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第一章 二千年後の世界
ポイズンスネーク
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「……きた」
思考を続けている刹那。
俺とミラを全員が慢心を胸に抱いている中、前方の茂みが大きく揺れ動くと、ヤツは堂々と姿を現した。
「で、でたぞ!」
「フランクさん! あの赤茶色の外皮に黒のマダラ模様は間違いなくポイズンスネークです!」
「わかっている! 総員、武器を構えろ!」
フランクはすぐさま自身の背中から大剣を振り抜くと、いち早く戦闘モードに入る。
同時にポイズンスネークが十メートルにも及ぶ全身を湿地の中から抜き出し、猛毒の滴る牙を輝かせながらこちらを睨みつけてきた。
長い尻尾は地面を叩き、湿原地帯はその破壊力に屈して大きく揺れていた。
しばしの睨み合いが続くが、俺はポイズンスネークの全身が僅かに跳ねたことに瞬時に気がついた。
この動きは臨戦態勢に入った時に見せるものだ。全身の血流速度を高めることで、俊敏性と機動力を確保するのだ。
つまり、あと数秒足らずで向こうは攻撃を仕掛けてくる。
「ミラ、あまりまともに見ないほうがいいかもしれない」
「え?」
俺の忠告に対してミラが素っ頓狂な声を上げるのとほぼ同時。
ポイズンスネークは俊敏な身のこなしで、地を這うようにして討伐隊の一人との距離を縮めると、一瞬にしてその体を捕らえた。
「や、やめろッ!!」
捕えられたのは先ほどまで不安の色を見せつつも、フランクの言葉で油断を誘われた男だった。
ポイズンスネークは男を捕らえて離すことなく、太くしなやかな肉体で絡みつく。
「クソッ!」
フランクが歯を食いしばりながら顔を歪めるがもう遅い。
ポイズンスネークは迅速かつ巧妙な攻撃を既に仕掛け終えていた。
鋭利な牙が空気を裂き、猛毒を注入した瞬間、男は防ぐ術もなく、その場で一瞬にして全身のエネルギーを無に還された。
それを見て唖然とするフランク率いる討伐隊だったが、次の瞬間には男の全身が食いちぎられたことで、ハッと目の前で起きた惨状に顔を青ざめる。
男悲劇的な最期は、湿原地帯に響くしかない無慈悲な蛇の咆哮とともに、この場にいる討伐隊に深い衝撃を与えた。
「な、な……なん、だと……?」
凄惨な光景を目の当たりにした全員が思わずたじろいだ。対して、ポイズンスネークは満足そうに舌なめずりをするばかりだった。
しかし、そんな中でもフランクだけは我を取り戻しており、すぐさまエリードに荒れた口調で指示を送る。
「とっとと魔法を頼む! 仲間が一人死んでこっちもうかうかしてられねぇんだ!」
「わ、わかりました! 準備はできております!」
「早くしろ!」
「承知いたしました! 最高級の火魔法をお見せ致しましょう———燃え盛る炎よ、我が手に宿りし者よ、空に舞い上がり、敵に訴えかけよ。灼熱の怒りを以て、我が意志を実現せん! バーニングストライクッ!」
エリードは力強い言葉に反して丁寧に詠唱を紡ぐと、シンプルで初歩的な火魔法を発動させた。
バーニングストライクは火魔法の中でも威力が低く、広範囲に散った雑魚モンスターを一掃する魔法だ。
目的はポイズンスネークの外皮の破壊にあるので、一点集中型の魔法が望ましいのだが、どうしてこの魔法をチョイスしたのだろうか。
込められている魔力量も少ないし、威力も低い。
火でも水でも氷でも、風でも光でも闇でも、魔法であればどんな属性でも構わないが、この威力だと外皮の破壊することは期待できない。
「す、すごいっ! これなら!」
無から生み出された炎の波を見たミラは目を丸くして驚いていた。
彼女のみならず、この世界の基準で言えば、この魔法は相当なものらしい。その証拠にこの場にいる俺以外の全員が感嘆の表情を浮かべている。
聞いて呆れる。
俺はこの程度なら魔法を学習して三日目に習得していた。
そして、たった今、ポイズンスネークに直撃し、激しい爆発音と炎が湿原地帯を照らし、辺りには、一瞬、勝利の兆しが漂った。
「っ、よし! 直撃だ! 全員で特攻するぞ! 全方向から袋叩きだ!」
フランクは一瞬息を呑んだが、そんな光景に長い間目を奪われることはなく、すぐに後方の者たちを率いて立ち込める煙の先に突撃していった。
「は、ははははははっ! 全魔力を注ぎ込んだ最高の一撃です! ご覧になりましたか!? これを喰らって生きているモンスターなど見たことがありませんよ!?」
「……や、やりましたかね……?」
高笑いするエリードを横目に、ミラはごくりと息を呑んだ。
「ダメだな」
しかし、そんなミラの期待とは裏腹に、数十秒後に煙が晴れると、俺の足元にはボロボロに鎧を砕かれたフランクが飛んできた。
やはりか……。
討伐隊はもうおしまいだ。
思考を続けている刹那。
俺とミラを全員が慢心を胸に抱いている中、前方の茂みが大きく揺れ動くと、ヤツは堂々と姿を現した。
「で、でたぞ!」
「フランクさん! あの赤茶色の外皮に黒のマダラ模様は間違いなくポイズンスネークです!」
「わかっている! 総員、武器を構えろ!」
フランクはすぐさま自身の背中から大剣を振り抜くと、いち早く戦闘モードに入る。
同時にポイズンスネークが十メートルにも及ぶ全身を湿地の中から抜き出し、猛毒の滴る牙を輝かせながらこちらを睨みつけてきた。
長い尻尾は地面を叩き、湿原地帯はその破壊力に屈して大きく揺れていた。
しばしの睨み合いが続くが、俺はポイズンスネークの全身が僅かに跳ねたことに瞬時に気がついた。
この動きは臨戦態勢に入った時に見せるものだ。全身の血流速度を高めることで、俊敏性と機動力を確保するのだ。
つまり、あと数秒足らずで向こうは攻撃を仕掛けてくる。
「ミラ、あまりまともに見ないほうがいいかもしれない」
「え?」
俺の忠告に対してミラが素っ頓狂な声を上げるのとほぼ同時。
ポイズンスネークは俊敏な身のこなしで、地を這うようにして討伐隊の一人との距離を縮めると、一瞬にしてその体を捕らえた。
「や、やめろッ!!」
捕えられたのは先ほどまで不安の色を見せつつも、フランクの言葉で油断を誘われた男だった。
ポイズンスネークは男を捕らえて離すことなく、太くしなやかな肉体で絡みつく。
「クソッ!」
フランクが歯を食いしばりながら顔を歪めるがもう遅い。
ポイズンスネークは迅速かつ巧妙な攻撃を既に仕掛け終えていた。
鋭利な牙が空気を裂き、猛毒を注入した瞬間、男は防ぐ術もなく、その場で一瞬にして全身のエネルギーを無に還された。
それを見て唖然とするフランク率いる討伐隊だったが、次の瞬間には男の全身が食いちぎられたことで、ハッと目の前で起きた惨状に顔を青ざめる。
男悲劇的な最期は、湿原地帯に響くしかない無慈悲な蛇の咆哮とともに、この場にいる討伐隊に深い衝撃を与えた。
「な、な……なん、だと……?」
凄惨な光景を目の当たりにした全員が思わずたじろいだ。対して、ポイズンスネークは満足そうに舌なめずりをするばかりだった。
しかし、そんな中でもフランクだけは我を取り戻しており、すぐさまエリードに荒れた口調で指示を送る。
「とっとと魔法を頼む! 仲間が一人死んでこっちもうかうかしてられねぇんだ!」
「わ、わかりました! 準備はできております!」
「早くしろ!」
「承知いたしました! 最高級の火魔法をお見せ致しましょう———燃え盛る炎よ、我が手に宿りし者よ、空に舞い上がり、敵に訴えかけよ。灼熱の怒りを以て、我が意志を実現せん! バーニングストライクッ!」
エリードは力強い言葉に反して丁寧に詠唱を紡ぐと、シンプルで初歩的な火魔法を発動させた。
バーニングストライクは火魔法の中でも威力が低く、広範囲に散った雑魚モンスターを一掃する魔法だ。
目的はポイズンスネークの外皮の破壊にあるので、一点集中型の魔法が望ましいのだが、どうしてこの魔法をチョイスしたのだろうか。
込められている魔力量も少ないし、威力も低い。
火でも水でも氷でも、風でも光でも闇でも、魔法であればどんな属性でも構わないが、この威力だと外皮の破壊することは期待できない。
「す、すごいっ! これなら!」
無から生み出された炎の波を見たミラは目を丸くして驚いていた。
彼女のみならず、この世界の基準で言えば、この魔法は相当なものらしい。その証拠にこの場にいる俺以外の全員が感嘆の表情を浮かべている。
聞いて呆れる。
俺はこの程度なら魔法を学習して三日目に習得していた。
そして、たった今、ポイズンスネークに直撃し、激しい爆発音と炎が湿原地帯を照らし、辺りには、一瞬、勝利の兆しが漂った。
「っ、よし! 直撃だ! 全員で特攻するぞ! 全方向から袋叩きだ!」
フランクは一瞬息を呑んだが、そんな光景に長い間目を奪われることはなく、すぐに後方の者たちを率いて立ち込める煙の先に突撃していった。
「は、ははははははっ! 全魔力を注ぎ込んだ最高の一撃です! ご覧になりましたか!? これを喰らって生きているモンスターなど見たことがありませんよ!?」
「……や、やりましたかね……?」
高笑いするエリードを横目に、ミラはごくりと息を呑んだ。
「ダメだな」
しかし、そんなミラの期待とは裏腹に、数十秒後に煙が晴れると、俺の足元にはボロボロに鎧を砕かれたフランクが飛んできた。
やはりか……。
討伐隊はもうおしまいだ。
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