上 下
14 / 26
1章

希望と喜びと一つの夢

しおりを挟む
「うっ…う?うん?」
 知らない天井…ではないな。むしろ知ってる天井だ。
 でもなんで俺はここに?一度俺は死んだはずで、それで…
 そうそう、俺は死んだんだっけ。リザードマンに刺されて。くそぅ、忌々しいリザードマンよ。
 じゃあ、俺はなぜここに?
 俺がそう思っていると、
「…に!?…本当…のか!?」
 聞き覚えのあるセリフが聞こえてくる。
 …そうだった!俺はアルって奴に時間を戻してもらったんだった!
 ってことは…
 俺は駆け出し、
「どうしたんですか?」
「あぁ、あぁ!ルナ!聞いてくれ、聖なる森からリザードマンの群れが溢れているらしい!ルナ、すまない、力を貸してくれないか!?」
 やっぱり。確かに時間が戻されているみたいだ。
「もちろんです!」
 俺は案の定即答する。
「助かる!ルナ、無理をするな。目的はリザードマンの撃退だ。必ず殺せとはいっていないからな」
 うん。このセリフも聞いた。デジャブ。
「よし、行くぞ!」
 さて、行きますか。
 奴らを全員ぶっ飛ばしに。



「着いたぞ、ルナ!」
 聖なる森に着いた。そこで俺は、
「…『目の前のリザードマンを抹消』」
 誰にも聞こえない声でそう呟く。
 すると、目の前のリザードマンが跡形もなく消えた。
 凄まじい光景だった。大量のリザードマン達が、音も無く消え去ったのだ。
 カオスだった状況が、一瞬にして崩壊した。
「「「「はっ?」」」」
 何人かの困惑の声が聞こえてきた。後ろを見れば、ジンさんや騎士数名が固まり、他の馬車を見れば、すでに動いている騎士はいなかった。
 …これはこれで怖い状況だな。あ、ちゃんとみんな生きてるよ。
 しかし、そんな状況も、また一瞬で崩壊した。
 …木々の間から、林から、森から、あらゆる場所からリザードマン達が湧き出てきたのだ。
「…っ、戦闘準備!」
「「「「ハッ!」」」」
 後ろからぞろぞろ騎士が出てくる。
 しかし、それを嘲笑うかのように、奴らはさらに湧き出る。
 …だが。
「『前方のリザードマン消滅』ぅ!」
 シュンッ。
 とでも効果音をつけたくなるように奴らは消える。
 でもこのままじゃ埒が明かない。
「ちょっと行ってきます!」
「っ!待て、ルナ!危険だ!」
 ごめん、ジンさん。でもこれは皆のためなんだっ!
 駆け抜ける俺を静止するかのように、リザードマンが立ちふさがる。
「ええぃ、めんどくさい!『目の前の…以下省略』!」
 リザードマンは消えた。
 以下省略でも通じるんだね。ユニーク。
「また塞ぎやがって…『以下省略』!」
 また消えた。
 多分『以下省略』は前回使用した魔法を使えるんでしょう、多分だよ。
 そして、魔法を交えつつ走っていると、目の前に怪しく光る巨大な結晶を見つけた。
 …でかい!俺の身長の何倍だ、これ?
 そして、その結晶は紫の光を発し、リザードマンを作り出した。
 …なるほど、あれが全ての元凶か。
 そして、結晶をよく見れば、中に人が入っているように見える。
 ええい、なんだあれは!
 とりあえず結晶を破壊しなければ。
「『結晶のみ破壊』」
 …何も起こらない。
 うげ、まさか魔法に耐性が?
 ならば筋力を上げて物理で殴る!
「『パワーアップ』!『ハンマー生成』!」
 全身に力がみなぎり、ドスッっという音と共に、両手に持つ様な巨大なハンマーが地面に落ちる。
 俺はそれを拾い、
「結晶、覚悟ぉぉぉぉぉ!」
 俺は飛び上がり、結晶に重い一撃を、
 ガッキィィィィィン!
 くれてやった!
「もういっちょぉぉ!」
 ギィィィィン!
 そうして、何度か繰り返すうちに、結晶は粉々に割れた。
「やったか!?」
 フラグになりかけない言葉を発し、俺は着地。
 周りを見渡せば、今までいたリザードマン達は消え、紫色の森も、元の清々しい緑の森へ戻った。
「ふ…ふう。やっ…ったぁ」
 俺は倒れる。…疲れた。
 …う、うーん。眠くなってきた…魔法の使いすぎか。
 まぁ、いいや。俺の頑張りにカンパーイ。
 そうしていくうちに、俺は睡魔に襲われ、眠りに就いた。



「はーい、お疲れさん!」
 ぬ、ぬぅ。この声は…
「どう考えても私です」
 ですよねぇ…アルさん。
「どうだった?言語チート。なかなか強いでしょ?」
「いや強いっていう枠からはみ出してるよね、あれ」
「満足してもらえて嬉しいです」
 本当に満足しております、強すぎですって。
 漢字以外も使えるっていうだけで、バリエーション豊かになったね。うん。
「やー、それはどうも…で、なんで呼び出したか、なんだけど…」
「なんで呼び出したか?」
「伝え忘れていたことがありました」
 おいっ!神様ぁ!
 変なところでドジっ子…あれか、ドジっ子属性の神様か、新ジャンル?
「何考えてるんだって」
 うわ、読まれてた。勝手に読むんじゃねぇ!プライバシーというものがだな…
「はいはい分かった分かった。で、伝え忘れたことなんだけど」
 心の声すらも妨害されたぜ!?
「……えっと、トリップと一緒に持ってきた本あるじゃん?」
 あー、あれか。なかなかでした。
「あれなんだけど、そのー…」
「そのー?」

 は?何言ってんのコイツ。
「むう。わかりやすく言ってあげようか。この世界は本の世界だから、出来事もその本に沿って起こる。例えば、君のトリップ。それも、本と同じことが起こってるんだよ」
 あー、確かに。あのとき、本を読んだ時に気付いたね。
「すでに分かってるんじゃあ話が早い。これでも説明は苦手なんだよね」
 それ本当にいいの?君本当に神様でいいの?
「うるさい」
 すいません。

 …起きて、金髪の人。起きて。…

「む。誰か呼んでいるぞぅ」
 本当だっ!…予想はつくけど。
「じゃ、今日はここらへんで勘弁してあげますよ」
 偉そうに。
「神様だもん」
 …そうでした。
「ん。じゃ、行ってらっしゃい」
 いってきまーす。
しおりを挟む

処理中です...