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CHAPTER.1 滲んだ天色(ニジンダアマイロ)【天体衝突1年前(春)】
§ 1ー4 3月24日③ 黒い翼:エルノワール
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--東京都・下北沢--
…………
MISSING SOUL! あなたの中に 見つけたの Ah~
CALLING EYES! その瞳の中に 囚われてたか~ら~~♪
艶っぽい歌声が、地下にあるライブハウスに轟く。ボーカルの舞衣の突き抜ける歌声が集まった200人を日常から引き離していく。観客はスタンディングで奏でられたロックに合わせてリズミカルに身体を動かし、一体となって音楽を楽しむ。
いつも口数の少ないてっちゃん(狛江徹)のドラムに合わせて、おれ(生田颯太)のベースが曲を整え、調子のいい性格の久弥(秦野久弥)のギターは、そこにアクセントをつける。そこに舞衣(千歳舞衣)の叫びにも似た歌声が色を付ける。それが我らがバンド:エルノワールの作る世界感である。『エルノワール』とは、厨二病を患った颯太が考えたバンド名で『黒い翼』という意味である。
他の大学の軽音学部のバンドと対バンだったが、これだけの人たちが集まってくれるようになるほど、このサブカルチャーの街ではちょっとは知られるようになった。特に舞衣の歌声には、他の誰にも真似ができない透き通る艶っぽさがある。
4ヵ月ぶりのライブは、ただただ気持ちよく盛況の中終えた。ステージの去り際で送った舞衣の投げキッスは、ひっそり増え始めていた追っかけたちを歓喜させていた。
…………
「おつかれ~」
ライブが終わり、荷物置き場も兼ねた狭い楽屋で、冷えたミネラルウォーターを片手にぐったりしながら、久しぶりの充足感に満たされる。
「あー、やっぱりライブは最高!」
興奮気味にボーカルの千歳舞衣は、肩口までのショートヘアに汗をしっとり湿らせ、水を飲み干すや否や声を上げる。4か月以上もライブをしなかったフラストレーションが溜まっていたのだろうことを思い、颯太は視線を下に向ける。
「悪かったな。おれのせいで、前のライブ出来なかったから……」
「それはもういいって。耳タコだよ、あはは」
汗まみれで屈託ない笑顔をしながら久弥は言葉を返す。
「女に振られたぐらいで、そんなに落ち込むかねー」
「ほら、舞衣ちゃんはすぐにそういうこと言うんだからー。もう散々、颯太の心の傷をグリグリしたでしょ?」
「だってさぁ、せっかくライブやってヒャッホー♪ って気分なのに、目の前でそんな仏頂面されたら、こっちもテンション下がっちゃうじゃん! なぁ、テツ(てっちゃん)もそう思うよねー?」
いつも言葉少なめなてっちゃんに、敢えてこういう話をふるのは、舞衣のいつものルーティーンだ。
「……颯太も元気になったんだから、問題ない」
「まったく! 久弥もテツも颯太を甘やかし過ぎなんだって! そんなんじゃ厳しい世の中生きていけなくなっちゃうって!」
「……うるさいなぁ……うっせえよ!」
基本、感情の起伏を見せない颯太が、急に声を上げて立ち上がり、舞衣を指刺す。
「おー! それならわかった、舞衣。いつも好き放題言ってくれやがって! そんなにライブがしたいなら、またすぐにやってやるよ! メッチャ練習するから、サボったら許さねーからな!」
一同目を丸くする。いろいろな鬱憤を晴らすように颯太は言い放った。しかし、すぐに舞衣が笑いだした。
「……ふっ……あは……あははははは♪ いいよ! やっぱり颯太は面白い奴だ」
「な、なんだよ!?」
「いやいや、怒る元気があるならもう心配なさそうね。うん、またライブしよ! 隕石が降ってきたら、ライブできないしね。あはは」
「何言ってんの?」
「「「ん?」」」
「落ちてくる隕石をバックにライブしたら、最高じゃん♪」
「さっすが、リーダー! それ、マジでカッコいいよ! あはははは」
舞衣、久弥、てっちゃん、そして自分こと生田颯太。吹っ切れたおれはこの4人ならホントに隕石の下でもライブが出来ると思っていた。みんな同じ気持ちで、これから先も一緒に音楽をしていくものだと勝手に思い込んでいた。このときは……
…………
MISSING SOUL! あなたの中に 見つけたの Ah~
CALLING EYES! その瞳の中に 囚われてたか~ら~~♪
艶っぽい歌声が、地下にあるライブハウスに轟く。ボーカルの舞衣の突き抜ける歌声が集まった200人を日常から引き離していく。観客はスタンディングで奏でられたロックに合わせてリズミカルに身体を動かし、一体となって音楽を楽しむ。
いつも口数の少ないてっちゃん(狛江徹)のドラムに合わせて、おれ(生田颯太)のベースが曲を整え、調子のいい性格の久弥(秦野久弥)のギターは、そこにアクセントをつける。そこに舞衣(千歳舞衣)の叫びにも似た歌声が色を付ける。それが我らがバンド:エルノワールの作る世界感である。『エルノワール』とは、厨二病を患った颯太が考えたバンド名で『黒い翼』という意味である。
他の大学の軽音学部のバンドと対バンだったが、これだけの人たちが集まってくれるようになるほど、このサブカルチャーの街ではちょっとは知られるようになった。特に舞衣の歌声には、他の誰にも真似ができない透き通る艶っぽさがある。
4ヵ月ぶりのライブは、ただただ気持ちよく盛況の中終えた。ステージの去り際で送った舞衣の投げキッスは、ひっそり増え始めていた追っかけたちを歓喜させていた。
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「おつかれ~」
ライブが終わり、荷物置き場も兼ねた狭い楽屋で、冷えたミネラルウォーターを片手にぐったりしながら、久しぶりの充足感に満たされる。
「あー、やっぱりライブは最高!」
興奮気味にボーカルの千歳舞衣は、肩口までのショートヘアに汗をしっとり湿らせ、水を飲み干すや否や声を上げる。4か月以上もライブをしなかったフラストレーションが溜まっていたのだろうことを思い、颯太は視線を下に向ける。
「悪かったな。おれのせいで、前のライブ出来なかったから……」
「それはもういいって。耳タコだよ、あはは」
汗まみれで屈託ない笑顔をしながら久弥は言葉を返す。
「女に振られたぐらいで、そんなに落ち込むかねー」
「ほら、舞衣ちゃんはすぐにそういうこと言うんだからー。もう散々、颯太の心の傷をグリグリしたでしょ?」
「だってさぁ、せっかくライブやってヒャッホー♪ って気分なのに、目の前でそんな仏頂面されたら、こっちもテンション下がっちゃうじゃん! なぁ、テツ(てっちゃん)もそう思うよねー?」
いつも言葉少なめなてっちゃんに、敢えてこういう話をふるのは、舞衣のいつものルーティーンだ。
「……颯太も元気になったんだから、問題ない」
「まったく! 久弥もテツも颯太を甘やかし過ぎなんだって! そんなんじゃ厳しい世の中生きていけなくなっちゃうって!」
「……うるさいなぁ……うっせえよ!」
基本、感情の起伏を見せない颯太が、急に声を上げて立ち上がり、舞衣を指刺す。
「おー! それならわかった、舞衣。いつも好き放題言ってくれやがって! そんなにライブがしたいなら、またすぐにやってやるよ! メッチャ練習するから、サボったら許さねーからな!」
一同目を丸くする。いろいろな鬱憤を晴らすように颯太は言い放った。しかし、すぐに舞衣が笑いだした。
「……ふっ……あは……あははははは♪ いいよ! やっぱり颯太は面白い奴だ」
「な、なんだよ!?」
「いやいや、怒る元気があるならもう心配なさそうね。うん、またライブしよ! 隕石が降ってきたら、ライブできないしね。あはは」
「何言ってんの?」
「「「ん?」」」
「落ちてくる隕石をバックにライブしたら、最高じゃん♪」
「さっすが、リーダー! それ、マジでカッコいいよ! あはははは」
舞衣、久弥、てっちゃん、そして自分こと生田颯太。吹っ切れたおれはこの4人ならホントに隕石の下でもライブが出来ると思っていた。みんな同じ気持ちで、これから先も一緒に音楽をしていくものだと勝手に思い込んでいた。このときは……
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