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第3章 決着
XXXII.王都観光
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なぜ、こうなったんだろう。
グロリアがミハエルから受け取った怪しげな小瓶をカーネル先生のお小言を聞きながらいつ使おうか思案している頃、セシルはジークとオルフェンを連れてイサック殿下の王都案内をしていた。
本当にどうして、こうなってしまったんだろう。
普通、ただの伯爵令嬢が他国からお預かりしている王族の王都案内などしない。
王都の見学がしたいという我儘ぐらいは簡単ではないが通らないわけではない。
王族として見聞を広める為に王都を見学するのは寧ろいいことだ。
だが、イサック殿下はあろうことかこの私!セシル・ラインネットを案内役に指名したのだ。
勿論、陛下は最初は渋ったらしいが他の令嬢に任せるよりかは私の方が安全だと思い直して任せることにしたらしい。
説得されてんじゃねぇーよ!!
バガ王っ!
(→かなりの不敬罪にあたりますが心の中の叫びなので見逃してください)
玄関で出迎えたオルフェンは気まずそうに視線を逸らし、元凶のイサック殿下はニコニコと嬉しそうに笑う。
殺意だよ。
殺意が湧いたよ。
本当に勘弁して欲しい。
王族相手に王都案内とか荷が重すぎるよ。
視線を少し後方にずらせばオルフェンとイサック殿下の護衛らしき人の姿も見える。
お忍びなのでそんなに多くはつけられなかったし、大々的に連れて歩けないので護衛は離れた距離にいる。
「セシル、君の経営している店が見たい」
「私の経営している店は多くあるので。
どういったものがよろしいですか?」
「こここら近いのは?」
「女性向けのお店になりますが、美容関係を」
「じゃあ、それで」
「よろしいのですか?」
「うん。君のセンスとか職員の質とか、後どんな物が売っているのかとか、その価格が見たいだけだから」
嫌な所を見るな。
「参考になるような物ではありませんよ」
でも一応要望が出たので連れて行った。
中は女性客で混雑していた。
スタッフはお会計の対応や珍しい物も売っているのでお客さんからの質疑応答の対応でてんてこ舞いになっていた。
その中でセシルは見知った人間を見つけた。
「ロイ様」
「セシル嬢。お久しぶりです。
視察ですか?」
「いいえ、客人の案内よ」
私は少し体をずらして後ろにいる人間を見せた。
ロイも当然貴族なのでイサック殿下の顔は知っている。
だからかなり驚いた後に何度も私とイサック殿下の顔に視線を往復させていた。
しかも、イサック殿下の隣にはオルフェンもいるのだ。
ロイは哀れみの目で私を見た後に「御愁傷様です」と言ってきた。
ええ、本当にね。
「しかし、なぜ伯爵家の令嬢が?」
「俺が頼んだんだ。ところで君は?」
イサック殿下は私より1歩前に出て、挑発的にロイを見つめる。
ロイは少し驚いた後に余裕の笑みを見せ、略式の礼をした。
「ロイ・ブローゼウと申します。
陛下より子爵位を賜っています」
「そうか。セシル嬢からこのお店は女性向けと聞いたんだが」
なぜ男のお前がいるんだとイサックはロイに目で問う。
「私は香水関係の事業をしておりまして、美容関係はセシル嬢と共同経営をしておりますので」
「ほぅ。それは面白そうだ」
「イサック様。このような場なので敬称は控えさせて頂きます」
「当然だ。それで、何だ?」
「セシル嬢はしっかりされた方ではありますが、まだ学生であり伯爵家の令嬢です。
子爵の身で烏滸がましいかもしれませんが私にとっては大切な友人でもあります。
あまり無理を言って困らせないで頂けると有り難いのですが」
「・・・・善処しよう」
大人の余裕を見せつけられてしまったのでイサックは完全な敗北を味わった。
だが雰囲気的に恋人でもないみたいだし、気持ちもないようだから問題はないので取り敢えず良しとした。
「なぁ、オルフェン。
セシル嬢の好みのタイプってどんなんだ?」
お店の中を見て質問をしたり、自分の商売に役に立ちそうなものはないか色々見聞をしてから一行は店を出た。
前を行くセシルに気づかれないようにイサックは隣にいるオルフェンに耳を寄せ質問した。
質問をされたオルフェンはジークのことを思い浮かべた。
「年上」
「既にアウトじゃないか。他には?」
イサックは同い年なのでどんなに頑張っても年上にはなれない。
「真面目で無口でクール」
それがオルフェンが持つジークの人物像だ。
そこで気づいたことがある。
オルフェンは隣に立つイサックを見た。
「?何だ?」
「君とは正反対だね」
「うるせぇー」
「痛っ」
分かっていても人に言われるとムカつくものなのでイサックはオルフェンの後頭部をど突いた。
その光景をジークは呆れながら見ていた。
「何をしていますの?置いていきますわよ」
「今行く」
昼食はグエンの経営するお店で取ることにした。
そこご王都で一番美味しいからだ。
グエンは私の姿を見て出てきてくれたが傍に居たオルフェンとイサック殿下を見て回れ右をしたので慌てて首根っこを引っ捕まえさせた。ジークに。
彼曰く「面倒事は御免だ」ということで放した後は厨房から出てこなかった。
❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️
「セシル嬢、今日はありがとう。
おかげで楽しめたよ」
「それは良かったです」
「それで、これを受け取って欲しいんだけど」
日が暮れると物騒になるので早めに切り上げることにした。
王都の見学が終わるといつ買ったのか分からない、包装された物をイサックはセシルに差し出した。
「貰う理由がありません」
「案内をしてくれたお礼」
「それなら必要はありません。
私は陛下に言われたからしただけなので」
「はっきり言うな。分かってたけど」
苦笑してイサック殿下は私の手を取りその手の中に無理やり お礼を握らせた。
「それでも良いよ。今はね。
セシル嬢のような綺麗な人に貰ってもらえると俺も嬉しい」
「お戯れを。美しい花などそこら辺に多くありますわ」
「その多くは毒花だ」
「私がそうでないと言い切れますか?」
「まし君がそうなら俺は喜んでその毒を体内に入れるよ」
そう言ってニッコリ笑ったイサック殿下は私の頬に軽いキスをした。
あまりにも突然のことで動けないでいる私に「じゃあね」と言って、驚きに目を見開いているオルフェンを引き摺って王城に戻って行った。
私はまだ衝撃から立ち直れず、これは夢なのでは?と思って頬に触れるとそこにはまだキスの感触が残っていた。
グロリアがミハエルから受け取った怪しげな小瓶をカーネル先生のお小言を聞きながらいつ使おうか思案している頃、セシルはジークとオルフェンを連れてイサック殿下の王都案内をしていた。
本当にどうして、こうなってしまったんだろう。
普通、ただの伯爵令嬢が他国からお預かりしている王族の王都案内などしない。
王都の見学がしたいという我儘ぐらいは簡単ではないが通らないわけではない。
王族として見聞を広める為に王都を見学するのは寧ろいいことだ。
だが、イサック殿下はあろうことかこの私!セシル・ラインネットを案内役に指名したのだ。
勿論、陛下は最初は渋ったらしいが他の令嬢に任せるよりかは私の方が安全だと思い直して任せることにしたらしい。
説得されてんじゃねぇーよ!!
バガ王っ!
(→かなりの不敬罪にあたりますが心の中の叫びなので見逃してください)
玄関で出迎えたオルフェンは気まずそうに視線を逸らし、元凶のイサック殿下はニコニコと嬉しそうに笑う。
殺意だよ。
殺意が湧いたよ。
本当に勘弁して欲しい。
王族相手に王都案内とか荷が重すぎるよ。
視線を少し後方にずらせばオルフェンとイサック殿下の護衛らしき人の姿も見える。
お忍びなのでそんなに多くはつけられなかったし、大々的に連れて歩けないので護衛は離れた距離にいる。
「セシル、君の経営している店が見たい」
「私の経営している店は多くあるので。
どういったものがよろしいですか?」
「こここら近いのは?」
「女性向けのお店になりますが、美容関係を」
「じゃあ、それで」
「よろしいのですか?」
「うん。君のセンスとか職員の質とか、後どんな物が売っているのかとか、その価格が見たいだけだから」
嫌な所を見るな。
「参考になるような物ではありませんよ」
でも一応要望が出たので連れて行った。
中は女性客で混雑していた。
スタッフはお会計の対応や珍しい物も売っているのでお客さんからの質疑応答の対応でてんてこ舞いになっていた。
その中でセシルは見知った人間を見つけた。
「ロイ様」
「セシル嬢。お久しぶりです。
視察ですか?」
「いいえ、客人の案内よ」
私は少し体をずらして後ろにいる人間を見せた。
ロイも当然貴族なのでイサック殿下の顔は知っている。
だからかなり驚いた後に何度も私とイサック殿下の顔に視線を往復させていた。
しかも、イサック殿下の隣にはオルフェンもいるのだ。
ロイは哀れみの目で私を見た後に「御愁傷様です」と言ってきた。
ええ、本当にね。
「しかし、なぜ伯爵家の令嬢が?」
「俺が頼んだんだ。ところで君は?」
イサック殿下は私より1歩前に出て、挑発的にロイを見つめる。
ロイは少し驚いた後に余裕の笑みを見せ、略式の礼をした。
「ロイ・ブローゼウと申します。
陛下より子爵位を賜っています」
「そうか。セシル嬢からこのお店は女性向けと聞いたんだが」
なぜ男のお前がいるんだとイサックはロイに目で問う。
「私は香水関係の事業をしておりまして、美容関係はセシル嬢と共同経営をしておりますので」
「ほぅ。それは面白そうだ」
「イサック様。このような場なので敬称は控えさせて頂きます」
「当然だ。それで、何だ?」
「セシル嬢はしっかりされた方ではありますが、まだ学生であり伯爵家の令嬢です。
子爵の身で烏滸がましいかもしれませんが私にとっては大切な友人でもあります。
あまり無理を言って困らせないで頂けると有り難いのですが」
「・・・・善処しよう」
大人の余裕を見せつけられてしまったのでイサックは完全な敗北を味わった。
だが雰囲気的に恋人でもないみたいだし、気持ちもないようだから問題はないので取り敢えず良しとした。
「なぁ、オルフェン。
セシル嬢の好みのタイプってどんなんだ?」
お店の中を見て質問をしたり、自分の商売に役に立ちそうなものはないか色々見聞をしてから一行は店を出た。
前を行くセシルに気づかれないようにイサックは隣にいるオルフェンに耳を寄せ質問した。
質問をされたオルフェンはジークのことを思い浮かべた。
「年上」
「既にアウトじゃないか。他には?」
イサックは同い年なのでどんなに頑張っても年上にはなれない。
「真面目で無口でクール」
それがオルフェンが持つジークの人物像だ。
そこで気づいたことがある。
オルフェンは隣に立つイサックを見た。
「?何だ?」
「君とは正反対だね」
「うるせぇー」
「痛っ」
分かっていても人に言われるとムカつくものなのでイサックはオルフェンの後頭部をど突いた。
その光景をジークは呆れながら見ていた。
「何をしていますの?置いていきますわよ」
「今行く」
昼食はグエンの経営するお店で取ることにした。
そこご王都で一番美味しいからだ。
グエンは私の姿を見て出てきてくれたが傍に居たオルフェンとイサック殿下を見て回れ右をしたので慌てて首根っこを引っ捕まえさせた。ジークに。
彼曰く「面倒事は御免だ」ということで放した後は厨房から出てこなかった。
❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️❄️
「セシル嬢、今日はありがとう。
おかげで楽しめたよ」
「それは良かったです」
「それで、これを受け取って欲しいんだけど」
日が暮れると物騒になるので早めに切り上げることにした。
王都の見学が終わるといつ買ったのか分からない、包装された物をイサックはセシルに差し出した。
「貰う理由がありません」
「案内をしてくれたお礼」
「それなら必要はありません。
私は陛下に言われたからしただけなので」
「はっきり言うな。分かってたけど」
苦笑してイサック殿下は私の手を取りその手の中に無理やり お礼を握らせた。
「それでも良いよ。今はね。
セシル嬢のような綺麗な人に貰ってもらえると俺も嬉しい」
「お戯れを。美しい花などそこら辺に多くありますわ」
「その多くは毒花だ」
「私がそうでないと言い切れますか?」
「まし君がそうなら俺は喜んでその毒を体内に入れるよ」
そう言ってニッコリ笑ったイサック殿下は私の頬に軽いキスをした。
あまりにも突然のことで動けないでいる私に「じゃあね」と言って、驚きに目を見開いているオルフェンを引き摺って王城に戻って行った。
私はまだ衝撃から立ち直れず、これは夢なのでは?と思って頬に触れるとそこにはまだキスの感触が残っていた。
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