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Phase2 力の覚醒への一歩的な何か!
ギルドへようこそ!②
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馬に揺られることおよそ30分。
廃墟がたむろする寂れた街が視界に入った。過去の戦闘で人気のなくなった無人の街。
「確認します、私たちの第一の仕事は魔術師の護衛です。複数人の混濁詠唱による大魔術でエアレイザーの数を減らします、それを守らねばなりません」
班のリーダーである由梨花が作戦内容を確認する。
約200名で構成されている血の闘争団の団員には、武闘派ではないが高位の神秘を起こせる人材がいるらしい。時間はかかるが強力な魔術を発動できるため、天炎者がわざわざ魔法を使わなくとも殲滅できる。
「第二の仕事は死縛者の討伐。発見した場合は優先的に撃破します、慈悲など必要ありません」
そして死縛者、新たなる生を受け入れられなかった転移者。
敵の軍勢に混じって破壊活動を続ける、理性を失ってモンスターと成り果てた存在。それを倒すのは、同じ転移者である天炎者の役目。
「そして……もし天炎者が率いているのなら、確実に殺害します」
仏頂面のまま最後まで言い切る。
数多の怪物を従えるのは、俺や由梨花と同じ人間。意思を持った人間だ。だというのに怪物側に加担して災禍を撒き散らしている。
確実に、殺さなければ。
「……聞いてますか、瑞希?」
「お、おう……聞いてる」
「大丈夫でありますかミズキ様!? 腰ですか!? 腰をやっちゃいましたか!?」
痛みを堪えて返事する。
静謐の箱庭までは訓練された馬で移動した。乗馬経験などない、というか記憶がない俺が馬を操れるワケもなく、由梨花班のメンバーが操る馬に相乗りする格好で。
「だ、大丈夫ですウィーザさん……」
「大変申し訳ありません! やはり甲冑でしたか、甲冑ですよね!? 脱いで肌着一枚になるべきでした、それならばミズキ様の負担も減るというのに!」
「何の解決にもなってませんから!」
乗馬はバランス感覚が無ければ腰を痛める。盛んに「背筋を伸ばして」「骨盤を立てて」と指導されたがどうもうまくいかない。身体を襲う負荷を軽減できず、衝撃はすべて腰に集中してしまった。
戦闘前から腰は重症だ。
「しかしお任せ下さい! 私が、この私が必ずお守り致します!」
ウィーザ・ベルンハルトと名乗った騎士は女性だった。鎧越しとはいえ抱き着いて乗馬するのは若干の抵抗があり、どうせならヴァルターに頼みたかったが断られた。由梨花と仲良くしていたことを未だに恨んででもいるのだろうか。
「……必要ないです」
「えぇ!?」
ウィーザの宣誓をキッパリとお断りする。
「ど、どうしてでありますか!? 私ではお気に召しませんでしたか!? やはりユリカ様のような小柄な女性のほうが──」
「そうじゃなくて!」
自分の身は自分で守れる、そう思ったからだ。
それに、誰かに『守る』と言われるのはあまり心地良いものではなかった。由梨花に言われた時とは状況が違う、今は一人の戦士なのだ。誰かを守る立場にいるのだから。
配下の騎士はもしもの時の保険──心のどこかで、恐れていたのかもしれない。
「甘く見ないで下さい、俺だって戦えます! それと様づけはやめて下さいよ!」
「はい、失礼しました……ミズキ様」
年上の騎士はシュンと声を抑えた。
俺が悪者みたいじゃないか! それに呼び方も変わってない!
「手元が疎かになっているぞウィーザ! いつ接敵するか分からんのだ、気を抜くな!」
「は……はい!」
そんなやり取りをしていた俺達をヴァルターが制する。この班の序列はハッキリしているものらしい。 他の班も同様だ、リーダーが状況に合わせて支持を出す。周りを見渡せば馬の大群、それに乗る皆、敵を打ち滅ぼす訓練を受けた戦士たち。新入りの俺はただ従うだけだ、この先人たちに。
「兄様ー!!」
一団から一頭の馬が駆け寄ってきた。
聞き覚えのある声、どうやらヴァルターの妹で間違いない。
「フリーデか、どうした?」
兜から覗くその表情は緊迫したものだった。
「先行部隊が敵を補足! エーデル要塞陣地に攻め入ってる!」
「なに!?」
乗馬する前に簡単な説明は受けたが、詳しく思い出せない。
「要塞陣地?」
「正規軍が建造した要塞であります、砦であります! 過去の大戦で奪われましたが奪還しました! 現在では血の闘争団も駐屯し、南下の際は足止めの役割を果たすのであります! 防衛拠点の一つであります!」
ウィーザが誇らしげに説明する。
過去の大戦、それは敵を箱庭へ押し込めた時のことだろう。何の対抗策も打っていないワケではない、それはそうだ、何十年も戦っているのだから。
「しかし大隊規模……どこまで抑えられるのでありましょうか」
続く言葉は悲痛な感情が含まれた。その表情は伺えないが、仲間の身を案じているのだろう、焦りと諦めが心の中で葛藤している。
「……ユリカ様、いかがなされますか?」
ヴァルターが班長に指示を仰ぐ。
幾度もの死闘を潜り抜けてきたであろう、普通の女子高生に。
「好都合です、要塞に引き入れて殲滅しましょう。一か所に集まった所を、大魔術で一網打尽にします」
動揺を見せず、仏頂面のまま。
使命に忠実に生きる由梨花は濁すことなく言い切った。
「は──全団員に伝える!! エーデル要塞陣地を包囲せよ!!」
騎士が剣を掲げて伝令を下すと、後続の団員は声を張り上げて応答する。命令は下された、あとはやるだけ……そう己を鼓舞したのだ。覚悟を決めろと。
「待ってくれ、引き入れるって……要塞を攻める敵をわざと見過ごすのか!?」
確かに、散らばっている敵をちまちまと討伐するのは効率が悪い。集めて大魔術を放てば殲滅できるだろう、犠牲者も囮役だけですむ……最低限の犠牲で。
その判断が正しいものかどうかは分からない。
でも。
でも、ウィーザの肩が震えた気がしたから。
「中で戦ってる人がいるんだろ!? それを見捨てるなんて──」
守るために。
そのために。
ここにいる。
「味方の犠牲は最小限、そして敵には最大の損害。これが戦争ですよ、瑞希」
なんたるかを教えられてしまった。
剣と魔法による血みどろの戦争。そこに感情が入る余地はない。
「あの要塞は攻勢を受け止める為につくられたのです、有効活用しなくては。それに何度も玉砕を経験しているのですよ? 多少の無茶は許されます」
「ふ……ふざけんな!」
少しは可愛げのあるヤツだと思っていた。
友達だと思っていた。
だがここにいるのは、使命を全うしようとする一人の戦士。
「今を生きてる人に……次なんてないんだぞ!?」
感情に任せて言葉を放つ。
俺や由梨花は悪魔の悪戯で再びの生を得た。残酷な呪いと宿命を定められたが、ある程度の自由は与えられている。その中で、命の使い方を決めたんだ。
それは一度死んだから。
未練はあっただろう、記憶の断片からは嗚咽の音が響き渡っていた。それでも納得して死を迎えた。
だが死を経験できる機会なんて普通は無い。強盗や暴漢に襲われて無念の死を遂げた者もいるだろう。心半ばに、納得できずに死んでいく──夢や理想を叶えられずに。
それがなんて悲しい事か、君も知っているハズなのに。
「ミズキ様……」
「少年……」
言うと、少女の口元が少しだけ、緩んだ気がした。
「安心してください、あの要塞には地下坑道が張り巡らされています。要塞指令が不利と判断すればすぐにでも避難しますよ、脱出路を通って」
「へ……?」
「地下迷宮みたいで楽しかったであります!」
「説明したハズだぞ、少年」
脱出できる?
それを知らなかったのは俺だけ?
「とはいえ、全ての脱出路が抑えられてしまっては逃げられん。それを確保するために包囲するのだ」
「包囲するであります! 敵は一体も逃がさないであります!」
考えれば当たり前のことじゃないか、何だか恥ずかしくなってきた。
「まあ……状況次第ですが。そろそろ見えますよ、戦場が」
俯いた顔をあげると、ウィーザの肩越しに黒煙がのぼる砦が目に入った。
☆ ☆ ☆
「展開しろ、一匹も街へ逃がすな! ライアー、メーヴェ、シュトルヒ班は我々と共にマギアの援護だ! 詠唱に横やりを入れる不束者を排除しろ!」
「「「了解!」」」
逼迫した様子で支持を下すヴァルターの顔に余裕はない。
エーデル要塞はすでに陥落していた。揺らぐ大量の黒煙は、敵を引き付けるだけ引き付けて自爆したことを意味していたのだ。内部を蹂躙した怪物の生き残りは外へ溢れ、到着したばかりの血の闘争団を熱烈に歓迎した。
充満する爆炎を突き抜けて異形の怪物たちが姿を現す。
翡翠のように輝くそれは、優雅に呼吸した。
歪な人型、望まれぬ子供、狂戦士──エアレイザー。
「瑞希、いつでも戦えるようにして下さい」
「分かってる!」
馬から降り、剣を抜く。
4人で隊列を組み、後方に控える魔術師たちの前で盾となる。他の班も取り囲むように展開し、呪文の詠唱をサポートするのだ。
『我、相容れぬ双星を打ち砕きし鋼鉄なり』
一体のエアレイザーが放つ翡翠の輝きが増したかと思うと、ねじ曲がった足からは到底想像できないスピードで向かってきた。その腕が揺らめいたかと思うと、巨大な鎌へと変形した。獲物を見つけた飢えた怪物は、先頭に立つ少女に狙いを定めたようであった。
「煌く黄金の刻印よ、闇を照らす灯台よ──顕現せよ、騎士の嫉心!」
雷撃を纏うロングソードを構えて疾走し、勢いそのままに両断した。ヴァルターはちらと残身したかと思うとすぐ向き直り、新たな敵の対処に身構えた。
境目が曖昧な上半身と下半身に分断された怪物は生きていた。耳障りな奇声をあげ、なぜ自分が寝転がっているのかも分からない様子で必死に空を掻き、それでも獲物は諦めないで届きもしない手を伸ばした。
「瞬く緋色の印章よ、海を染める赤月よ──決壊せよ、騎士の愉悦!」
ウィーザが手にする剣にも白光が瞬き、それが地をもがくエアレイザーに振るわれたかと思うと、途端に翡翠の美しさが薄汚い緑色へと移りゆき、個体を維持できず液体と変り果ててパシャッと崩壊した。ただ残されるのは不純物の混じった体液。
「見たでありますかミズキ様!? これが私の力であります!」
気分が高揚しているらしい彼女は構わないでおこう、緊張が途切れる。
『星は堕ち、獄に満ちるは醜き醜悪』
他の団員もそれぞれの獲物を抜き、襲い来る怪物を閃光や灼熱をもって倒していく。
流石は手練れの戦士たち──天炎者が手伝う必要もないのでは、そう思ってしまうほどに手際が良かった。
だが翡翠の怪物は倒しても倒してもキリがない、それどころか数が増加している。攻め入ったのは大隊規模、300体以上はこの要塞に入り込んでいるのだ。全てが溢れ出す前に大魔術で一掃しなければ。
「瑞希、聞いて下さい」
緊張が包む中、由梨花が落ち着いた声で話してきた。
「なんだ?」
「あなたの力はすでに目覚めているハズです。だからきっと、生きて帰れます」
金切り声と斬撃音がやけに遠く聞こえた。
「何言ってるんだよ、縁起でもない……みんなで帰れるさ。それに、守るって言ったのはどこの誰だ?」
「すみません、ですが言っておかなければならないと思いまして」
少女はそういって優しく微笑んだ。
『さらば、双極の栄誉を両手に宿し』
陰気な話は続けたくなかったので別の話題を持ち出す。
「つーか力って……由梨花の炎みたいなものだろ? あれってどうやって出すんだ?」
「さあ?」
「さあ!?」
「気付いたら出ていました。技名も自然と頭に浮かんだのですよ」
「えぇ……そんなの浮かんだことないぞ。必殺技が使えない俺なんて足手まといじゃん」
「足止めくらいは出来ますよ。あとは囮とか」
「体が丈夫な天炎者には適任ですねぇ! 絶対やらん!」
微笑みは冷笑だったようだ。
「死縛者を倒した時のこと覚えてますか? あの時、確実に死んでいました──あなたの力で」
「へ? マジ?」
思わず驚く。あの死縛者は首を撥ねても動きを止めずに襲い掛かって来たのだ、最期にはノーレンが氷漬けにして体を砕いた。俺の攻撃は効いていないと思っていた。
「おそらくですが……そうですね、まさに“絶ち切る力”でしょうか。肉体だけではなく、魂さえも切ることが可能ではないですか?」
「魂? ウソだろ、そんな大層な事が出来るワケないって」
「おそらくと言ったではないですか」
冷ややかな目で睨まれる。
罪に反した力か……“縛る”の反対は“解く”じゃないのか。
『鬼哭を奏でよ、抗う者よ!』
肉体と魂を解くのだろうか、それはとても強力だ。
でもどうせなら、由梨花みたいな炎のほうが良かったな……カッコイイし。
「この戦いで見極めて下さい……そろそろ発動しますよ、大魔術が」
忠告を聞いて、後方へ目を移す。魔術師一団の頭上には幾何学模様の魔法陣が浮かび、中心に位置する漆黒の球体からは溢れんばかりの雷光が奔っていた。
「すげえ……」
「原理は分かりませんが、これからアレを要塞へぶつけます。極小のブラックホールだと言われています」
ブラックホールか……とんでもないものを発動したな。いや、それくらいじゃないと大群は殲滅できないのか。
シュヴァルツシルトの闇──全てを飲み込む深淵。
「掃討はその後です、気を抜かないように」
「あぁ分かった」
襲ってくるエアレイザーは多いが拮抗──いや、こちらが優勢だ、必ず撃てる。発動した後で一匹残らず息の根を止めるんだ、この手で。
死縛者も天炎者もいない。必ず勝てる。
「そういや、ノーレンは先に来てるんだよな? いなくね?」
「それは……」
『汝、匣を這い出し守護の蔭!』
疑問の回答は轟音に掻き消された。
「……ッ!!」
突風と閃光が吹き荒れて目が開けていられなかった。顔を覆った腕の間から眩しさを堪えて覗き見ると、石造りの城壁が崩壊していく様子が映った。
閃光、雷鳴、爆炎、轟音、それらがエーデル要塞を瞬く間に飲み込んで、敵の軍勢ごと崩れ落ちた。漆黒の闇が消失すると、土煙の中から要塞の残骸が現れる。生き残りのエアレイザーも。
「では行きましょう、掃討作戦に移り──」
由梨花が新たな命令を下そうとした時、土煙をさいて何かが吹き飛んできた。
歩を進めた血の闘争団の目前にべちゃ、と不快な音を立てて落ちてきたのは、鮮血を撒き散らす人間の腕。上腕から引き千切られたそれは細く、明らかに女性のものだった。
「ひっ……!?」
「あ、見つけた。 会いたかったよ山城君!」
驚愕した俺の名を呼んだ声の主は、じゃり、じゃり、と音を立てて瓦礫の中を歩いてくる。
黒と赤の学生服。俺と同じ高校。だが覚えがない……いや、どこかで。
「悲しいね……こんな形で再開するなんて」
その男は、片手に剣、片手に少女を携えていた。
「ノーレン!?」
「これ? いらないからあげるよ! 僕は君が欲しいんだ、山城君!」
男は少女の体を乱暴に、瓦礫の片隅へと放り投げた。真っ青な顔の少女には左腕が無い──この男がやったのか。
「誰だお前は!? ノーレンに何した!?」
「僕の事忘れたの? そっかぁ……悲しいな、悲しいよ」
分かり切っていることじゃないか。
「瑞希、彼は──敵です!」
エアレイザーを率いるは天炎者。
「悲しいから……悲しいなら……殺してあげるよぉ!!」
☆ ☆ ☆
「救世主なんだよ僕はぁ! 今度こそ救ってあげるよぉ!!」
我を忘れた死縛者ではない、意思を持った人間。
怪物を従える異世界よりの来訪者。
「君たちは山城くんに手を出さないでねぇ!! 他のゴミを殺せぇ!!」
光を失った瞳に映るのは、ただ、一人の男のみ。
命令された異形の怪物たちは要塞を包囲する血の闘争団へと襲い掛かり、本格的な白兵戦が開始された。
「瑞希、行きますよ──ヴァルター!」
「魔術師は後退しろ! 我々は敵の天炎者を駆除する! ライアー班もついてこい、ノーレン様を回収!」
誰だろうと構うものか、敵は──殺す。
「目覚めろ、恐怖の王冠!」
──残響の檻に囚われし
──其は、高炉を廻す泥人形
──胎動せよ、無垢なる辜
どくん、どくんと右手全体が脈打ち、熱が集まっていく。
巨大な剣を握りしめ、駆け出した由梨花班の後を追う。エアレイザーたちは道を開け、その進行を阻むことはなかった。
「吼えなさい、愛の腕飾り!」
──追憶の闇に閉ざされし
──其は、転炉を巡る藁人形
──咆哮せよ、純潔の辟
由梨花も炎剣を顕現させ、獄炎を纏って先陣を斬る。これから人を殺す、その覚悟を手に。
「邪魔だなぁ……君たちはぁ!!」
男が不満を口にしたかと思うと、未だ土煙を上げる要塞の残骸から一つの影が出現する。それは真っすぐに由梨花班を目掛けて疾走し、宿した凶爪を振り上げた。
「死縛者!」
「応戦せよ!」
ヴァルターとウィーザが盾となり、その攻撃を受け止める。すぐさま由梨花が剣を振るい、高熱のバーナーで全身を切り裂く。
以前の戦闘の際は、他のモンスターとの連戦で本領を発揮できなかった、なんて愚痴を言っていたな。
「瑞希──!?」
この班なら死縛者一体に手こずることはない、そう判断して戦場を駆ける。咎める少女の声が聞こえたが構うものか、どうせ連携が取れない自分は足手まといにしかならない。
第一、敵は俺のことを所望しているのだ。
生前の俺と関りを持った転移者らしいが、知ったことか、あの少女を危険に晒すような事をしでかす者はみんな敵だ。
「死ねえええええ!」
呪詛を込め、呪いの剣を振りかざす。
救世主なワケがあるか、怪物を率いて災厄を撒き散らす悪の権化ではないか。天炎者ではなく既に死縛者だ、この男は。
「あは! あははははは~!!」
ギン、と金属音が響き渡る。それに乗せて、小柄な男の愉快な笑い声が伝わった。
「そんな顔を見るのは久しぶりだよぉ!」
「何!?」
男が手にするは、巨大な肉切り包丁。鈍く光るそれは、全力で突き刺したハズの俺の剣をいとも容易く受け止めた。
「嬉しかったなぁ、君がクラスのクズどもを血祭りにあげたときはぁ! 今でも覚えてるよぉあの時のことぉ!」
いくら押し込んでもビクともしないで、この優男は享楽に満ちた声をあげ続ける。
「僕のヒーローだったんだよ君はぁ! 大好きなんだよ、愛してるんだよ君のことがぁ!」
「知るかよ、気色悪い!」
このままでは貫けない、そう思考した時には剣が縦に割れ、男の肉切り包丁を挟みこんだ。刃渡りは1メートル以上あるのだ、このまま体を貫く。
躊躇いはどれくらい、俺を試すのだろう。
「……啼こう、感激の半冠」
──慟哭の渦に塞がれし
──其は、溶炉を導く土人形
──蠕動せよ、無根の謬
記憶の断片が、僅かに剣を戸惑わせた。考えるな、過去と決別したのだ、そう思っても欲求は溢れてくる。
肉を貫くハズの剣は突如発現した鋼鉄の鎧に阻まれ、重い金属音を放って停止した。月白に輝くソレは、まさにティアラのように美しかった。
「嬉しいな……嬉しいよ。もっと僕を見て、山城君」
鎧を纏った男は静かな声でねだる。
他所で行われている戦闘など意に介さず、ただ、目の前の存在にだけ認めて欲しくて。
「僕は英雄になったんだ、今度は僕が主人公なんだ。一緒に遊ぼう、この世界で」
「黙れ! テメーは敵だ、さっさと死ね!」
躊躇うな、俺はすでに一人殺したんだ、名前も知らないどこかの誰かを。コイツも同じだ、会話が出来るだけの狂人だ、殺すことを躊躇うな!
鎧を貫けなかったのは勢いが足りなかったからだ、そう思い一気に引き抜いて距離を取る。剣を構え直して再びの突撃に備えて姿勢を低くした。
「本当に忘れたの? 僕だよ、高村──」
名前など聞く必要はない、聞いたら後悔してしまう。
元の形に戻った剣を突き刺す──だが軟弱な肉切り包丁に防がれ、ならばと身を捻って回転し、遠心力を上乗せした剣先で頭部を狙う。
「──危ないなぁ。昔は僕の話をちゃんと聞いてくれたのに」
鎧の繋ぎ目を狙った斬撃は屈んで躱され、更なる追撃も軽くいなされる。
「化け物の話なんざ誰が聞くか!」
焦燥に駆られながらの戦闘。
ズキズキと頭が痛む。ケガなどしていない、原因は憶測がついている。コイツだ……コイツが原因だ。
「僕は人間だよ山城君? チートを与えられた……最強の主人公なんだよ僕はぁ!」
「ぐっ!?」
防戦一方だった白光の鎧であったが、口調が再び強くなると共に手にした包丁で薙ぎ払った。小さな体からは想像も出来ないほどの衝撃に思わず呻く。
「この世界を好きにしていいんだよぉ! 自由に生きるのが許されるんだよぉ! そうだよ、この世界は僕の為にあるんだよぉ!」
月白の輝きが、増したように見えた。
一切の曇りがないソレは、美しくて、美しくて──だが灯りに背を向けたのだ、守るために逸らしたのだ、選んだのは闇なのだ、と思考して戦意を滾らせる。
「知ったことか、いいから死ね!」
「君も一緒においでよぉ! 特別にぃ、救済は最後にしてあげるよぉ! 二人で真っ白なキャンパスを汚そう、あの日みたいに真っ赤にぃ!」
「黙れえええええ!」
綺麗なお前も闇に引きずり込んでやる──天国でも地獄でもない、完全なシュヴァルツシルトの深淵に。
痛みが強くなる頭にうなされながら、右手に覇気を込めて駆けた。
「掃除した後は、好きな小説を真似てストーリー作ろうよぉ! きっと楽しい世界になるよぉ!」
だが男が操る包丁に阻まれて貫けない。挟んで奪おうと画策したが、先の攻撃で用心しているのか、刃の腹で受け止めずにはじき返すようになった。
ならば、と左手にジャマダハルを引き抜いて慣れない二刀流で立ち向かう。
「僕たちは祝福されたんだよぉ! そうだ、君の為にも男は殺して女は生かそう! ハーレムなんて簡単に作れるんだよぉ!」
「殺す!」
コイツだ、コイツが新たなる魔王だ。
魔王は殺せ、慈悲などない。
「どれだけ孕ませようと構わないよぉ、みんな、み~んな愛してあげるよぉ!」
「殺す!」
例え過去の友人だろうと。
「転移してきた女にはたくさん産ませよう! そして遺伝子汚染するんだ、この世界をぉ!」
「殺す!」
兜から垣間見える瞳は焦点があっていない、この男は確実に狂っている。全て妄言だ、耳を貸さずに攻撃を続ける。だが有効打は未だに放てていない。
「僕たちのミトコンドリアが支配するんだ、この世界をぉ!!」
「殺す!」
左手のジャマダハルに渾身の力と呪いを込めて投げる。頭部を狙った剣を弾くために包丁を掲げ、男の胴体はガラ空きになった。
この世界にも生きている人がいる。
大切な人が。
異世界からやってきた人もいる。
大切な友人が。
この汚れた身でも、居場所を与えてくれた人たちがいる。
それをぐちゃぐちゃに、汚されてたまるか。
「死ねえええええ!」
殺意を滾らせ、巨大な剣を突き刺す。真っ白な鎧に亀裂が入り、肉を切る感触が伝わってくる。忘れていた破壊の快楽を感じながら、「割れろ」と思考し、更に傷を拡張する。
俺だ、強いのはこの俺だ。お前なんかじゃない。
男は驚愕したようであった。
──どうして、僕を傷つけるの?
裏切られた、という感情が伝播した気がした。
「消えろおおおおお!」
力任せに薙いで、脇腹まで切り裂く。真っ黒な液体が溢れ出て、バランスを崩した男は片膝をついた。
「死ね──!」
もう一度、夢でも見ていろ。
何もない、真っ暗な闇の中で。
希望も、絶望もない虚無の空間で。
その首を挟み込んで、俺の意思通りに、剣は閉じた。
液体が飛び散り、それらは雨のように降り注いだ。
魔王の血。浴びれば不老不死にでもなれるのだろう。
だが自分には不要だ。ただ、あの少女と過ごせるだけでいい。永遠なんて苦しいものはいらない、同じ時を生きられる当たり前の日常があれば、それでいい。罪を贖う旅に出て、たまに顔を見れればいいんだ。
「…………」
男は動かなくなった。
コイツは紛れもなく、生前の知り合いだ。ぼやけた記憶にも登場していた。間に合わなかった──後悔の念が押し寄せた、あの断片。
──僕がいて、良かったかな?
残響は鳴り止まない。
胸に届くこの声は、今にも途切れそうなか弱い声。
命の燈火が消えそうな、存在感を失った声だった。
「もう、休め……」
過去とは旅立った。
今、ここにいる俺が全てだ。
命の使い方も決めた、その為に存在している。
収まらない頭痛を堪え、未だ手こずっているのか、加勢に来ない由梨花たちの元へ向かおうと振り返る。
「あは……あはははははぁ!!」
耳障りな声が、聞こえた。
「僕は主人公なんだよぉ! この程度じゃ死なないよぉ!」
倒したハズの男へ向き直ると、撥ねた首がブクブクと泡立ち、新たな頭が形成されていた。
「君の力は僕には効かないよぉ! チート持ちって言ったよねぇ!?」
怪物は、醜い顔で咆えた。
美しい鎧とは真逆の、憎悪に満ちた表情で。
廃墟がたむろする寂れた街が視界に入った。過去の戦闘で人気のなくなった無人の街。
「確認します、私たちの第一の仕事は魔術師の護衛です。複数人の混濁詠唱による大魔術でエアレイザーの数を減らします、それを守らねばなりません」
班のリーダーである由梨花が作戦内容を確認する。
約200名で構成されている血の闘争団の団員には、武闘派ではないが高位の神秘を起こせる人材がいるらしい。時間はかかるが強力な魔術を発動できるため、天炎者がわざわざ魔法を使わなくとも殲滅できる。
「第二の仕事は死縛者の討伐。発見した場合は優先的に撃破します、慈悲など必要ありません」
そして死縛者、新たなる生を受け入れられなかった転移者。
敵の軍勢に混じって破壊活動を続ける、理性を失ってモンスターと成り果てた存在。それを倒すのは、同じ転移者である天炎者の役目。
「そして……もし天炎者が率いているのなら、確実に殺害します」
仏頂面のまま最後まで言い切る。
数多の怪物を従えるのは、俺や由梨花と同じ人間。意思を持った人間だ。だというのに怪物側に加担して災禍を撒き散らしている。
確実に、殺さなければ。
「……聞いてますか、瑞希?」
「お、おう……聞いてる」
「大丈夫でありますかミズキ様!? 腰ですか!? 腰をやっちゃいましたか!?」
痛みを堪えて返事する。
静謐の箱庭までは訓練された馬で移動した。乗馬経験などない、というか記憶がない俺が馬を操れるワケもなく、由梨花班のメンバーが操る馬に相乗りする格好で。
「だ、大丈夫ですウィーザさん……」
「大変申し訳ありません! やはり甲冑でしたか、甲冑ですよね!? 脱いで肌着一枚になるべきでした、それならばミズキ様の負担も減るというのに!」
「何の解決にもなってませんから!」
乗馬はバランス感覚が無ければ腰を痛める。盛んに「背筋を伸ばして」「骨盤を立てて」と指導されたがどうもうまくいかない。身体を襲う負荷を軽減できず、衝撃はすべて腰に集中してしまった。
戦闘前から腰は重症だ。
「しかしお任せ下さい! 私が、この私が必ずお守り致します!」
ウィーザ・ベルンハルトと名乗った騎士は女性だった。鎧越しとはいえ抱き着いて乗馬するのは若干の抵抗があり、どうせならヴァルターに頼みたかったが断られた。由梨花と仲良くしていたことを未だに恨んででもいるのだろうか。
「……必要ないです」
「えぇ!?」
ウィーザの宣誓をキッパリとお断りする。
「ど、どうしてでありますか!? 私ではお気に召しませんでしたか!? やはりユリカ様のような小柄な女性のほうが──」
「そうじゃなくて!」
自分の身は自分で守れる、そう思ったからだ。
それに、誰かに『守る』と言われるのはあまり心地良いものではなかった。由梨花に言われた時とは状況が違う、今は一人の戦士なのだ。誰かを守る立場にいるのだから。
配下の騎士はもしもの時の保険──心のどこかで、恐れていたのかもしれない。
「甘く見ないで下さい、俺だって戦えます! それと様づけはやめて下さいよ!」
「はい、失礼しました……ミズキ様」
年上の騎士はシュンと声を抑えた。
俺が悪者みたいじゃないか! それに呼び方も変わってない!
「手元が疎かになっているぞウィーザ! いつ接敵するか分からんのだ、気を抜くな!」
「は……はい!」
そんなやり取りをしていた俺達をヴァルターが制する。この班の序列はハッキリしているものらしい。 他の班も同様だ、リーダーが状況に合わせて支持を出す。周りを見渡せば馬の大群、それに乗る皆、敵を打ち滅ぼす訓練を受けた戦士たち。新入りの俺はただ従うだけだ、この先人たちに。
「兄様ー!!」
一団から一頭の馬が駆け寄ってきた。
聞き覚えのある声、どうやらヴァルターの妹で間違いない。
「フリーデか、どうした?」
兜から覗くその表情は緊迫したものだった。
「先行部隊が敵を補足! エーデル要塞陣地に攻め入ってる!」
「なに!?」
乗馬する前に簡単な説明は受けたが、詳しく思い出せない。
「要塞陣地?」
「正規軍が建造した要塞であります、砦であります! 過去の大戦で奪われましたが奪還しました! 現在では血の闘争団も駐屯し、南下の際は足止めの役割を果たすのであります! 防衛拠点の一つであります!」
ウィーザが誇らしげに説明する。
過去の大戦、それは敵を箱庭へ押し込めた時のことだろう。何の対抗策も打っていないワケではない、それはそうだ、何十年も戦っているのだから。
「しかし大隊規模……どこまで抑えられるのでありましょうか」
続く言葉は悲痛な感情が含まれた。その表情は伺えないが、仲間の身を案じているのだろう、焦りと諦めが心の中で葛藤している。
「……ユリカ様、いかがなされますか?」
ヴァルターが班長に指示を仰ぐ。
幾度もの死闘を潜り抜けてきたであろう、普通の女子高生に。
「好都合です、要塞に引き入れて殲滅しましょう。一か所に集まった所を、大魔術で一網打尽にします」
動揺を見せず、仏頂面のまま。
使命に忠実に生きる由梨花は濁すことなく言い切った。
「は──全団員に伝える!! エーデル要塞陣地を包囲せよ!!」
騎士が剣を掲げて伝令を下すと、後続の団員は声を張り上げて応答する。命令は下された、あとはやるだけ……そう己を鼓舞したのだ。覚悟を決めろと。
「待ってくれ、引き入れるって……要塞を攻める敵をわざと見過ごすのか!?」
確かに、散らばっている敵をちまちまと討伐するのは効率が悪い。集めて大魔術を放てば殲滅できるだろう、犠牲者も囮役だけですむ……最低限の犠牲で。
その判断が正しいものかどうかは分からない。
でも。
でも、ウィーザの肩が震えた気がしたから。
「中で戦ってる人がいるんだろ!? それを見捨てるなんて──」
守るために。
そのために。
ここにいる。
「味方の犠牲は最小限、そして敵には最大の損害。これが戦争ですよ、瑞希」
なんたるかを教えられてしまった。
剣と魔法による血みどろの戦争。そこに感情が入る余地はない。
「あの要塞は攻勢を受け止める為につくられたのです、有効活用しなくては。それに何度も玉砕を経験しているのですよ? 多少の無茶は許されます」
「ふ……ふざけんな!」
少しは可愛げのあるヤツだと思っていた。
友達だと思っていた。
だがここにいるのは、使命を全うしようとする一人の戦士。
「今を生きてる人に……次なんてないんだぞ!?」
感情に任せて言葉を放つ。
俺や由梨花は悪魔の悪戯で再びの生を得た。残酷な呪いと宿命を定められたが、ある程度の自由は与えられている。その中で、命の使い方を決めたんだ。
それは一度死んだから。
未練はあっただろう、記憶の断片からは嗚咽の音が響き渡っていた。それでも納得して死を迎えた。
だが死を経験できる機会なんて普通は無い。強盗や暴漢に襲われて無念の死を遂げた者もいるだろう。心半ばに、納得できずに死んでいく──夢や理想を叶えられずに。
それがなんて悲しい事か、君も知っているハズなのに。
「ミズキ様……」
「少年……」
言うと、少女の口元が少しだけ、緩んだ気がした。
「安心してください、あの要塞には地下坑道が張り巡らされています。要塞指令が不利と判断すればすぐにでも避難しますよ、脱出路を通って」
「へ……?」
「地下迷宮みたいで楽しかったであります!」
「説明したハズだぞ、少年」
脱出できる?
それを知らなかったのは俺だけ?
「とはいえ、全ての脱出路が抑えられてしまっては逃げられん。それを確保するために包囲するのだ」
「包囲するであります! 敵は一体も逃がさないであります!」
考えれば当たり前のことじゃないか、何だか恥ずかしくなってきた。
「まあ……状況次第ですが。そろそろ見えますよ、戦場が」
俯いた顔をあげると、ウィーザの肩越しに黒煙がのぼる砦が目に入った。
☆ ☆ ☆
「展開しろ、一匹も街へ逃がすな! ライアー、メーヴェ、シュトルヒ班は我々と共にマギアの援護だ! 詠唱に横やりを入れる不束者を排除しろ!」
「「「了解!」」」
逼迫した様子で支持を下すヴァルターの顔に余裕はない。
エーデル要塞はすでに陥落していた。揺らぐ大量の黒煙は、敵を引き付けるだけ引き付けて自爆したことを意味していたのだ。内部を蹂躙した怪物の生き残りは外へ溢れ、到着したばかりの血の闘争団を熱烈に歓迎した。
充満する爆炎を突き抜けて異形の怪物たちが姿を現す。
翡翠のように輝くそれは、優雅に呼吸した。
歪な人型、望まれぬ子供、狂戦士──エアレイザー。
「瑞希、いつでも戦えるようにして下さい」
「分かってる!」
馬から降り、剣を抜く。
4人で隊列を組み、後方に控える魔術師たちの前で盾となる。他の班も取り囲むように展開し、呪文の詠唱をサポートするのだ。
『我、相容れぬ双星を打ち砕きし鋼鉄なり』
一体のエアレイザーが放つ翡翠の輝きが増したかと思うと、ねじ曲がった足からは到底想像できないスピードで向かってきた。その腕が揺らめいたかと思うと、巨大な鎌へと変形した。獲物を見つけた飢えた怪物は、先頭に立つ少女に狙いを定めたようであった。
「煌く黄金の刻印よ、闇を照らす灯台よ──顕現せよ、騎士の嫉心!」
雷撃を纏うロングソードを構えて疾走し、勢いそのままに両断した。ヴァルターはちらと残身したかと思うとすぐ向き直り、新たな敵の対処に身構えた。
境目が曖昧な上半身と下半身に分断された怪物は生きていた。耳障りな奇声をあげ、なぜ自分が寝転がっているのかも分からない様子で必死に空を掻き、それでも獲物は諦めないで届きもしない手を伸ばした。
「瞬く緋色の印章よ、海を染める赤月よ──決壊せよ、騎士の愉悦!」
ウィーザが手にする剣にも白光が瞬き、それが地をもがくエアレイザーに振るわれたかと思うと、途端に翡翠の美しさが薄汚い緑色へと移りゆき、個体を維持できず液体と変り果ててパシャッと崩壊した。ただ残されるのは不純物の混じった体液。
「見たでありますかミズキ様!? これが私の力であります!」
気分が高揚しているらしい彼女は構わないでおこう、緊張が途切れる。
『星は堕ち、獄に満ちるは醜き醜悪』
他の団員もそれぞれの獲物を抜き、襲い来る怪物を閃光や灼熱をもって倒していく。
流石は手練れの戦士たち──天炎者が手伝う必要もないのでは、そう思ってしまうほどに手際が良かった。
だが翡翠の怪物は倒しても倒してもキリがない、それどころか数が増加している。攻め入ったのは大隊規模、300体以上はこの要塞に入り込んでいるのだ。全てが溢れ出す前に大魔術で一掃しなければ。
「瑞希、聞いて下さい」
緊張が包む中、由梨花が落ち着いた声で話してきた。
「なんだ?」
「あなたの力はすでに目覚めているハズです。だからきっと、生きて帰れます」
金切り声と斬撃音がやけに遠く聞こえた。
「何言ってるんだよ、縁起でもない……みんなで帰れるさ。それに、守るって言ったのはどこの誰だ?」
「すみません、ですが言っておかなければならないと思いまして」
少女はそういって優しく微笑んだ。
『さらば、双極の栄誉を両手に宿し』
陰気な話は続けたくなかったので別の話題を持ち出す。
「つーか力って……由梨花の炎みたいなものだろ? あれってどうやって出すんだ?」
「さあ?」
「さあ!?」
「気付いたら出ていました。技名も自然と頭に浮かんだのですよ」
「えぇ……そんなの浮かんだことないぞ。必殺技が使えない俺なんて足手まといじゃん」
「足止めくらいは出来ますよ。あとは囮とか」
「体が丈夫な天炎者には適任ですねぇ! 絶対やらん!」
微笑みは冷笑だったようだ。
「死縛者を倒した時のこと覚えてますか? あの時、確実に死んでいました──あなたの力で」
「へ? マジ?」
思わず驚く。あの死縛者は首を撥ねても動きを止めずに襲い掛かって来たのだ、最期にはノーレンが氷漬けにして体を砕いた。俺の攻撃は効いていないと思っていた。
「おそらくですが……そうですね、まさに“絶ち切る力”でしょうか。肉体だけではなく、魂さえも切ることが可能ではないですか?」
「魂? ウソだろ、そんな大層な事が出来るワケないって」
「おそらくと言ったではないですか」
冷ややかな目で睨まれる。
罪に反した力か……“縛る”の反対は“解く”じゃないのか。
『鬼哭を奏でよ、抗う者よ!』
肉体と魂を解くのだろうか、それはとても強力だ。
でもどうせなら、由梨花みたいな炎のほうが良かったな……カッコイイし。
「この戦いで見極めて下さい……そろそろ発動しますよ、大魔術が」
忠告を聞いて、後方へ目を移す。魔術師一団の頭上には幾何学模様の魔法陣が浮かび、中心に位置する漆黒の球体からは溢れんばかりの雷光が奔っていた。
「すげえ……」
「原理は分かりませんが、これからアレを要塞へぶつけます。極小のブラックホールだと言われています」
ブラックホールか……とんでもないものを発動したな。いや、それくらいじゃないと大群は殲滅できないのか。
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「掃討はその後です、気を抜かないように」
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襲ってくるエアレイザーは多いが拮抗──いや、こちらが優勢だ、必ず撃てる。発動した後で一匹残らず息の根を止めるんだ、この手で。
死縛者も天炎者もいない。必ず勝てる。
「そういや、ノーレンは先に来てるんだよな? いなくね?」
「それは……」
『汝、匣を這い出し守護の蔭!』
疑問の回答は轟音に掻き消された。
「……ッ!!」
突風と閃光が吹き荒れて目が開けていられなかった。顔を覆った腕の間から眩しさを堪えて覗き見ると、石造りの城壁が崩壊していく様子が映った。
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由梨花が新たな命令を下そうとした時、土煙をさいて何かが吹き飛んできた。
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「僕の事忘れたの? そっかぁ……悲しいな、悲しいよ」
分かり切っていることじゃないか。
「瑞希、彼は──敵です!」
エアレイザーを率いるは天炎者。
「悲しいから……悲しいなら……殺してあげるよぉ!!」
☆ ☆ ☆
「救世主なんだよ僕はぁ! 今度こそ救ってあげるよぉ!!」
我を忘れた死縛者ではない、意思を持った人間。
怪物を従える異世界よりの来訪者。
「君たちは山城くんに手を出さないでねぇ!! 他のゴミを殺せぇ!!」
光を失った瞳に映るのは、ただ、一人の男のみ。
命令された異形の怪物たちは要塞を包囲する血の闘争団へと襲い掛かり、本格的な白兵戦が開始された。
「瑞希、行きますよ──ヴァルター!」
「魔術師は後退しろ! 我々は敵の天炎者を駆除する! ライアー班もついてこい、ノーレン様を回収!」
誰だろうと構うものか、敵は──殺す。
「目覚めろ、恐怖の王冠!」
──残響の檻に囚われし
──其は、高炉を廻す泥人形
──胎動せよ、無垢なる辜
どくん、どくんと右手全体が脈打ち、熱が集まっていく。
巨大な剣を握りしめ、駆け出した由梨花班の後を追う。エアレイザーたちは道を開け、その進行を阻むことはなかった。
「吼えなさい、愛の腕飾り!」
──追憶の闇に閉ざされし
──其は、転炉を巡る藁人形
──咆哮せよ、純潔の辟
由梨花も炎剣を顕現させ、獄炎を纏って先陣を斬る。これから人を殺す、その覚悟を手に。
「邪魔だなぁ……君たちはぁ!!」
男が不満を口にしたかと思うと、未だ土煙を上げる要塞の残骸から一つの影が出現する。それは真っすぐに由梨花班を目掛けて疾走し、宿した凶爪を振り上げた。
「死縛者!」
「応戦せよ!」
ヴァルターとウィーザが盾となり、その攻撃を受け止める。すぐさま由梨花が剣を振るい、高熱のバーナーで全身を切り裂く。
以前の戦闘の際は、他のモンスターとの連戦で本領を発揮できなかった、なんて愚痴を言っていたな。
「瑞希──!?」
この班なら死縛者一体に手こずることはない、そう判断して戦場を駆ける。咎める少女の声が聞こえたが構うものか、どうせ連携が取れない自分は足手まといにしかならない。
第一、敵は俺のことを所望しているのだ。
生前の俺と関りを持った転移者らしいが、知ったことか、あの少女を危険に晒すような事をしでかす者はみんな敵だ。
「死ねえええええ!」
呪詛を込め、呪いの剣を振りかざす。
救世主なワケがあるか、怪物を率いて災厄を撒き散らす悪の権化ではないか。天炎者ではなく既に死縛者だ、この男は。
「あは! あははははは~!!」
ギン、と金属音が響き渡る。それに乗せて、小柄な男の愉快な笑い声が伝わった。
「そんな顔を見るのは久しぶりだよぉ!」
「何!?」
男が手にするは、巨大な肉切り包丁。鈍く光るそれは、全力で突き刺したハズの俺の剣をいとも容易く受け止めた。
「嬉しかったなぁ、君がクラスのクズどもを血祭りにあげたときはぁ! 今でも覚えてるよぉあの時のことぉ!」
いくら押し込んでもビクともしないで、この優男は享楽に満ちた声をあげ続ける。
「僕のヒーローだったんだよ君はぁ! 大好きなんだよ、愛してるんだよ君のことがぁ!」
「知るかよ、気色悪い!」
このままでは貫けない、そう思考した時には剣が縦に割れ、男の肉切り包丁を挟みこんだ。刃渡りは1メートル以上あるのだ、このまま体を貫く。
躊躇いはどれくらい、俺を試すのだろう。
「……啼こう、感激の半冠」
──慟哭の渦に塞がれし
──其は、溶炉を導く土人形
──蠕動せよ、無根の謬
記憶の断片が、僅かに剣を戸惑わせた。考えるな、過去と決別したのだ、そう思っても欲求は溢れてくる。
肉を貫くハズの剣は突如発現した鋼鉄の鎧に阻まれ、重い金属音を放って停止した。月白に輝くソレは、まさにティアラのように美しかった。
「嬉しいな……嬉しいよ。もっと僕を見て、山城君」
鎧を纏った男は静かな声でねだる。
他所で行われている戦闘など意に介さず、ただ、目の前の存在にだけ認めて欲しくて。
「僕は英雄になったんだ、今度は僕が主人公なんだ。一緒に遊ぼう、この世界で」
「黙れ! テメーは敵だ、さっさと死ね!」
躊躇うな、俺はすでに一人殺したんだ、名前も知らないどこかの誰かを。コイツも同じだ、会話が出来るだけの狂人だ、殺すことを躊躇うな!
鎧を貫けなかったのは勢いが足りなかったからだ、そう思い一気に引き抜いて距離を取る。剣を構え直して再びの突撃に備えて姿勢を低くした。
「本当に忘れたの? 僕だよ、高村──」
名前など聞く必要はない、聞いたら後悔してしまう。
元の形に戻った剣を突き刺す──だが軟弱な肉切り包丁に防がれ、ならばと身を捻って回転し、遠心力を上乗せした剣先で頭部を狙う。
「──危ないなぁ。昔は僕の話をちゃんと聞いてくれたのに」
鎧の繋ぎ目を狙った斬撃は屈んで躱され、更なる追撃も軽くいなされる。
「化け物の話なんざ誰が聞くか!」
焦燥に駆られながらの戦闘。
ズキズキと頭が痛む。ケガなどしていない、原因は憶測がついている。コイツだ……コイツが原因だ。
「僕は人間だよ山城君? チートを与えられた……最強の主人公なんだよ僕はぁ!」
「ぐっ!?」
防戦一方だった白光の鎧であったが、口調が再び強くなると共に手にした包丁で薙ぎ払った。小さな体からは想像も出来ないほどの衝撃に思わず呻く。
「この世界を好きにしていいんだよぉ! 自由に生きるのが許されるんだよぉ! そうだよ、この世界は僕の為にあるんだよぉ!」
月白の輝きが、増したように見えた。
一切の曇りがないソレは、美しくて、美しくて──だが灯りに背を向けたのだ、守るために逸らしたのだ、選んだのは闇なのだ、と思考して戦意を滾らせる。
「知ったことか、いいから死ね!」
「君も一緒においでよぉ! 特別にぃ、救済は最後にしてあげるよぉ! 二人で真っ白なキャンパスを汚そう、あの日みたいに真っ赤にぃ!」
「黙れえええええ!」
綺麗なお前も闇に引きずり込んでやる──天国でも地獄でもない、完全なシュヴァルツシルトの深淵に。
痛みが強くなる頭にうなされながら、右手に覇気を込めて駆けた。
「掃除した後は、好きな小説を真似てストーリー作ろうよぉ! きっと楽しい世界になるよぉ!」
だが男が操る包丁に阻まれて貫けない。挟んで奪おうと画策したが、先の攻撃で用心しているのか、刃の腹で受け止めずにはじき返すようになった。
ならば、と左手にジャマダハルを引き抜いて慣れない二刀流で立ち向かう。
「僕たちは祝福されたんだよぉ! そうだ、君の為にも男は殺して女は生かそう! ハーレムなんて簡単に作れるんだよぉ!」
「殺す!」
コイツだ、コイツが新たなる魔王だ。
魔王は殺せ、慈悲などない。
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「殺す!」
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耳障りな声が、聞こえた。
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※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
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