【完結】火を吐く土の国の王子は、塔から来た調査官に灼熱の愛をそそぐ

月田朋

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7、火吐山

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 目が覚めると王子の右手の中につつまれていた。熱はすっかり下がっている。指と指の間から身体を起こそうとしたが、やわりと握られているようなのに、びくともしない。指をかきわけて強引にのがれようとするが、逆に王子の額あたりに引き寄せられた。
 身体をかたくし様子をうかがっていると、美しい鼻すじにおしあてられる。息がかかる。口づけされるのではと身構えていると、王子のまぶたがぱっと開き、また閉じ、そしてまた開く。その瞳を間近で見て、トウヤは思わずひきこまれる。
 まるで宇宙のよう。
 また閉じ、ようやく手はトウヤを開放する。
 反対側に寝返りをしたのがすねているように見え、トウヤは切なくなった。イチ王女の時もそうだったが、小さな身体ではたいして何もしてやれず、はがゆい。いっそもとの大きさに戻れたらと思う。
「!」
 王子ががばりと身を起こした。
 枕もとの小さいトウヤを確認すると、目に安堵の色がうかぶが、すぐに険しい表情になる。
「危険だ。すぐにここを離れなくては」
(あの者はあなたを介抱しておりました。恐れることはないのでは)
 問答無用でふところに放りこまれる。この雑な仕打ちがすでにお決まりのパターンになっているな、とさかさまのままトウヤは思った。
 ねぐらの出口で、運悪く山の者とはちあわせになった。
 腕いっぱいに果実や花をかかえ、ひもで縛った魚をさげている。
 逃げ場なく立ちすくむと、山の者は王子を抱き上げ、赤ん坊のようにあやした。

 再び寝かしつけられた王子は、枕もとに隠れているトウヤに恨み言を言った。
「『山の者』は普段は害がなくおとなしいが、今は十年に一度の繁殖期だ。目についたものを住処に連れこむようになる。あの者を刺激しないよう避けていたというのに、誰かが余計な動きをしてくれたせいで……」
(なるほど、それはそれは申し訳なく)
 強行突破でなんとでもなるだろうに、一度たりとも剣を抜こうとしない、むやみに剣を使わないのはよいこころがけだと思った。しかしトウヤは、それについて言及せず指を動かした。
(ふむ、王子が話してくださらなかったのが、よくなかったですね。対話をしておればわたしが寂しくならず鳥たちと話すこともなく、巣に連れゆかれることもなく、つまりは『山の者』と出くわすこともなく……)
 そのいいように王子は呆れ、口が真一文字になった。かまわず指文字を続けた。
(わたくしにひとつ案があります)
 トウヤは山の者が外から摘んできた花を一輪とると、王子の耳にかざった。
(鳥たちが申しおりました。山の者は、番がすでにいる者には手をださないそうですよ。わたしが王子の番であると思わせることができればいいのです)

「つまり『コレ』が私の伴侶である」
 手のひらに笑顔のトウヤをのせて、王子は山の者に説明する。
「え~そのため、わたしは貴君の番になれない」
(私の伴侶を介抱してくれたことは礼を言うが、どうかあきらめるのです。われわれは深く愛し合っており……)
 王子の演技力のなさを補おうと、トウヤは、山の者に、身振り手振りで真剣に訴えた。
 山の者は小さいトウヤをしげしげと見つめた。鼻息で吹き飛ばされそうな距離だった。信じてもらうために王子と仲の良いところをアピールしようと見上げるが、王子は親密な雰囲気をだすどころか、そっぽを向いてる。
 山の者は、二人を数秒見つめると、おもむろに口を開けた。
 大量の唾液が噴射される。瞬間、トウヤは山の者の鼻先めがけ飛んでいた。眉間を蹴り、頭頂まで駆け上る。振り払おうと伸びてきた毛むくじゃらの手から逃げ、背中側を駆けおりる。
 同時に王子が山の者の足下に頭から飛びこんだ。足と足の間に滑りこみ、身体を反転させて背後にまわりこむ。そこへトウヤが王子の頭上に落ちる、かろうじて耳に掴まる。
「何が『案があります』だ!」
 耳にぶらさがっているトウヤを、ひっつかみ、ふところにつっこむ。
 普段は温厚で害をなさないらしいが、その片鱗もなく獰猛な咆哮をあげて逃げる二人を追ってくる。
 逃げた先は切りたった崖で、眼下には滝つぼが広がる。
 滝自体、水量は少なく流れも細い。水面は神秘的な青緑色に輝き、どれほどの深さがあるかはわからなかった。飛びこむにはためらわれる高さがあり、身がすくむ。王子はふところをのぞきこみトウヤに尋ねた。
「泳ぎは得手か」
 もちろん、と言いたいところだったが、トウヤの記憶は定かではない。塔に入る前、子どもの頃、確か少し川辺で遊んだこともあったようななかったような……。
 王子はトウヤの回答を待たなかった。服の中のトウヤを安心させるように上からおさえる。
「わたしを信じるのだ」と言った。
 そして飛んだ。
 次の瞬間水の中だった。
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