【完結】火を吐く土の国の王子は、塔から来た調査官に灼熱の愛をそそぐ

月田朋

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5、追う者、追われる者

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 幼いトウヤは母親と父親の間に座って荷馬車にゆられている。村から遠く離れ塔の係官に引き渡される。
 村の子どもが塔に呼ばれるのは、百年ぶりのことだった。
 それは一族と村の誉れだったが、家族にとっては我が子との別れでもあった。
 トウヤは塔での暮らしにすぐなじんだ。
 最初は寂しさもあったが、塔では毎日新しい発見と驚きがあった。同じように塔に選ばれし者とともに学ぶのは楽しかった。
 誰よりもするすると知識を得て、水を得た魚のようにのびのびと勤勉に塔に仕えた。またたく間に高位までのぼりつめた。
 初めの頃は数年おきに故郷に帰った。家族や村人は、トウヤが塔の加護のため何年たっても幼い見た目のままであることに驚き、塔をさらに敬い信仰した。
 塔で経験をつみ、加護を得た知恵者となったトウヤが帰るたび、皆が困りごとを相談し、赤ん坊の名づけの列ができた。
 かつてよちよち歩きだった妹は、娘になり母になり、一家を守り、父母を見送ってくれた。
 妹との永遠の別れの後も、妹の子らがトウヤの帰りを待ってくれた。
 数年に一度の帰郷は楽しみでもあり気がかりでもあった。
 できることなら末永くみなの行く末を見守り、困りごとを排除してやりたかった。塔で思う存分仕事に専念できるのは、送り出してくれた父母やいろいろ用立ててくれた村の人々のおかげである。その恩に報いたかった。
 しかしある時、妹の曾孫にあたる若者がトウヤに思いをよせているのを感じてから、考えを変えた。
 その頃のトウヤは十代半ばごろの容姿をしていた。トウヤが曾祖父のような立場であると理屈ではわかっていても、誰もどうすることもできなかった。
 塔で流れる時間は下界とは違う。塔では仕事に専念すればよいが、下界は下界の暮らしと流れがある。自然の時間の流れで生きていれば、トウヤはすでにこの世に存在していない。
 彼らの暮らしをゆがめてしまうのは、トウヤの本意ではない。
 馬車がとまる。両親がトウヤを見る目は、誇らしさと心配とがいりまじっていた。玄関で自分も一緒に行くといってぐずり泣きじゃくる小さい妹をなだめ続けせいで、袖口が湿ってる。
 なのに、すべてを捨ててでも先へ進みたい。
 家族を置き去りにすることを後ろめたく思いながら、塔で待っている新しい生活への期待で心が躍る。
 塔の扉が開かれる。
 そこにはトウヤが生涯をかけて学ぶことのできるすべてがあった。
 トウヤは自分のすべてを塔に捧げたのだった。

 はっと目が覚めた。
(夢……いつぶりか)
 トウヤは身を起こす。
 そこへ目覚めを待っていたかのようなタイミングで、ザミドが声をかけてくる。
「トウヤ様、少しよろしいでしょうか」
 荷物がおろされ、かぶせてあった布が少しずらされる。
「大変でございます。これを」
 人相書きだった。一枚は壮年の男で、ザミドそっくりだった。もう一枚は細面の長髪の男で、トウヤの特徴をよくとらえていた。
 人相書きの下に文字が書きなぐられている。王宮が破壊され王の安否がわからなくなっている、人相書きの二人が首謀者である、とある。
「これはとんでもない濡れ衣。とにかく早く事を荒だてずここを立ち去りましょう」
 足早に通りをゆく。運の悪いことに、向こうから警備司がこちらに向かって歩いてくる。ザミドは何食わぬ顔で歩調を変えずにやり過ごそうとする。
 ところが、すれ違いざまに警備司はザミドの肩に手をかけた。
 ザミドがとぼけたじじいの顔で、振り向いたその時だった。
 一人の少年がザミドの腕をひっぱった。
 少年はザミドと警備司の間にはいり、堂々と警備司を見返した。警備司は何も言わずそのまま去っていく。
「ぼうず、なんだかわからんが礼を言う」
「あいつは剣闘の賭けで俺に借りがあるからね。さあておやじさんよ、この前はスカウトを蹴ったうえひどい目にあわしてくれたな。にもかかわらず助けてやったのだから、言うことを聞いてもらおう」
 頭と顔に巻いていた布をずらし、顔をみせた。先日の賭け師の少年だった。
 
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