悪役令嬢の妹は自称病弱なネガティブクソヒロイン

音無砂月

文字の大きさ
30 / 43
第3章 決着

XXX.ミハエルの甘い罠

しおりを挟む
 「ねぇ、見た。あの方がイサック殿下なのね」
 「オルフェン殿下も気さくな方だけどイサック殿下も気さくな方ね」
 「また種類の違ったイケメンよねぇ」
 「そうね。オルフェン殿下は爽やかだけど、イサック殿下は野性味あふれるお方よね」

 カーネル先生から逃げていたグロリアは使用人達の話を聞いて驚愕していた。
 この邸にイサック殿下が来ている。

 でも、何しに?
 お父様は仕事に行っている。
 この邸に居るのは私とお姉様だけ。
 なら殿下の相手はお姉様が?

 グロリアは急いでセシルの部屋に行った。
 こっそり中を覗くとそこには愉しそうに話しているセシルと見知らぬ男性が居た。

 「・・・・あの人が、イサック殿下」

 ドアから離れてその後はどこをどう歩いたかは覚えていない。
 気がつけば中庭に居た。

 「どうして、お姉様ばかり。
 私はクリス様なのに。
 お姉様は隣国の王子と婚約するの?
 そんなのずるいわ!ずるすぎるじゃない。
 お姉様なんて美人なだけで何の取柄もないのに!
 学校だってサボってばかりで。
 ミハエル様にオルフェン殿下、それにイサック殿下まで誑かすなんて。
 あんな人が私のお姉様なんて。
 最悪。本当に最悪」

 「グロリア」

 声がした。
 恋焦がれた声が。
 恐る恐る振り向くとそこにはお父様とお姉様によって私から遠ざけられて離れ離れにされたミハエル様がいた。

 「ミ、ミハエル様」
 「やぁ、久しぶり」
 「どうして、ここに?」
 「君の専属のメイドにこっそり裏から入れてもらったんだ」
 「ミ、ミハエル様ぁ」

 私は思わずミハエル様に抱き着いた。
 以前お会いした時よりもミハエル様が痩せておられた。

 「ずっと、お会いしたかった」
 「ごめんね。直ぐに会いに行けなくて。
 セシルに邪魔されて行けなかったんだ。
 彼女はよほど私達のことが気に入らないのだろうね」
 「どうして?お姉様はどうしてそこまで?
 だってお姉様にはオルフェン殿下とイサック殿下がおられるのに」
 「それはどういうことだい?」
 「え?っ。痛い、痛いです、ミハエル様」

 急に私を抱き締めてくれたミハエル様の腕に力が入った。

 「ああ、ごめんね。グロリア。
 それより、その話。もう少し詳しく聞かせてくれ」
 「・・・・はい。
 お姉様はオルフェン殿下と仲が良く、多分ですけどミハエル様と婚約されている時から不貞を働いていたんだと思います。だってその時からお二人は仲が良かったんですもの。
 それに今は隣国の王子であるイサック殿下がお姉様を訪ねに邸に来ているんです」
 「じゃあ、もしかしてセシルはイサック殿下と?」
 「はい。きっとお姉様のことだから誑かしているんですわ。
 だって昔からお姉様は男の方を誑かしていると社交界でも専らの噂ですもの。
 私はあまり夜会などには出れませんでしたがそれでも出れば必ずお姉様の噂を聞きますわ」

 その噂はセシルに嫉妬した令嬢が悪意で流した噂で、殆どの人間が戯言として聞き流していた。
 だがそのことをたまに、というか殆ど夜会に出ないグロリアは知らない。
 グロリアと違い、ミハエルはその噂が嘘だということは知っていた。
 知った上で彼は隠すことを選んだ。自分の為に。

 「そう。ねぇ、グロリア。ずるいと思わないかい?
 私達はこれ程までに思い合っているのにセシルのくだらない嫉妬から引き離されて。
 それなのにセシルは隣国の王子を手玉にとって幸せになろうとしているなんて」
 「はい。お姉様は昔からただ美人というだけで楽な道ばかり。
 私ばかり辛い目に合って」
 「じゃあさぁ、そのずるいお姉様に罰を与えたくない?」
 「え?」
 「ちょっと懲らしめるだけだよ。
 協力してくれる?」
 「ミハエル様」
 「もしこれが成功したら今度こそ一緒に暮らそう。
 私は君のことを愛しているんだ」

 そう言ってミハエルはグロリアの口づけに熱いキスをする。
 グロリアが蕩けてしまうような熱いキスを。

 「はい、ミハエル様。私もお慕いしています」

 ミハエルはグロリアに透明な液体の入った瓶を手渡した。

 「これは?」
 「大丈夫。死ぬようなものじゃない。ちょっと苦しむかもしれないけどそんなのは君の味わった苦しみとは比べ物にならないだろう」
 「はい」
 「じゃあ、できるね。私達の未来の為に」
 「はい。悪いお姉様を懲らしめて、二人で幸せになりましょう、ミハエル様」
 「ああ」

 この時、グロリアは知らなかった。
 ミハエルが既に貴族ではないことを。
 ついでに暴漢を使って自分達を襲わせたのがミハエルだということは都合良く忘れている。
 そうして、ミハエルにとってグロリアは自分が貴族として返り咲くための道具でしかないことを。
 ミハエルの中には自分を選ばなかったセシルへの憎しみと、ミロハイト家を断絶に追いやった憎しみが渦巻いていたことに。

 「上手くやるんだよ、グロリア。私の為にね」

 邸の中へ戻って行くグロリアの背を見ながらミハエルは暗い笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

【完結済】監視される悪役令嬢、自滅するヒロイン

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 タイトル通り

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...