貧乏貴族の領地経営

櫃まぶし

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1話 金なし、人なし、未来…?

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皇紀362年、エトラリア大陸の東部にある大国、マヌル王国の南部、エルムント男爵領にて俺、エド=エルムントは生を受けた。マヌル王国建国の際に先祖様が軍功をあげ、その功績により隣国ガブスに睨みを利かせるためにこの地に領地を賜ったらしい。昔は交通の要衝であったためそれなりに栄えていたらしいが、50年ほど前に新たに王国南西部に街道が開通してからはめっきり廃れてしまったらしい。そのため元々当家の財政に余裕はなかったが、祖父が恐ろしいほどの浪費家だったらしく、財政難に大きく拍車がかかってしまった。父は財政立て直しに尽力したが、元々体が丈夫ではなかった上に無理がたたり、42歳の若さであの世に旅立ってしまった。そのため俺、エド=エルムントが弱冠22歳にして男爵位と領地を受け継ぐこととなった。
家臣たちから上がってきた報告書に目を通しながら
「それにしても当家の財政は本当に破綻寸前だな」
でかでかとため息をついてしまう。
「まあまあ、現状を悲観するんじゃなくて対策を考えようよ。兄さん」
そう言うのは腹違いの弟のリーリン=エルムント。リーリンは俺と同い年の22歳。眉目秀麗で頭もいいというのだから恐れ入ったものだ。
「この資料を読んでみろ、弟よ。一か月当たりの税収が13万ルーク、支出が14万ルークだぞ!?」
「当家の金庫にあるのが14万ルークとちょっとだから…あと一年ちょっとで財政破綻するね…」
リーリンはその恐ろしく美しい顔をひきつらせた。
「現状、一番金を食っているのは領内の街道整備だが、いくら利用者が少なくなったとはいえあれがなくなると当家は本格的に詰む。」
「あとは…軍費かな…」
リーリンの言う通り軍費は4万ルークを占めており、莫大だ。しかし、それは簡単ではないのだ。
「俺も同じことを考えた。だがな、軍部との衝突を考えるとそう簡単に踏み切れるものでもない。それにいくら当家に力がなくなったとはいえ、元々ガブスへ睨みを利かせるのが当家の役目だ。あんまり軍縮を進めると王家からも何か言われるかもしれない。」
「それなんだけどね、兄さん。僕にちょっと案があるんだ。」
「ほう。なんだ?」
「親衛隊と軍を合併させるんだ。」
親衛隊は領地の治安維持や領主の警護等を担う組織だ。軍との違いは軍は完全に武官であるのに対して親衛隊は文官武官両方の面をもつという点だ。
「そうは言っても親衛隊と軍の仲の悪さは相当だぞ?あいつらが合併を受け入れるとは思えないんだが…」
俺が難色を示していると
「今まではそうだったかもしれないけど、今なら少なくともトップは納得してくれるんじゃないかな」
「そうかグスタフとエボルバか」
グスタフ=ポルカとエボルバ=ビッテンフス、親衛隊と軍の現トップだ。エルムント家では当主が変わった際に首脳陣も総入れ替えするというしきたりがあるのだ。ふたりとも二つ上の24歳。まるで兄弟のように一緒に育ってきた。二人は仲もよく、二人なら手を取り合うことに異論はないだろう。ポルカ家もビッテンフス家も当家始まって以来の名門であるため、二人をそれぞれ任命した際には二人の異例の若さにも関わらずそれほど反対の声は上がらなかった。
「よし、二人を呼べ」
しばらくして現れた二人に合併案を聞かせた。
「うーん、それは難しいかと思います。」
そう口を開いたのは親衛隊のグスタフ。
「俺も難しいと思うぜ」
軍のエボルバも続けて言う。
「私たちの家と正面切って対立したくないので表立って言う輩は少ないですが、私たちがトップに任命されたことを面白く思わないものはまだたくさんいます。今は何とか従っていますが、合併するとなると反対するものは後を絶たないでしょう。」
グスタフの言い分はもっともだ。しかし、それではどうすればよいのだろうか。
「うーん、もっと優秀な人材がたくさんいればなあ」
領地を経営するうえで必要な人手が全然足りていない。領主とはいえまだまだ若いので重役連中にはなめられている。だからか彼らは指示にあまり従ってくれない。自分の意のままに動かせる部下が必要だ。しかしこんな領地に来てくれる優秀な人材など存在するはずもない。金も人もないこの領地に未来などあるのだろうか。
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