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■【本編】■

level.002 素直に言えた言葉

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「“ロストアルケミア”ってのは、な?」


100年前まで存在していた、“錬金術士”達の総称らしい。
何かしらの事が起きてしまい、全ての“錬金術士”達が全滅したという。


(それって、もしかして……100年前に居るままなら、私も死んでいた事になるのっ!?ええぇぇえ……)

「そうなると、これはアカンな」

「え?」

「“ロストアルケミア”の技術を持っておるなら、傭兵ギルドとしてはレーネさんを保護したい所なんや」

「ほ、保護っ???」


ルートヴィヒの話によれば、“ロストアルケミア”の技術は今の時代にとっては喉から手が出るほどに欲しい。

それこそ、他国いや全世界のお偉いさんは“ロストアルケミア”は欲しい。

地位、お金、土地。

それらさえも、与えてまでも留まるキッカケを作る。下手をしたら、どんな手段を使ってでも。


「……そんな事に、なっていたなんてっ……」

「これについて、他言はせん!ただ、ギルドマスターには話を通させて貰ってもええか?」

「あ、はいぃ…」


レーネ的には、ただ所持金を増やすために此処へとやってきたというのに何故か大事になってしまい、色々と頭の中がオービーヒートしていた。

ルートヴィヒは隣の部屋へと立ち去っていて、レーネは目の前に置かれている紅茶の入ったティーカップを見つめていた。


(……でも、なんで?錬金術士は、あんなに居たのに……?)

「考えても、しょーもないっか」


レーネが考えるのを放棄すると同時に、隣の部屋の扉が開いてルートヴィヒと他にも金色の髪色に左側の前髪を掻き上げてあるセミショートで、ツリ目をした赤色の瞳をした男性が部屋から出てきた。


「レーネ?」

「へっ?あ、あっー!!ヴィクトルっ!?」

「え、ヴィクトルさん……レーネさんと知り合いなん?って…えぇっ!?」

「……っ」


ヴィクトルがレーネを見ては、声を出さずに涙を流していてルートヴィヒは困惑と驚愕の表情を浮かべていた。


「生きて、いたのかっ?レーネ……っ」

「え、あー……その、うん……一応?事情を話すと、長くなっちゃうけどね」

「ヴィクトルさん、どういう事なのか……説明してくれませんかねぇ?」


ルートヴィヒが笑顔のままヴィクトルの左肩に手を添えていて、ヴィクトルは涙を流すのが止まり冷や汗を流していた。


「あ、いや……これは、その……だな?」

「ヴィクトル、ルートヴィヒさんは……信用に値する、人かな?」

「あぁ、俺の唯一無二の親友だ」


レーネは小さく微笑んでは、ルートヴィヒに自分が100年前の人間である事とタイムトリップした事を話す。


「はえー……、そうなると納得だな」

「レーネの錬金術士としての腕は、上位に値する!ならば、保護するのは当たり前という事だ」

「そうやな」

「あのー、保護って言われても……私的には、あの付近から動きたくないんだけど?」


レーネの自宅の側には、錬金術士にとって大事な“資源庫ダンジョン”というのものが存在している。

出来れば、あの場所から動きたくないのである。


「まだ、アレがあるのか?」

「うん、まだ稼働は出来ると思うし……そうすれば、何時でも薬剤とかアイテムとか作れちゃうから」

「そうなのか!?」

「あ、うん」


ルートヴィヒはヴィクトルとレーネの話を詳しく聞いてから、何やら紙に何かを書いては計算をしているようだった。


「なら、あの辺りを片付けるのだろう?今は、廃墟のようになっていると聞いていたのだが…」

「うん、それについて……“闇市場”で奴隷を二人程買おうかなって……考えてはいるんだけどね」

「ふむ……ならば、良い場所を知っているぞ」






レーネはヴィクトルから渡された手描きの地図を見ながら、とある郊外寄りの倉庫へとやってきていた。

この場所は、ヴィクトルの戦友が運営している“軍用奴隷”が売買されている場所らしい。


“軍用奴隷”。

何処かの国に遣えていた筈の軍人が、その国に棄てられたもしくは敗戦した事で売られた者の事を“軍用奴隷”と呼ばれているらしい。


「お?お嬢さんが、ヴィクトルの言っていたレーネちゃんかい?」


その倉庫の入り口に、一人の金色の髪色にウルフカットで、オレンジのバンダナを頭に巻いていて狼の耳に尻尾が生えていて、少しタレ目のツリ目をしたオレンジ色の瞳をした青年が立っていた。


「あ、はい」

「オレは、この“軍用奴隷”の商人をやっているクロヴィスって言うんだ!よろしくなっ?」

「えっと、レーネって言います」

「ヴィクトルからは、言伝は貰っているから」


クロヴィスはレーネと共に、その倉庫へと入れば沢山の特殊な檻が存在していて中には沢山の人々が入っていた。


(凄い、こんなに……)

(100年という月日、その間に滅んだ国とかもあるんだろうなぁ……)


レーネは周りを見ながら歩いていて、奥の部屋が気になり扉の前に立ち止まるとクロヴィスも立ち止まる。

その扉は何処か厳重になっていて、普通では開く事は出来ない仕組みになっているようだ。


「其処が、気になるのかい?」

「え、はい……」

「其処には、“這い寄る深淵”を扱う厄介な軍人がいるんだ」

「“這い寄る深淵”?」


レーネは小窓から中を覗けば、厳重な拘束を受けている薄い茶色の髪色に少し長めのセミロングで軽く束ねてあり、横髪が胸辺りまで長くて左は三つ編みで右は軽く緑の紐で束ねていて、ツリ目の緑色の瞳をしている青年と目が合う。


「……あの、クロヴィスさん」

「ん?」

「一人目、彼にします!」

「えっ!?」


レーネの発言にクロヴィスは驚くが、レーネの必死な眼差しに負けて頭を軽く掻いてから扉の封印を解く。


「彼、かなりに気難しいよ?」

「それでも、なんだか気になったので!大丈夫ですよ」


レーネは青年へと近付くと、笑顔を浮かべて手を差し出していた。
そのためか、青年は驚いた表情を浮かべレーネを見つめていた。


「ねぇ、一緒に生きよう!この寂れた世界で!」

「……ボクとなんか居ても、ええ事ないで?」

「私は、気にしないよ?お互い様だし?私だって、色々と事情があって色々と寂しい事はあるよ……だからって、一人でいるのは余計に寂しいし虚しいだけっ!!」


レーネは優しく微笑みながら、青年の両手を自分の中の両手で包んで祈るようにすると青年は唖然としていた。


「生き物ってね、一人では生きていけないんだよ……誰かと居る事で、それは一つの物語が動き出すキッカケとなるの……だから、ね?私は、貴方もいる物語が見てみたいっ!ただ、それだけ」

「っ……!」


レーネが優しく微笑みながら、青年の頬を優しく撫でれば青年は微かに微笑んでいた。


「っ~…しゃーないなーっ!……なら、ボクは君と共に生きてやるさ!」

「ふふっ、よろしくね?私は、レーネって言うの」

「ボクは、……いや、俺はオズって言うんやっ!よろしくな、レーネっ!」




ーーねくすと→
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