25 / 44
8、変幻
4
しおりを挟む
トウヤはヨミ王子を背負いさらに山頂を目指した。山の頂きには、祠のような岩山があり、大きなうろがぽっかりと口を開けていた。ためらわずうろに入っていくと、記憶はどんどん鮮明になってくる。
低い姿勢で闇の中を進むと、通路が出現する。さらにその通路をぬければ、目の前が開けてゆく。
緑あふれる場所にたどりつく。太陽の光が届かないはずの洞窟内には光が満ち、大気も清浄で、どこからかやわらかい風がふく。
裸足になりみずみずしい土と草をふみしめながら進むと、石と木でできた小さな家が現れた。それは、王女に見せてもらったドールハウスとまるで同じだった。扉には頑丈なかんぬきがかかっていたが、トウヤが触れるとそれは簡単にはずれた。
家の中は、生活のこまごまとしたものがいっさいない。しかし、かつて誰かが住まいとして使っただろう気配がわずかに残っている。
トウヤは懐かしさと悔恨で胸が痛んだ。記憶と答え合わせをするように、部屋のすみずみまで見たかったが、王子をなんとかすることが先決だった。
まっすぐに玄関をぬけ、扉を開けると浴室があった。
床にヨミ王子をよこたえて、その奥の水場から水を運ぼうとした。火の玉のように熱い身体を少しでも冷まそうとするが、ちょっとやそっと水をかけたくらいでは、文字通り焼け石に水であった。水場につづく小さな泉に一緒に入り、全身をひたす。
と、視界が急に広くひらけていった。狭い水場が、みるみるうちに鏡面のように広がり、遠景はもやでかすむ。目をこらしても果てまで確認できない。
ヨミ王子は、だいぶ前から呼吸も浅く、身体も岩のような状態となっていた。焦る気持ちで胸に抱きかかえて、強張った身体をなでさすった。
ごうごうと身体の内側で音がする。どうにか助かるようにと、繰り返し繰り返し話しかけていると、胸部にひびがはいった。
これは正常な成長のあかしだ。何も恐れることはないと直感が教えてくれる。しかし、実際に苦しむ姿を前にすれば、痛みをやわらげてやりたい、助けたいと思わずにはいられない。
裂けめから溶岩とたがわぬ熱をもった液体があふれだす。トウヤは火傷も覚悟のうえで王子の身体を抱え続けた。溶けた熱が水に触れるとじゅう、と沸き立つ。もうもうと湯気があがる。
「でておいで」
中から抵抗するようなふるえが、打ちつけるような音がする。
身体全体を覆っていたかたい表皮が、胸、背中と割れた。あらわれたのは、瑞々しい姿だった。赤い目でトウヤをみると、喉をのけぞらせて炎を吐いた。熱風に髪がちりちりする。
「心配ない。おいで」
その言葉に呼応するように、おさな子は少年へ変幻した。トウヤの力など借りず自分だけでできる、というように。それでもそばにいて、見ていてほしい、というように。
トウヤは「上手」とつぶやき、目を細めた。
変幻する過程で、ところどころ人の片鱗を見せる。片方は竜の目であったが、片方は人の目で、トウヤのことを見た。指先の爪がするどく鋭利に伸びて、しかし人の指先を保っている指もある。
「どちらでも大丈夫だ。自分で決めなさい」
はげますように、声をかけ続ける。
トウヤの腕の中で再び喉をのけぞらせて、先ほどとは比べようもない大きな火柱を天に吐き、その後だんだんと人の姿になっていった。浸かっている水は高温になり、もうもうと湯気がたっている。
普通の人間なら熱湯と熱風で大やけどを負うはずだった。しかし熱さは感じるものの熱傷を負うようなことはなく、逆に力が満ちてくる。王子の身体を抱きしめる腕に力をこめた。
王子の熱はいつまでも続くようだった。王子は混濁する意識の中で、腕から逃れようとする。
トウヤは昔のことを完全に思い出していた。
そして今回塔がトウヤをこの地に派遣した意味や、塔の加護が安定せず、力がなくなるかにみえた理由、この国の成り立ち、これからのことを、突然動力を与えられてまわりだした歯車のように、すべてが紡がれ、さまざまな気づきがあるべき場所にカチリとはまる。
暴れていた腕の中の王子は人の姿となり、あきらめたような目でトウヤを一度だけ見て、また目を閉じた。
とかげを排除してもすぐには何も起こらなかったが、トウヤによって強制的におさな子にされたため、反発が起こった。
反動で爆発的に成長が促された。
その成長によりトウヤの記憶はゆさぶられる。
熱がトウヤの体内を循環している。指先がびりびりする。
低い姿勢で闇の中を進むと、通路が出現する。さらにその通路をぬければ、目の前が開けてゆく。
緑あふれる場所にたどりつく。太陽の光が届かないはずの洞窟内には光が満ち、大気も清浄で、どこからかやわらかい風がふく。
裸足になりみずみずしい土と草をふみしめながら進むと、石と木でできた小さな家が現れた。それは、王女に見せてもらったドールハウスとまるで同じだった。扉には頑丈なかんぬきがかかっていたが、トウヤが触れるとそれは簡単にはずれた。
家の中は、生活のこまごまとしたものがいっさいない。しかし、かつて誰かが住まいとして使っただろう気配がわずかに残っている。
トウヤは懐かしさと悔恨で胸が痛んだ。記憶と答え合わせをするように、部屋のすみずみまで見たかったが、王子をなんとかすることが先決だった。
まっすぐに玄関をぬけ、扉を開けると浴室があった。
床にヨミ王子をよこたえて、その奥の水場から水を運ぼうとした。火の玉のように熱い身体を少しでも冷まそうとするが、ちょっとやそっと水をかけたくらいでは、文字通り焼け石に水であった。水場につづく小さな泉に一緒に入り、全身をひたす。
と、視界が急に広くひらけていった。狭い水場が、みるみるうちに鏡面のように広がり、遠景はもやでかすむ。目をこらしても果てまで確認できない。
ヨミ王子は、だいぶ前から呼吸も浅く、身体も岩のような状態となっていた。焦る気持ちで胸に抱きかかえて、強張った身体をなでさすった。
ごうごうと身体の内側で音がする。どうにか助かるようにと、繰り返し繰り返し話しかけていると、胸部にひびがはいった。
これは正常な成長のあかしだ。何も恐れることはないと直感が教えてくれる。しかし、実際に苦しむ姿を前にすれば、痛みをやわらげてやりたい、助けたいと思わずにはいられない。
裂けめから溶岩とたがわぬ熱をもった液体があふれだす。トウヤは火傷も覚悟のうえで王子の身体を抱え続けた。溶けた熱が水に触れるとじゅう、と沸き立つ。もうもうと湯気があがる。
「でておいで」
中から抵抗するようなふるえが、打ちつけるような音がする。
身体全体を覆っていたかたい表皮が、胸、背中と割れた。あらわれたのは、瑞々しい姿だった。赤い目でトウヤをみると、喉をのけぞらせて炎を吐いた。熱風に髪がちりちりする。
「心配ない。おいで」
その言葉に呼応するように、おさな子は少年へ変幻した。トウヤの力など借りず自分だけでできる、というように。それでもそばにいて、見ていてほしい、というように。
トウヤは「上手」とつぶやき、目を細めた。
変幻する過程で、ところどころ人の片鱗を見せる。片方は竜の目であったが、片方は人の目で、トウヤのことを見た。指先の爪がするどく鋭利に伸びて、しかし人の指先を保っている指もある。
「どちらでも大丈夫だ。自分で決めなさい」
はげますように、声をかけ続ける。
トウヤの腕の中で再び喉をのけぞらせて、先ほどとは比べようもない大きな火柱を天に吐き、その後だんだんと人の姿になっていった。浸かっている水は高温になり、もうもうと湯気がたっている。
普通の人間なら熱湯と熱風で大やけどを負うはずだった。しかし熱さは感じるものの熱傷を負うようなことはなく、逆に力が満ちてくる。王子の身体を抱きしめる腕に力をこめた。
王子の熱はいつまでも続くようだった。王子は混濁する意識の中で、腕から逃れようとする。
トウヤは昔のことを完全に思い出していた。
そして今回塔がトウヤをこの地に派遣した意味や、塔の加護が安定せず、力がなくなるかにみえた理由、この国の成り立ち、これからのことを、突然動力を与えられてまわりだした歯車のように、すべてが紡がれ、さまざまな気づきがあるべき場所にカチリとはまる。
暴れていた腕の中の王子は人の姿となり、あきらめたような目でトウヤを一度だけ見て、また目を閉じた。
とかげを排除してもすぐには何も起こらなかったが、トウヤによって強制的におさな子にされたため、反発が起こった。
反動で爆発的に成長が促された。
その成長によりトウヤの記憶はゆさぶられる。
熱がトウヤの体内を循環している。指先がびりびりする。
6
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
とある辺境伯の恋患い
リミル
BL
鉄仮面な辺境伯(42)×能天気マイペースな男爵家四男(17)
イディオス男爵の四男であるジゼルは、家族や周りから蝶よ花よと愛されて育ってきた我儘令息だ。
上の兄達は独立したが、我儘放題のジゼルに両親は手を焼いていた。
自立するよう促され、是が非でも働きたくないジゼルは貴族達に婚姻の文を送りまくる。唯一、ジゼルを迎え入れると返答したのは、辺境伯のルシアスだった。
色よい返事がくるとは思いもしなかったジゼルは、婚約を破談にさせようととんでもない我儘をぶつけるが、ルシアスは嬉々としてそれを受け入れるばかりで──。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる