全てに諦観した目だ。
リュウもこの女に違和感を覚えているようだった。俺も偽物ではと疑ったことはある。だが本当に有り得るのだろうか。
仮に偽物だとしてここまでそっくりな者を用意するなど不可能だ。
もし真実、偽物だとしてこの娘は最悪、死罪になることも有る。
バレた場合、公爵家は彼女を見捨てるだろう。自分たちも騙されたのだと言って。それが通用するかどうかは政治的問題に関与する。
陰謀渦巻く王宮で、体裁や権威などを考え例え嘘だと分かっていても無実だと分かっていても裁かなければならない時がある。
そうやって消された人間を何人も見てきた。
その度に思う。自分は決して消される側にはならないと。
愛人の子である自分はいつだって利用され、捨て駒にされる確率が高いから。
今仕えている陛下は実力さえあれば認めてくれるし、重宝してくれる。だけど必要とあらば簡単に切り捨てる冷酷さも持っている。
だからこそ仕える値する人物ではある。
「アニス・アドリス。お前は本当にアニス・アドリスなのか?」
当然だが答える声はない。
学校にドラゴンが出現したと報告があり真っ先に心配したのは護衛任務に当たっていたリュウ。
慌てて駆け付けてみれば青いドラゴンをリュウが、赤いドラゴンをアニスが相手にしていた。
戦闘など経験したこともなければ訓練を受けたことさえないアニスは恐怖のせいか体が震えていた。
制服は修復不可能なほどボロボロになり、体の至る所が傷ついていた。
顔を真っ青にして、今すぐにでも逃げ出したいだろうに。
それでも踏ん張り、戦っていた姿はまさに聖女そのものだった。
生徒たちも最初はパニックを起こしていたろうに。今では誰もが食い入るように彼女を見ていた。
内臓が傷ついたのか何か別の要因があるのか分からないがアニスが吐血をした。迫りくるドラゴンを彼女は呆然と見つめる。もう避ける気力さえ残ってないのだと一目で分かった。
さっと血の気が引いた。
今までなら護衛対象だから、死なれたら困るからという義務感で彼女を守りに行っただろう。
死なせてはいけないと焦ったのはこれが初めてだった。
気が付いたら体が動いていた。自分でも気づかない間にドラゴンとアニスの間に入り、ドラゴンの攻撃を剣で受け止めていた。
かなりの衝撃が走ったが、それでもその衝撃がアニスを襲わなくて良かったと心から安堵した。
ドラゴンをいなした後俺はアニスを抱きかかえて後方に下がった。
再び、攻撃をしようとやって来るドラゴンは一緒に来た騎士団の仲間が止めてくれた。
アニスは俺の腕の中でぐったりとしている。青白い顔。全体重を預けてくるアニスは死体の様だった。
彼女の温かさと忙しなく上下する胸だけが唯一、彼女が生きているのだと教えてくれる。
息苦しそうだったので俺は制服のボタンを見苦しくない程度に開けた。
「傷?」
ちらりと傷のようなものが見えたがその場で確認することはできなかった。
だから俺は深夜、公爵家に忍び込んだ。
「顔色はだいぶマシになったな」
気づかれないように彼女の服をはだけさせる。
「っ」
体の至る所に傷があった。ドラゴンとの戦いで生じたものではない。かなり古いものがある。
「これはいよいよ現実味を帯びてきたか」
眠るアニスの頬にそっと触れる。
「お前は誰だ?」
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