世界が終わるという結果論

二神 秀

文字の大きさ
5 / 49
CHAPTER.1 滲んだ天色(ニジンダアマイロ)【天体衝突1年前(春)】

§ 1ー4  3月24日③  黒い翼:エルノワール

しおりを挟む
--東京都・下北沢--


 …………
 

 MISSING SOUL! あなたの中に 見つけたの Ah~

 CALLING EYES! その瞳の中に 囚われてたか~ら~~♪


 つやっぽい歌声が、地下にあるライブハウスにとどろく。ボーカルの舞衣の突き抜ける歌声が集まった200人を日常から引き離していく。観客はスタンディングでかなでられたロックに合わせてリズミカルに身体を動かし、一体となって音楽を楽しむ。

 いつも口数の少ないてっちゃん(狛江こまえとおる)のドラムに合わせて、おれ(生田いくた颯太そうた)のベースが曲を整え、調子のいい性格の久弥(秦野はたの久弥ひさや)のギターは、そこにアクセントをつける。そこに舞衣(千歳ちとせ舞衣まい)の叫びにも似た歌声が色を付ける。それが我らがバンド:エルノワールの作る世界感である。『エルノワール』とは、厨二病をわずらった颯太が考えたバンド名で『黒い翼』という意味である。

 他の大学の軽音学部のバンドと対バンだったが、これだけの人たちが集まってくれるようになるほど、このサブカルチャーの街ではちょっとは知られるようになった。特に舞衣の歌声には、他の誰にも真似ができない透き通る艶っぽさがある。

 4ヵ月ぶりのライブは、ただただ気持ちよく盛況せいきょうの中終えた。ステージの去り際で送った舞衣の投げキッスは、ひっそり増え始めていた追っかけたちを歓喜させていた。

 …………

「おつかれ~」

 ライブが終わり、荷物置き場もねた狭い楽屋で、冷えたミネラルウォーターを片手にぐったりしながら、久しぶりの充足感に満たされる。

「あー、やっぱりライブは最高!」

 興奮気味にボーカルの千歳舞衣は、肩口までのショートヘアに汗をしっとり湿らせ、水を飲み干すや否や声を上げる。4か月以上もライブをしなかったフラストレーションがまっていたのだろうことを思い、颯太は視線を下に向ける。

「悪かったな。おれのせいで、前のライブ出来なかったから……」

「それはもういいって。耳タコだよ、あはは」

 汗まみれで屈託くったくない笑顔をしながら久弥は言葉を返す。

「女に振られたぐらいで、そんなに落ち込むかねー」

「ほら、舞衣ちゃんはすぐにそういうこと言うんだからー。もう散々、颯太の心の傷をグリグリしたでしょ?」

「だってさぁ、せっかくライブやってヒャッホー♪ って気分なのに、目の前でそんな仏頂面ぶっちょうづらされたら、こっちもテンション下がっちゃうじゃん! なぁ、テツ(てっちゃん)もそう思うよねー?」

 いつも言葉少なめなてっちゃんに、えてこういう話をふるのは、舞衣のいつものルーティーンだ。

「……颯太も元気になったんだから、問題ない」

「まったく! 久弥もテツも颯太を甘やかし過ぎなんだって! そんなんじゃ厳しい世の中生きていけなくなっちゃうって!」

「……うるさいなぁ……うっせえよ!」

  基本、感情の起伏きふくを見せない颯太が、急に声を上げて立ち上がり、舞衣を指刺す。

「おー! それならわかった、舞衣。いつも好き放題言ってくれやがって! そんなにライブがしたいなら、またすぐにやってやるよ! メッチャ練習するから、サボったら許さねーからな!」

 一同目を丸くする。いろいろな鬱憤うっぷんを晴らすように颯太は言い放った。しかし、すぐに舞衣が笑いだした。

「……ふっ……あは……あははははは♪ いいよ! やっぱり颯太は面白い奴だ」

「な、なんだよ!?」

「いやいや、怒る元気があるならもう心配なさそうね。うん、またライブしよ! 隕石が降ってきたら、ライブできないしね。あはは」

「何言ってんの?」

「「「ん?」」」

「落ちてくる隕石をバックにライブしたら、最高じゃん♪」

「さっすが、リーダー! それ、マジでカッコいいよ! あはははは」


 舞衣、久弥、てっちゃん、そして自分こと生田颯太。吹っ切れたおれはこの4人ならホントに隕石の下でもライブが出来ると思っていた。みんな同じ気持ちで、これから先も一緒に音楽をしていくものだと勝手に思い込んでいた。このときは……

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...