3 / 43
Phase1 プロローグ的な何か!
異世界へようこそ!②
しおりを挟む
「へえー、なかなか風情あるじゃん」
「ここが“リューグナ―村”だよ! 果樹園が多いから、林檎や蜜柑で有名なの。ミズキは本当に知らないの?」
「あぁ……まあ」
目に入るのはいかにも中世ヨーロッパを再現した街並み。だが想像していたレンガ造りの建物は少なく、大半は木造建築の建物であり、一本の川を挟むように軒を連ねている。
「しっかし、村っていう割には人が多いような?」
「そうだね。でも今だけだよ、選定試験も終わっちゃったし」
流石にトイレ事情まで再現されているワケではないようで、ティアを先導に歩を進める道は綺麗に整地されていた。蠢く民衆をかき分けて進む。
「選定試験? さっきも聞いたな、なにそれ?」
「冒険者ギルド“血の闘争団”に入団するための選抜だよ!」
いきなり英語が出てきやがった……この世界ガバガバじゃねえか。
「選抜? その為に森に入ったのか?」
「ううん、私は落第したの。でも入団の条件は、力を持っていること。決闘で負けはしたけど、強いモンスターを倒せばもしかしたら、って思って」
「へぇ……そんなに入りたいもんなのか」
「当然! 私も魔王討伐に参加したいんだもの!」
「魔王!?」
なるほど、お決まりの展開だな。目指すべき目標が生まれたのはいいが、その道を進むべきか否か。
「俺もそこに入ることは出来るのか?」
「ウルフを武器もなしに倒せたんだから、実力は十分だと思うよ。ただね、もう試験は終わってるの」
「あ、そう……」
道は閉ざされていたようだ。
「でも私は諦めない! 必ずや入団して、お金持ちになるの!」
「へ……?」
「ここの生活も悪くはないけれど、やっぱり豪遊生活をしてみたいじゃない? 団員が相手にするのは魔王の眷属、そいつらを討伐しただけで多額の報奨金が与えられるわ!」
「…………」
「それに、ギルドの団員が現場を退く理由の多くは貴族との結婚だよ! 強い女性に惹かれるんでしょうね、金持ちの妻になることも可能なの! ──って、何よそのジト目は?」
「いや……。立派だなって思っただけだ」
「そうでしょう? それに、回復魔法を覚えた私は戦線に必須ともいえる存在だよ! まったく、どうして落第したのかな……まあ分かってるけど」
「戦闘向きじゃなかったんだな。支援一辺倒ってワケだ」
「うぐっ……まあね。腕力も無い私に持てるのはダガーかステッキくらい。でも攻撃魔法なんていう高等技は習得できなかったから、ステッキを振り回すっていう憧れの夢を諦めたんだ」
「憧れるのか? 魔法少女みたいだな」
「本当の魔法少女ですー!」
そんな話をしながら街道を進んでいたが、なにやら違和感を感じる。というより視線──明らかに皆が注目していた。この世界では異質な学生服を着ている俺に。
『おい、あのガキ』
『内地の服か? いやしかし』
『だよな、どうも似てるよな』
『ああ、“天炎者”にちげえねえ』
『やるか?』
『当然』
人々が囁きあっている声が聞こえる。疑問を覚えた時には、一人の巨漢が針路を塞いでいた。2メートルはあるのではないかという巨漢の大男はニヤリと笑う。
「よお小僧! メイズは好きか!?」
「へ……?」
「ほら、コレだよコレ!」
後ろ手に隠していたモノを見せる。青々とした皮と、立派な髭を蓄えたソレは──
「トウモロコシ……?」
強面の男にそんなことを聞かれるのも驚いたが、この異世界にもトウモロコシが存在するということに驚いた。タイムスリップでもしたというのか? いや待て、中世ヨーロッパにトウモロコシが出回っているのは異常だろう。
「好きか、好きだよなあ!? ほらたんと食え、お代はいらねえからよ!」
「うおっ!? あ、ありがとうございます?」
ウモロコシを粗雑に押し付けられる。どれも立派に実ったスイートコーン。しかし、なぜ俺に無料で渡すんだ?
「いいなー、いいなー! おじさん、私にも頂戴!」
「お? しょうがねぇなぁ、ほら、お嬢ちゃんにもやらぁ!」
「わー、キレー! ズル剥けだー! ミズキのよりも立派だし!」
「!?」
いや落ち着け、何を動揺してるんだ、トウモロコシの話だ。なるほど、ティアが受け取ったのは皮が剥がれてすぐに調理オーケーな状態だ。蒸す、焼く、茹でることで甘みが引き立つ。
「ええっと、これは本当に──」
「がはは、マオス食品をご贔屓に!」
「すごーい! 今日はごちそうだー!」
受け取っていいのか、そう問う前に男は去っていった。困惑する俺とはしゃいでいるティアが残されたが、すぐに別の人影が俺達を包囲する。
「よお兄ちゃん、これ持っていきな! ありったけのフルーツだ!」
「あ、アタシはこれあげるわ! 手に入ったばかりの香辛料よ、好きに使って!」
「私はチーズを与えましょう。ほら、白カビがいい具合に繁殖しています、柔らかくておいしいですよ?」
「こらお前ら、そんなに持てるワケねえだろ! へへっ旦那、このツタ篭を使ってくだせえ。あっしの手作り品でさあ」
「へ? へえ!?」
あらゆる方向から様々な食料品を手渡される。ティアは押し寄せる群衆に弾きとばされた模様。
「「「「リューグナ―商店街をご贔屓に!」」」」
それふだけ言い残すとそれぞれの持ち場へ戻った。篭いっぱいの品物を抱えた俺と、目を回しているティアを放って。
「え……なにこれ」
☆
「ごっちそう、ごっちそう、おったのっしみ~!」
街の外れにあるというティアの家に到着する。しかし女性の家か……いや、ただ食事を頂戴するだけだ、何を緊張することがあるというのか。ティアは木造のドアを開き、“アムレット料理店”の看板が掲げられた家の中に入って――あれ、なんで読めるんだ? 明らかに俺が読める文字ではない、楔文字のような造形だというのに。
「たっだいまー! お父さーん!」
「おうティア、帰ったか。薬草を摘みにいったにしては時間がかかったから、暴漢にでも襲われたかと思ったぜ」
「そ、そんなことないってー」
「お父さん……?」
店奥から姿を現したのは筋肉ムキムキ、お鬚もっさり、頭ツルツルの大男。ティアとは似ても似つかぬ父親だ。
「そうだお父さん、親切な人にたくさん食材を貰ったの! そしてこの人が、家まで運んでくれたんだ! お礼にお昼ごはん用意してくれない?」
「へ?」
おいおい、内容がだいぶ改変されてないか? まあ腹が空いて来たし、頂けるならうれしいんだけれど。
「私が森に入ったことは黙ってて。お父さん、そういうことは許さないから」
「お、おう」
声を落として耳元で囁く。なるほど、年頃の娘を危険な場所へは向かわせたくない親の愛情か。
「ほお、それは幸運だったな。で、あんたがその──ぶう!?」
「きゃっお父さんきたなーい」
俺を見るなり噴き出しやがった。でもそれは可笑しかったことが理由ではなく、驚愕したためである。
「こ、これはこれは失礼を! さぁどうぞ、お好きな席へお座りください! すぐに料理をお持ちします!」
「はぁ……」
媚び諂う態度で接客する。案内されるままに客の姿がないテーブルの席へ腰かける。入店する直前に見た太陽は天高く、もう昼になったことを示していた。
ティアを店奥へ引っ込ませた店主は、ワインのつがれた木のカップを置くと自身も奥へ姿を消す。
「おいティア、粗相はなかっただろうな?」
「え、なんのことー? ミズキはただの知り合いだよー?」
「茶化すな、あの服は天炎者の証明だ! 血の闘争団の幹部で間違いない!」
「えっ……ええ!? でも、そんなの知らないって言ってたよ? 隣の国から観光でも──」
「いや、あの恰好は似すぎている。というかティア、今まで気づかなかったのか?」
「だって、最近流行のファッションかな~って思って」
「明らかに異質だろう! しかしこれはチャンスだ、媚を売っておかなければ」
これを飲むか飲まざるべきか迷っているとそんなやりとりが耳に入る。丸聞こえですよお父さん。しかしイグナイターとは何のことだ? どうして俺がギルドの構成員に見られている?
他にも転移した人間はいる──なるほど、それが原因か。まあいいさ、今は好意を受け取ろう。
「ささ、こちらをどうぞ! 雷撃トカゲのぶつ切りステーキ!」
「うむ」
考え事をしている間に皿に乗せられた料理が運ばれてくる。うん、グロテスクな肉の塊。毒々しい紫色の血が溢れ出してるし……これ、食っても大丈夫なのか? とりあえず、追加で運ばれてきたパンやサラダに手を付ける。
「えぇと、ゴメンなさいミズキさん!」
「ん?」
果物を盛った皿を運んできたティアが首を垂れる。
「君……あなたが血の闘争団の幹部様とは知らずに行った、数々の非礼、お許しください! それに私の命まで救ってくださるとは!」
ふむ、他の人間は偉く頑張ったようだな。ではその功績、この俺がすこしばかり借りても罰は当たらないだろう。当たらないよな?
「いやいや、そんな畏まる必要はない。俺はただ、するべきことをしただけさ」
「あ、ありがたき幸せ!」
うん、俺は嘘をついていない。勘違いした君たちがいけないんだよ。くっくっく、人の上に立つというのは気分がいい……やっぱり罪悪感がすごいな、そろそろやめよう。
「どうですかい? 当店自慢の肉料理は?」
「む……」
ギラついた眼差しをティアの父に向けられる。なかなか口をつけないことが気に入らない様子。意を決して口へ運ぶ──そうだ、この世界で生きていくんだ、これくらい食べられないでどうする。
「……ごくん」
「……(ゴクリ)」
「……闘争団か、いいなあ」
見た目は最低な一品を飲み込む。ふむ、これはなかなか──感想を述べようとした時、店先のベルが客の入店を告げる。
「チッ……ああ申し訳ありません、只今貸し切りで──って、ええ!?」
「?」
店主の叫び声が店内に反響する。新たな客は、紅いマントを学生服の上に羽織った出で立ちをしている……ん、学生服?
「え、ウソ……また天炎者?」
民族衣装の上にエプロンを羽織ったティアが息をのむ。静寂を破る訪問者が口を開いた。
「昼時に申し訳ありません。こちらに不審者が出現したという情報を得たので、各家を調べて回っているところなんです」
「は、はぁ……それはご苦労様です。しかしウチには誰も――」
「くんくん、臭いますね、これは臭います。こびりついた罪の臭いが」
そう言って、被ったフードを振り払う。黒紅の髪を振り乱し、切れ長の目で俺を射抜いた。
「咎人を見つけました。さあ、共に旅立ちましょう。命を燃やす冒険へ」
「は……?」
明らかに日本人、そして女子高生である少女が手を差し伸べる。まさか初日に会うとは思わなかったな……他の転移してきた人間に。
「おい、どういうことだ?」
「う~ん? ミズキは団員じゃない?」
「あの服はどう見ても天炎者のものだよな」
「でも内地では似た服が流行してるらしいし」
「じゃあつまり」
「騙された?」
何やら不穏な会話を続ける親子。今は置いておこう、まずは目の前の存在にどう対応するべきか考えろ。旅立ちか……つまり、魔王討伐の旅ってことだな。
「いきなりそんなこと言われてもな……まだ、この世界でどう生きていくか考えているところだからさ。少しの間、考えさせてくれよ」
「ダメです、あなたに拒否権はありません。我々血の闘争団へ入団して下さい、それがあなたの選択肢です」
強い口調でそう返される。ふむ、俺を迎え入れる用意は出来ているらしい……なるほど、サポートは万全っていうのは確からしいな。だが強制イベントだなんて聞いてないぞ、ゲームの世界じゃないけれど。
「ねえ、どういうことかな?」
「あ~、これから団員になるのか?」
「あの子の服、ミズキの服と色とか似てない?」
「流行してるモノとは違うのか?」
「じゃあつまり」
「天炎者ってことは間違いない?」
親子は相変わらずひそひそと相談。顔を待ったにさせたり青くさせたりと忙しい。
「私たちの力は、贖罪の為に与えられたんです。この世界を救わなければなりません」
カツカツと音を立てて近寄ってくる。一定のリズムを刻む足音は、エコーのように体の内部まで反響した。
「従わないというのなら、無理やりにでも連れていきます」
どくん、どくん、と鼓動が高鳴る。なにもときめいているワケじゃない、純粋な恐怖――内から湧き出る潜在的恐怖が起こしたモノ。
「吼えなさい、愛の腕飾り!」
少女の体が激しい光に包まれる。それが轟音と共に吹き荒れる中、魔法の言霊が解き放たれたことを理解した。
──追憶の闇に閉ざされし
──其は、転炉を巡る藁人形
──咆哮せよ、純潔の辟
「さぁ……あなたも剣を取るといいです。夏目由梨花、参ります!」
☆
「……どうしました? 早く言霊を唱えたらどうですか?」
由梨花と名乗る少女が光の中から姿を現す。それは俺と同じ、与えられた魔法を発動していた。だが鎧は全身を覆うものではなく、右腕にだけ深緋の装甲を纏っていた。その手に掴まれているのは、灼熱を宿す炎剣。それを振りかぶると、狭いアムレット料理店の壁に一筋の傷跡を刻む。焼け跡は爛れ、紅蓮の火の粉がじくじくと浸食していく。
「ちょ、ちょっと待て! 何だその力!? 炎だと!?」
シエルは言っていた、「これは君にだけ与える」ものだと。だというのに、この少女にも?
「何も知らないのですか? この魔法は堕とされた人間全てに与えられるモノです。そして術者の意思によって姿を変える」
「何ぃ!?」
「私の他に2人、堕とされた人間が血の闘争団に所属しています。こちらに来れば、その力を正しく使うことが出来る」
「2人……? 意外と少ないな」
「確認できたのは、です。他の国や団体に身を寄せている人間もいます」
そう言うと、一つ溜息を吐いて剣を構える。
「無駄話は終わりです。さぁ、言霊を唱えて下さい。無抵抗な人を……ましてや男を凌辱する趣味は私にはありません。それとも、あなたはマゾですか? されるがままに犯されていいのですか?」
「ドMなワケねえだろ! つーか場所を考えろ、こんな狭い場所で戦うつもりか!?」
いくら他の客がいないからって、あまりにも非常識な!
「せ、狭い……必死に働いて築いた俺の城が、狭い……」
「泣かないでお父さん。狭いのは事実なんだし」
鍋を構えて防御姿勢を取る親子が視界に映る。この炎は危険だ、それに木造建築であるため火事になりかねない。というかもう燃えてる。
「あっ……」
「あっじゃねえ! そんなことも考えてなかったのか!?」
「失念していました……いいでしょう、広場で戦いましょうか。それならいいですか?」
「どれだけ戦いたいんだお前は!?」
「力こそが正義だからです。それと自己の存在証明の為……あなたもそうではないのですか?」
「はあ!? 知らねえよ、ついさっきここに転移してきたばかりなんだからな!」
「そうでしたか。なら、尚更逃がすワケにはいきません。必ず団に引き入れます」
「選択肢は他にもあるだろ!」
「聞きません。これが私たち、天炎者と称えられる者の宿命なのです」
由梨花は炎剣の構えを解き、その右腕が脈打ったかと思うと、鎧は跡形もなく消えていた。あらわになったセーラー服を翻し、料理店の出口へ向かう。
「広場まで案内します。そこで喧嘩をしましょうか」
「おい待て。その前にコレ、どうするんだよ」
「なんですか……?」
「店の弁償だ! いいか、俺は金をもってねえんだよ!」
「あっ……」
「失念してんじゃねー!」
「くっ……団に払わせます。店長さん、誠に申し訳ありません。すぐに遣いの者を送りますので、しばしお待ち下さい」
コイツ、後先考えずに魔法を使いやがったな!? どれだけ無計画……というより短期なんだ。
由梨花はすぐさま引き返し、ティアの父に謝罪する。困った顔を浮かべる店主に頭を下げ、隣に寄り添っていた少女にも意を述べた。
「怖い思いをさせてしまい、すみませんでした……これからの未来に、神のご加護があらんことを」
「は、い、いえ……ありがとうございます」
憧れの団員に祈りを捧げられたティアは頬を紅潮させる。それなりにクールな由梨花と童話の国の住人であるティアの組み合わせは意外と合って……いやいや、そんなことを考えてる場合か。
「では行きましょう。あなたの未来は決定していますが」
「分かった……」
☆
『おい、あのマント……血の闘争団のものじゃねえか?』
『ああ、しかも“焦熱のユリカ”じゃねえか! No.4がこんなところにいるとは……』
『それにしても、あの男の子と何するつもり? まさか決闘でもするのかしら?』
『分からない。でも天炎者であることは間違いないね……これは見物だよ』
連れてこられたのはリューグナ―村の中央にある石畳が敷かれた広場。数多の観衆が何事かと見つめる中、由梨花が口を開く。
「では始めましょうか。ここでなら戦えるでしょう?」
「まぁ。衆人環視ってのはいいもんじゃねえけどな」
「すぐに慣れます。凱旋時はこれの比ではありませんよ、聴衆の視線に慣れておいて下さい」
「入団前提で話すんじゃねえよ」
「何ですか、視線を向けられることは苦手ですか? 視姦するのは好きそうな顔をしているのに」
「そんな趣味持ってねえ! ……さてはお前、無自覚マゾだな?」
「馬鹿なことを言わないで下さい。どこの世界に、うっかり店を壊して、うっかり弁償を忘れて、うっかり人々の目を集めるマゾがいるのですか?」
「お前のことだー!」
「まあ、この村は優しい人々ばかりですから罰を受けませんでしたが……まぁいいです、始めましょうか」
由梨花が目を細めた途端に空気が一変する。戦闘が始まる緊張感。魔法を行使する前に、彼女に問う。
「一つ確認させてくれ。俺が勝ったら、お前の言うこと聞く必要はないよな?」
「おかしなことを聞きますね。勝てると思っているのですか?」
「もちろん。で、どうなんだ? 潔く諦めてくれるのか?」
「さぁ? 私は諦めてあげてもいいですが、他の団員があなたを連行するかもしれません」
「マジかよ……」
「もしもの話です。あなたを捻り潰す……吼えなさい、愛の腕飾り!」
──追憶の闇に閉ざされし
──其は、転炉を巡る藁人形
──咆哮せよ、純潔の辟
白光が輝いた直後、その手には炎剣が握られている。
俺が選ぶ選択肢は一つしかなかった。
「……目覚めよ、恐怖の王冠!」
──残響の檻に囚われし
──其は、高炉を廻す泥人形
──胎動せよ、無垢なる辜
内に潜む何者かが囁く。壊せ、壊せ、目に映るもの全てを壊せ──鎧を纏うと思考がスッキリし、剣を構える少女がたまらなく愛しく思えた。
ああそうだ、力を証明したいんだ。俺がお前より強いことを証明したい。だから……踏みつぶされてくれるよな?
「なるほど……それがあなたの剣ですか。随分と歪な蕾ですね、それにダサい。鎧も言霊も」
「ダサいって何だ、仕方ないだろうが! 銃にブリュンヒルデとか名付けるヤツよりマシだ!」
「知りませんよ」
藍鉄色の装甲を纏った俺を見て、由梨花はジリ、と歩幅を詰める。それは決闘の火蓋を切る合図となった。
「では──夏目由梨花、参ります!」
「あぁ──山城瑞希、行くぜえええええ!」
互いに突撃しながら己の名を叫ぶ。それは自分こそが強者であるという自己暗示。
俺の拳の間合いに入るより先に、由梨花の剣が炎をまき散らして薙ぎ払われる。熱量を持った目くらましが直撃──確かに熱いが、耐えられないほどじゃない。怯むことなく炎を突き進み、横暴な少女めがけて右ストレートを──
「あぁ!?」
「遅い」
すでに目前から姿を消し、俺の右後方へ回り込んでいた。すぐさま裏拳を食らわせようとするが、それすらも躱される。
「この程度ですか?」
「クッソおおおおお!」
焦れば焦るほど泥沼……冷静さを欠いた鉄拳は空しく空を切り、その度に装甲が削られていく。深く切り刻まれると同時に業火が追撃し、中身ごと焼き尽くされる。不思議と痛みは感じないが、身体機能が刻々と低下していくのは感じられた。
「いいこと思いつきました、ダルマにして晒しましょう。とても興奮しますよ、奇異の目を向けられるというのは」
「ふざけんじゃねえええええ!」
口では抵抗するものの、未だに一撃すら加えられない。積もってゆくのは苛立ちばかり。
「ご安心下さい、肉体はすぐに再生します。私たち天炎者は、すでに人ではないのですから」
「ああ!?」
軽々と俺の攻撃を躱しながら言う。それは哀れみを含んだ声音。
「しかし、あれだけ大口を叩いておいてこの程度ですか? 素直に我々と手を組めば良かったのです、恥を晒す前に」
「くっ……クッソ!」
動きが鈍る、感覚が鈍る。まるで本物の鎧を着込んででもいるかのように動きが重くなる。魔法は日に一度だけ──今更思い出すのはそんな忠告。
落ち着け、このままじゃ勝てない。では、どうすれば攻撃を当てられる? 足りない脳で考え付いた結果は一つしかなかった。
「……? どうしました、勝負を捨てたのですか?」
「…………」
「はぁ。どうせなら、逃げるなり民衆を盾にするなりなんなりしてくれると良かったのですが。手足を捥ぐ罪悪感が薄れますので」
「…………」
「何も答えませんか。いいでしょう──ウィッカーマンを再現してあげます!」
抵抗を止めた俺を見て、由梨花は間合いを十分にとる。炎剣を水平に構え、迸る業火を纏い、一直線に突撃する。
ああそうだ、それを待っていた!
「なっ!?」
「見せつけるのが好きなお前らしいよなぁ、真正面から突っ込んでくるなんてよぉ」
煮え滾る剣を白刃どりされたことに驚愕の色を浮かべる。これが考え付いた最善策だった。実際に実行してくれるとは、自分でも思わなかったが。
「離して下さいっ!」
自由な足を使って俺の鎧を蹴り上げる。だがそんな華奢な足で何が出来る?
「なぁ、どうしてそこまでして俺を縛る?」
「くっ……離さないと言うのなら!」
剣を纏う炎の勢いが増し、色も赤から青へ昇華していく。未だ原型を留めてはいるが、手と腕の感覚はとうに消えていた。だがそれが──何だというのだ?
「どうして縛るのかって──聞いてんだよおおおおお!」
「ぐぅっ!?」
これまでの鬱憤を込めた回し蹴りがクリーンヒットし、由梨花の体が宙を舞う。その右手からは剣が離れ、魔法の行使者の元を離れた炎剣は、その業火を鎮めた。
「なぁ……聞いてんだよ」
「うっ……げほっ!ごほっ!」
掴んだ剣を放り投げ、蹲る少女の元へ進む。既に高揚感も何も感じない、ただただ怒りに染まっていた。
「どうして決められなきゃならねえ? 好きに生きて何が悪い!?」
「それが……私たち天炎者の宿命です!」
深緋の装甲から再び炎剣が出現する。だが以前より炎の勢いは弱々しく、吹けば消えてしまうのではないかと思うほどのともし火。
「ふざけんな! 魔王討伐なんて勝手にやってろ、俺は好きに生きる、好きに選ぶ! この世界で新しい人生を始めるんだ、邪魔すんな!」
「それは……許されません!」
よろよろと立ち上がり、剣を構える。これ以上の交戦が不可能であることは一目瞭然だった。
「許されるさ! 記憶なんて無いが、俺は自殺してここへ来た! それだけ苦しい、悲しい思いで死んだんだ、晴らされなきゃ嘘だろ!?」
「それこそが罪なのです!」
体は震えていたが、瞳に宿る意思に揺らぎはない。俺を屈服させることを諦めてはいなかった。
「自ら死を選ぶ……それこそが、私たち天炎者が犯した罪! 与えられたこの魔法で魔王を討伐する他に、報いる方法はないのです!」
「知ったことか! 俺を巻き込むんじゃねえ!」
「力を授かった時点で、あなたも立派な当事者です! いい加減、負けを認めたらどうですか!?」
今にも崩れ落ちそうなほど足を震わせておいて何を言っている。
「どれだけ強情なんだお前は!」
「あなたに言われたくありません!」
あーあったまきた。とりあえずグーで殴ろう。
重たい足を引きずりながら、精一杯に走る。由梨花も勝負を決めるかのように、風前の灯を爛々と輝かせた。
「こんの……意地っ張りがあああああ!」
「…………!」
拳と剣が交差する。
その瞬間、鎧が波打って消滅した。
「はっ……?」
疑問を感じた瞬間にはナニかが胸を突き破り、風穴を開けた。ドロリと流れだす赤い命を留めることも出来ず、ただただ眺めていた。あぁ、やけに頭がスッキリする──血が上りすぎていたからな、これくらいが丁度良い。霞む視界の中、少女の泣き顔を見た気がした。
「ここが“リューグナ―村”だよ! 果樹園が多いから、林檎や蜜柑で有名なの。ミズキは本当に知らないの?」
「あぁ……まあ」
目に入るのはいかにも中世ヨーロッパを再現した街並み。だが想像していたレンガ造りの建物は少なく、大半は木造建築の建物であり、一本の川を挟むように軒を連ねている。
「しっかし、村っていう割には人が多いような?」
「そうだね。でも今だけだよ、選定試験も終わっちゃったし」
流石にトイレ事情まで再現されているワケではないようで、ティアを先導に歩を進める道は綺麗に整地されていた。蠢く民衆をかき分けて進む。
「選定試験? さっきも聞いたな、なにそれ?」
「冒険者ギルド“血の闘争団”に入団するための選抜だよ!」
いきなり英語が出てきやがった……この世界ガバガバじゃねえか。
「選抜? その為に森に入ったのか?」
「ううん、私は落第したの。でも入団の条件は、力を持っていること。決闘で負けはしたけど、強いモンスターを倒せばもしかしたら、って思って」
「へぇ……そんなに入りたいもんなのか」
「当然! 私も魔王討伐に参加したいんだもの!」
「魔王!?」
なるほど、お決まりの展開だな。目指すべき目標が生まれたのはいいが、その道を進むべきか否か。
「俺もそこに入ることは出来るのか?」
「ウルフを武器もなしに倒せたんだから、実力は十分だと思うよ。ただね、もう試験は終わってるの」
「あ、そう……」
道は閉ざされていたようだ。
「でも私は諦めない! 必ずや入団して、お金持ちになるの!」
「へ……?」
「ここの生活も悪くはないけれど、やっぱり豪遊生活をしてみたいじゃない? 団員が相手にするのは魔王の眷属、そいつらを討伐しただけで多額の報奨金が与えられるわ!」
「…………」
「それに、ギルドの団員が現場を退く理由の多くは貴族との結婚だよ! 強い女性に惹かれるんでしょうね、金持ちの妻になることも可能なの! ──って、何よそのジト目は?」
「いや……。立派だなって思っただけだ」
「そうでしょう? それに、回復魔法を覚えた私は戦線に必須ともいえる存在だよ! まったく、どうして落第したのかな……まあ分かってるけど」
「戦闘向きじゃなかったんだな。支援一辺倒ってワケだ」
「うぐっ……まあね。腕力も無い私に持てるのはダガーかステッキくらい。でも攻撃魔法なんていう高等技は習得できなかったから、ステッキを振り回すっていう憧れの夢を諦めたんだ」
「憧れるのか? 魔法少女みたいだな」
「本当の魔法少女ですー!」
そんな話をしながら街道を進んでいたが、なにやら違和感を感じる。というより視線──明らかに皆が注目していた。この世界では異質な学生服を着ている俺に。
『おい、あのガキ』
『内地の服か? いやしかし』
『だよな、どうも似てるよな』
『ああ、“天炎者”にちげえねえ』
『やるか?』
『当然』
人々が囁きあっている声が聞こえる。疑問を覚えた時には、一人の巨漢が針路を塞いでいた。2メートルはあるのではないかという巨漢の大男はニヤリと笑う。
「よお小僧! メイズは好きか!?」
「へ……?」
「ほら、コレだよコレ!」
後ろ手に隠していたモノを見せる。青々とした皮と、立派な髭を蓄えたソレは──
「トウモロコシ……?」
強面の男にそんなことを聞かれるのも驚いたが、この異世界にもトウモロコシが存在するということに驚いた。タイムスリップでもしたというのか? いや待て、中世ヨーロッパにトウモロコシが出回っているのは異常だろう。
「好きか、好きだよなあ!? ほらたんと食え、お代はいらねえからよ!」
「うおっ!? あ、ありがとうございます?」
ウモロコシを粗雑に押し付けられる。どれも立派に実ったスイートコーン。しかし、なぜ俺に無料で渡すんだ?
「いいなー、いいなー! おじさん、私にも頂戴!」
「お? しょうがねぇなぁ、ほら、お嬢ちゃんにもやらぁ!」
「わー、キレー! ズル剥けだー! ミズキのよりも立派だし!」
「!?」
いや落ち着け、何を動揺してるんだ、トウモロコシの話だ。なるほど、ティアが受け取ったのは皮が剥がれてすぐに調理オーケーな状態だ。蒸す、焼く、茹でることで甘みが引き立つ。
「ええっと、これは本当に──」
「がはは、マオス食品をご贔屓に!」
「すごーい! 今日はごちそうだー!」
受け取っていいのか、そう問う前に男は去っていった。困惑する俺とはしゃいでいるティアが残されたが、すぐに別の人影が俺達を包囲する。
「よお兄ちゃん、これ持っていきな! ありったけのフルーツだ!」
「あ、アタシはこれあげるわ! 手に入ったばかりの香辛料よ、好きに使って!」
「私はチーズを与えましょう。ほら、白カビがいい具合に繁殖しています、柔らかくておいしいですよ?」
「こらお前ら、そんなに持てるワケねえだろ! へへっ旦那、このツタ篭を使ってくだせえ。あっしの手作り品でさあ」
「へ? へえ!?」
あらゆる方向から様々な食料品を手渡される。ティアは押し寄せる群衆に弾きとばされた模様。
「「「「リューグナ―商店街をご贔屓に!」」」」
それふだけ言い残すとそれぞれの持ち場へ戻った。篭いっぱいの品物を抱えた俺と、目を回しているティアを放って。
「え……なにこれ」
☆
「ごっちそう、ごっちそう、おったのっしみ~!」
街の外れにあるというティアの家に到着する。しかし女性の家か……いや、ただ食事を頂戴するだけだ、何を緊張することがあるというのか。ティアは木造のドアを開き、“アムレット料理店”の看板が掲げられた家の中に入って――あれ、なんで読めるんだ? 明らかに俺が読める文字ではない、楔文字のような造形だというのに。
「たっだいまー! お父さーん!」
「おうティア、帰ったか。薬草を摘みにいったにしては時間がかかったから、暴漢にでも襲われたかと思ったぜ」
「そ、そんなことないってー」
「お父さん……?」
店奥から姿を現したのは筋肉ムキムキ、お鬚もっさり、頭ツルツルの大男。ティアとは似ても似つかぬ父親だ。
「そうだお父さん、親切な人にたくさん食材を貰ったの! そしてこの人が、家まで運んでくれたんだ! お礼にお昼ごはん用意してくれない?」
「へ?」
おいおい、内容がだいぶ改変されてないか? まあ腹が空いて来たし、頂けるならうれしいんだけれど。
「私が森に入ったことは黙ってて。お父さん、そういうことは許さないから」
「お、おう」
声を落として耳元で囁く。なるほど、年頃の娘を危険な場所へは向かわせたくない親の愛情か。
「ほお、それは幸運だったな。で、あんたがその──ぶう!?」
「きゃっお父さんきたなーい」
俺を見るなり噴き出しやがった。でもそれは可笑しかったことが理由ではなく、驚愕したためである。
「こ、これはこれは失礼を! さぁどうぞ、お好きな席へお座りください! すぐに料理をお持ちします!」
「はぁ……」
媚び諂う態度で接客する。案内されるままに客の姿がないテーブルの席へ腰かける。入店する直前に見た太陽は天高く、もう昼になったことを示していた。
ティアを店奥へ引っ込ませた店主は、ワインのつがれた木のカップを置くと自身も奥へ姿を消す。
「おいティア、粗相はなかっただろうな?」
「え、なんのことー? ミズキはただの知り合いだよー?」
「茶化すな、あの服は天炎者の証明だ! 血の闘争団の幹部で間違いない!」
「えっ……ええ!? でも、そんなの知らないって言ってたよ? 隣の国から観光でも──」
「いや、あの恰好は似すぎている。というかティア、今まで気づかなかったのか?」
「だって、最近流行のファッションかな~って思って」
「明らかに異質だろう! しかしこれはチャンスだ、媚を売っておかなければ」
これを飲むか飲まざるべきか迷っているとそんなやりとりが耳に入る。丸聞こえですよお父さん。しかしイグナイターとは何のことだ? どうして俺がギルドの構成員に見られている?
他にも転移した人間はいる──なるほど、それが原因か。まあいいさ、今は好意を受け取ろう。
「ささ、こちらをどうぞ! 雷撃トカゲのぶつ切りステーキ!」
「うむ」
考え事をしている間に皿に乗せられた料理が運ばれてくる。うん、グロテスクな肉の塊。毒々しい紫色の血が溢れ出してるし……これ、食っても大丈夫なのか? とりあえず、追加で運ばれてきたパンやサラダに手を付ける。
「えぇと、ゴメンなさいミズキさん!」
「ん?」
果物を盛った皿を運んできたティアが首を垂れる。
「君……あなたが血の闘争団の幹部様とは知らずに行った、数々の非礼、お許しください! それに私の命まで救ってくださるとは!」
ふむ、他の人間は偉く頑張ったようだな。ではその功績、この俺がすこしばかり借りても罰は当たらないだろう。当たらないよな?
「いやいや、そんな畏まる必要はない。俺はただ、するべきことをしただけさ」
「あ、ありがたき幸せ!」
うん、俺は嘘をついていない。勘違いした君たちがいけないんだよ。くっくっく、人の上に立つというのは気分がいい……やっぱり罪悪感がすごいな、そろそろやめよう。
「どうですかい? 当店自慢の肉料理は?」
「む……」
ギラついた眼差しをティアの父に向けられる。なかなか口をつけないことが気に入らない様子。意を決して口へ運ぶ──そうだ、この世界で生きていくんだ、これくらい食べられないでどうする。
「……ごくん」
「……(ゴクリ)」
「……闘争団か、いいなあ」
見た目は最低な一品を飲み込む。ふむ、これはなかなか──感想を述べようとした時、店先のベルが客の入店を告げる。
「チッ……ああ申し訳ありません、只今貸し切りで──って、ええ!?」
「?」
店主の叫び声が店内に反響する。新たな客は、紅いマントを学生服の上に羽織った出で立ちをしている……ん、学生服?
「え、ウソ……また天炎者?」
民族衣装の上にエプロンを羽織ったティアが息をのむ。静寂を破る訪問者が口を開いた。
「昼時に申し訳ありません。こちらに不審者が出現したという情報を得たので、各家を調べて回っているところなんです」
「は、はぁ……それはご苦労様です。しかしウチには誰も――」
「くんくん、臭いますね、これは臭います。こびりついた罪の臭いが」
そう言って、被ったフードを振り払う。黒紅の髪を振り乱し、切れ長の目で俺を射抜いた。
「咎人を見つけました。さあ、共に旅立ちましょう。命を燃やす冒険へ」
「は……?」
明らかに日本人、そして女子高生である少女が手を差し伸べる。まさか初日に会うとは思わなかったな……他の転移してきた人間に。
「おい、どういうことだ?」
「う~ん? ミズキは団員じゃない?」
「あの服はどう見ても天炎者のものだよな」
「でも内地では似た服が流行してるらしいし」
「じゃあつまり」
「騙された?」
何やら不穏な会話を続ける親子。今は置いておこう、まずは目の前の存在にどう対応するべきか考えろ。旅立ちか……つまり、魔王討伐の旅ってことだな。
「いきなりそんなこと言われてもな……まだ、この世界でどう生きていくか考えているところだからさ。少しの間、考えさせてくれよ」
「ダメです、あなたに拒否権はありません。我々血の闘争団へ入団して下さい、それがあなたの選択肢です」
強い口調でそう返される。ふむ、俺を迎え入れる用意は出来ているらしい……なるほど、サポートは万全っていうのは確からしいな。だが強制イベントだなんて聞いてないぞ、ゲームの世界じゃないけれど。
「ねえ、どういうことかな?」
「あ~、これから団員になるのか?」
「あの子の服、ミズキの服と色とか似てない?」
「流行してるモノとは違うのか?」
「じゃあつまり」
「天炎者ってことは間違いない?」
親子は相変わらずひそひそと相談。顔を待ったにさせたり青くさせたりと忙しい。
「私たちの力は、贖罪の為に与えられたんです。この世界を救わなければなりません」
カツカツと音を立てて近寄ってくる。一定のリズムを刻む足音は、エコーのように体の内部まで反響した。
「従わないというのなら、無理やりにでも連れていきます」
どくん、どくん、と鼓動が高鳴る。なにもときめいているワケじゃない、純粋な恐怖――内から湧き出る潜在的恐怖が起こしたモノ。
「吼えなさい、愛の腕飾り!」
少女の体が激しい光に包まれる。それが轟音と共に吹き荒れる中、魔法の言霊が解き放たれたことを理解した。
──追憶の闇に閉ざされし
──其は、転炉を巡る藁人形
──咆哮せよ、純潔の辟
「さぁ……あなたも剣を取るといいです。夏目由梨花、参ります!」
☆
「……どうしました? 早く言霊を唱えたらどうですか?」
由梨花と名乗る少女が光の中から姿を現す。それは俺と同じ、与えられた魔法を発動していた。だが鎧は全身を覆うものではなく、右腕にだけ深緋の装甲を纏っていた。その手に掴まれているのは、灼熱を宿す炎剣。それを振りかぶると、狭いアムレット料理店の壁に一筋の傷跡を刻む。焼け跡は爛れ、紅蓮の火の粉がじくじくと浸食していく。
「ちょ、ちょっと待て! 何だその力!? 炎だと!?」
シエルは言っていた、「これは君にだけ与える」ものだと。だというのに、この少女にも?
「何も知らないのですか? この魔法は堕とされた人間全てに与えられるモノです。そして術者の意思によって姿を変える」
「何ぃ!?」
「私の他に2人、堕とされた人間が血の闘争団に所属しています。こちらに来れば、その力を正しく使うことが出来る」
「2人……? 意外と少ないな」
「確認できたのは、です。他の国や団体に身を寄せている人間もいます」
そう言うと、一つ溜息を吐いて剣を構える。
「無駄話は終わりです。さぁ、言霊を唱えて下さい。無抵抗な人を……ましてや男を凌辱する趣味は私にはありません。それとも、あなたはマゾですか? されるがままに犯されていいのですか?」
「ドMなワケねえだろ! つーか場所を考えろ、こんな狭い場所で戦うつもりか!?」
いくら他の客がいないからって、あまりにも非常識な!
「せ、狭い……必死に働いて築いた俺の城が、狭い……」
「泣かないでお父さん。狭いのは事実なんだし」
鍋を構えて防御姿勢を取る親子が視界に映る。この炎は危険だ、それに木造建築であるため火事になりかねない。というかもう燃えてる。
「あっ……」
「あっじゃねえ! そんなことも考えてなかったのか!?」
「失念していました……いいでしょう、広場で戦いましょうか。それならいいですか?」
「どれだけ戦いたいんだお前は!?」
「力こそが正義だからです。それと自己の存在証明の為……あなたもそうではないのですか?」
「はあ!? 知らねえよ、ついさっきここに転移してきたばかりなんだからな!」
「そうでしたか。なら、尚更逃がすワケにはいきません。必ず団に引き入れます」
「選択肢は他にもあるだろ!」
「聞きません。これが私たち、天炎者と称えられる者の宿命なのです」
由梨花は炎剣の構えを解き、その右腕が脈打ったかと思うと、鎧は跡形もなく消えていた。あらわになったセーラー服を翻し、料理店の出口へ向かう。
「広場まで案内します。そこで喧嘩をしましょうか」
「おい待て。その前にコレ、どうするんだよ」
「なんですか……?」
「店の弁償だ! いいか、俺は金をもってねえんだよ!」
「あっ……」
「失念してんじゃねー!」
「くっ……団に払わせます。店長さん、誠に申し訳ありません。すぐに遣いの者を送りますので、しばしお待ち下さい」
コイツ、後先考えずに魔法を使いやがったな!? どれだけ無計画……というより短期なんだ。
由梨花はすぐさま引き返し、ティアの父に謝罪する。困った顔を浮かべる店主に頭を下げ、隣に寄り添っていた少女にも意を述べた。
「怖い思いをさせてしまい、すみませんでした……これからの未来に、神のご加護があらんことを」
「は、い、いえ……ありがとうございます」
憧れの団員に祈りを捧げられたティアは頬を紅潮させる。それなりにクールな由梨花と童話の国の住人であるティアの組み合わせは意外と合って……いやいや、そんなことを考えてる場合か。
「では行きましょう。あなたの未来は決定していますが」
「分かった……」
☆
『おい、あのマント……血の闘争団のものじゃねえか?』
『ああ、しかも“焦熱のユリカ”じゃねえか! No.4がこんなところにいるとは……』
『それにしても、あの男の子と何するつもり? まさか決闘でもするのかしら?』
『分からない。でも天炎者であることは間違いないね……これは見物だよ』
連れてこられたのはリューグナ―村の中央にある石畳が敷かれた広場。数多の観衆が何事かと見つめる中、由梨花が口を開く。
「では始めましょうか。ここでなら戦えるでしょう?」
「まぁ。衆人環視ってのはいいもんじゃねえけどな」
「すぐに慣れます。凱旋時はこれの比ではありませんよ、聴衆の視線に慣れておいて下さい」
「入団前提で話すんじゃねえよ」
「何ですか、視線を向けられることは苦手ですか? 視姦するのは好きそうな顔をしているのに」
「そんな趣味持ってねえ! ……さてはお前、無自覚マゾだな?」
「馬鹿なことを言わないで下さい。どこの世界に、うっかり店を壊して、うっかり弁償を忘れて、うっかり人々の目を集めるマゾがいるのですか?」
「お前のことだー!」
「まあ、この村は優しい人々ばかりですから罰を受けませんでしたが……まぁいいです、始めましょうか」
由梨花が目を細めた途端に空気が一変する。戦闘が始まる緊張感。魔法を行使する前に、彼女に問う。
「一つ確認させてくれ。俺が勝ったら、お前の言うこと聞く必要はないよな?」
「おかしなことを聞きますね。勝てると思っているのですか?」
「もちろん。で、どうなんだ? 潔く諦めてくれるのか?」
「さぁ? 私は諦めてあげてもいいですが、他の団員があなたを連行するかもしれません」
「マジかよ……」
「もしもの話です。あなたを捻り潰す……吼えなさい、愛の腕飾り!」
──追憶の闇に閉ざされし
──其は、転炉を巡る藁人形
──咆哮せよ、純潔の辟
白光が輝いた直後、その手には炎剣が握られている。
俺が選ぶ選択肢は一つしかなかった。
「……目覚めよ、恐怖の王冠!」
──残響の檻に囚われし
──其は、高炉を廻す泥人形
──胎動せよ、無垢なる辜
内に潜む何者かが囁く。壊せ、壊せ、目に映るもの全てを壊せ──鎧を纏うと思考がスッキリし、剣を構える少女がたまらなく愛しく思えた。
ああそうだ、力を証明したいんだ。俺がお前より強いことを証明したい。だから……踏みつぶされてくれるよな?
「なるほど……それがあなたの剣ですか。随分と歪な蕾ですね、それにダサい。鎧も言霊も」
「ダサいって何だ、仕方ないだろうが! 銃にブリュンヒルデとか名付けるヤツよりマシだ!」
「知りませんよ」
藍鉄色の装甲を纏った俺を見て、由梨花はジリ、と歩幅を詰める。それは決闘の火蓋を切る合図となった。
「では──夏目由梨花、参ります!」
「あぁ──山城瑞希、行くぜえええええ!」
互いに突撃しながら己の名を叫ぶ。それは自分こそが強者であるという自己暗示。
俺の拳の間合いに入るより先に、由梨花の剣が炎をまき散らして薙ぎ払われる。熱量を持った目くらましが直撃──確かに熱いが、耐えられないほどじゃない。怯むことなく炎を突き進み、横暴な少女めがけて右ストレートを──
「あぁ!?」
「遅い」
すでに目前から姿を消し、俺の右後方へ回り込んでいた。すぐさま裏拳を食らわせようとするが、それすらも躱される。
「この程度ですか?」
「クッソおおおおお!」
焦れば焦るほど泥沼……冷静さを欠いた鉄拳は空しく空を切り、その度に装甲が削られていく。深く切り刻まれると同時に業火が追撃し、中身ごと焼き尽くされる。不思議と痛みは感じないが、身体機能が刻々と低下していくのは感じられた。
「いいこと思いつきました、ダルマにして晒しましょう。とても興奮しますよ、奇異の目を向けられるというのは」
「ふざけんじゃねえええええ!」
口では抵抗するものの、未だに一撃すら加えられない。積もってゆくのは苛立ちばかり。
「ご安心下さい、肉体はすぐに再生します。私たち天炎者は、すでに人ではないのですから」
「ああ!?」
軽々と俺の攻撃を躱しながら言う。それは哀れみを含んだ声音。
「しかし、あれだけ大口を叩いておいてこの程度ですか? 素直に我々と手を組めば良かったのです、恥を晒す前に」
「くっ……クッソ!」
動きが鈍る、感覚が鈍る。まるで本物の鎧を着込んででもいるかのように動きが重くなる。魔法は日に一度だけ──今更思い出すのはそんな忠告。
落ち着け、このままじゃ勝てない。では、どうすれば攻撃を当てられる? 足りない脳で考え付いた結果は一つしかなかった。
「……? どうしました、勝負を捨てたのですか?」
「…………」
「はぁ。どうせなら、逃げるなり民衆を盾にするなりなんなりしてくれると良かったのですが。手足を捥ぐ罪悪感が薄れますので」
「…………」
「何も答えませんか。いいでしょう──ウィッカーマンを再現してあげます!」
抵抗を止めた俺を見て、由梨花は間合いを十分にとる。炎剣を水平に構え、迸る業火を纏い、一直線に突撃する。
ああそうだ、それを待っていた!
「なっ!?」
「見せつけるのが好きなお前らしいよなぁ、真正面から突っ込んでくるなんてよぉ」
煮え滾る剣を白刃どりされたことに驚愕の色を浮かべる。これが考え付いた最善策だった。実際に実行してくれるとは、自分でも思わなかったが。
「離して下さいっ!」
自由な足を使って俺の鎧を蹴り上げる。だがそんな華奢な足で何が出来る?
「なぁ、どうしてそこまでして俺を縛る?」
「くっ……離さないと言うのなら!」
剣を纏う炎の勢いが増し、色も赤から青へ昇華していく。未だ原型を留めてはいるが、手と腕の感覚はとうに消えていた。だがそれが──何だというのだ?
「どうして縛るのかって──聞いてんだよおおおおお!」
「ぐぅっ!?」
これまでの鬱憤を込めた回し蹴りがクリーンヒットし、由梨花の体が宙を舞う。その右手からは剣が離れ、魔法の行使者の元を離れた炎剣は、その業火を鎮めた。
「なぁ……聞いてんだよ」
「うっ……げほっ!ごほっ!」
掴んだ剣を放り投げ、蹲る少女の元へ進む。既に高揚感も何も感じない、ただただ怒りに染まっていた。
「どうして決められなきゃならねえ? 好きに生きて何が悪い!?」
「それが……私たち天炎者の宿命です!」
深緋の装甲から再び炎剣が出現する。だが以前より炎の勢いは弱々しく、吹けば消えてしまうのではないかと思うほどのともし火。
「ふざけんな! 魔王討伐なんて勝手にやってろ、俺は好きに生きる、好きに選ぶ! この世界で新しい人生を始めるんだ、邪魔すんな!」
「それは……許されません!」
よろよろと立ち上がり、剣を構える。これ以上の交戦が不可能であることは一目瞭然だった。
「許されるさ! 記憶なんて無いが、俺は自殺してここへ来た! それだけ苦しい、悲しい思いで死んだんだ、晴らされなきゃ嘘だろ!?」
「それこそが罪なのです!」
体は震えていたが、瞳に宿る意思に揺らぎはない。俺を屈服させることを諦めてはいなかった。
「自ら死を選ぶ……それこそが、私たち天炎者が犯した罪! 与えられたこの魔法で魔王を討伐する他に、報いる方法はないのです!」
「知ったことか! 俺を巻き込むんじゃねえ!」
「力を授かった時点で、あなたも立派な当事者です! いい加減、負けを認めたらどうですか!?」
今にも崩れ落ちそうなほど足を震わせておいて何を言っている。
「どれだけ強情なんだお前は!」
「あなたに言われたくありません!」
あーあったまきた。とりあえずグーで殴ろう。
重たい足を引きずりながら、精一杯に走る。由梨花も勝負を決めるかのように、風前の灯を爛々と輝かせた。
「こんの……意地っ張りがあああああ!」
「…………!」
拳と剣が交差する。
その瞬間、鎧が波打って消滅した。
「はっ……?」
疑問を感じた瞬間にはナニかが胸を突き破り、風穴を開けた。ドロリと流れだす赤い命を留めることも出来ず、ただただ眺めていた。あぁ、やけに頭がスッキリする──血が上りすぎていたからな、これくらいが丁度良い。霞む視界の中、少女の泣き顔を見た気がした。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー
みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。
魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。
人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。
そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。
物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる