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第2章 季節の変わり目は複雑な天気に
第93話 初顔合わせの初練習日
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開始の合図が出た瞬間、結は嫌な予感がした。
四人。
同じ調理台。
同じ制限時間。
同じ課題食材――海老。
なのに、誰も、誰も、視線を合わせない。
「……じゃ、まず殻で出汁取りますね」
結が言った。
返事はなかった。
天才肌の男――名前は黒崎。
彼は無言でフライパンを温め始めている。
無口なフレンチの男――相原。
包丁を研ぎ始めたまま、顔も上げない。
女性料理人――篠原。
ノートを開き、メモを確認している。
(……え、今の聞こえてなかった?)
「出汁、取りますね!」
結は少し声を張った。
「あ、うん」
黒崎が生返事で言う。
「でも俺、殻使わない方向で考えてるから」
「……え?」
「香りはミソで引っ張る殻は雑味出やすいし」
結は一瞬言葉を失う。
「でも全員で一皿にまとめるんですよね?」
「最終的にはね」
黒崎は軽い。
「初回だし途中までは自由でいかない?」
相原が低く言った。
「……時間の無駄だ」
「え?」
「まず役割を決めるべきだ」
篠原が顔を上げる。
「私は火入れを担当したいです」
即答だった。
「海老は私がこの中では一番慣れてます」
黒崎が笑う。
「じゃあ俺は構成とソース」
「……勝手に決めるな!」
相原の声が、少しだけ強くなる。
「グループ審査だぞ!」
「でも評価はたぶん個人だよ?」
黒崎は悪びれない。
「手柄は取らないとね」
空気が一段冷えた。
結は、思わず言った。
「……それ練習の意味ありますか?」
三人の視線が集まる。
「本番で連携取れなかったら、
全員沈みますよ」
黒崎が肩をすくめた。
「俺がいれば大丈夫でしょ」
練習開始。
と同時に崩壊が始まった。
結が殻を炒めている横で、
黒崎が別の殻を強火で焼く。
「ちょ、温度――」
「大丈夫♪大丈夫♪」
篠原が海老を茹で始める。
「その火入れ少し早すぎませんか?」
「これが私のやり方です」
相原は一言も発さず、
勝手にガルニチュールを作り始めた。
調理場はカオスな戦場だった。
鍋がぶつかる。
フライパンの音が被る。
タイミングはずれ、
温度は合わず、
盛り付けの皿すら共有されない。
「ちょっと待って、これ誰の皿?」
「俺のがからつかうなよ」
「もう盛っちゃたんですけど」
「それは触らないで」
時間切れ。
出来上がった四皿は、
同じ“海老”を使っているとは思えないほど、バラバラだった。
味見。
結は、一口で分かった。
(……だめだ)
不味くはない。
でも――
一緒に作った料理の味じゃない。
「……練習としては最悪だな」
黒崎が言う。
「でも俺は手応えある」
篠原は唇を噛んでいる。
相原は皿を見つめたまま、言った。
「……二度とこのやり方はやりたくない」
結は深く息を吸った。
「……次話し合いからやりませんか?」
黒崎が少しだけ眉をひそめる。
「まだ“次”があると思ってるの?」
結は、その言葉に何も返せなかった。
確かに、
このままなら――
誰も、三次審査を突破できない。
厨房を出るとき、
結は一人だけ、振り返った。
調理台の上に残る、
冷めた海老の香り。
(……料理が嫌いになりかけた、あの夜より)
今日のほうが、ずっと苦しい。
他人と作る料理は、こんなにも難しい。
それを、初めて突きつけられた夜だった。
四人。
同じ調理台。
同じ制限時間。
同じ課題食材――海老。
なのに、誰も、誰も、視線を合わせない。
「……じゃ、まず殻で出汁取りますね」
結が言った。
返事はなかった。
天才肌の男――名前は黒崎。
彼は無言でフライパンを温め始めている。
無口なフレンチの男――相原。
包丁を研ぎ始めたまま、顔も上げない。
女性料理人――篠原。
ノートを開き、メモを確認している。
(……え、今の聞こえてなかった?)
「出汁、取りますね!」
結は少し声を張った。
「あ、うん」
黒崎が生返事で言う。
「でも俺、殻使わない方向で考えてるから」
「……え?」
「香りはミソで引っ張る殻は雑味出やすいし」
結は一瞬言葉を失う。
「でも全員で一皿にまとめるんですよね?」
「最終的にはね」
黒崎は軽い。
「初回だし途中までは自由でいかない?」
相原が低く言った。
「……時間の無駄だ」
「え?」
「まず役割を決めるべきだ」
篠原が顔を上げる。
「私は火入れを担当したいです」
即答だった。
「海老は私がこの中では一番慣れてます」
黒崎が笑う。
「じゃあ俺は構成とソース」
「……勝手に決めるな!」
相原の声が、少しだけ強くなる。
「グループ審査だぞ!」
「でも評価はたぶん個人だよ?」
黒崎は悪びれない。
「手柄は取らないとね」
空気が一段冷えた。
結は、思わず言った。
「……それ練習の意味ありますか?」
三人の視線が集まる。
「本番で連携取れなかったら、
全員沈みますよ」
黒崎が肩をすくめた。
「俺がいれば大丈夫でしょ」
練習開始。
と同時に崩壊が始まった。
結が殻を炒めている横で、
黒崎が別の殻を強火で焼く。
「ちょ、温度――」
「大丈夫♪大丈夫♪」
篠原が海老を茹で始める。
「その火入れ少し早すぎませんか?」
「これが私のやり方です」
相原は一言も発さず、
勝手にガルニチュールを作り始めた。
調理場はカオスな戦場だった。
鍋がぶつかる。
フライパンの音が被る。
タイミングはずれ、
温度は合わず、
盛り付けの皿すら共有されない。
「ちょっと待って、これ誰の皿?」
「俺のがからつかうなよ」
「もう盛っちゃたんですけど」
「それは触らないで」
時間切れ。
出来上がった四皿は、
同じ“海老”を使っているとは思えないほど、バラバラだった。
味見。
結は、一口で分かった。
(……だめだ)
不味くはない。
でも――
一緒に作った料理の味じゃない。
「……練習としては最悪だな」
黒崎が言う。
「でも俺は手応えある」
篠原は唇を噛んでいる。
相原は皿を見つめたまま、言った。
「……二度とこのやり方はやりたくない」
結は深く息を吸った。
「……次話し合いからやりませんか?」
黒崎が少しだけ眉をひそめる。
「まだ“次”があると思ってるの?」
結は、その言葉に何も返せなかった。
確かに、
このままなら――
誰も、三次審査を突破できない。
厨房を出るとき、
結は一人だけ、振り返った。
調理台の上に残る、
冷めた海老の香り。
(……料理が嫌いになりかけた、あの夜より)
今日のほうが、ずっと苦しい。
他人と作る料理は、こんなにも難しい。
それを、初めて突きつけられた夜だった。
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