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第2章 季節の変わり目は複雑な天気に
第97話 侮辱
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合同練習の休憩時間。
厨房の隅でBグループは簡単な打ち合わせをしていた。
「さっきのAグループの構成もう一回整理しよう」
篠原が言い相原がノートを開く。
結は頭の中でまだ他グループの皿を反芻していた。
――そのときだった。
「へえ」
乾いた声が背後から落ちてきた。
振り向くとそこに立っていたのは
Aグループの一人森崎。
年齢は結より少し上経歴も十分。
口元には笑っているようで笑っていない薄い線。
「Bグループだっけ?」
結が一歩前に出る。
「そうですが何か?」
「いや、さっき皿見たからさ」
森崎は腕を組み首を傾げた。
「“一皿になった”って顔してたな君たち」
空気がぴたりと止まった。
相原が眉をひそめる。
「それが何か?」
「いやいや悪い意味じゃないよ」
森崎は笑う。
「料理学校の最終課題なら、
ああいうの先生喜ぶだろうなって」
結の喉がきゅっと締まる。
「……ここ、コンクールですけど」
「うん、だから言ってる」
森崎の視線が結にまっすぐ刺さる。
「勝つ気ある?」
篠原が一歩踏み出しかけるが、
黒崎が静かに手で制した。
「侮辱ですかそれは」
黒崎の低い声。
「事実確認だよ」
森崎は肩をすくめた。
「悪いけどさ、
君たちの皿“優しい”だけ」
結の胸がどくんと鳴る。
「全員が納得できる味。
誰も傷つかない構成。
失敗しない火入れ」
一拍置いて続ける。
「でもさ、
誰の記憶にも残らない」
相原が歯を食いしばる。
「それ、食べてもいないのに言います?」
「食べたよ」
森崎はあっさり言った。
「で、分かった。
ああ、“丁寧なグループ”だなって」
結の手が震え始めている。
(やめて、分かってるでも――)
「……」
結は、顔を上げた。
「だったら、どうしてわざわざ言いに来たんですか」
森崎は一瞬だけ目を細めた。
「君が中心だから」
結の心臓が跳ねる。
「まとめ役で調整役。
全員の顔色を見てる」
そして、はっきりと言った。
「そういう料理人は一番伸びない」
その言葉が胸に突き刺さる。
篠原が声を荒げる。
「さすがに言い過ぎじゃな――」
「違う?」
森崎は遮る。
「一番失敗するの誰だと思う?」
結を見る。
「こういうタイプだよ。
“みんなで作った一皿”に満足して、
自分の料理を失うやつ」
結の視界が少し滲んだ。
でも――
下は向かなかった。
「……ありがとうございます」
森崎が少し驚いた顔をする。
「忠告として受け取ります」
結は、はっきりと言った。
「でも」
一歩、前に出る。
「あなたの皿が、
誰かの記憶に残るかどうかは私には関係ありません」
厨房の空気が、張りつめる。
「私たちは私たちのやり方で行きます
そして3次予選突破するのは私たちです!!」
森崎は、数秒結を見つめ、
ふっと笑った。
「いいね」
その笑みは楽しそうだった。
「じゃあ、
落ちるときは派手に落ちてね」
そう言い残しAグループの方へ戻っていく。
沈黙。
相原が低く言った。
「……喧嘩売られたな」
篠原も頷く。
「完全に」
黒崎が結を見る。
「大丈夫か?」
結は、しばらく何も言わなかった。
そして――
小さく、息を吸う。
「……正直、めちゃくちゃ悔しいです
だから……勝ちます」
声は震えていたが、目は揺れていない。
拳を、ぎゅっと握る。
「だからこそ、
中途半端な皿は出せない」
三人が静かに頷く。
Bグループは確かに見下された。
だが同時に――
明確な目標を得た。
結の胸の奥で、
これまでとは違う火が灯り始めていた。
厨房の隅でBグループは簡単な打ち合わせをしていた。
「さっきのAグループの構成もう一回整理しよう」
篠原が言い相原がノートを開く。
結は頭の中でまだ他グループの皿を反芻していた。
――そのときだった。
「へえ」
乾いた声が背後から落ちてきた。
振り向くとそこに立っていたのは
Aグループの一人森崎。
年齢は結より少し上経歴も十分。
口元には笑っているようで笑っていない薄い線。
「Bグループだっけ?」
結が一歩前に出る。
「そうですが何か?」
「いや、さっき皿見たからさ」
森崎は腕を組み首を傾げた。
「“一皿になった”って顔してたな君たち」
空気がぴたりと止まった。
相原が眉をひそめる。
「それが何か?」
「いやいや悪い意味じゃないよ」
森崎は笑う。
「料理学校の最終課題なら、
ああいうの先生喜ぶだろうなって」
結の喉がきゅっと締まる。
「……ここ、コンクールですけど」
「うん、だから言ってる」
森崎の視線が結にまっすぐ刺さる。
「勝つ気ある?」
篠原が一歩踏み出しかけるが、
黒崎が静かに手で制した。
「侮辱ですかそれは」
黒崎の低い声。
「事実確認だよ」
森崎は肩をすくめた。
「悪いけどさ、
君たちの皿“優しい”だけ」
結の胸がどくんと鳴る。
「全員が納得できる味。
誰も傷つかない構成。
失敗しない火入れ」
一拍置いて続ける。
「でもさ、
誰の記憶にも残らない」
相原が歯を食いしばる。
「それ、食べてもいないのに言います?」
「食べたよ」
森崎はあっさり言った。
「で、分かった。
ああ、“丁寧なグループ”だなって」
結の手が震え始めている。
(やめて、分かってるでも――)
「……」
結は、顔を上げた。
「だったら、どうしてわざわざ言いに来たんですか」
森崎は一瞬だけ目を細めた。
「君が中心だから」
結の心臓が跳ねる。
「まとめ役で調整役。
全員の顔色を見てる」
そして、はっきりと言った。
「そういう料理人は一番伸びない」
その言葉が胸に突き刺さる。
篠原が声を荒げる。
「さすがに言い過ぎじゃな――」
「違う?」
森崎は遮る。
「一番失敗するの誰だと思う?」
結を見る。
「こういうタイプだよ。
“みんなで作った一皿”に満足して、
自分の料理を失うやつ」
結の視界が少し滲んだ。
でも――
下は向かなかった。
「……ありがとうございます」
森崎が少し驚いた顔をする。
「忠告として受け取ります」
結は、はっきりと言った。
「でも」
一歩、前に出る。
「あなたの皿が、
誰かの記憶に残るかどうかは私には関係ありません」
厨房の空気が、張りつめる。
「私たちは私たちのやり方で行きます
そして3次予選突破するのは私たちです!!」
森崎は、数秒結を見つめ、
ふっと笑った。
「いいね」
その笑みは楽しそうだった。
「じゃあ、
落ちるときは派手に落ちてね」
そう言い残しAグループの方へ戻っていく。
沈黙。
相原が低く言った。
「……喧嘩売られたな」
篠原も頷く。
「完全に」
黒崎が結を見る。
「大丈夫か?」
結は、しばらく何も言わなかった。
そして――
小さく、息を吸う。
「……正直、めちゃくちゃ悔しいです
だから……勝ちます」
声は震えていたが、目は揺れていない。
拳を、ぎゅっと握る。
「だからこそ、
中途半端な皿は出せない」
三人が静かに頷く。
Bグループは確かに見下された。
だが同時に――
明確な目標を得た。
結の胸の奥で、
これまでとは違う火が灯り始めていた。
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