【奨励賞・受賞】彼氏がイケメンなのは絶対ヒミツ

第154話 卑怯の意味

趙高ちょうこうの末裔・高木は長い髪をかき上げて不敵な笑みを浮かべると、
「白川センセはもう少し頭がよい人かと思っていたんだけど。見込み違いか、それとも命や契約に従い命をも差し出す自己犠牲という忍びの性さがか…」
ぶつぶつとつぶやきながら、さっき自分が立っていた辺りを闊歩する。

高木が円を描くように歩いた部分がぼんやりと黒く霞み、いつの間にか煙のように噴き出てきた黒い煙は渦状となって高木を包み込んでいく。

「余裕だというわりには、しっかりと衝撃をやわらげるための備えは施すんだな」
「白川センセが準備する前にと思ってさ」

そう言った高木の全身から黒い光のようなものが飛び出し、それはまるで無数に伸び散らかした髪の毛のようにうねうねと動いて白川先生に襲いかかった。

自由自在に伸び縮みし、素早く白川先生の動きを捉えて次々に掴みかかろうとする。

それを忍刀しのびがたなで気持ちがいいぐらいスパスパと切断し
「さすがは卑怯者」
愉快そうに嗤う。

そんな白川先生に高木が問いかける。
「卑怯とは？」

「は？」
「勝てばいいのさ。俺たちは尊敬する趙高ちょうこうの代よりそうしてきた」

「そうか。卑怯者として生きることがデフォルトの人間には理解できないか」
納得した白川先生に高木が続ける。

「そうだな。いまやゲノム編集で歴史偉人たちの思考や能力だけでなく、喜びや慈しみといったポジティブ感情、そして恨みやつらみなどのネガティブ感情もダイレクトに引き継げるようになったが、それよりもずっと前。催眠や洗脳に頼っていた頃から我々はそうして生きてきたのだから」

「そうか。長い年月や国境を越えてまでも徹底してクズ精神を引き継いでいるというのは面白い。表彰ものだな」

言い終わるが早いか印を結んで咒文じゅもんを唱えた白川先生のまわりを水のような膜が包み、キラキラと輝きはじめた。