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第2章 季節の変わり目は複雑な天気に
第106話 事前密着撮影
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その日は、朝から空気が違った。
「……今日かぁ~やだな~」
結が更衣室で白衣を着ながら、ぽつりと呟く。
「“準決勝出場者・密着事前取材”だよね」
京子は、いつもより一段落ち着いた声で言った。
「テレビスタッフ三名。
カメラ一台。
音声一名」
「私……無理です」
結は即座に断言した。
「もう、無理です昨日から胃が……」
「大丈夫?」
京子はきっぱり言う。
「結はいつも通り仕事してればいいと思うよ」
「……喋らなくても?」
「喋らなくていいんだよ」
舞が横から口を挟む。
「ていうか、喋らせない方向でいくのもかっこいいよね」
「え?」
「今日はねスタッフみんなで“包囲”するから安心して!!」
結は嫌な予感しかしなかった。
午前十時。
「本日はよろしくお願いします!」
明るすぎる声とともに、
テレビスタッフがロビーに入ってくる。
「○○テレビです
本日は密着取材ということで――」
「こちらこそ」
京子が一歩前に出る。
「まずですが、
結は業務中非常に集中するタイプです」
「は、はい」
「ですので、
質問は原則我々スタッフが受けます」
スタッフが一瞬、言葉に詰まる。
「……え?」
「本人への直接質問は、
最低限でお願いします」
にこやかだが、
完全に拒否の笑顔だった。
結は後ろで固まっている。
(助かる……けど……)
厨房。
カメラが入った瞬間、
結の肩がぴくりと跳ねた。
「では、
今のお気持ちを――」
「すみません」
奏がぬっと間に入る。
「只今包丁使ってますので今はが勘弁を」
「……あ、失礼しました!そうですよね危ないですよね」
舞がすかさず続く。
「結は今“料理の音”聞いてるから」
「音?」
「煮込みの」
「……あ、はい」
結は即座に鍋に意識を戻す。
カメラは回っているが、
質問は飛ばない。
代わりに――
「このホテルでは、
彼女はどういう存在ですか?」
「そうですね」
京子が答える。
「“安心して任せられる料理人”です」
「それ以上でも以下でもない」
奏が短く付け足す。
「あなた……結さんの恋人ですか?」
一瞬、空気が止まる。
結が完全にフリーズする前に、
「はいカットー!」
舞が明るく手を叩いた。
「その話は
今日は関係ないじゃないですか!」
「す、すみません!」
舞はにっこり笑う。
「料理の話だけで十分画になりますから」
午後。
ロケ用に用意された
“インタビュー用の椅子”。
結が座る――はずだった。
「……え?」
気づけば、
両隣に京子と舞。
「一人じゃない方が自然でしょ?」
「はい?」
「結ちゃんは
基本的にはうなずいてて」
「え?」
「私が喋るから」
奏は少し離れた位置で、
腕を組んで立っている。
完全な布陣だった。
「料理コンクールへの意気込みは?」
「……」
結が口を開きかける。
「彼女は、
“勝つため”より
“納得するため”に立ってます」
京子が言う。
「だから、
迷うし苦しむ」
「……でも」
舞が続ける。
「逃げないですよ彼女は」
結はその言葉に小さく頷くだけ。
それで、十分だった。
取材終了後。
「本当に、
ありがとうございました……」
テレビスタッフは、
深く頭を下げて帰っていった。
厨房が、
いつもの静けさを取り戻す。
「終わりました?
すいません、ほとんどしゃべれずで……」
結が恐る恐る聞く。
「終わったのか?」
奏が言う。
結はその場にしゃがみ込む。
「私……死ぬかと思いました」
「生きてるから大丈夫」
「京子さん……
舞さん……」
「何?」
「……ありがとうございます」
京子は少し照れたように言う。
「チームだからね」
舞は笑う。
「結は料理がんばれ!!」
奏は何も言わない。
ただ、
結の頭にそっと手を置く。
カメラが来ても。
テレビに出ても。
結は、
一人で立たなくていい。
それを、
全員が当然のように知っている。
それが――
このホテルだった。
「……今日かぁ~やだな~」
結が更衣室で白衣を着ながら、ぽつりと呟く。
「“準決勝出場者・密着事前取材”だよね」
京子は、いつもより一段落ち着いた声で言った。
「テレビスタッフ三名。
カメラ一台。
音声一名」
「私……無理です」
結は即座に断言した。
「もう、無理です昨日から胃が……」
「大丈夫?」
京子はきっぱり言う。
「結はいつも通り仕事してればいいと思うよ」
「……喋らなくても?」
「喋らなくていいんだよ」
舞が横から口を挟む。
「ていうか、喋らせない方向でいくのもかっこいいよね」
「え?」
「今日はねスタッフみんなで“包囲”するから安心して!!」
結は嫌な予感しかしなかった。
午前十時。
「本日はよろしくお願いします!」
明るすぎる声とともに、
テレビスタッフがロビーに入ってくる。
「○○テレビです
本日は密着取材ということで――」
「こちらこそ」
京子が一歩前に出る。
「まずですが、
結は業務中非常に集中するタイプです」
「は、はい」
「ですので、
質問は原則我々スタッフが受けます」
スタッフが一瞬、言葉に詰まる。
「……え?」
「本人への直接質問は、
最低限でお願いします」
にこやかだが、
完全に拒否の笑顔だった。
結は後ろで固まっている。
(助かる……けど……)
厨房。
カメラが入った瞬間、
結の肩がぴくりと跳ねた。
「では、
今のお気持ちを――」
「すみません」
奏がぬっと間に入る。
「只今包丁使ってますので今はが勘弁を」
「……あ、失礼しました!そうですよね危ないですよね」
舞がすかさず続く。
「結は今“料理の音”聞いてるから」
「音?」
「煮込みの」
「……あ、はい」
結は即座に鍋に意識を戻す。
カメラは回っているが、
質問は飛ばない。
代わりに――
「このホテルでは、
彼女はどういう存在ですか?」
「そうですね」
京子が答える。
「“安心して任せられる料理人”です」
「それ以上でも以下でもない」
奏が短く付け足す。
「あなた……結さんの恋人ですか?」
一瞬、空気が止まる。
結が完全にフリーズする前に、
「はいカットー!」
舞が明るく手を叩いた。
「その話は
今日は関係ないじゃないですか!」
「す、すみません!」
舞はにっこり笑う。
「料理の話だけで十分画になりますから」
午後。
ロケ用に用意された
“インタビュー用の椅子”。
結が座る――はずだった。
「……え?」
気づけば、
両隣に京子と舞。
「一人じゃない方が自然でしょ?」
「はい?」
「結ちゃんは
基本的にはうなずいてて」
「え?」
「私が喋るから」
奏は少し離れた位置で、
腕を組んで立っている。
完全な布陣だった。
「料理コンクールへの意気込みは?」
「……」
結が口を開きかける。
「彼女は、
“勝つため”より
“納得するため”に立ってます」
京子が言う。
「だから、
迷うし苦しむ」
「……でも」
舞が続ける。
「逃げないですよ彼女は」
結はその言葉に小さく頷くだけ。
それで、十分だった。
取材終了後。
「本当に、
ありがとうございました……」
テレビスタッフは、
深く頭を下げて帰っていった。
厨房が、
いつもの静けさを取り戻す。
「終わりました?
すいません、ほとんどしゃべれずで……」
結が恐る恐る聞く。
「終わったのか?」
奏が言う。
結はその場にしゃがみ込む。
「私……死ぬかと思いました」
「生きてるから大丈夫」
「京子さん……
舞さん……」
「何?」
「……ありがとうございます」
京子は少し照れたように言う。
「チームだからね」
舞は笑う。
「結は料理がんばれ!!」
奏は何も言わない。
ただ、
結の頭にそっと手を置く。
カメラが来ても。
テレビに出ても。
結は、
一人で立たなくていい。
それを、
全員が当然のように知っている。
それが――
このホテルだった。
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