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第一章 二千年後の世界
美しい教会
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冒険者ギルドから程近い場所に、修道士が依頼者に指し示していた場所はあった。
「あの綺麗な教会か?」
「多分ね。報酬の古びた教会っていうのは、目の前の新しい教会を建てる前に使っていた場所なのかもね」
俺とリカルドは石畳の小道を通り、少し先に見える教会へ向かって歩いていく。
正午過ぎの時間。太陽は優しく傾き、尖塔の影が長く広がりながら、俺たちの心を神秘的な様相で包み込んでいた。
二千年前までは、魔王に侵食された暗い空のせいで皆がどんよりとした雰囲気だったので、こういう外観の綺麗な建物を見ると心が安らぐ。
やがて、石畳の小道を抜けた俺とリカルドは、大きな教会の扉の前に立っていた。
「入るか」
扉を押し開けると、教会の内部は暗く、神聖な雰囲気に包まれていた。
内壁と奥の小さな祭壇の近くには、よくわからない強面の男の肖像画が飾られており、至る所から視線を感じる。不気味だな。何の趣味だ?
色黒で筋肉がよく目立つ大男の全身が写る肖像画だ。見た目に似合わず魔法使いっぽいような黒いローブを羽織り、手には短い杖を持っている。したり顔が鼻につく。
「……」
俺は見知らぬそんな肖像画に恐怖を覚えつつも静かに足を踏み入れると、ステンドグラスから差し込む多彩な光に導かれながら、教会の奥へと進んでいった。
すると、奥の小さな祭壇には香り高い蝋燭が灯りを灯し、祈りの花が美しく並べられていた。
しかし、そこには目的の人の姿はない。
「誰もいないな」
「そのようだね。留守なのかな?」
俺とリカルドは小さな祭壇の前で立ち尽くした。
「……日を改めるか」
少し待ってみようかとも考えたが、依頼書の紙にはこの教会の場所しか記されていなかったので、多分この時間は留守にしているのだろう。半年も前の依頼だったし、いきなり会えるもんでもないのかもしれない。
俺はリカルドに目配せして踵を返した。
今日は出直すことにしよう。
しかし、そんな俺たちが小さな祭壇から背を向けた瞬間のこと。
祭壇の奥にある扉がゆっくりと開かれると、青い修道服を着た初老が姿を現す。
「——おや? 客人ですかな? 何かご入用で?」
修道服を着た初老は、長くて白い顎髭を撫でながら尋ねてきた。
こいつは……ああ、賢者の森に祈りを捧げていた五人の修道士のリーダー格だったやつだ。
中央で仰々しく祈りながら叫んでいた気がする。
「……ちょうどいい。実はこれを見て来たんだが」
「あぁ、古代魔道具の件ですね。失礼ですが、貴方様はその筋にお詳しい方でしょうか?」
俺が依頼書を見せると、初老は瞳をじっと細めてこちらを見据えてきた。
品定めをしているかのような視線だ。
「まあな。一度見せてくれると助かる」
俺は即座に答えて展開を急いだ。
どんな古代魔道具なのかは見ればすぐにわかる。
「即答ですか。わたくしが睨みつけると、大抵の方はたじろぐものですが、貴方様は違うようですね。そこまで自信があるのならお見せいたしましょう。付いてきてください」
初老は背を向けると、奥の扉へと入っていった。
俺は静かに口をつぐんでいたリカルドに視線を送り、初老の後を追う。
見た感じ、リカルドは自信ありげな俺を見て困惑しているようだ。
確かに、この世界を生きる人々が古代魔道具の修理をすることに対して自信を持てという方がおかしい話だしな。
「あの綺麗な教会か?」
「多分ね。報酬の古びた教会っていうのは、目の前の新しい教会を建てる前に使っていた場所なのかもね」
俺とリカルドは石畳の小道を通り、少し先に見える教会へ向かって歩いていく。
正午過ぎの時間。太陽は優しく傾き、尖塔の影が長く広がりながら、俺たちの心を神秘的な様相で包み込んでいた。
二千年前までは、魔王に侵食された暗い空のせいで皆がどんよりとした雰囲気だったので、こういう外観の綺麗な建物を見ると心が安らぐ。
やがて、石畳の小道を抜けた俺とリカルドは、大きな教会の扉の前に立っていた。
「入るか」
扉を押し開けると、教会の内部は暗く、神聖な雰囲気に包まれていた。
内壁と奥の小さな祭壇の近くには、よくわからない強面の男の肖像画が飾られており、至る所から視線を感じる。不気味だな。何の趣味だ?
色黒で筋肉がよく目立つ大男の全身が写る肖像画だ。見た目に似合わず魔法使いっぽいような黒いローブを羽織り、手には短い杖を持っている。したり顔が鼻につく。
「……」
俺は見知らぬそんな肖像画に恐怖を覚えつつも静かに足を踏み入れると、ステンドグラスから差し込む多彩な光に導かれながら、教会の奥へと進んでいった。
すると、奥の小さな祭壇には香り高い蝋燭が灯りを灯し、祈りの花が美しく並べられていた。
しかし、そこには目的の人の姿はない。
「誰もいないな」
「そのようだね。留守なのかな?」
俺とリカルドは小さな祭壇の前で立ち尽くした。
「……日を改めるか」
少し待ってみようかとも考えたが、依頼書の紙にはこの教会の場所しか記されていなかったので、多分この時間は留守にしているのだろう。半年も前の依頼だったし、いきなり会えるもんでもないのかもしれない。
俺はリカルドに目配せして踵を返した。
今日は出直すことにしよう。
しかし、そんな俺たちが小さな祭壇から背を向けた瞬間のこと。
祭壇の奥にある扉がゆっくりと開かれると、青い修道服を着た初老が姿を現す。
「——おや? 客人ですかな? 何かご入用で?」
修道服を着た初老は、長くて白い顎髭を撫でながら尋ねてきた。
こいつは……ああ、賢者の森に祈りを捧げていた五人の修道士のリーダー格だったやつだ。
中央で仰々しく祈りながら叫んでいた気がする。
「……ちょうどいい。実はこれを見て来たんだが」
「あぁ、古代魔道具の件ですね。失礼ですが、貴方様はその筋にお詳しい方でしょうか?」
俺が依頼書を見せると、初老は瞳をじっと細めてこちらを見据えてきた。
品定めをしているかのような視線だ。
「まあな。一度見せてくれると助かる」
俺は即座に答えて展開を急いだ。
どんな古代魔道具なのかは見ればすぐにわかる。
「即答ですか。わたくしが睨みつけると、大抵の方はたじろぐものですが、貴方様は違うようですね。そこまで自信があるのならお見せいたしましょう。付いてきてください」
初老は背を向けると、奥の扉へと入っていった。
俺は静かに口をつぐんでいたリカルドに視線を送り、初老の後を追う。
見た感じ、リカルドは自信ありげな俺を見て困惑しているようだ。
確かに、この世界を生きる人々が古代魔道具の修理をすることに対して自信を持てという方がおかしい話だしな。
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