世界が終わるという結果論

二神 秀

文字の大きさ
1 / 49
PROLOGUE

プロローグ

しおりを挟む
 我々はこの世に生まれた。


 これは動かしようのない事実である。


 死ぬなんてことは気にしなくていい。


 生きることが我々の喜びであり、法則なのだ。



 ウィリアム・サローヤン(William Saroyan)



   ◆    ◆    ◆    ◆



--アメリカ合衆国ワシントン・航空宇宙局本部--


「私たちは地球に住む全ての命あるものに伝えなければなりません。何よりも優先される重大なことをです……」

 そう告げられて始まったアメリカNASAの緊急記者会見。見慣れた画面越しに映し出された映像には、テリトリーに侵入してきた外敵をにらみつける番犬のような鋭い眼光をした、5人の中年の男性陣が長机に座っていた。5人の中央に位置した立派な口髭をたずさえ、薄くなった頭髪をボサボサにした小太りの【地球防衛調整局ラリー=マクスウェル】と記された社員証を胸にかける男が、のっけの発言に続けて口を動かす。

「つい先ほど、小惑星地球衝突最終警報システム・ATLAS(アトラス、Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System)に、『ある天体』が観測されました。いや観測されたというより、地球からおよそ8000万キロメートル離れた宙域に、直径1万3000キロメートルほどの天体が急に出現したのです」

 鉛のように重く発せられた言葉に、急遽けつけた記者たちも、より一層神妙な面向きになる。NASAの会見に足を運んだ記者たちはその数字だけで、ここ数年で最もセンセーショナルな発見であることに高揚感を抱く。更なるこの新発見の情報に固唾かたずを飲んで耳を澄ませる。

「これは我々の地球と火星の間に、地球と同等程度の大きさの惑星が見つかったということです。この天体の表面は白く、氷で覆われているのではないかと推察されます」

 それほどの天体がなぜ急に見つかったのか? 氷があるということは、そこに生命が存在するのか? もしかしたら、地球外生命体がそこには生息しているのか? 記者たちは胸を高鳴らす。

 しかし、そんな大発見にも関わらず、目の前に座るNASAの男たちの様子は緊張感をまとい額に無数の汗を浮かべ、険しい顔つきをしている。そして、次の言葉が放たれた瞬間、高鳴り続ける高揚感が一瞬に消失させられた。

「……この天体は、地球に向けて移動いています。そして、衝突する可能性が極めて高い……」

 はぁ? 急に集められた30人超の記者もそのクルーもカメラマンも、一人残らず目を丸くする。


 そして、死のカウントダウンの始まりをその男は告げた。


「1年後、この天体は地球と衝突します」



   ◆    ◆    ◆    ◆



--1年後の3月24日正午・横浜--


 白い空。それを映していた白い海もすでに見えない。

 つややかなオーロラが空をいろどり、地平線と地平線が重なっていく。

 氷麗な白の星は今、終焉を告げる破滅の黒い塊となり、乱気流がかなでるギャラルホルンの音色と共に頭上から降りたとうとしている。

 たなびく白髪しらかみの彼女も自分も、引力の相互作用により重さから解放されていく。


 NASAの予測では、パンドラ(衝突する天体の呼称)は北半球・太平洋で地球と接触するとのことだ。

 そんな情報に意味はない。どこだろうが同じこと。

 地球は壊れてしまう。世界は終わってしまう。海も陸も、そこにいる生き物、植物、人工物、元からある自然、自分も、彼女も、その全てが消える。


 重さから解放され、浮き上がったあらゆるものの中、繋がれた手の感触が正気を繋ぎ止める。


 意識と酸素が薄れていく……


 残っていたのは満たされた感情。


 目の前の安らかな彼女の瞳には、同じ瞳をした自分の顔が映っていた……

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...