未練

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未練

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縋りたくて伸ばした手が空をきる。結局、真下にあるシーツへと逆戻り。その場から逃げられず、必死にシーツにしがみつき、今ある行為を耐え忍ぶ。
「……っ、 んっ」
必死に声を耐え、弱みを見せない。それが男としての最後のプライドだった。
春樹は胸の中でさえ、強気でいる。弱音は吐かない。決して涙も見せない。
春樹の後ろにいる男はそんな春樹を見て余計に興奮する。そんな姿を見ると余計に虐めたくなる。そんな性分なのだ。
「なぁ、あんた、声出してよ?そっちの方が楽やろ?」
男は春樹の腰を擦りながら言ってくる。形のいい口から発せられる言葉はさっきから春樹をいじめる言葉ばかりだ。
「っ、くっ…」
春樹はただ、耐え忍ぶ。
唇を噛み締め、目を強く閉じ、自分の腕を噛むことで、どうにかその衝動に耐えていた。
「ほら、こことか触って欲しいんでしょ?なあ、言ってみ?」
そう言いながら男は、春樹の前のほうに手を伸ばした。
そこは、もう既に先走りで濡れていた。
「ふっ、ここびちゃびちゃだね?そんな気持ちよかった?」
男が意地悪く聞いてくる。それに春樹は何も答えなかった。
ただ、男からの視点では春樹の背中は次くる快楽に期待して震えていることが分かる。男は未だに素直にならない目の前の男を見て、可愛いと思っている。
「…ほんと、可愛くねぇ奴……。まあいいけど」
男はそう言うと、前から手を離し、背中に吸い付く。それだけで身体はビクッと歓喜を起こす。男は背中から離れ、手を春樹の腰に持っていく。
「そろそろさ、可愛く乱れてよ?」
男はそう言うと、春樹の中に挿れていた自身抜く、そして、春樹を仰向けにさせるために、肩を掴む。だが、春樹が力を入れているため、動かない。
「なぁ、力抜いて?俺、あんたの可愛い顔みたいよ?」
春樹はさっきから男に可愛いと言われるのが嫌だった。春樹は産まれてこの方可愛いと言われたことは無い。言われるはずがない容姿をしている。怖がられる方が多い見た目だ。
春樹は可愛いと言われ、余計に力を入れる。
「力ずくでやりたくないよ?」
男は気の抜けた調子で言う。
「っ、やれるもんなら…やってみろっ……」
春樹は挑発した。自覚があるのかないのか、少しだけ振り向き、男を流し見しながら。
「……あんたさ…?俺ができないの分かってて煽るのはずるいよ…?」
男は含みのある声で言った。
男は身体を春樹の背中に密着させ、腕をのばし、春樹の顎を掴む。そして、引き寄せ、春樹の唇を奪う。
「んぅっ!」
突然の出来事に驚いた春樹だったが、直ぐに口を閉じ抵抗する。
それをみて男は余計興奮していた。
男は負けじと唇を突っつき、唇をこじ開けようとしてくる。それでも春樹は口を閉じる。
「はっ、頑固すぎ」
男はそう言うと、春樹の固く勃ちあがったそれをいきなり強く握る。
一瞬の隙も男は見逃さなかった。低く、甘い愛嬌が発せられたが、その声ごと男に飲み込まれる。薄く開いた口に男の熱い舌が入り込んでくる。それを拒むように歯を立てるが、歯型をなぞられ口内を弄ばれる。
「ふっ、……んんっ」
息苦しくなり、酸素を求めようとして口を大きく開ければ、舌を絡めとられてしまった。
「っ、ん……あっ、うっ、……」
春樹はされるがままになっていた。
やっと、男が離れた時には春樹の顔は赤く染まり、涙目になりながら荒い呼吸を繰り返していた。
その隙に、男は春樹を転がし仰向けにさせる。春樹はすぐに、顔を隠す。
「顔見せて?」
男は、春樹の腕を掴みシーツに縫い付ける。その時の春樹の抵抗はもはや抵抗と呼べないほどだった。ただ、添えられた手に爪を立てることしか出来なかった。
「っ、やめっ……」
腕を退けられた春樹は咄嗟に顔を逸らすが、男はそれを許さない。反対の手で春樹の顎を掴み固定する。
「ほら?やっぱり、可愛い顔してる」
男は、涙が浮かぶ瞳の奥に見え隠れしている欲情を見つける。それがどうしようもなく、愛おしく思えて唇に触れるだけのキスをした。
「なぁ、もっとあんたが欲しいよ?」
男はそう言うとまた唇を重ねてくる。今度は先程よりも深く濃厚なものだ。
「っ……んっ……」
舌を絡め取られる。舌を吸われ、ジュルッと卑猥な音がする。春樹はその音を聞きたくなくて、必死に頭を振るが顎が固定されており、動かない。
「やっぱ、あんた可愛いわ」
男はそう言って微笑むと、首筋に噛み付いた。
「いっ……」
噛まれた所からは血が出る。男は傷跡を舐める。その刺激に春樹は身震いをする。
春樹は男を睨み付ける。春樹にできる抵抗はそれぐらいしか残っていなかった。
男は涙目で睨みつけてくる春樹を見て、更に興奮を覚える。
「あーあ、ほんと可愛い。あんたのせいで俺のボキャブラリーが可愛いしか無くなっちゃったよ」
男は面白そうに言う。
「元々、ないだろ…っ?」
春樹はまだ、男に歯向かう精神が残っていた。
「言うねぇ?」
男の形のいい目が細められる。そして、春樹の腰を持ち上げ、自身の熱いものを擦り付ける。
「またあんたの中に、熱くておっきいやつが入っちゃうよ?」
男は焦らしながら、言ってくる。それに期待した後穴は切なくヒクヒクと反応を示す。
「ふっ、あんたの後ろ、反応してるよ?」
「っ、してないっ…」
チュプと、男は先だけ挿れる。
春樹はすぐさま声を出すまいと、腕を唇に押し当てる。男がそれを止めることは無かった。
「これが、いきなり奥まで挿入ったらどうなるかな…?あんたは、イイ子だから分かるよな?」
男は、ゆっくりゆっくりと中に侵入させていく。
「っ、やだっ……やめろっ……」
春樹は涙を流しながら懇願するが、それが聞き入れられることはない。男は涙を掬う。そして
「俺で乱れてよ?」
男は一気に春樹を貫く。
「ぐっ、あ゛ぁっ、」
春樹は思わず腕に噛み付く。それでも耐えきれずに口から喘ぎ声が漏れる。
男は満足げに笑うと、春樹の腰に手が食い込む。
パンッパンッと肌同士がぶつかり合う音が部屋に響く。それと同時にグチュッグチョっと結合部からの淫靡な水音も聞こえる。
「あ゛っ、んぁ゛っ……くぅ゛っ……」
腕で抑えてるため、声は控えめだが、それが逆に卑猥さを増幅させている。
男のモノが中を突かれる度に、前立腺を掠める。その度に強い快感が身体を支配する。
春樹はそれをどうにかしたくて、無意識のうちに腰を動かしていた。
「ふっ、可愛いっ……っ、そろそろ、きついなっ……」
男は腰を律動を少し弱める。春樹は快楽続きから少し解放され、胸を上下させ息を整える。男は、春樹の耳元に口を近づける。春樹の耳に男の熱い息がかかり、震える。
「なぁ?俺の名前、呼んで…?」
男は弱々しく掠れた声で言ってきた。
「いつになったら呼んでくれるの?春樹さん」
あんた呼びだったのがいきなり名前呼びになり、春樹は動揺する。春樹はこの男の声が好きだ。その声で名前を呼ばれるのは悪い気はしなかった。甘い声で甘いセリフを聞かされまくったせいで脳がイカれてしまったのかもしれない。
しかし、そんなことを素直に言えるはずもなく黙っていると男は続けて言った。
春樹さんの可愛い声で聞かせて? 男は甘えるように言い、春樹の唇に触れるだけのキスをする。
春樹がそれでも黙っていると、男は耳元から口を離し、行為を続けた。髪で隠れて一瞬しか見れなかったが、その時の目は悲しそうな色をしていた。
それを見た瞬間、春樹は胸が締め付けられた。自分の言動ひとつでここまで一喜一憂をしている男がすごく可愛く見えてしまったのだ。
掲げていた男のプライドが、儚く消える。この男の前に、プライドは通用しなかった。
春樹は口を薄く開ける。声が通るように少し腕を離す。嬌声にかき消されないように、息を堪え、声に芯をもたせ、一言。
「っ、そう、た…」
それを聞いた途端、男の心は幸せな気持ちで満たされた。
「っ、もっと…」
「っぁ、そうたっ…そう、た…っ」
男の要求に春樹は応えるように何度もその名を呼ぶ。男は嬉しさのあまり腰の動きを早める。
それに比例して春樹の喘ぎ声も大きくなっていく。
「春樹、さんっ…おれ、もうっ…」
男から発せられた言葉にはいつもの余裕が無い。春樹の中にいるものものも、一層大きくなり、いつでも射精せる準備が出来ている。
「はやくっ、イけ、よ…」
春樹が言ったのは精一杯の意地悪の言葉だ。
「ほんとにっ、あんたは…。こういう時ぐらい甘い言葉でも言ってよっ…」
男は春樹の一番奥まで突き上げる。それに反応して、春樹の中も男のものにしがみつく。男は春樹の中で果てた。男は余韻でゆるゆると腰を動かす。そして春樹のものに手を伸ばし、それをイかせてやる。
「っぁ…はぁっ、くっ……」
春樹は絶頂を迎え、白濁液を吐き出す。それは春樹の腹部にかかり、腹筋の窪みに沿ってシーツに流れ落ちる。
「…あんたが言ってくれない分、俺が沢山言ってあげるよ」
まだ息が整っていない春樹を見ながら、男は口角を上げて言う。その薄い唇に春樹は視線を向ける。
その視線に気づいた男は春樹に触れるだけのキスをする。しかし、春樹はすぐに顎をそらす。
「もう、十分だ…」
この男の口から出る言葉は甘い。すごく甘くて優しい。だから、信じるのに抵抗が出来てしまう。冗談なら、まだ受け流せた。でも、向けられる視線や、声色で、本気だと分かってしまう。でも、確信的な言葉は言わない。だから、春樹はそれに気付かないふりをしている。
「まだまだ、言い足りないよ?」
男は春樹の首に顔を埋め、首に舌を這わせる。その感覚がくすぐったくて、身を捩らせる。
男は春樹の反応を見て楽しげにしている。
春樹は男の肩を押し、離れさせる。
すると、男は名残惜しそうな顔をした。
「…もう胸焼け寸前だ」
そう言い、男に背を向け、バスルームへ行く。
本当は聞きたい。この男から、愛してるが聞きたい。確信的な言葉が欲しい。そしたら、俺も、少しは素直になれるはずだから。
我ながら自分勝手な考えに呆れる。そんな女々しい考えを頭から振り消す。
少しだけ残った未練が後ろ髪を引く。

春樹はそれに気付かないふりをする。

男は手を伸ばす。が、春樹に届くことは無かった。伸ばしかけた手が行き場を失い、元の位置に戻る。代わりに掴んだシーツには微かに温もりが残っていた。

静かな部屋にシャワーの音だけが響く。
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