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第1章 宿り木ホテルと季節の人々
第66話 デートと泊る(?)とハンバーガーと
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約束は、昼過ぎ。
「ラフな格好でいい」
奏はそう言ったが、
その“ラフ”がどこを指すのか、結にはさっぱり分からなかった。
(ラフって何……
厨房着よりはちゃんとするけど、気合入れすぎたら重いよね……)
結は結局、
白いニットにデニム、歩きやすい靴という無難すぎる選択に落ち着いた。
ロビーで待っていると、
エレベーターから奏が降りてくる。
一瞬、結は言葉を失った。
「……それ、私服ですか」
「そうだけど」
黒のパーカーに、シンプルなシャツ、細身のパンツ。
厨房では見ない、でも派手でもない。
(ずるい……普通なのに、ちゃんと“男の人”だ……)
「変か?」
「いえ……」
結は視線を逸らした。
「……かっこいいです」
奏は一瞬だけ固まり、
それから咳払いをした。
「……ありがとう」
そのやり取りだけで、
二人ともすでに疲れていた。
選んだのは、町外れのハンバーガーショップ。
高級でも、おしゃれでもない。
でも、地元では有名な店だ。
「ここ、前に川谷さんが勧めてくれた」
「卸業者の情報網、すごいですね」
席に向かい合って座るが、
会話が一瞬、途切れる。
(……仕事以外で、二人で座ってるの初めてだ)
「何、頼む?」
「……チーズバーガー」
「じゃあ、同じで」
沈黙。
結は紙ナプキンを意味もなく折りたたむ。
「……緊張してる?」
奏が聞いた。
「してます」
即答だった。
「奏さんは?」
「……してる」
意外な返答に、結が顔を上げる。
「そう見えません」
「見せないだけだ」
バーガーが運ばれてくる。
分厚いパティ、溶けたチーズ、香ばしいバンズ。
持ち上げるだけで、少し崩れそうだ。
「……どうやって食べるのが正解ですかね」
「正解はない」
二人同時にかぶりつく。
ソースが、結の指についた。
「あ……」
「拭け」
奏がナプキンを差し出す。
指が、触れる。
それだけで、胸が跳ねた。
(落ち着け……ハンバーガーだよ……)
事故は、いつも突然に
「……あれ?」
背後から聞き覚えのある声。
結が振り返ると、
そこには――
「結さん?」
快と京子が立っていた。
「え」
「え?」
「ええ?」
三人同時。
「……デート?」
京子が一瞬で察する。
「ち、違……」
「違わない」
奏が遮った。
結が固まる。
「……付き合ってるの?」
京子の目が輝く。
「……はい」
結が小さく答えると、
「は!?マジで!?」
快が声を裏返す。
「だから空気変わったって言ったのに!!」
「京子さん声大きいです!」
周囲の客がちらっと見る。
奏は淡々と、
「ここで会うとは思わなかったな」
「こっちの台詞だよ!」
京子はニヤニヤしている。
「じゃ、ごゆっくり。ここだけの話しにしとくわ
ちなみに・・・今夜は・・・お泊まり?」
「京子さん!!!!!!!!!!!」
結の顔が赤くなる。
「…泊まり?…どこに泊る?」
奏がキョトンとしてると、
快が肩を叩いた。
「神谷さん、頑張ってください」
何を、とは言わない。
二人が去ると、
結はぐったりと椅子にもたれた。
「……事故でしたね」
「想定外だったな」
でも、奏の口元は少し緩んでいた。
その日の夜
ホテルに戻る道。
夕方の空気が、少し冷たい。
「…すごく…楽しかったです」
結が言う。
「それならよかった」
エントランス前で、足が止まる。
ここから先は、
同じ方向でも、意味が変わる。
「……今日」
結は、少し迷ってから言った。
「いっしょに・・・泊まりますか?」
奏は、すぐに答えなかった。
結の不安が、胸に広がる。
「……結」
奏は、真剣な顔で言った。
「今日は、帰ろう」
結は一瞬、驚いた。
「嫌とかじゃない」
「……わかってます」
「初デートの終わりは、ちゃんと区切りたい」
静かな声だった。
結は、少し寂しくて、
でも――安心した。
「……じゃあ、次は?」
「次は、迷わない」
奏はそう言って、
軽くキスをした。
短く、静かに。
「おやすみ」
「……おやすみなさい」
扉が閉まる。
自分の家のに帰った結は、
ベッドに座り、深く息を吐いた。
(今日、泊まらなかったの……たぶん、正解だったんだよね)
胸の奥が、
じんわりとした。
恋は、急がなくてもいい。
そう思えた、初めての夜だった。
第67話「元料理人と老紳士とブイヤベースと」につづく
「ラフな格好でいい」
奏はそう言ったが、
その“ラフ”がどこを指すのか、結にはさっぱり分からなかった。
(ラフって何……
厨房着よりはちゃんとするけど、気合入れすぎたら重いよね……)
結は結局、
白いニットにデニム、歩きやすい靴という無難すぎる選択に落ち着いた。
ロビーで待っていると、
エレベーターから奏が降りてくる。
一瞬、結は言葉を失った。
「……それ、私服ですか」
「そうだけど」
黒のパーカーに、シンプルなシャツ、細身のパンツ。
厨房では見ない、でも派手でもない。
(ずるい……普通なのに、ちゃんと“男の人”だ……)
「変か?」
「いえ……」
結は視線を逸らした。
「……かっこいいです」
奏は一瞬だけ固まり、
それから咳払いをした。
「……ありがとう」
そのやり取りだけで、
二人ともすでに疲れていた。
選んだのは、町外れのハンバーガーショップ。
高級でも、おしゃれでもない。
でも、地元では有名な店だ。
「ここ、前に川谷さんが勧めてくれた」
「卸業者の情報網、すごいですね」
席に向かい合って座るが、
会話が一瞬、途切れる。
(……仕事以外で、二人で座ってるの初めてだ)
「何、頼む?」
「……チーズバーガー」
「じゃあ、同じで」
沈黙。
結は紙ナプキンを意味もなく折りたたむ。
「……緊張してる?」
奏が聞いた。
「してます」
即答だった。
「奏さんは?」
「……してる」
意外な返答に、結が顔を上げる。
「そう見えません」
「見せないだけだ」
バーガーが運ばれてくる。
分厚いパティ、溶けたチーズ、香ばしいバンズ。
持ち上げるだけで、少し崩れそうだ。
「……どうやって食べるのが正解ですかね」
「正解はない」
二人同時にかぶりつく。
ソースが、結の指についた。
「あ……」
「拭け」
奏がナプキンを差し出す。
指が、触れる。
それだけで、胸が跳ねた。
(落ち着け……ハンバーガーだよ……)
事故は、いつも突然に
「……あれ?」
背後から聞き覚えのある声。
結が振り返ると、
そこには――
「結さん?」
快と京子が立っていた。
「え」
「え?」
「ええ?」
三人同時。
「……デート?」
京子が一瞬で察する。
「ち、違……」
「違わない」
奏が遮った。
結が固まる。
「……付き合ってるの?」
京子の目が輝く。
「……はい」
結が小さく答えると、
「は!?マジで!?」
快が声を裏返す。
「だから空気変わったって言ったのに!!」
「京子さん声大きいです!」
周囲の客がちらっと見る。
奏は淡々と、
「ここで会うとは思わなかったな」
「こっちの台詞だよ!」
京子はニヤニヤしている。
「じゃ、ごゆっくり。ここだけの話しにしとくわ
ちなみに・・・今夜は・・・お泊まり?」
「京子さん!!!!!!!!!!!」
結の顔が赤くなる。
「…泊まり?…どこに泊る?」
奏がキョトンとしてると、
快が肩を叩いた。
「神谷さん、頑張ってください」
何を、とは言わない。
二人が去ると、
結はぐったりと椅子にもたれた。
「……事故でしたね」
「想定外だったな」
でも、奏の口元は少し緩んでいた。
その日の夜
ホテルに戻る道。
夕方の空気が、少し冷たい。
「…すごく…楽しかったです」
結が言う。
「それならよかった」
エントランス前で、足が止まる。
ここから先は、
同じ方向でも、意味が変わる。
「……今日」
結は、少し迷ってから言った。
「いっしょに・・・泊まりますか?」
奏は、すぐに答えなかった。
結の不安が、胸に広がる。
「……結」
奏は、真剣な顔で言った。
「今日は、帰ろう」
結は一瞬、驚いた。
「嫌とかじゃない」
「……わかってます」
「初デートの終わりは、ちゃんと区切りたい」
静かな声だった。
結は、少し寂しくて、
でも――安心した。
「……じゃあ、次は?」
「次は、迷わない」
奏はそう言って、
軽くキスをした。
短く、静かに。
「おやすみ」
「……おやすみなさい」
扉が閉まる。
自分の家のに帰った結は、
ベッドに座り、深く息を吐いた。
(今日、泊まらなかったの……たぶん、正解だったんだよね)
胸の奥が、
じんわりとした。
恋は、急がなくてもいい。
そう思えた、初めての夜だった。
第67話「元料理人と老紳士とブイヤベースと」につづく
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