【完結】火を吐く土の国の王子は、塔から来た調査官に灼熱の愛をそそぐ

月田朋

文字の大きさ
1 / 44
1、調査官

1

しおりを挟む
 馬車が大きく揺れるたび、身体が跳ね上がる。
 トウヤにはそれが面白くてたまらない。
 久しぶりの下界は、見るもの聞くもの興味深かった。だからといってはしゃいでは、重責に気が張っている副官ザミドを刺激することになってしまうので、高揚した気持ちをおくびにもださず、すまし顔でいる。そのため今朝編み上げられた銀髪は、まだ一筋も乱れていない。
 トウヤほどの身分の者が、ザミド一人しか従者を従えず下界に下るなど、異例中の異例、その重大な任務を背負ったザミドの肩に力がはいるのは無理のないことだった。
 ザミドはかつて騎士としてその名をとどろかせていた。黙っているとかなり威圧感がある。
 どれだけ時を経てもみずみずしいトウヤと、白いものが混ざった口髭のザミドが並ぶと、「若君(もしくは姫)とじいや」といったおもむきがあった。
 馬車に乗ってからのザミドは、「おそれながら」を連発しつつ下界での心構えなどをくどくどトウヤに言い続けていた。しかしここ半刻はやけに静かである。
(気分でも悪いのか?)
 指文字でトウヤがザミドに尋ねると、「私のことはお気になさらず」と、苦しそうなため息ばかりついている。
 馬車がまた、かなり大きく揺れた。衝撃でザミドは天井に頭をぶつけそうになり、青ざめた顔がみるみる赤くなってゆく。窓から身体を乗り出し、御者に叫んだ。
「今すぐ止めろぉ!!」
 馬車が停まると、ザミドはトウヤに一礼してから外に飛び出した。丁寧にドアを閉めるやいなや、王の従者たちを頭ごなしに怒鳴りつけている。声はこちらにつつぬけである。
 いわく、「トウヤ様はやんごとなきお方であり、塔の調査官として界隈では知らぬ者がおらぬほどの偉いお方、そんな偉いお方をお乗せした馬車をこのような悪路にお連れするなど、無礼千万、このくそいまいましく跳ねたり跳んだりする馬車のせいで、その明晰な頭脳、塔の宝、ひいては人類の至宝である貴重な頭脳(頭脳を二回言った)に何かあったら、また繊細なお身体にさわったりなどしたらどうする、それは塔の損失、ひいては世界の損失ぞ、そもそもトウヤ様は王に招かれし賓客、……」
 そこまでぶち上げておいて、急にしんとする。
 ややすると、げえええええええと別のものをぶちまける音が聞こえてきた。従者たちは悲鳴をあげ、ザミドを介抱しようとして、さらに怒鳴られあわただしい。
 トウヤは笑いをこらえるのに必死だ。
 騒ぎが落ち着くと、げっそりしながらも妙にすっきりした顔のザミドが、何食わぬ顔で馬車に戻ってきた。トウヤもすました顔のまま何も言わない。また馬車は動きだす。
 トウヤは頃合いをみはからってザミドに指文字で尋ねた。
(大丈夫か?)
「あやつらが申すには、あと四つ山を越え船に乗り、七日はかかると。なに、このザミドにとってはたいした行程ではございませんが、もしトウヤ様がお疲れであれば、大事をとって町に降りて何日かはお身体を休め、それから向かうというのも一つの案にござます」
 トウヤは繊細そうな見た目とはうらはらに、丈夫なたちで、今回の長旅にもまったくこたえていなかったが、首を縦にふった。
(では、できれば休息を)
「トウヤ様がおっしゃるならそういたしましょう」
 ザミドはしかめつらしくうなずいた。安堵しているのは明らかだった。

 結局、王宮に到着したのは、当初の予定より半月遅れてのことだった。通されたのは、王の謁見の間ではなく、内政官の執務室だ。
 さっそくザミドは苦虫をかみつぶしたような顔である。調査官としての来訪のため当然の待遇であり、賓客待遇ではないことに立腹すること自体、筋違いもはなはだしい。だがそれはそうとして自分のあるじを軽んじられるのは、不服らしい。
 書状のやりとりと儀礼的な挨拶、小柄な内政官のそっけない態度にザミドは白目をむいている。
「調査官殿をお部屋にお連れしろ」
 命じられた小姓がトウヤにではなくザミドに深々とお辞儀をした。はんなりと物腰柔らかな青年と、尊大な初老の男では、どちらが調査官か、間違えるのも無理ない。
 ザミドは、小姓をギロリとにらみつけ、ふるえあがらせた。トウヤは笑顔でその場をとりなし、小姓を優しく促した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

聖獣のお気に召し!〜追放された最弱治癒師はもふもふの聖域で冷徹騎士団長に全力で甘やかされる〜

たら昆布
BL
最強騎士団長×お人好しな努力家 それと沢山のもふもふ動物たちに愛されるお話

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

処理中です...