ホテル「ソラスフォレスト」と季節の人々 ~44歳男性コックと25歳女性コックの不器用関係と不思議なスタッフと~

物書き赤べこ

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第2章 季節の変わり目は複雑な天気に

第104話 第4次試験案内通知

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 昼下がりのソラス・フォレストは珍しく穏やかだった。

 ロビーでは京子が帳簿を確認し、
 快はチェックイン準備、
 結は厨房で下準備。

 ――そこへ。

 自動ドアがやけに大仰な音を立てて開いた。

「失礼しまーす!」

 入ってきたのは、
 黒スーツ三人組。
 全員同じ角度、同じ歩幅、同じ緊張感。

 しかも一人なぜか
 分厚い封筒を胸に抱えている。

 京子が反射的に笑顔になる。

「いらっしゃいませソラス・フォレストへ――」

「全国料理技術協会の者です!」

「協会の使者!?」

 京子の接客ボイスが崩れた。

 快が小声で言う。

「……協会?」

「え、聞いてない聞いてない聞いてない」

 厨房から顔を出した結も固まる。

「……あ」

 協会の人間がピタリと結を見つけた。

「佐山結さんですね」

「は、はい」

 その瞬間、
 なぜかロビーの空気が一段静まった。

 支配人・木島が奥から出てくる。

「どうしたどうした? 事件か?」

「第四次試験のご案内です」

 協会の男は、
 ゆっくりと封筒を差し出した。

 やけに重そうだ。

「……郵送じゃダメだった?」

「重要事項が多く直接お渡しする規定でして」

「嫌な予感しかしないな」

 結が封を切る。

 中身を読み――

「……え?」

 京子が即覗き込む。

「なになに?……は?」

 快も見る。

「……観客?」

 舞が工具箱を置く。

「……テレビ?」

 支配人が眉をひそめる。

「……収録?」

 結は震える声で読み上げた。

「第四次試験(準決勝)より、
 一般観客を入れた公開審査とする。
 なお生放送ではないが、
 テレビ収録が入る――」

 沈黙。

 次の瞬間。

「いや無理無理無理無理でしょう!!」

 京子が叫んだ。

「なに!?
 うちの結ちゃんがテレビ!?
 しかも観客あり!?
 え、私なに着ればいいの!?!?」

「京子さんあなたは出ません」

「でも映るでしょ!? 背景に!!」

 舞が腕を組む。

「テレビかぁ……
 変な角度で映されたら嫌だな」

「舞さんも出ません」

「え、なんでちょっと残念そうなの」

 支配人が協会の人を見る。

「うち静かな森のホテルですよ?」

「承知しています」

「静かさが売りなんですけど?」

「だからこそ“対比”が映えると」

「理由がメディア側の都合すぎる!」

 厨房から奏が出てきた。

「……騒がしいな」

「奏さん!!
 結ちゃんが! テレビです!!」

「そうか……意味が分からんが?」

 奏は一言で済ませた。

 協会の人が続ける。

「なお、先日もお話いたしましたが準決勝はグループ内個人戦。
 上位二名が決勝進出となります」

「二人……」

 結は紙を握りしめた。

 不安と現実感のなさが混ざる。

 すると――

「よかったじゃないか」

 支配人がにやりと笑った。

「ソラス・フォレストの厨房が、
 ちょっとだけ世間にアピールできる」

「支配人!!
 プレッシャーかけないでください!!」

「プレッシャーじゃない。
 祭りだろ!!」

「料理コンクールを祭り扱いしないで!」

 協会の人が最後に言う。

「詳細は書面をご覧ください。
 では御検討を」

 そう言って一礼して去っていった。

 自動ドアが閉まる。

 数秒後。

「……テレビって……」

「……観客って……」

「……準決勝……」

 結が深く息を吸った。

「これは……現実ですかね?」

 奏が静かに言う。

「がんばれ」

「はい」

 京子がにやっと笑った。

「でもさ」

「?」

「面白くなってきたじゃない」

 結は少しだけ笑った。

 静かな森のホテルに、
 とんでもなく騒がしい未来が、
 足音もなく近づいていた。
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