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第五章 幼馴染じゃない 恋人になりたい
エピローグ =完=
居酒屋は平日のアフターファイブで賑わっていた。
ビジネスパーソンだけでなく、学生たちもグラスを打ち鳴らしている。テーブルごとに笑い声やため息が交じり合う。
カウンターではモクモクと煙を上げながら焼き鳥が焼かれていて、タレの良い匂いが漂ってきた。
厨房と店内で注文を急かす店員の声が飛び交う、そんな喧騒の中で美沙と案内された席に腰を下ろした。
「同居してた人が彼氏って、それってもう同棲だったでしょ? 違うって言い訳してたけどさ。幼馴染でも、好意があるからじゃん。なんで気づかないの? 気づきたくなかったの?」
思った以上に詰め寄られ、心臓が落ち着かない。紬はウーロン茶をちびちび飲みながら、照れ隠しに頭をかいた。
週明け、美沙に「いろいろ聞かせて!」と強引に連れ出された。逃げ場のないまま辿り着いたのは、会社近くの居酒屋だった。
明日も勤務ですよ……という言葉は通じなかった。
週末のソーダ屋のSNSは、何が原因か知らないがPV数が伸びているらしい。
かっこいい彼氏と撮られているらしいと噂はあっという間に回り、会社でもチラチラと視線を送られた。
すべては、匠海があまりに容姿端麗だからだ。わかってはいたけれど、ここまで大きくなるとは思わなかった。
「いや、なんか、ずっと連絡とってないとはいえ、仲良かったから」
男女というのはわかっていたが心情的には家族で。
すごく好きだと思えるまでになったのは、匠海が鈍い自分に対して粘ってくれたお陰だ。
「なんだろう、もうどうでもいいや。誰か紹介して。まじめな人」
目の前の焼き鳥にかぶりつきながら美沙がぼやく。本気かどうかはわからないが、紹介できそうな人は岳しかいない。しかも、岳に彼女がいるのかも聞いたことはない。
「彼氏に聞いてみます」
匠海が顔が広いのは本当なので、聞いてみることにする。美沙はうんうんと頷きながら、砂ずりの串を食べる。
「SNSさ、『美男美女ですごい』、とかコメント書かれてるよ」
「はぁ。へぇ?」
そんなもの怖くて読めないから、本当かどうかわからない。
「でもさ、明らかにどんどんきれいが増したもんねぇ」
美沙が頬杖を突きながら、優しい視線を向けてくれる。
「良いことだよ。おめでたい」
「ありがとうございます」
美沙が良い人なのは知っていた。真正面から祝福の言葉を受けると胸が熱くなり、思わず目頭が潤んだ。
「おっ、『ここでプロポーズしたらしい。あやかりたい。週末行きます』とかコメントあるよ。店側にとって嬉しいやつだね」
なんでここでプロポーズされたのバレてるの。芸能人でもないのに。
恥ずかしくて一気に食欲がなくなる。
その後、美沙に誰かを紹介するというのは社内で知られ、なぜかコンパ開催することになってしまった。
「ていうわけで、お仕事を増やしまして、申し訳ない……」
「いいよ。女の子と知り合いになりたい男子けっこういるし」
ソファに腰を下ろすと、匠海が後ろから腕を回してきて、自然に背中を抱き寄せられる。その流れで、匠海の太ももの上に座る形になった。
匠海が肩に顎を置いて、テレビを見ている。手は自然と胸に回されやわやわと揉んでいた。
「……揉まれたところで減らないけど、なんかこう、やっぱりIQ下がるよね?」
「紬の前だと、強がらなくていいからじゃない」
「んっ」
首筋を唇でなぞりながら、持ち上げてみたり、揉んでみたり、震わせてみたり、やりたい放題だ。――でも、嫌じゃない。
ただ、話をするにはちょっと邪魔で、匠海の両手首を掴んだ。
「親から、いつ、どこで、どんなふうに、誰を呼んで、結婚するのかって、催促されてる」
「冬に、レストランで、近しい親族だけ呼んで、食事会をする。余興は、知り合いにマジシャンがいるからお願いするよ。格式張らないで、じーさんばーさんが疲れない形でしよう」
お互いの祖父祖母も知らない仲じゃない。こういう時に、自分たちだけでなく家族まで思いやる匠海の姿勢に、胸の奥がじんわりと満たされ、熱が体中に広がっていくのを感じた。
紬にも金銭的に余裕があった。来てくれる人に金銭的負担が少ない食事会が開けると思うと、ちょっと嬉しい。
匠海の手首を離すと、耳や背中に今度は触れてきた。
「平日は、ダメだって、約束したでしょ」
「うん、だから触れるだけ」
平日はこうやって高まるだけの触れられ方をしていると、週末になると感度が上がっているのは確かで。
そういうのをわかっていてしているのではないかとさえ思う。
いや、絶対にしているはずだ。
――悔しい。拒もうとするほどに甘さは濃くなり、熱は胸の奥で疼き続ける。
紬は立ち上がると、匠海の前に座り、スウェットパンツの上から内腿を撫でた。
「紬……」
匠海を見上げると、期待が混じった視線とぶつかる。
「触れるだけ」
内腿に触れ、唇をつけながら、徐々に大きくなってくるその部分だけには触れない。筋肉がこわばり、我慢しているのが皮膚越しに伝わってくる。
「……まじ、勘弁」
いうや否や、強い力で抱き寄せられた。強引に、でも優しく唇を奪われる。
何度も角度を変えてキスをした後、吐息と一緒に唇が離れた。
「……俺、今から仕事しないといけないって知ってた?」
「うん。私は明日のお弁当の準備」
「この間のSNSが微妙に影響して、仕事が増えてるんだよ」
「おお、流石だね」
匠海の首に手を回して、紬は自分から唇をゆっくり重ねる。
こんなふうに誰かと触れ合えることが、ただ嬉しく、ただ愛おしい。
その奇跡に身をゆだねる自分が、不思議で仕方なかった。
すべては、匠海のお陰だ。出会い直してからの時間が、こんなにも自分を変えてくれた。
未来を思い浮かべ、ふっと息を吐く。
「ありがとう、匠海」
彼の額に額を寄せ、静かに囁いた。
夜は穏やかに更けていった。
=完=
ビジネスパーソンだけでなく、学生たちもグラスを打ち鳴らしている。テーブルごとに笑い声やため息が交じり合う。
カウンターではモクモクと煙を上げながら焼き鳥が焼かれていて、タレの良い匂いが漂ってきた。
厨房と店内で注文を急かす店員の声が飛び交う、そんな喧騒の中で美沙と案内された席に腰を下ろした。
「同居してた人が彼氏って、それってもう同棲だったでしょ? 違うって言い訳してたけどさ。幼馴染でも、好意があるからじゃん。なんで気づかないの? 気づきたくなかったの?」
思った以上に詰め寄られ、心臓が落ち着かない。紬はウーロン茶をちびちび飲みながら、照れ隠しに頭をかいた。
週明け、美沙に「いろいろ聞かせて!」と強引に連れ出された。逃げ場のないまま辿り着いたのは、会社近くの居酒屋だった。
明日も勤務ですよ……という言葉は通じなかった。
週末のソーダ屋のSNSは、何が原因か知らないがPV数が伸びているらしい。
かっこいい彼氏と撮られているらしいと噂はあっという間に回り、会社でもチラチラと視線を送られた。
すべては、匠海があまりに容姿端麗だからだ。わかってはいたけれど、ここまで大きくなるとは思わなかった。
「いや、なんか、ずっと連絡とってないとはいえ、仲良かったから」
男女というのはわかっていたが心情的には家族で。
すごく好きだと思えるまでになったのは、匠海が鈍い自分に対して粘ってくれたお陰だ。
「なんだろう、もうどうでもいいや。誰か紹介して。まじめな人」
目の前の焼き鳥にかぶりつきながら美沙がぼやく。本気かどうかはわからないが、紹介できそうな人は岳しかいない。しかも、岳に彼女がいるのかも聞いたことはない。
「彼氏に聞いてみます」
匠海が顔が広いのは本当なので、聞いてみることにする。美沙はうんうんと頷きながら、砂ずりの串を食べる。
「SNSさ、『美男美女ですごい』、とかコメント書かれてるよ」
「はぁ。へぇ?」
そんなもの怖くて読めないから、本当かどうかわからない。
「でもさ、明らかにどんどんきれいが増したもんねぇ」
美沙が頬杖を突きながら、優しい視線を向けてくれる。
「良いことだよ。おめでたい」
「ありがとうございます」
美沙が良い人なのは知っていた。真正面から祝福の言葉を受けると胸が熱くなり、思わず目頭が潤んだ。
「おっ、『ここでプロポーズしたらしい。あやかりたい。週末行きます』とかコメントあるよ。店側にとって嬉しいやつだね」
なんでここでプロポーズされたのバレてるの。芸能人でもないのに。
恥ずかしくて一気に食欲がなくなる。
その後、美沙に誰かを紹介するというのは社内で知られ、なぜかコンパ開催することになってしまった。
「ていうわけで、お仕事を増やしまして、申し訳ない……」
「いいよ。女の子と知り合いになりたい男子けっこういるし」
ソファに腰を下ろすと、匠海が後ろから腕を回してきて、自然に背中を抱き寄せられる。その流れで、匠海の太ももの上に座る形になった。
匠海が肩に顎を置いて、テレビを見ている。手は自然と胸に回されやわやわと揉んでいた。
「……揉まれたところで減らないけど、なんかこう、やっぱりIQ下がるよね?」
「紬の前だと、強がらなくていいからじゃない」
「んっ」
首筋を唇でなぞりながら、持ち上げてみたり、揉んでみたり、震わせてみたり、やりたい放題だ。――でも、嫌じゃない。
ただ、話をするにはちょっと邪魔で、匠海の両手首を掴んだ。
「親から、いつ、どこで、どんなふうに、誰を呼んで、結婚するのかって、催促されてる」
「冬に、レストランで、近しい親族だけ呼んで、食事会をする。余興は、知り合いにマジシャンがいるからお願いするよ。格式張らないで、じーさんばーさんが疲れない形でしよう」
お互いの祖父祖母も知らない仲じゃない。こういう時に、自分たちだけでなく家族まで思いやる匠海の姿勢に、胸の奥がじんわりと満たされ、熱が体中に広がっていくのを感じた。
紬にも金銭的に余裕があった。来てくれる人に金銭的負担が少ない食事会が開けると思うと、ちょっと嬉しい。
匠海の手首を離すと、耳や背中に今度は触れてきた。
「平日は、ダメだって、約束したでしょ」
「うん、だから触れるだけ」
平日はこうやって高まるだけの触れられ方をしていると、週末になると感度が上がっているのは確かで。
そういうのをわかっていてしているのではないかとさえ思う。
いや、絶対にしているはずだ。
――悔しい。拒もうとするほどに甘さは濃くなり、熱は胸の奥で疼き続ける。
紬は立ち上がると、匠海の前に座り、スウェットパンツの上から内腿を撫でた。
「紬……」
匠海を見上げると、期待が混じった視線とぶつかる。
「触れるだけ」
内腿に触れ、唇をつけながら、徐々に大きくなってくるその部分だけには触れない。筋肉がこわばり、我慢しているのが皮膚越しに伝わってくる。
「……まじ、勘弁」
いうや否や、強い力で抱き寄せられた。強引に、でも優しく唇を奪われる。
何度も角度を変えてキスをした後、吐息と一緒に唇が離れた。
「……俺、今から仕事しないといけないって知ってた?」
「うん。私は明日のお弁当の準備」
「この間のSNSが微妙に影響して、仕事が増えてるんだよ」
「おお、流石だね」
匠海の首に手を回して、紬は自分から唇をゆっくり重ねる。
こんなふうに誰かと触れ合えることが、ただ嬉しく、ただ愛おしい。
その奇跡に身をゆだねる自分が、不思議で仕方なかった。
すべては、匠海のお陰だ。出会い直してからの時間が、こんなにも自分を変えてくれた。
未来を思い浮かべ、ふっと息を吐く。
「ありがとう、匠海」
彼の額に額を寄せ、静かに囁いた。
夜は穏やかに更けていった。
=完=
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返信ありがとうございます。最終話までイッキに読ませていただきました。はぁー楽しかったです。
最後まで読んでいて、コレは岳と匠海の入れ違い…かな?がいくつかありましたが、勢いで楽しく読み終えてしまいましたw(岳に彼女がいなかったはずはないみたいなセリフとかあったような…)
話の通じない怖い人たちのエピソードには、いるよね〜と鳥肌立ちました。紬と匠海2人のやり取りにふふふ、と笑えるのがよかったです。そして岳が普通そうでいてカッコよくて推せます。
まだまだ暑さ続きそうですね。また次の作品も楽しみにしています。
mananyanさん
イッキ読みありがとうございました。楽しく感じていただき良かったです。
匠海と岳の入れ違いは、よくあります。
いや、ドヤ顔するところじゃないのはわかっております。
見つけ次第、対処させていただきますね~。
話が通じな人たちは、物語だから誇張はしてますが、ありますよね。
匠海と紬のやりとりは、フラットさを心がけました。
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またよろしくお願いいたします。mananyanさんもどうぞご自愛ください。
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mananyanさん
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お付き合いいただけますと幸いです。