RISE!~男装少女の異世界成り上がり譚~

た~にゃん

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少年期編

22 謝肉祭

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異世界初のカードバトルゲームの滑り出しは、私が読んだ通り好調だった。始めにスターターデッキを発売したところ、飛ぶように売れたのだ。今では、一定割合でレアカードを混ぜたカードセットを5フロリンで販売中。こちらもよく売れており、生産が追いつかないという嬉しい悲鳴が上がっている。だけど、このままでは機会損失だ。伯爵様の執事様――カイゼル鬚のおじさんから「我が領は金が必要なのです!」とせっつかれてもいるし。あのカイゼル鬚さんは、芸術を愛して他に目を向けない伯爵様のサポート役――まともな領地経営者なのだ。よくよく話を聞けば、これ儲かるんじゃないか?と思える商品も持っているし、カードゲームの次はそれらの商品ラベルや広告にも進出したいと私は密かに考えている。まずは、製造工程を見直そうか。
ダライアスの命令で、植物紙作りはすべてウィリス村で行っている。けど、村人総出で作っているのでは需要に追いつかないのが現状。だから、工程のうち叩解までをニマム村に任せようと思っている。ニマム村には水車があるから、ビーターを作ってもらおうと思うのだ。あと原料となる植物は、ヴィヴィアン領で栽培してもらえないか打診中。雑草と芋の一種だけど、取り過ぎて森を荒らしてもいけないしね。資源は大切に、だ。
そうして各村や盟友の皆様とやりとりしているうちに、あっという間に季節は秋になろうとしていた。

◆◆◆

秋は、狩りの季節だ。そして!謝肉祭!ド田舎貧乏村にも一応祭りがあるのだ!年に一回のお楽しみである。ちなみに他にイベントがないかシェリルたちに聞いたとき…

「いべんと??お祭りは謝肉祭ね。後はとっても悪いことをした人が出たときぃ、はりつけにして火をつけてぇ…イエェ~~ってやる…お祭り?」
両手をあげて足踏みして「イエェ~~」ってヘンな踊りをするシェリル。マジかよ?!殺伐過ぎ!!
……ちなみに、他の子供たちに聞いたときも同じ回答でした。処刑がお祭りとか、おかしいだろ!?情操教育に悪すぎるよっ!要廃止だ!要廃止!んなもん見たくないよ!!

その悪夢みたいなお祭りはともかく。今、村は謝肉祭の準備に追われている。大きな大きな鍋を出してきて、肉や毛皮を加工する道具も並べてある。紙漉きも同時並行でやっているから大忙しだ。叩解までをニマム村に任せて正解だったね。私は、アイザックに習って弓にあの威力増幅の文様を入れるお手伝い。秘伝の塗料(なんだよ、インクあるじゃん!)で細い弓に慎重に慎重に描いていく。文様入りの弓も今では体の一部のように扱えるよ。フッフッフー、なんと今年は私も狩りに同行することになったんだ。大物狙っちゃうよ!

◆◆◆

待ちに待った狩り当日。私はリチャードたちと文様入りの弓を携えて森に入った。狩りのリーダー役の熊親父の指示で、私たちの狩り場は森の入口付近とされた。まあ、経験の浅い子供だから、まずは初心者向けの狩り場でってことだろう。熟練の狩人たちは森の奥に入っていった。
森の入口にいる獲物は、兎とか鴨みたいな小物。運がいいと鹿も獲れる。ぶっちゃけ小物なら雷撃付与は必要ない。ただの弓で十分だ。ちなみに、森の奥にはボア(イノシシ)を始めとした大きな獣がいるという。ただし、森の奥に行けば行くほどグラートンのような魔獣に遭遇する確率も高くなり、危険が伴う。一度襲われたことがあるので、アレには会いたくないよね…
リチャードたちと兎や鳥を狩って、それぞれの背負い籠が重くなってきた頃、不意に強い魔力――ゾワゾワを感じて、リチャードと近くの繁みに身を隠した。
「!!」
ややあって姿を現した魔物に目を見開く。のしのしと現れたのは…
グラートン!!
いや、小さい方だ。むしろまだ子供かな。二メートルないくらい。リチャードと目配せして、急いで周囲に魔物の気配を探る。子供が彷徨いている、ということは近くに親がいる可能性が高い。けれど……他に大きな気配はなかった。じゃ、アレって迷子のグラートンか??
「(サイラス、せーので出て倒すぞ)」
リチャードが囁いた。指差したのは文様入りの弓。私は頷いた。
「(万一倒せなかったら合図な)」
グラートンが村の傍を彷徨いていたら、狩ることになっている。例え子供でも、村人を襲うのは変わらないからだ。倒せなかったら無理はせず、指笛で近くの大人を呼ぶ。私たちは「せーの」で、繁みから飛び出した。飛び出すのと同時にグラートン目がけて矢を放つ。文様にマックスまで魔力を込めた矢は、大きな稲妻を纏い、グラートン目がけて飛んでいった。
「グオオオオオ!!!」
やった!命中!!矢を喰らったグラートンが地面を転がってジタバタ暴れている。だが、まだ倒したわけではない。すぐさま体勢を立て直したグラートンが私たちに向かって猛進してくる。やはり、子供とはいえこの魔獣は甘くない。リチャードが指笛を鳴らして、掌に火球を作る。私も後退しながら再度雷撃付与の矢を放つ。威力は小さいものの、雨のような多数の火球と雷撃矢の連射に、グラートンは太い腕を滅茶苦茶に振り回して応戦しているものの、確実にダメージは受けているようだ。足元がふらついている。そして、ついにその足が止まった。
「?!」
そして一拍遅れて、ズドーンと巨体が横に倒れた。思わずリチャードと顔を見合わせた。
「「倒した?!」」
目を見開く私たちの耳に、大人達の声が近づいてきた。

◆◆◆

駆けつけた大人達の手を借りて、グラートンは村へと運ばれた。戻ってきた私たちと獲物を見た村人たちが歓声をあげる。
「グラートンか!」
「まだ子供だがな」
「いやいや、大物だよ」
グラートンは肉が美味な上、毛皮、爪に牙まで高値で売れる。村にとって脅威であると同時に、財布に潤いをもたらす魔獣なのだ。実は私、グラートンの肉はまだ食べたことがないのだ。だから、すっごく楽しみだよ!

狩りに出た大人達が戻ったら、いよいよ謝肉祭だ。獲物を捌き、一部は干し肉にして冬場の食糧にする。毛皮はモルゲンで売るために血肉をきれいに落とす。そうやって村人たちが忙しく作業しているときだった。多数の騎馬が村の広場になだれ込んできたのだ。突然の乱入に悲鳴があがる。乱入者は、村人がいるのもお構いなしに、馬を広場に走らせる。そして、一通り村人を追い回した後、リーダーと思しき男が偉そうに私たちに向かって喚いた。
「聞け!下民ども!我等は王国が家臣、ゲイソン様だ!今からこの村は我々が管理下に置く!!」
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