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西乃真 るう

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5.放課後

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1度「ウェイ」と口にしたからって「ウェイ系」になるわけじゃない。
それでもそのときから「鈴木くん」ではなく「一真」と呼ばれるようになった。次の日には他のクラスメートからも「一真」と声をかけられるようになっていた。

高校生になったら何か部活に入ろうと思っていた。
中学生のころは婆ちゃんと2人だったから、部活には入っていなかった。婆ちゃんが一人で家にいると思うと、気になって部活どころではなかったのだ。
永准は「どのクラブに入ろうか迷ってる間にタイミングを逃した」という理由で帰宅部だった。

永准はぐっちーみたいにお喋りでもないし、森のような委員長感があるわけでもない。出会ったばかりでどんな人物なのかもわからない。
なのに一緒にいると何故かしっくりくる。
昔の知り合いに似ているのかもしれない、昔のことはあまり覚えてないけど。

放課後、帰宅部の永准と一緒に帰るとなんと降りる駅が同じだった。
別れるときには、明日の朝も同じ場所で待ち合わせをする約束もした。
とても居心地がよくて、転校してきてよかったなとしみじみ思う。

転校から1週間ほどが過ぎたが、永准はいつでもどこでもクラスメートや他のクラスの生徒からも声をかけられている 。
といっても永准は「へー」とか「ふーん」とか適当に相づちを打っているだけだ。話を聞いてなさそうなところが相手に気を遣わせないポイントなんだろうか。

今朝も学校まで歩いていると隣のクラスの女子が小走りで近づいてきた。
「聞いてよ藁屋、昨日髪を切りに行ったんだけどさぁ」
女子は嬉しそうに顔を上気させている。
これは永准が「話しかけやすいから」声を掛けたんじゃないな。そりゃそうだ、歩くギリシャ彫刻だもんな。
ジャマをしちゃ悪いなと2人に「先に行くね」と声を掛けて足早に学校に向かった。
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