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CHAPTER.8 終の蒼(ツイノアオ)【天体衝突1日前(彼岸)】
§ 8ー2 3月24日 世界の終わり
しおりを挟む--神奈川県・梅ヶ丘家--
吹きすさぶ風と彼女の寝息で目が覚める。穏やかな寝顔に安心する。窓の外は朝のはずなのに、仄暗い。それなのに景色が違って見えるのは、きっと横に眠る彩が原因なんだろう。
無意識に彼女の頬を撫でると、ん~~っと背伸びをして瞼を開く。挨拶を交わす前に抱きつかれる。ギュッとくっついてくる。お返しに優しく頭を撫でる。
世界の最後の1日の始まり。それを考えないようにした。
もう少しだけ、このまま……
♦ ♦ ♦ ♦
--神奈川県・横浜市某病院--
昨日より強い風の中、体を飛ばされないように踏ん張る。彼女の手を離さないように強く握る。妙に体が軽く感じるのは、空を覆う黒い塊の引力のせいだろう。
辿り着いた病院で、彩のお母さんに別れの挨拶をする。昨日と同様、優しい顔で鼻歌を奏でる彩のお母さんに、彩と一緒に話しかける。「約束は守るからね、おばさん」と、最後まで彩と一緒にいることを約束する。彩のお母さんはそんな颯太の頭を撫でてくれた。父との約束を果たせないことが胸を痛ませる。ふと、涙が溢れた。
♦ ♦ ♦ ♦
--神奈川県・横浜市某病院屋上--
白い空。それを映していた白い海もすでに見えない。
艶やかなオーロラが空を彩り、地平線と地平線が重なっていく。
氷麗な白の星は今、終焉を告げる破滅の黒い塊となり、乱気流が奏でるギャラルホルンの音色と共に頭上から降りたとうとしている。
たなびく白髪の彼女も自分も、引力の相互作用により重さから解放されていく。
NASAの予測では、パンドラは北半球・太平洋で地球と接触するとのことだ。
そんな情報に意味はない。どこだろうが同じこと。
地球は壊れてしまう。世界は終わってしまう。海も陸も、そこにいる生き物、植物、人工物、元からある自然、自分も、彼女も、その全てが消える。
重さから解放され、浮き上がったあらゆるものの中、繋がれた手の感触が正気を繋ぎ止める。
意識と酸素が薄れていく……
残っていたのは満たされた感情。
目の前の安らかな彼女の瞳には、同じ瞳をした自分の顔が映っていた……
♦ ♦ ♦ ♦
2つ惑星はぶつかる。
地球とラクト。接触した瞬間、すべてが白い光に包まれる……
そして、世界は終わった。
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