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第2章 季節の変わり目は複雑な天気に
第103話 久しぶりの日常と労い
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ソラス・フォレストの裏口のドアを結は久しぶりに押した。
ギイ、と控えめな音。
それだけで胸の奥が少し緩む。
(……ああ、戻ってきた)
厨房の匂い。
出汁とパンとほんのりコーヒー。
白衣に袖を通し髪をまとめる。
それだけの動作なのに指先が少し震えた。
奥から声が飛んでくる。
「おーい!!」
次の瞬間――
「結ちゃーーーん!!!」
京子が、ほぼ突進してきた。
「ちょ、京子さん! 前見てください!」
「無理無理無理!
三次突破おめでとう!!
もう聞いてる聞いてる! 全部聞いてる!!」
「声大きいですって……!」
その後ろから快が苦笑しながら続く。
「お疲れ。無事で何よりだ」
「……ありがとうございます」
さらに支配人・木島が腕を組んで現れる。
「おかえり。
大舞台だったそうじゃないか」
「いえ……まだ途中です」
「それでも十分だ。
“戻る場所がある”ってのは強いぞ」
結は、思わず一礼した。
その横で同じタイミングで入ってきた公が気まずそうに立っていた。
「……あ」
「公も!」
京子が即座に方向転換する。
「はいはいはいはい!!
公くんもお疲れさま!!
Dグループ三位でしょ!? 十分すぎるわよ!!」
「いや……正直、悔しいです」
「悔しい顔してる時点で合格!」
舞が工具箱を肩にかけたまま口を挟む。
「でもさ、あのメンツで三位って普通にすごくない?」
「……まあ」
公は照れたように視線を逸らした。
そこへ――
「おかえり」
低い声。
奏だった。
結は、思わず背筋を伸ばす。
「……ただいま戻りました」
「ああ、おかえり。顔少し痩せたな」
「……そうですか?」
「無理してた顔だ」
それだけ言って奏はいつもの位置に戻る。
それなのに、
その一言で結の肩から力が抜けた。
(……ああ、ちゃんと見てくれてる)
朝の仕込みが始まる。
結と公は自然と並んで作業に入った。
包丁の音が重なる。
しばらくして静枝が小さな声で言った。
「二人とも……よく頑張ったね」
「ありがとうございます」
「無事に帰ってきてくれただけで十分だよ」
その言葉に公が小さく笑う。
「……ホテルってこういう場所でしたっけ」
「今さら何言ってんの」
京子が即ツッコむ。
「戦場から帰ってきた人を囲んで、
勝手に労う場所でしょ」
「勝手って言わないでください……」
昼前。
まかないが出された。
「今日は特別ね」
快が運んできたのは、
具沢山の豚汁と少し大きめのおにぎり。
「お祝いってほど派手じゃないけどさ」
「……十分です」
結は湯気の立つ豚汁を見つめる。
はしをを入れると、
根菜がごろりと顔を出した。
一口。
塩気と出汁と、
“誰かが作ってくれた味”。
喉の奥がじんと熱くなる。
「……美味しい」
「でしょ」
公も黙って食べている。
二人とも言葉が少なかった。
でもそれでよかった。
ここでは、
無理に強くならなくていい。
奏がふいに言う。
「準決勝、個人戦らしいな」
「……はい」
「焦る必要はない
ここで働く結をだせば良い」
結は、ゆっくりと頷いた。
「……はい」
戦いはまだ続く。
でも――
戻る場所があることを、
今日ははっきりと思い出せた。
ソラス・フォレストの厨房は、
いつも通り、温かくて、少し騒がしかった。
ギイ、と控えめな音。
それだけで胸の奥が少し緩む。
(……ああ、戻ってきた)
厨房の匂い。
出汁とパンとほんのりコーヒー。
白衣に袖を通し髪をまとめる。
それだけの動作なのに指先が少し震えた。
奥から声が飛んでくる。
「おーい!!」
次の瞬間――
「結ちゃーーーん!!!」
京子が、ほぼ突進してきた。
「ちょ、京子さん! 前見てください!」
「無理無理無理!
三次突破おめでとう!!
もう聞いてる聞いてる! 全部聞いてる!!」
「声大きいですって……!」
その後ろから快が苦笑しながら続く。
「お疲れ。無事で何よりだ」
「……ありがとうございます」
さらに支配人・木島が腕を組んで現れる。
「おかえり。
大舞台だったそうじゃないか」
「いえ……まだ途中です」
「それでも十分だ。
“戻る場所がある”ってのは強いぞ」
結は、思わず一礼した。
その横で同じタイミングで入ってきた公が気まずそうに立っていた。
「……あ」
「公も!」
京子が即座に方向転換する。
「はいはいはいはい!!
公くんもお疲れさま!!
Dグループ三位でしょ!? 十分すぎるわよ!!」
「いや……正直、悔しいです」
「悔しい顔してる時点で合格!」
舞が工具箱を肩にかけたまま口を挟む。
「でもさ、あのメンツで三位って普通にすごくない?」
「……まあ」
公は照れたように視線を逸らした。
そこへ――
「おかえり」
低い声。
奏だった。
結は、思わず背筋を伸ばす。
「……ただいま戻りました」
「ああ、おかえり。顔少し痩せたな」
「……そうですか?」
「無理してた顔だ」
それだけ言って奏はいつもの位置に戻る。
それなのに、
その一言で結の肩から力が抜けた。
(……ああ、ちゃんと見てくれてる)
朝の仕込みが始まる。
結と公は自然と並んで作業に入った。
包丁の音が重なる。
しばらくして静枝が小さな声で言った。
「二人とも……よく頑張ったね」
「ありがとうございます」
「無事に帰ってきてくれただけで十分だよ」
その言葉に公が小さく笑う。
「……ホテルってこういう場所でしたっけ」
「今さら何言ってんの」
京子が即ツッコむ。
「戦場から帰ってきた人を囲んで、
勝手に労う場所でしょ」
「勝手って言わないでください……」
昼前。
まかないが出された。
「今日は特別ね」
快が運んできたのは、
具沢山の豚汁と少し大きめのおにぎり。
「お祝いってほど派手じゃないけどさ」
「……十分です」
結は湯気の立つ豚汁を見つめる。
はしをを入れると、
根菜がごろりと顔を出した。
一口。
塩気と出汁と、
“誰かが作ってくれた味”。
喉の奥がじんと熱くなる。
「……美味しい」
「でしょ」
公も黙って食べている。
二人とも言葉が少なかった。
でもそれでよかった。
ここでは、
無理に強くならなくていい。
奏がふいに言う。
「準決勝、個人戦らしいな」
「……はい」
「焦る必要はない
ここで働く結をだせば良い」
結は、ゆっくりと頷いた。
「……はい」
戦いはまだ続く。
でも――
戻る場所があることを、
今日ははっきりと思い出せた。
ソラス・フォレストの厨房は、
いつも通り、温かくて、少し騒がしかった。
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