無能と最強は紙一重〜無能と蔑まれた荷物持ちの前世は、実は最強と称された無敵の剣聖だった〜

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運命の再会

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 宿で体を清め、エルドは持ちうる限り最も綺麗な衣服に着替えた。
 と言っても上等な鎧や正装なんかではなく、相も変わらず黒っぽい布切れだった。上からはこれまた安価なチャコール色のロングローブを羽織り、夜の街に溶け込む努力をした。

 そんな彼が宿を抜けて向かう先は、街の小さな武器屋だった。
 足取りは軽く、迷いはなかった。
 今日という一日が、これまでとはまるで違うものになると、彼の直感が告げていた。

 だからこそ、まずは剣を見繕おうとしていた。
 実は剣聖の力で創ったあの枝の剣は、時間が経つとハラハラと崩れて無くなってしまったのだ。永続的な力は宿していないようだった。

「……武器屋なんて初めて来たな」
  
 エルドは微かな記憶を頼りに武器屋にやってきた。

「いらっしゃい、見かけない顔だけど、新しい冒険者さんかい?」

 店に入ったエルドを見て、店主の男は人の良さそうな笑みを浮かべた。

「まあ、そんな感じだ。手持ち無沙汰で困っているから、一番安い剣を売ってくれると助かるんだが」

「んー、特に希望がないなら、左手側の棚を見るといいよ。そっちは安い剣ばかり揃えてるからね」

 店主の言葉通りにエルドは店の左手側の棚に向かうと、無造作に手近な一本を手に取った。

 そこにあったのは安物の鉄剣。
 柄は擦り切れ、刃には小さな欠けがいくつかある。不思議と握った感触は悪くない。しかし、これでは軽すぎた。剣聖レヴァルの力を持つエルドが使用すれば、たった一撃目で折れてしまう。

 脆いな。
 握った瞬間、自然とそんな感想が脳裏に浮かんだ。いや、正確には浮かばされたと言うべきか。

 彼の中には、明確に使える剣と使えない剣を見分ける知識が刷り込まれていた。
 剣聖レヴァルの異常なまでの鍛錬と経験が、彼に選剣眼を与えていたのだ。

「……他にも少し見させてもらっても?」

「どうぞどうぞ、気に入ったら声かけてくれりゃいいさ」

 店主の男は奥で棚の整理をしながら気さくに言った。

 エルドはゆっくりと、並べられた剣を順番に取っては戻していった。
 見た目だけでいえば、上質な装飾が施された剣もいくつかあった。だが、いずれも中身が伴っていない。刃が甘い。重心が狂っている。鍛冶の粗が出ている。

「違う……これも違う」

 そう思いながら歩を進めたとき、ふと、店の奥の壁際に吊るされた一本の剣が目に留まった。

 煤けた鞘。剥げた革巻き。見るからに年季が入っていて、手入れすらまともにされていないように見える。
 しかしその剣を見た刹那。エルドの体が、勝手に動いた。

 心が何かに強く引き寄せられた。

「あの剣を見たいんだが」

「ああ、あいつは随分と昔に仕入れたんだが、見た目が悪くて中々売れないんだよ。手入れしようにも知らない金属で加工されているからやりようがなくてな、おかげで値段も安くしてる。三十リルでいいぜ」

 『リル』という通貨は、この国では最も一般的な貨幣単位で、パン一斤が二リル、簡易な宿の一泊が五リルほど。
 剣が一振り三十リルといえば、あまりにも破格だった。ちなみに、一番最初の鉄剣は十五リルだった。

「ほら、好きに見てみな」

「ありがとう」

 エルドは鞘ごと剣を持ち上げた。
 その重みがちょうどよかった。
 不思議と腕に馴染む。
 懐かしさを覚えた。

 それもそのはず、この剣は千年前に剣聖レヴァルがかつての弟子に送ったオリジナルの銘なのだから。

「こんなところにあったのか」

 未熟だった弟子に与えた模造品の一振り。当時を思い返すと、鍛えは悪くなかった。
 簡素な見た目に反して、重心は優れ、鍛造も本物だったはずだ。

 ただ現在は剣身が錆に覆われているのはもちろん、細部にもガタがきていてまともに使用するのは困難だった。

「……千年前のもんだから、そりゃあ手入れは難しいよな」

 思わず口に出すと、店主が首を傾げた。

「なんだって?」

「いや、なんでもない。ただ……これにするよ」

「本当にそれでいいのかい? 他の剣のほうがまだ綺麗だし、安くて見た目も——」

「これがいいんだ。俺は、これがいい。捨てないでいてくれてありがとう」

 エルドは三十リルを差し出し、店主に深く頭を下げた。

「……まあ、気に入ってくれたんならいいさ。大事にしなよ、その剣」

「ああ」

 武器屋を出たエルドは、手にした剣をしげしげと眺めた。

 これは、ただの剣じゃない。それを理解できるのは、おそらくエルドとかつての弟子リアナだけだった。

「もしかして……この剣も直せたりするのか?」

 ふと思い立ったエルドは武器屋の側面の路地裏にこそこそ入り込むと、鞘から剣を抜き払って剣身を見据えた。
 すると、何を考えたわけでもなく、剣が淡く柔らかい光を放ち始め、錆に覆われ今にも折れそうな剣身がゆっくりと本来の姿を取り戻していった。
 他の箇所も同様に劣化していた部分がみるみるうちに修復され、やがて一分も経てば千年前と同じ状態の剣がそこにあった。

「……しばらくはこいつが俺の相棒だな」

 エルドは剣を鞘に納め、腰に携えると、愛情を込めてそう呟いた。
 かつての弟子に思いを馳せて、その剣をありがたく頂戴することにした。
 剣の名はない。これは剣聖レヴァルが弟子リアナに送ったものなので、名付けは彼女の役目だった。今ここで彼が名付けをするわけにはいかなかった。

「さあ、いこう」

 路地裏を抜けて街の通りを歩き出した。
 あまりにも馴染みすぎるその感覚は、まるで、剣そのものがエルドの再出発を喜んでいるようだった。

 
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