10 / 44
4、囚われの調査官
2
しおりを挟む
トウヤはあわてて逃げだそうとするが、あっけなくヨミ王子に捕まり、かつぎあげられ、元の寝台に戻される。ヨミ王子は問う。
「……答えよ、何者か。先ほど私にいったい何をした」
(このような仕打ちをうけて、何も言うことはございません)
唇のみで言い、哀し気に首を振る。
「お前は淫魔か何かか?」
またふきだしそうになるのをこらえ、(ただの調査官でございます)とこたえた。
ヨミ王子はトウヤの手を確認する。まだ手のひらは黒々として痛む。トウヤはしくしくと泣いてみせた。
(わたしは、殿下が臥せっていらっしゃると聞き、為すべきことを為したのです。それなのにこの仕打ち、あんまりではございませんか……どうか、どうかこの手かせをはずしてくださいませ)
指文字で必死に訴える。
言っていることに嘘はない。
憐れみをおぼえ、つい苦痛を取り除いてやりたくなって、病を吸った。
二人の王子は一度、トウヤを一人残して部屋を出ていくが、しばらくすると護衛をたずさえ、ニト王子のみ戻ってきた。
護衛によりトウヤの着ているものが奪われる。
口の中はおろか耳の穴、鼻の穴、髪の中までも調べられた。最初は身体をくねられせたりなどし、嗜虐心を煽るような涙ながらの懇願や命乞いをしてみたが、まったく通用しないとなると、トウヤはあきらめ身体をなげだした。
裸身で拘束されたまま、トウヤは指でたずねた。
(探し物はみつかりましたか?)
「何もみつからない。ただただ貴君のどこもかしこが美しい、ということだけがよくわかった」
(探していないところがまだあるでしょう?)
「うむ、だがそれをすると貴君の家臣にわたしが命を狙われる。さきほどはせっかくの接吻を弟にくれてしまい残念であった。わたしに会うために美しくしてきてくれたのであろう? 何もしないというのも『好色』の名がすたる」
護衛をさがらせると、ニト王子はトウヤの顎に手をやり、軽く上向かせる。
命知らずなのか阿呆なのか、大胆このうえない。
嚙み切ってやろうかと思いながら、ニト王子の舌を受けいれた。
すると、かぶさる王子の頭ごし、天窓からこちらを覗いている狩りに行っているはずの副官と目が合った。何か異変を察知し、厳重な警備の目をかいぐくり、王宮の外壁をのぼり屋根にへばりついてトウヤの居場所を突きとめたのだ。
「んんっ、んん……ふ、む」
手は拘束されているから指文字も使えず、口はふさがれているから読唇もかなわない。目のみでこいつをどうにかしろ、と伝えるが、ザミドは腑に落ちていない顔をしている。しかしやがて、こくこくとうなずき、一礼するとそそくさと窓から消えた。
(?)
トウヤはその意味について思いをめぐらし、やがて全身の力がぬける。あきらかにザミドは誤解している。
そもそもトウヤほどの者が裸で拘束されるなどありえない。ということは、目的があってあえて捕まったとザミドは思ったのだ。
ニト王子と口づけし、目をむいて合図しているということは「じろじろ見るな! 立ち去れ」と言っていると解釈された。
「おやおや、経験豊富なタイプかと思っていたが、身体をこわばらせなんと可憐な……本当のことを言えば悪いようにはしないのだから、正直に何もかも申すのだ調査官。いったい何が目的で何を探っている。
我が国に調査官が来たのは記録によれば我が祖父、先王が崩御された頃である。塔は信仰の場でありながら学問をつかさどり、祈りの場だということは皆知っているが、誰も見たことも行ったこともない。かつては我が国とも深い縁があったと聞いているが、それがなんだったかも誰も知らず記録もない。
内政官も他の者も、何も疑問に持たないが、私からすると貴君はあやしすぎる。なにを調べているのだ? さっきは弟に何のまじないをした?」
トウヤは再び顔を近づけてきたニト王子に噛みつく。ニト王子はぎゃっと叫び声をあげた。
すぐさまヨミ王子がかけつけてきた。トウヤは、ここぞとばかりに全裸のまま泣き崩れた。
(あ、…あああ、どうか……どうか、お助けください。殿下がわたしを辱めようと……)
「兄上、いったい何をしようとしたのです。なにかよくないまじないをかけられては取り返しがつかないとあれほど」
「いやいや、違う違うなんというか何か隠しているのではと」
しらじらしい空気がながれ、トウヤは泣きまねをやめると態度を切り替えた。
塔からの調査官の派遣は、昔は意味のあるものだったが、塔と各国との外交以上の意味はもたない形式的なものであると伝えた。しかし王子たちは納得しなかった。
「普通の人間は口から鳥をだしたりはしないのだ」と言われてしまえば確かにそのとおりで、あげく胸に住むトカゲ退治まで「塔の加護」でのりきるのも苦しいものがあった。
護衛に対し厳重に監視せよと命じて王子たちが行ってしまうと、再度様子をうかがいにきた天窓のザミドと目が合った。護衛の目を盗んでやっと事情を伝えることができた。お楽しみと誤解していたザミドは、事実を知り驚愕と憤りで一度は屋根からすべり落ちて窓から消えたが、また根性で這い上ってきた。
(このザミドがすぐにお救いいたしますゆえ!!)
(頼む)
トウヤは拘束された不自由な身体で寝台に横たわり、どうすべきかを考えた。
「……答えよ、何者か。先ほど私にいったい何をした」
(このような仕打ちをうけて、何も言うことはございません)
唇のみで言い、哀し気に首を振る。
「お前は淫魔か何かか?」
またふきだしそうになるのをこらえ、(ただの調査官でございます)とこたえた。
ヨミ王子はトウヤの手を確認する。まだ手のひらは黒々として痛む。トウヤはしくしくと泣いてみせた。
(わたしは、殿下が臥せっていらっしゃると聞き、為すべきことを為したのです。それなのにこの仕打ち、あんまりではございませんか……どうか、どうかこの手かせをはずしてくださいませ)
指文字で必死に訴える。
言っていることに嘘はない。
憐れみをおぼえ、つい苦痛を取り除いてやりたくなって、病を吸った。
二人の王子は一度、トウヤを一人残して部屋を出ていくが、しばらくすると護衛をたずさえ、ニト王子のみ戻ってきた。
護衛によりトウヤの着ているものが奪われる。
口の中はおろか耳の穴、鼻の穴、髪の中までも調べられた。最初は身体をくねられせたりなどし、嗜虐心を煽るような涙ながらの懇願や命乞いをしてみたが、まったく通用しないとなると、トウヤはあきらめ身体をなげだした。
裸身で拘束されたまま、トウヤは指でたずねた。
(探し物はみつかりましたか?)
「何もみつからない。ただただ貴君のどこもかしこが美しい、ということだけがよくわかった」
(探していないところがまだあるでしょう?)
「うむ、だがそれをすると貴君の家臣にわたしが命を狙われる。さきほどはせっかくの接吻を弟にくれてしまい残念であった。わたしに会うために美しくしてきてくれたのであろう? 何もしないというのも『好色』の名がすたる」
護衛をさがらせると、ニト王子はトウヤの顎に手をやり、軽く上向かせる。
命知らずなのか阿呆なのか、大胆このうえない。
嚙み切ってやろうかと思いながら、ニト王子の舌を受けいれた。
すると、かぶさる王子の頭ごし、天窓からこちらを覗いている狩りに行っているはずの副官と目が合った。何か異変を察知し、厳重な警備の目をかいぐくり、王宮の外壁をのぼり屋根にへばりついてトウヤの居場所を突きとめたのだ。
「んんっ、んん……ふ、む」
手は拘束されているから指文字も使えず、口はふさがれているから読唇もかなわない。目のみでこいつをどうにかしろ、と伝えるが、ザミドは腑に落ちていない顔をしている。しかしやがて、こくこくとうなずき、一礼するとそそくさと窓から消えた。
(?)
トウヤはその意味について思いをめぐらし、やがて全身の力がぬける。あきらかにザミドは誤解している。
そもそもトウヤほどの者が裸で拘束されるなどありえない。ということは、目的があってあえて捕まったとザミドは思ったのだ。
ニト王子と口づけし、目をむいて合図しているということは「じろじろ見るな! 立ち去れ」と言っていると解釈された。
「おやおや、経験豊富なタイプかと思っていたが、身体をこわばらせなんと可憐な……本当のことを言えば悪いようにはしないのだから、正直に何もかも申すのだ調査官。いったい何が目的で何を探っている。
我が国に調査官が来たのは記録によれば我が祖父、先王が崩御された頃である。塔は信仰の場でありながら学問をつかさどり、祈りの場だということは皆知っているが、誰も見たことも行ったこともない。かつては我が国とも深い縁があったと聞いているが、それがなんだったかも誰も知らず記録もない。
内政官も他の者も、何も疑問に持たないが、私からすると貴君はあやしすぎる。なにを調べているのだ? さっきは弟に何のまじないをした?」
トウヤは再び顔を近づけてきたニト王子に噛みつく。ニト王子はぎゃっと叫び声をあげた。
すぐさまヨミ王子がかけつけてきた。トウヤは、ここぞとばかりに全裸のまま泣き崩れた。
(あ、…あああ、どうか……どうか、お助けください。殿下がわたしを辱めようと……)
「兄上、いったい何をしようとしたのです。なにかよくないまじないをかけられては取り返しがつかないとあれほど」
「いやいや、違う違うなんというか何か隠しているのではと」
しらじらしい空気がながれ、トウヤは泣きまねをやめると態度を切り替えた。
塔からの調査官の派遣は、昔は意味のあるものだったが、塔と各国との外交以上の意味はもたない形式的なものであると伝えた。しかし王子たちは納得しなかった。
「普通の人間は口から鳥をだしたりはしないのだ」と言われてしまえば確かにそのとおりで、あげく胸に住むトカゲ退治まで「塔の加護」でのりきるのも苦しいものがあった。
護衛に対し厳重に監視せよと命じて王子たちが行ってしまうと、再度様子をうかがいにきた天窓のザミドと目が合った。護衛の目を盗んでやっと事情を伝えることができた。お楽しみと誤解していたザミドは、事実を知り驚愕と憤りで一度は屋根からすべり落ちて窓から消えたが、また根性で這い上ってきた。
(このザミドがすぐにお救いいたしますゆえ!!)
(頼む)
トウヤは拘束された不自由な身体で寝台に横たわり、どうすべきかを考えた。
13
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
鬼神と恐れられる呪われた銀狼当主の元へ生贄として送られた僕、前世知識と癒やしの力で旦那様と郷を救ったら、めちゃくちゃ過保護に溺愛されています
水凪しおん
BL
東の山々に抱かれた獣人たちの国、彩峰の郷。最強と謳われる銀狼一族の若き当主・涯狼(ガイロウ)は、古き呪いにより発情の度に理性を失う宿命を背負い、「鬼神」と恐れられ孤独の中に生きていた。
一方、都で没落した家の息子・陽向(ヒナタ)は、借金の形として涯狼の元へ「花嫁」として差し出される。死を覚悟して郷を訪れた陽向を待っていたのは、噂とはかけ離れた、不器用で優しい一匹の狼だった。
前世の知識と、植物の力を引き出す不思議な才能を持つ陽向。彼が作る温かな料理と癒やしの香りは、涯狼の頑なな心を少しずつ溶かしていく。しかし、二人の穏やかな日々は、古き慣習に囚われた者たちの思惑によって引き裂かれようとしていた。
これは、孤独な狼と心優しき花嫁が、運命を乗り越え、愛の力で奇跡を起こす、温かくも切ない和風ファンタジー・ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる