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第2章 季節の変わり目は複雑な天気に
第107話 課題食材は何?
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夜の厨房は音が少なかった。
換気扇の低い唸り。
遠くで鳴る製氷機の規則的な音。
結は作業台の前に立ったまま何もしていなかった。
包丁は置いてある。
まな板も出してある。
けれど――切るものがない。
(課題食材が分からない)
その事実が頭の中で何度も反響する。
海老のときはまだ良かった。
形があり香りがあり触感があった。
でも今回は、
「当日まで非公開」
どんな食材なのか。
一種か、複数か。
主か、副か。
何も分からない。
結は引き出しからノートを出した。
これまでのメモがびっしり詰まった使い古した一冊。
「……意味ないか」
ページをめくりながらぽつりと呟く。
肉かもしれない。
魚かもしれない。
野菜、穀物、発酵食品。
考えれば考えるほど、
可能性が増えて視界が曇る。
(準備してないわけじゃないのに)
結は胸の奥がざわつくのを感じた。
一次も、二次も、三次も。
「これでいく」と決められる何かがあった。
でも今回は、
決める材料が存在しない。
「……怖い」
誰に聞かせるでもなく声が漏れた。
失敗が怖いわけじゃない。
点数が低いのが怖いわけでもない。
何も掴めないまま当日を迎えることが怖い。
「考えすぎだ」
背後から低い声。
振り返ると奏がいた。
「分からないなら、
分からないまま立てばいい」
「……それができたら」
「できる」
即答だった。
「お前は、
“目の前に出されたもの”を
ちゃんと見る力がある」
結は少しだけ視線を落とす。
「……でも、今回は」
「だからだ」
奏は作業台に手を置く。
「知ってるもので戦おうとするな」
結はその言葉を噛みしめた。
知らない。
分からない。
それは不利じゃない。
逃げ場がないだけだ。
「……はい」
結は小さく頷いた。
不安は消えない。
でも――
包丁に指をかける。
切るものはまだない。
それでも自分の立ち位置だけは戻れた気がした。
結は、
“まだ見ぬ課題食材”に向けて、
静かに息を整えた。
換気扇の低い唸り。
遠くで鳴る製氷機の規則的な音。
結は作業台の前に立ったまま何もしていなかった。
包丁は置いてある。
まな板も出してある。
けれど――切るものがない。
(課題食材が分からない)
その事実が頭の中で何度も反響する。
海老のときはまだ良かった。
形があり香りがあり触感があった。
でも今回は、
「当日まで非公開」
どんな食材なのか。
一種か、複数か。
主か、副か。
何も分からない。
結は引き出しからノートを出した。
これまでのメモがびっしり詰まった使い古した一冊。
「……意味ないか」
ページをめくりながらぽつりと呟く。
肉かもしれない。
魚かもしれない。
野菜、穀物、発酵食品。
考えれば考えるほど、
可能性が増えて視界が曇る。
(準備してないわけじゃないのに)
結は胸の奥がざわつくのを感じた。
一次も、二次も、三次も。
「これでいく」と決められる何かがあった。
でも今回は、
決める材料が存在しない。
「……怖い」
誰に聞かせるでもなく声が漏れた。
失敗が怖いわけじゃない。
点数が低いのが怖いわけでもない。
何も掴めないまま当日を迎えることが怖い。
「考えすぎだ」
背後から低い声。
振り返ると奏がいた。
「分からないなら、
分からないまま立てばいい」
「……それができたら」
「できる」
即答だった。
「お前は、
“目の前に出されたもの”を
ちゃんと見る力がある」
結は少しだけ視線を落とす。
「……でも、今回は」
「だからだ」
奏は作業台に手を置く。
「知ってるもので戦おうとするな」
結はその言葉を噛みしめた。
知らない。
分からない。
それは不利じゃない。
逃げ場がないだけだ。
「……はい」
結は小さく頷いた。
不安は消えない。
でも――
包丁に指をかける。
切るものはまだない。
それでも自分の立ち位置だけは戻れた気がした。
結は、
“まだ見ぬ課題食材”に向けて、
静かに息を整えた。
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