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建国~対列強~編
178 愛慕 威嚇 探索
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阿呆なキノコのせいで、結局牢から連れ出せたのは『ロザリー』のみという不本意な結果となった。モルゲン・ウィリス王国が王都の拠点としている民家に悪魔を連れて帰る途上、
「サイラス……既に『ロイ』様の身体がこねくり回されてしまったようですわ!」
走りながらアナベル様が言った。
彼女の言うとおり、『ロイ』の身体は見えるところだけでも痣や傷跡が生々しい。でも、その表現ってどうなの。
「お可哀想な『ロイ』様…。身体を悪魔に弄ばれた挙げ句、こね回されて穢されてしまうなんて…!」
「その表現は誤解を招く!」
それだと、18禁のけしからん行為を無理矢理された後、みたいじゃん!
「そ…そうね、『ロイ』様の貞操は無傷ですわね……たぶん」
…深く考えない方がいいと思うよ。
後ろを振り返り、追っ手を撒けたことを確認して、私は走るのをやめた。あ~~、疲れた。
しばらく息を整えながら無言で歩いて。
「ねぇ…サイラスは覚えていて?」
ぐんにゃりした『ロイ』の身体を肩に、アナベル様はぽろぽろと……『ロイ』との些細な思い出を話し始めた。
他愛もない会話、僅かな表情の変化、口癖…そして、贈られた雑草の花――
「私は、誰かに憧れていただけるほど立派な人間ではないのだけど…」
ただの身分だけ高い女――結局自分は、ペレアスという機構の元、『ニミュエ公爵令嬢という名の腹』という価値がなければ、何の力もない、何の実績もない女なのだと、アナベル様は自嘲した。
「何も為せない女なのに……彼は、身分抜きの好意をくれたの。嬉しかった…」
アナベル様の白い手が、愛おしげに動かない背を撫でた。
「バカですわよね…。彼はもう、この世にいないのに。抜け殻でも……だって、姿も声も『彼』なんですもの」
姿は同じでも、中身は悪魔だ。それとわかっていても、勝手に『彼』を追ってしまう、と。
なんて、残酷なんだろう。
このまま悪魔の傀儡となった『彼』と共に在るのも、また、悪魔を葬って『彼』の抜け殻を失うのも。きっと、アナベル様には――
「だから、どこか……私の目の届かないどこかで生きていれば……私はフラれたと思えばいいのですよね?」
泣き笑いにアナベル様は言った。まるで、それが正しいのだと言ってくれとばかりの、縋りつくような声音だった。
「…後悔、してる?」
静かに問うた私に。返ってきた答は、否。
「なら、これでいいんだ」
敢えて断言すれば、また彼女は黙って歩きだした。
そんな彼らの牢破りが思わぬ事態を引き起こす。同じく牢に――ライオネルの女ということで貴賓牢に囚われていたノエルの処刑を早める決断が下されたのだ。ノエルは、傀儡術という厄介な魔術の使い手として危険視されていた。古参派貴族たちは、そんな彼女が奪われることを恐れたのである。
◆◆◆
ノエルの処刑は、牢破りの翌々日に行われることとなった。彼女の罪状は、王太子を唆して私利私欲のために銀山を売却し、またルドラ侵攻をも働きかけたというもの。また、国境の砦を破壊し、魔物の巣窟としたことも彼女が黒幕ということにされた。
いっそ清々しいほどの、責任転嫁だ。
王都の広場に、罪人を火刑に処すための十字に組まれた木材が建てられ、その足元には薪が堆く積み上げられた。
やがて、罪人たる少女を乗せた馬車が到着し、広場に詰めかけた見物人がやいのやいのと囃したてた。
喧騒の中、馬車から銀朱の髪の少女が両手を縛められて広場に降りたつと、喧騒が水を打ったように静まり返った。罪人として、無垢の白いワンピースを纏った少女があまりに美しかったからだ。
ざわめき始めた民衆を尻目に、王国兵は少女を引き立て、荒縄で彼女を磔にした。乙女ゲームの世界だからか、磔といっても木材に縄で縛りつけるだけだ。釘で打ちつけたりはしない。
そして、準備は整った。
火刑に際し、教会から高位の司祭が呼ばれ、罪人に最後の祝福を与え――
「アンタたち!」
ざわめく民衆を磔にされ高みから見下ろして。ノエルは怒りの声を張りあげた。
「バッッカじゃないの?!」
こんなか弱い乙女に何ができるっていうのよ!砦を壊した?ルドラを攻めた?
ウチの阿呆な弟だって、そんな大ウソ信じないわよ!!
声を張るノエルに野次馬が叫び返した。
「王子誑かして銀山売ったのは認めるのか!」
民衆の視線がノエルに集中する。ノエルは……
言葉に詰まった。
「やることやってんじゃねぇか!」
勢いづく野次馬。
人間、言い返されるとムキになる。
「アタシと彼の穴芋はペレアス一よっ!!」
ノエルは声を大にして、明後日な台詞を喚いた。
◆◆◆
ノエルが火刑にされる。
報せはあまりにも突然だった。
「今日の午後?!」
時間がない。
「広場で公開処刑か…。おい、悪魔。アンタの主でしょ?何とか攫えないの?」
拠点に連れて帰って、アナベル様が服を剥ぎ取りポーションを塗りたくり、私が魔力譲渡して無理矢理回復させた『ロザリー』は、黙って剣を持ちだした。
「…特攻して、時間を稼ぐ」
「却下。脳筋が過ぎるわ」
バッサリ切り捨てると、紫水晶の瞳が私を鋭く睨んだ。
「まだ皆まで言っていない…。公開処刑ということは、司祭が呼ばれているだろう。なら、あの忌々しいデブ聖鳥とやらもいるんじゃないか?」
話が読めないんだけど?
「おい、そこのガキ。おまえは魔物を操れるんだよな?」
不意にフェリックス君に話を振る、『ロザリー』。フェリックス君はおどおどしつつも頷いた。
「聖鳥を操って姉の前で囀らせろ。そうすればあの女は聖女様だ。なりたいとか本人もほざいていたしな。ムカつくが、ソレしかない」
…ねぇ『ロザリー』。アンタってそーゆーキャラだっけ?
「…大変胸糞ですが、それしかございません?」
「なんで疑問形??」
「黙れ…黙りなさい。れれ…レディ??」
なんで顔が引き攣ってんのよ。失礼ね。
そんなやり取りをしたのが、今日の早朝。
「レオ!フレスベルク、見つかった?」
「ギギ…」
私は今、フェリックス君と一緒に王都を駆け回っていた。畜生ォ、ノエルのためになんでこんなことまで!
私とフェリックス君以外の三人は処刑の行われる広場に待機し、少しでも時間を稼いでもらう。広場に司祭様の姿はあったものの、聖鳥の姿はなかった。よってこのざまだ。
広場に来ていないのなら、教会にいるはずと赴いたのだが、
「聖鳥様はスケジュールが詰まっておりまして、本日は夜までお戻りになりません」
マネージャーみたいな助祭さんに言われたのが、二時間ほど前。もうすぐ昼を回るぞ!
「フェリックス君、大丈夫?」
駆けずり回って私も彼もヘロヘロ。ったく、聖鳥め、どこほっつき歩いてんだよ!
王都は、そろそろお昼時だ。通りには食べ物を売る屋台が店を開き、美味しそうな匂いが漂いだした。
と。
「おいちゃ~ん、串焼き一本!お代は胸が絶壁なマスターが払うよ~」
…聞き捨てならないひと言を聞いた。
「あ!キノコ!」
フェリックス君が指差した先に。ヨレヨレなミニエリンギが、平然と屋台の一つに並んでる!
「一本銅貨三枚だよ!」
「はい、三本頂戴。お釣りはいらないよ」
串焼き屋台のおじさんに銀貨を渡して。私は、ふざけたエリンギの背後に立った。
「あっあ~♪安~い串焼きも、おいらの犬肉がAランク牛肉に変身する粉振りかけて絶品だよ~ん♪」
呑気に喜んでいるエリンギの両脇を抱え、クルッと回転させた。
「ね~ぇ、キノコ…。私の胸がなんだって?」
串焼きを持ったまま、ジタバタ暴れるエリンギマンAG。フェリックス君が蒼白な顔で後退りをしている。
「ままま…マスターの…胸は、そそ、その…」
「ん?」
「あ…アレ、かな?」
小っさい手が指差した先にあったのは。
「えーい、らっしゃいらっしゃーい!ゴリの蒲焼きだよ!美味いよー!」
魚を捌いたと思われる、汚いまな板。
「ぜああっ!」
失礼なことを言いやがったミニエリンギは、王都の空の彼方へと放物線を描いて…
「ギエエッ!」
パクン!
そこに突如、何かが突っ込んできてエリンギマンAGを………器用に避けて串焼きだけを咥えた。キノコと串焼きの串は垂直に落下した。
「あ…あれはっ!」
フェリックス君が叫んだ。
白銀の羽根を羽ばたかせ、悠々…ではなくヘロヘロと飛ぶデブ鳥は…
「フレスベルク!!」
「サイラス……既に『ロイ』様の身体がこねくり回されてしまったようですわ!」
走りながらアナベル様が言った。
彼女の言うとおり、『ロイ』の身体は見えるところだけでも痣や傷跡が生々しい。でも、その表現ってどうなの。
「お可哀想な『ロイ』様…。身体を悪魔に弄ばれた挙げ句、こね回されて穢されてしまうなんて…!」
「その表現は誤解を招く!」
それだと、18禁のけしからん行為を無理矢理された後、みたいじゃん!
「そ…そうね、『ロイ』様の貞操は無傷ですわね……たぶん」
…深く考えない方がいいと思うよ。
後ろを振り返り、追っ手を撒けたことを確認して、私は走るのをやめた。あ~~、疲れた。
しばらく息を整えながら無言で歩いて。
「ねぇ…サイラスは覚えていて?」
ぐんにゃりした『ロイ』の身体を肩に、アナベル様はぽろぽろと……『ロイ』との些細な思い出を話し始めた。
他愛もない会話、僅かな表情の変化、口癖…そして、贈られた雑草の花――
「私は、誰かに憧れていただけるほど立派な人間ではないのだけど…」
ただの身分だけ高い女――結局自分は、ペレアスという機構の元、『ニミュエ公爵令嬢という名の腹』という価値がなければ、何の力もない、何の実績もない女なのだと、アナベル様は自嘲した。
「何も為せない女なのに……彼は、身分抜きの好意をくれたの。嬉しかった…」
アナベル様の白い手が、愛おしげに動かない背を撫でた。
「バカですわよね…。彼はもう、この世にいないのに。抜け殻でも……だって、姿も声も『彼』なんですもの」
姿は同じでも、中身は悪魔だ。それとわかっていても、勝手に『彼』を追ってしまう、と。
なんて、残酷なんだろう。
このまま悪魔の傀儡となった『彼』と共に在るのも、また、悪魔を葬って『彼』の抜け殻を失うのも。きっと、アナベル様には――
「だから、どこか……私の目の届かないどこかで生きていれば……私はフラれたと思えばいいのですよね?」
泣き笑いにアナベル様は言った。まるで、それが正しいのだと言ってくれとばかりの、縋りつくような声音だった。
「…後悔、してる?」
静かに問うた私に。返ってきた答は、否。
「なら、これでいいんだ」
敢えて断言すれば、また彼女は黙って歩きだした。
そんな彼らの牢破りが思わぬ事態を引き起こす。同じく牢に――ライオネルの女ということで貴賓牢に囚われていたノエルの処刑を早める決断が下されたのだ。ノエルは、傀儡術という厄介な魔術の使い手として危険視されていた。古参派貴族たちは、そんな彼女が奪われることを恐れたのである。
◆◆◆
ノエルの処刑は、牢破りの翌々日に行われることとなった。彼女の罪状は、王太子を唆して私利私欲のために銀山を売却し、またルドラ侵攻をも働きかけたというもの。また、国境の砦を破壊し、魔物の巣窟としたことも彼女が黒幕ということにされた。
いっそ清々しいほどの、責任転嫁だ。
王都の広場に、罪人を火刑に処すための十字に組まれた木材が建てられ、その足元には薪が堆く積み上げられた。
やがて、罪人たる少女を乗せた馬車が到着し、広場に詰めかけた見物人がやいのやいのと囃したてた。
喧騒の中、馬車から銀朱の髪の少女が両手を縛められて広場に降りたつと、喧騒が水を打ったように静まり返った。罪人として、無垢の白いワンピースを纏った少女があまりに美しかったからだ。
ざわめき始めた民衆を尻目に、王国兵は少女を引き立て、荒縄で彼女を磔にした。乙女ゲームの世界だからか、磔といっても木材に縄で縛りつけるだけだ。釘で打ちつけたりはしない。
そして、準備は整った。
火刑に際し、教会から高位の司祭が呼ばれ、罪人に最後の祝福を与え――
「アンタたち!」
ざわめく民衆を磔にされ高みから見下ろして。ノエルは怒りの声を張りあげた。
「バッッカじゃないの?!」
こんなか弱い乙女に何ができるっていうのよ!砦を壊した?ルドラを攻めた?
ウチの阿呆な弟だって、そんな大ウソ信じないわよ!!
声を張るノエルに野次馬が叫び返した。
「王子誑かして銀山売ったのは認めるのか!」
民衆の視線がノエルに集中する。ノエルは……
言葉に詰まった。
「やることやってんじゃねぇか!」
勢いづく野次馬。
人間、言い返されるとムキになる。
「アタシと彼の穴芋はペレアス一よっ!!」
ノエルは声を大にして、明後日な台詞を喚いた。
◆◆◆
ノエルが火刑にされる。
報せはあまりにも突然だった。
「今日の午後?!」
時間がない。
「広場で公開処刑か…。おい、悪魔。アンタの主でしょ?何とか攫えないの?」
拠点に連れて帰って、アナベル様が服を剥ぎ取りポーションを塗りたくり、私が魔力譲渡して無理矢理回復させた『ロザリー』は、黙って剣を持ちだした。
「…特攻して、時間を稼ぐ」
「却下。脳筋が過ぎるわ」
バッサリ切り捨てると、紫水晶の瞳が私を鋭く睨んだ。
「まだ皆まで言っていない…。公開処刑ということは、司祭が呼ばれているだろう。なら、あの忌々しいデブ聖鳥とやらもいるんじゃないか?」
話が読めないんだけど?
「おい、そこのガキ。おまえは魔物を操れるんだよな?」
不意にフェリックス君に話を振る、『ロザリー』。フェリックス君はおどおどしつつも頷いた。
「聖鳥を操って姉の前で囀らせろ。そうすればあの女は聖女様だ。なりたいとか本人もほざいていたしな。ムカつくが、ソレしかない」
…ねぇ『ロザリー』。アンタってそーゆーキャラだっけ?
「…大変胸糞ですが、それしかございません?」
「なんで疑問形??」
「黙れ…黙りなさい。れれ…レディ??」
なんで顔が引き攣ってんのよ。失礼ね。
そんなやり取りをしたのが、今日の早朝。
「レオ!フレスベルク、見つかった?」
「ギギ…」
私は今、フェリックス君と一緒に王都を駆け回っていた。畜生ォ、ノエルのためになんでこんなことまで!
私とフェリックス君以外の三人は処刑の行われる広場に待機し、少しでも時間を稼いでもらう。広場に司祭様の姿はあったものの、聖鳥の姿はなかった。よってこのざまだ。
広場に来ていないのなら、教会にいるはずと赴いたのだが、
「聖鳥様はスケジュールが詰まっておりまして、本日は夜までお戻りになりません」
マネージャーみたいな助祭さんに言われたのが、二時間ほど前。もうすぐ昼を回るぞ!
「フェリックス君、大丈夫?」
駆けずり回って私も彼もヘロヘロ。ったく、聖鳥め、どこほっつき歩いてんだよ!
王都は、そろそろお昼時だ。通りには食べ物を売る屋台が店を開き、美味しそうな匂いが漂いだした。
と。
「おいちゃ~ん、串焼き一本!お代は胸が絶壁なマスターが払うよ~」
…聞き捨てならないひと言を聞いた。
「あ!キノコ!」
フェリックス君が指差した先に。ヨレヨレなミニエリンギが、平然と屋台の一つに並んでる!
「一本銅貨三枚だよ!」
「はい、三本頂戴。お釣りはいらないよ」
串焼き屋台のおじさんに銀貨を渡して。私は、ふざけたエリンギの背後に立った。
「あっあ~♪安~い串焼きも、おいらの犬肉がAランク牛肉に変身する粉振りかけて絶品だよ~ん♪」
呑気に喜んでいるエリンギの両脇を抱え、クルッと回転させた。
「ね~ぇ、キノコ…。私の胸がなんだって?」
串焼きを持ったまま、ジタバタ暴れるエリンギマンAG。フェリックス君が蒼白な顔で後退りをしている。
「ままま…マスターの…胸は、そそ、その…」
「ん?」
「あ…アレ、かな?」
小っさい手が指差した先にあったのは。
「えーい、らっしゃいらっしゃーい!ゴリの蒲焼きだよ!美味いよー!」
魚を捌いたと思われる、汚いまな板。
「ぜああっ!」
失礼なことを言いやがったミニエリンギは、王都の空の彼方へと放物線を描いて…
「ギエエッ!」
パクン!
そこに突如、何かが突っ込んできてエリンギマンAGを………器用に避けて串焼きだけを咥えた。キノコと串焼きの串は垂直に落下した。
「あ…あれはっ!」
フェリックス君が叫んだ。
白銀の羽根を羽ばたかせ、悠々…ではなくヘロヘロと飛ぶデブ鳥は…
「フレスベルク!!」
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