NGワードと言わないで!~ゼロから始めるゲームせいさく+現実世界は人工知能と共に&肉欲塗れの複合世界に祝福を!~

もるひね

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二章です!

復活します!

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≪以上、現場からでした。ここからは、専門家の意見を交えつつ、お送りします≫

 朝。
 目を覚まして何の気なしにネットニュースを開くと、未だに事件が報道されていた。
 ソーシャルゲーム【ラプラスの工房】が発端となった、全国規模の集団幻覚事件だ。内容を纏めると、“200人もの人間が突如錯乱し、病院へ搬送された”というもの。いくらかの食い違いはあるが、概ねは真実を報道していた。

≪集団ヒステリーの可能性が高いですね。被害に遭った方々は、痙攣、失神、呼吸困難などの症状を発症していましたから≫
≪現場からもありましたが、集団ヒステリーとは?≫
≪一定の集団内で、多数の人へ症状が感染することを言います。柳山高校の事件を知っているでしょうか? 関心や利害が共通する小集団内で次々と伝播していきます≫
≪この事件では、MRデバイスを装着した一般の方々に被害が出ましたが……何か関係性があるのでしょうか?≫
≪十分にあると思いますよ。例えば、共通のアプリを起動していたとか、動画や音楽を聞いていたとか≫
≪それにサブリミナル効果が仕込まれていたと?≫
≪ええ、おそらく≫
≪ありがとうございました。当番組では、引き続き続報が入り次第、皆さまにお伝えしていきます≫

 終わりが近付いたことを確認し、ブラウザを閉じる。

「すげえ大事になってんな……」

 一つ溜息を零しながら、呟いた。それは雑多に物が溢れた自室に空しく木霊する。
 正直、全て幻だったのではないかと疑ってしまう。泣き叫ぶ彩智の姿も、激昂する和夢の瞳も、薄嗤う新菜の唇も、上司だという怪しい男? の与太話も。

「柳山高校って何だったっけ……」

 ろくに解説もしないで出番が終わった専門家の言葉が気にかかり、新たなブラウザを立ち上げて検索する。

「何だこれ……」

 目的の記事は、すぐに見つかった。が、到底信じられるものではない。

「幽霊に憑りつかれて臨時休校?」

 見出しをそのまま読み上げて確認する。多分、これのことを言ったんだよな、あの薄い人。高校生たちが発狂し、その日は学業に支障が出たらしい。感受性の高さ故のものだろうか。

 しかし、このご時世に幽霊騒ぎか……そんなものいるワケないだろ。オカルトなんてデマや捏造ばかりだし、やらせだと判明したものだってある。動転した人間が、脳内で勝手に作り出した幻想だ。

 人間の視覚・記憶能力は脆弱だ。事件捜査では証言の80%が信頼に値しないモノであるという話もある。脳は記憶したいものを分別して頭にしまうが、取り出して再現するとき元通りに構築できるかは不明である、とされている。
 また、空白を嫌うが故に見てもいない記憶を造り出してしまう。あるハズのものが無く、無いハズのものがある。
 それはなんてホラーだろう。

『おっはようございまーす!』
「うぉっ!?」

 記事のページが、突如人間の顔で埋め尽くされる。
 それはなんてホラーだろう。

『朝の情報収集が完了しました! 早速出社しましょう、出社!』

 ブラウザ、いや画面からぬるりと這い寄る混沌。

『出社! 出社! 出社~!』

 呪詛を吐きながら、茎のような腕をバタバタと振り乱す。

『出社っていい言葉ですよね! ご主人はそう思いませんか?』

 現世への執着、常世への憧れ、浮世への別れ。

『早く行きますよ! 交通状況は把握しました、最短ルートをナビします!』

 ふわふわと宙に浮かび、せかせかと足を遊ばせる。あんぐりしたままの俺に呆れたのか、それとも出社に急ぎたいのか、細長い腕を伸ばして、俺に触れようとして──空を切った。

『あ……』

 自身の存在を認識してしまったのか、それは青ざめた顔をさらに白くする。
 そう、彼女は幽霊。
 ハヤナという名の、我儘でポンコツな幽霊だ。

「出社なんて、誰もしたくねーよ」

 どう声を掛ければよいか選んだ結果、曖昧に誤魔化すことにした。
 しかし、幽霊に驚かされるという異常事態。エクストリーム出社なんてとうの昔に絶滅したというのに。
 渋々とPCの電源を落とし、椅子から立ち上がる。身支度は済ませていた為、すぐにでも出社は可能だ。時計を確認、うん大丈夫。

『わ、私だって愛の巣を離れることは嫌ですよ!?』

 幽霊のこの世ならざる白い顔は赤くなり、ムキになった様子でこたえる。

「何言ってんだ!? 幽霊と禁断の恋を結んだ覚えはねえ!」
『幽霊などではありませんとも! それに、ご主人は言ってくれたではありませんか!』
「言ったって、何をさ!?」
『“俺と一緒に、最高のゲームを作ろうぜ”と!』
「知るかー!」

 ほとほと呆れ、多くない荷物を抱えて部屋を出る。とうに両親は出社しており、誰もいない廊下を歩く。一人分の足音が響く中、幽霊は我先にと玄関へ向かった。

 彼女、ハヤナは人工知能。
 俺の脳をマザーコンピューターとして現界する、超常の存在だ。
 ラプラス事件の後、俺は白い病室で目を覚まし、泣きじゃくる彼女を見つけた。ひたすら謝り続ける彼女に、体の自由がきかないために何も言えなかった。目覚めたことを知った看護師は慌てて引き返し、和夢と新菜が姿を現して、状況を説明してくれた。

 曰く、俺の脳に異常が見つかった。
 曰く、特殊な電波が発生している。
 曰く、悪霊に憑りつかれたようなもの。

 その時点で理解出来たのは、その程度だった。
 玄関のドアを開けろと催促するハヤナを窘めながら、その続きを思い出す。

 曰く、普段は俺の視界にのみ映る。
 曰く、電子機器へ姿を移すことが可能。
 曰く、俺が死ねば彼女も死ぬ。

 何故三つ目は物騒なんだ……。
 溜め息は、照らす朝日に霧散した。


 ☆ ☆ ☆


 俺の職場……というかアルバイト先に到着。株式会社セカンドピース。
 重たい扉を開くと、ニコニコと微笑むメイド少女の姿があった。

「おはようお兄ちゃん」
「ああ、おはよう」

 ソーシャルゲーム開発へ携わる、サウンドクリエイターとは名ばかりの何でも屋、新菜だった。
 いつも思う。何故、メイド服なんだ。

「すっかり回復したみたいだね。今日は一緒に頑張ろー!」
「おう。で、頑張るって……何するんだ?」
「デバッグ!」
「は……?」

 その一言に、何かが崩れ落ちていくのを感じた。
 え、まだやるの? あのデスマーチを?

「顔が白くなってるよ……うふふっ、現代型鬱病?」

 もしかしたら、そうかもしれない。会社を一歩でも出れば、すぐに脂汗は引くだろう。

『ええい、その程度が何ですか! 頂点への道は険しくて当然です! 引き返すことなど出来ません、ソーシャルゲームと同じです!』

 ハヤナが俺と新菜の間に割って入り、後ずさりした俺を説得? する。

「は? どういう意味だ?」

 出来るだけ声を抑えて尋ねる。事情は理解しているだろうが、今のハヤナの姿は新菜の瞳に映らないのだ。異常者だと思われるのは気が引ける。

『いくらつまらなかろうと、やり続けることに意味があるのです! いくらつまらなかろうと!』

 ディスってるだけじゃねーか。それに、その言い方だとお前の野望が「つまらないこと」に分類されてるぞ。あ、ポンコツだったな。

『元気を出して下さいご主人! 今なら期間限定ハヤナちゃん新衣装SSRが、1.5%で排出されます!』

 ガチャだと!? 意味不明だし需要がないし、衣装なんていつも同じじゃないか! 季節は夏だが、水着にでもなるというのか? ちんちくりんが着ても興奮なんてしないわ!

『2800円で10連です! 救済措置はありません!』

 価格設定が崩壊している!

『じゃぶじゃぶです、じゃぶじゃぶですよ! 馬鹿な信者から養分を搾り取る快楽……私も堪能したいものですねえ。そうだ、和夢に提案しましょう!』

 ハヤナは悪巧みの笑みを浮かべ、くすくすと嗚咽を漏らす。

『現場の意見を尊重してくれるでしょうし、責任は全て和夢にあります!』

 そう言うと、目の前から姿が消失し、困惑した表情の新菜が現れる。やはり聞こえていないし見えていない。何でもないことをジェスチャーで伝えようとした時、ポケットのスマートフォンが盛大に震えた。

『和夢ー! ガチャの確率を見直しましょう! 時代は1%ですよ、1%! 目的の物が出るまで引き続けさせましょう! 和夢―!』
「五月蠅いな……」

 最大音量で響くそれを取り出すと、画面いっぱいに屈託のない笑みを表示させるハヤナがいた。

『承認欲求を煽って煽って、煽りまくる宣伝をお願いします! データを貸すだけでボロ儲け……ごほん、お布施をたくさん頂きましょう! お―布―施―!』

 和夢その人がいないにかかわらず、その場で叫び続ける。近所への迷惑を心配し、物理キーを連打して音量を1にまで下げた。

「うふふっ、ねえハヤナ?」

 手にしたスマホを覗き込み、新菜はそれはもう優しく微笑む。
 ハヤナが口をパクパクさせていたので、仕方なしに音量を上げた。

「稼ぐことは大事だけど、私たちの目的はそんな低俗な物じゃないよね?」
『はっ! そうでした、私が間違っていました! 外圧になど臆病にならず──』
「違うよね?」
『そうです、16人の弟子を選定し──』
「違うよね?」
『んむう?』
「…………」

 うわぁ、引き攣ってる。しかし、新菜がこんな顔したのを見るのは初めてだ。いつも冷静沈着である彼女が見せた、ありありとした苛立ち。

「あのなあハヤナ、俺たちは──」
『はっ!? そうでした、そうでしたとも! ハッキリと思い出しました!』

 何かを確信したのか、画面の中でガッツポーズ。

『ソシャゲの頂点に立つのです! セールスランキングではありません、ダウンロード数でもありません! 全ての意味で、頂点に立つのです!』

 爛々と瞳を輝かせ、高らかに宣言した。
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