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12、戴冠式
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「……なぜ調査官は言葉を発さぬ」
「わがあるじの声には塔の加護があり、諸々差しさわりがあるのです。ご容赦を」
ザミドはその口唇の動きを忠実に伝える。
「『さて、すぐに本題を、と思うのですが、少しわたしの無駄話におつきあい願う。この者はわたしの弟子の一人ですが、かつては騎士でありました。その昔、上官が愚鈍であるようなふるまいをし、しかし本当はそうではなかった。周囲をたばかり、出世した。そして実力を発揮し、これから、という時に、失踪をしたのです』」
「……」
「『なぜ愚鈍なふりをしたか、なぜ消えたか。まるであなたのようではございませんか、王よ』」
「私をなぜ王と呼ぶのです」
「『この国を実質的に統治をしているからです』」
「何をお言いになりたいのです」
「『わたしの愚かな弟子の一人があなたを王宮に連れてきた。あなたは王妃となったが、何を考え、何を成したのかとだけ考えれば、その苦悩、諦め、国を思う心と、民を思う心がわかるというもの。その身分を隠して王妃ではなく内政官として王宮にとどまった』」
内政官は顔をあげた。老いと険しい表情が性別をあいまいにさせているが、まぎれもなく肖像画で描かれている王妃その人だった。
ゆったりとした執務着のかげに身を隠すことで、よそ者の目はごまかせても、王宮の者が一人も気づかないはずはない。
「『あなたがなぜわたしの愚かな弟子の諫言にのり王宮に入ったのかはわからない。ただ聡明なあなたはこの国を統べるものがいないとすぐに知ったのですね。あつかいやすい傀儡をたてることが賢い選択だったが、王は気鬱になって行方不明になった。あなたは身重の身体で考えた。王に成り代わらずとも王の仕事はできると。
とはいえ、あなたのかわいいヨミ王子が母を恋しがっております。あなたの娘であるイチ王女もまだ母を求める年ごろ。空いた時間でかまってやってはいかがか』」
「私は逃げも隠れもせず、ずっとここにいる。国を統べる立場でありながら、政務にふれようとせず、何が王子、王女、王であるか」
「『まったくもってそのとおり。では、ずっと失踪している王についてはどのようにお考えか』」
内政官、いや王妃、またはこの国を統治する真の王と呼ぶべきか、一人の女の表情は曇った。
「『気鬱になって姿を消す』」
「……」
「『きちんと話をつけるべきではないのでしょうか。あなたのご夫君と、そしてあなたの息子と娘と」
「もう王位はニトが継承したのだ。今さら何を話すというのだ。わたしはこの執務室で仕事をするのみ」
「『なんの、ニト殿下はまだ民の信を得ておりませぬ。ちゃんとあなたの事情を自らの言葉で話されるがよい』」
王妃はザミドとトウヤを交互に見つめると、否とも応ともつかないため息を一つついた。トウヤはすっと頭を下げる。
「『もうひとつだけ。深く詫びたい。わたしの弟子があなたとあなたのご夫君にとても迷惑をかけた』」
「わたしもあの者を利用したのだ。火吐山はつまらなかった。ここに来てからは少なくとも退屈はしない」
トウヤはさらに深くこうべを垂れた。ザミドもならう。
「ほかは何か。何もかも申してみよ」
「『あなたがかつて王妃であり、実質的なこの国の王であることも、しかと確認した。我々は王子と王女と約束を果たすために闘技場に戻る。あとは干渉しない』」
トウヤとザミドが退室しようとすると、執務着をさっと脱ぎ、王族にしか許されぬ色のトーガをはおった。
「わたしも向かいましょう。ところでその、最初に言っていた愚鈍なふりをしたあげく失踪したものの話について、もう少し意味がわかるように話してもらえまいか」
「では、わたくしめが」
ザミドがトウヤにかわってその真意をつたえると、王妃は腑に落ちたようであった。
「わがあるじの声には塔の加護があり、諸々差しさわりがあるのです。ご容赦を」
ザミドはその口唇の動きを忠実に伝える。
「『さて、すぐに本題を、と思うのですが、少しわたしの無駄話におつきあい願う。この者はわたしの弟子の一人ですが、かつては騎士でありました。その昔、上官が愚鈍であるようなふるまいをし、しかし本当はそうではなかった。周囲をたばかり、出世した。そして実力を発揮し、これから、という時に、失踪をしたのです』」
「……」
「『なぜ愚鈍なふりをしたか、なぜ消えたか。まるであなたのようではございませんか、王よ』」
「私をなぜ王と呼ぶのです」
「『この国を実質的に統治をしているからです』」
「何をお言いになりたいのです」
「『わたしの愚かな弟子の一人があなたを王宮に連れてきた。あなたは王妃となったが、何を考え、何を成したのかとだけ考えれば、その苦悩、諦め、国を思う心と、民を思う心がわかるというもの。その身分を隠して王妃ではなく内政官として王宮にとどまった』」
内政官は顔をあげた。老いと険しい表情が性別をあいまいにさせているが、まぎれもなく肖像画で描かれている王妃その人だった。
ゆったりとした執務着のかげに身を隠すことで、よそ者の目はごまかせても、王宮の者が一人も気づかないはずはない。
「『あなたがなぜわたしの愚かな弟子の諫言にのり王宮に入ったのかはわからない。ただ聡明なあなたはこの国を統べるものがいないとすぐに知ったのですね。あつかいやすい傀儡をたてることが賢い選択だったが、王は気鬱になって行方不明になった。あなたは身重の身体で考えた。王に成り代わらずとも王の仕事はできると。
とはいえ、あなたのかわいいヨミ王子が母を恋しがっております。あなたの娘であるイチ王女もまだ母を求める年ごろ。空いた時間でかまってやってはいかがか』」
「私は逃げも隠れもせず、ずっとここにいる。国を統べる立場でありながら、政務にふれようとせず、何が王子、王女、王であるか」
「『まったくもってそのとおり。では、ずっと失踪している王についてはどのようにお考えか』」
内政官、いや王妃、またはこの国を統治する真の王と呼ぶべきか、一人の女の表情は曇った。
「『気鬱になって姿を消す』」
「……」
「『きちんと話をつけるべきではないのでしょうか。あなたのご夫君と、そしてあなたの息子と娘と」
「もう王位はニトが継承したのだ。今さら何を話すというのだ。わたしはこの執務室で仕事をするのみ」
「『なんの、ニト殿下はまだ民の信を得ておりませぬ。ちゃんとあなたの事情を自らの言葉で話されるがよい』」
王妃はザミドとトウヤを交互に見つめると、否とも応ともつかないため息を一つついた。トウヤはすっと頭を下げる。
「『もうひとつだけ。深く詫びたい。わたしの弟子があなたとあなたのご夫君にとても迷惑をかけた』」
「わたしもあの者を利用したのだ。火吐山はつまらなかった。ここに来てからは少なくとも退屈はしない」
トウヤはさらに深くこうべを垂れた。ザミドもならう。
「ほかは何か。何もかも申してみよ」
「『あなたがかつて王妃であり、実質的なこの国の王であることも、しかと確認した。我々は王子と王女と約束を果たすために闘技場に戻る。あとは干渉しない』」
トウヤとザミドが退室しようとすると、執務着をさっと脱ぎ、王族にしか許されぬ色のトーガをはおった。
「わたしも向かいましょう。ところでその、最初に言っていた愚鈍なふりをしたあげく失踪したものの話について、もう少し意味がわかるように話してもらえまいか」
「では、わたくしめが」
ザミドがトウヤにかわってその真意をつたえると、王妃は腑に落ちたようであった。
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