【奨励賞・受賞】彼氏がイケメンなのは絶対ヒミツ

第142話 処刑された男

白川先生の言葉に背筋がゾクっとした恭介は、
「…先生は俺たちと同じニオイがするな。一歩間違えれば、俺たちと同じ側。やさしさと残酷さは紙一重ってやつだな」
静かに布団の上であぐらをかいて座る。

「…で、何か聞きたいことがあるんだろう？そう顔に書いてある」
「察しがいいな」

「名前は？」
「…は？…相葉恭介あいばきょうすけだけど」

「そうか、じゃあ恭介。キミは自分のルーツを知っていてこんなことをやっているのか？」
「ルーツ？なんだソレ」

「あぁ、いま俺が言っているのは、恭介の先祖のことかな」
「先祖？…えっと…、ずっと昔に死んでるじぃちゃん…とか、ばぁちゃんのことか…？」

「間違ってはいないんだが…。先祖に李斯りしという名前を聞いたことはないか？」
「りし…？日本人か？」

「いや。昔の中国を統一した秦の始皇帝から命を受けて国政を補佐した偉い人物“宰相さいしょう”だよ。秦の始皇帝・嬴政えいせいが天下を統一するときに大きく貢献したことでも知られる人物さ」

「ふうん？偉い人なんだな。それで、その李斯りしが俺と何の関係があるんだ？」
「だから、李斯りしがキミの先祖だっていう話」

「…は？だから、何？」
「キミ自身が自分のルーツを知っているのかどうかを確かめたかっただけ」

「は？どういうことだよ？」

「李斯りしは聡明な人で、食糧庫で優雅に暮らすネズミとトイレで怯えながら過ごすネズミの違いを見て人が成功するかどうかや賢さ・愚かさなどは環境によると考え、勉学に励んで嬴政えいせいに仕えた人物でもある」

「…あのぉ…、先生？俺、別に歴史の勉強がしたいわけじゃあ…」

「けれど嬴政えいせいの死後、聡明で才能も評価されていたはずの李斯りしは趙高ちょうこうにまるめ込まれて国を亡ぼす失態を犯した人物でもある」

「だからぁ…」
「恭介、キミも李斯りしと同じように処刑されたいか？」