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9、続・変幻
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火傷しそうなほどの熱を発散し激しく暴れようとも、トウヤは王子の身体を決して離さなかった。優しくさすり続けた。
腕の中で王子は苦しみながら殻を脱ぎ捨て、変幻する。
トウヤと王子の間に、何かが起こっている。
それは一方通行なものではない。まぎれもなく相互に作用しあっており、一つが蛹から脱皮するような、爆発的な成長だった。
この熱い身体を抱えることで、トウヤも多くの影響を受けはじめている。いやもっと前から受けとっていたのかもしれなかった。
トウヤが元の姿に戻ることができたのもまた、その一つに違いなかった。
塔を離れてから不安定になりつつあった塔の加護が、王子からの作用で回復の兆しがみえる。
(いや、すでに塔の加護は失われており、王子からなる新たな力が補填されたのかもしれぬ)
鏡面のようにぴんと張りつめていた水面がゆれた。
目の前に突然現れた男は、嬉しそうに口角をあげた。
「ご機嫌麗しゅう、調査官」
ニト王子は、小さな犬蛇を手にしていた。
(その者はかつて私の弟子であった者)
「王を騙して自分が王になりかわったのだ。おまけに幼い火吐竜と私を自分の子に仕立て上げた」
(ゼイロを犬蛇にしたのはあなたか)
「私ではない。すべてに飽いており、中途半端に力があった。自ら望んでこうなったのだ」
ニト王子は、不思議な笑みをうかべている。
聞きたいことが山ほどあったが、嫌な感じしかしない。以前にはなかった強大な力が、全身にみなぎっている。ニト王子はそれを臆面もなくさらしている。
退避すべきと判断し、王子をかかえたまま水の中を逃げようとした。
髪をつかまれて、のけぞった。
「本当に美しい髪だ。今からでも塔ではなく私に仕える気はないか?」
耳もとでささやかれ、舐めまわすような視線が肌を刺す。今にも喉元を食い破られそうだった。
(お前は私が何者なのかを、真剣に考えたほうがいい)
真顔で伝えたが、ニト王子は表情を変えなかった。
「お前こそ私の正体がわかっているのか? もうかつての私ではない」
その笑う姿は気品のかけらもなく、下級使い魔のそれでしかなかった。だが下級とは考えられないほどの力が、トウヤを圧倒する。
「わたしは淫魔と人の間に生まれた。そなたが来るまでは頻繁に人の精を必要とした。
しかし貴君が我が国に訪れてから、なぜかそれが無用となった。貴君と接吻してみれば、これまで感じたことがないほど力が沸き満ちている。あの時のそなたの声がいまだ耳に残り、たぎってくる」
(あっ……)
トウヤはあの時の口づけを思った。
何も相手に影響を与えないよう息も声も止めていたはず。トウヤの息や唾液を糧にされたか。
調査官として細心の注意をはらっていたつもり……。
(いや? ……ああっ……)
トウヤは思い出し頭をかかえた。
声をだしてしまっていた気がする……。その時の情景が脳裏に浮かび、己のしくじりに気が遠くなりかけていると、突然腕の中のヨミ王子が大きく身体をそらした。
また背中が割れる。脱皮がはじまる。
「……っ」
「弟にトカゲを飲ませたのはわたしだ」
(なぜだ)
「トカゲを腹に仕込むことで成体になるのを止めてやっていたのだ。成体になったのなら危険きわまりないことよ」
ニト王子は大きく口を開け、手に持っていた小さな犬蛇を丸のみした。
自分のかつての弟子、ゼイロのていたらくにめまいがする。後で必ずお灸をすえてやる。
「これでおしまいだ。トカゲを腹にいれたままにしておけば無害であったのに。自業自得とはこのこと。このまま二人で永遠の蜜月を楽しみ、命果てるがよい、調査官」
空気が歪んだかと思うと、もう笑い声だけで、ニト王子の姿がかき消えた後だった。
また風景が一変した。広大な湖がもとの小さな泉に戻っている。
懐かしい家は崩壊し、跡形もなく消える。
太陽の光が届かないはずの洞窟内は、なぜか光が満ちている。
通路もふさがれ、完全に閉じこめられてしまった。
腕の中で王子は苦しみながら殻を脱ぎ捨て、変幻する。
トウヤと王子の間に、何かが起こっている。
それは一方通行なものではない。まぎれもなく相互に作用しあっており、一つが蛹から脱皮するような、爆発的な成長だった。
この熱い身体を抱えることで、トウヤも多くの影響を受けはじめている。いやもっと前から受けとっていたのかもしれなかった。
トウヤが元の姿に戻ることができたのもまた、その一つに違いなかった。
塔を離れてから不安定になりつつあった塔の加護が、王子からの作用で回復の兆しがみえる。
(いや、すでに塔の加護は失われており、王子からなる新たな力が補填されたのかもしれぬ)
鏡面のようにぴんと張りつめていた水面がゆれた。
目の前に突然現れた男は、嬉しそうに口角をあげた。
「ご機嫌麗しゅう、調査官」
ニト王子は、小さな犬蛇を手にしていた。
(その者はかつて私の弟子であった者)
「王を騙して自分が王になりかわったのだ。おまけに幼い火吐竜と私を自分の子に仕立て上げた」
(ゼイロを犬蛇にしたのはあなたか)
「私ではない。すべてに飽いており、中途半端に力があった。自ら望んでこうなったのだ」
ニト王子は、不思議な笑みをうかべている。
聞きたいことが山ほどあったが、嫌な感じしかしない。以前にはなかった強大な力が、全身にみなぎっている。ニト王子はそれを臆面もなくさらしている。
退避すべきと判断し、王子をかかえたまま水の中を逃げようとした。
髪をつかまれて、のけぞった。
「本当に美しい髪だ。今からでも塔ではなく私に仕える気はないか?」
耳もとでささやかれ、舐めまわすような視線が肌を刺す。今にも喉元を食い破られそうだった。
(お前は私が何者なのかを、真剣に考えたほうがいい)
真顔で伝えたが、ニト王子は表情を変えなかった。
「お前こそ私の正体がわかっているのか? もうかつての私ではない」
その笑う姿は気品のかけらもなく、下級使い魔のそれでしかなかった。だが下級とは考えられないほどの力が、トウヤを圧倒する。
「わたしは淫魔と人の間に生まれた。そなたが来るまでは頻繁に人の精を必要とした。
しかし貴君が我が国に訪れてから、なぜかそれが無用となった。貴君と接吻してみれば、これまで感じたことがないほど力が沸き満ちている。あの時のそなたの声がいまだ耳に残り、たぎってくる」
(あっ……)
トウヤはあの時の口づけを思った。
何も相手に影響を与えないよう息も声も止めていたはず。トウヤの息や唾液を糧にされたか。
調査官として細心の注意をはらっていたつもり……。
(いや? ……ああっ……)
トウヤは思い出し頭をかかえた。
声をだしてしまっていた気がする……。その時の情景が脳裏に浮かび、己のしくじりに気が遠くなりかけていると、突然腕の中のヨミ王子が大きく身体をそらした。
また背中が割れる。脱皮がはじまる。
「……っ」
「弟にトカゲを飲ませたのはわたしだ」
(なぜだ)
「トカゲを腹に仕込むことで成体になるのを止めてやっていたのだ。成体になったのなら危険きわまりないことよ」
ニト王子は大きく口を開け、手に持っていた小さな犬蛇を丸のみした。
自分のかつての弟子、ゼイロのていたらくにめまいがする。後で必ずお灸をすえてやる。
「これでおしまいだ。トカゲを腹にいれたままにしておけば無害であったのに。自業自得とはこのこと。このまま二人で永遠の蜜月を楽しみ、命果てるがよい、調査官」
空気が歪んだかと思うと、もう笑い声だけで、ニト王子の姿がかき消えた後だった。
また風景が一変した。広大な湖がもとの小さな泉に戻っている。
懐かしい家は崩壊し、跡形もなく消える。
太陽の光が届かないはずの洞窟内は、なぜか光が満ちている。
通路もふさがれ、完全に閉じこめられてしまった。
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